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【聖剣の大賢者】君の人生は面白い!〜少年はただ自由に生きる  作者: あっちこっち
八節 始まりの準備
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初めての感情

僕がリューセンに到着してから三日後、暦の上では三月〔立生の節〕になっている。

そして三月に入ったばかりの朝、僕の宿に冒険者ギルドから連絡が来た。



この世界での冒険者ギルドの役割の中には案内板のような役割がある。それはある人が冒険者ギルドに

〔誰々が私という人を探しにギルドにきたら、誰々をここに待たせて私が取っている宿に連絡をください」

と言えば、一定の値段でやってくれるというものだ。

僕は広場での一件の後一度寝てすぐ冒険者ギルドに訪れ、この手続きを済ませた。

これは誰かと待ち合わせをする時の常識みたいなもので、特段急いでない限り魔道具や魔法術は使わない。



そんなわけで荷物を纏めて、宿を解約する手続きを済ませ急いで冒険者ギルドに向かう。

冒険者ギルドの建物はその街の大きさに比例していて、衛星四都市となれば超がつくほどでかい。公立高校の校舎全部分くらいあるのではないだろうか?


勿論その分受付も多くあり、冒険者用とその他で区別されている。

そんなにやる事があるのか?と疑問に思うかもしれないけど、これが意外とやることはある。


ゴミ清掃 地下水路の害虫やスイープラットの駆除 護衛 魔物退治 迷宮探索 落とし物 迷子の捜索とかもあるらしい。


詳しい事はまたいつかするとして、今は手続きを済ませる。受付の順番が回ってきた。


「ようこそ冒険者ギルドへ。ご用件をお伺いしますよ」


前世で言うなら二十半ほどの女性が笑顔で僕に聞いてくる。しかしどうやら女性だけと言うわけではなく、男性も受付をしているようだった。

「(どうりでここの列男性が多い訳だね)」

ちょっとだけ不思議に思っていた疑問の答えが、しょうもなくて少しだけ心の中で笑ってしまった。

ちなみに男性の受付の列には若い女性が多く並んでいる。


「案内板を利用していたマーリンです。今朝連絡が来たので伺いました。」


「そうでしたか。では確認の方をしますので証明書を見せていただけますか?」


「これで合っていますか?」


「……はい、確認させていただきました。お待ちしていただいている方は酒場の十四番テーブルです。一人で行けますか?」


「多分一人で行けますよ。ありがとうお姉さん」


そう言って僕は残りの料金をカウンターに置いて酒場の方へと向かう。

この世界ではこんな場所に僕みたいな子供がいるのは不思議な事じゃない。探し物や迷子などでお世話になる事が多いからだ。

そんな訳で特に見られる理由はないはずなんだけど、すれ違う人すれ違う人にちらちらと見られる。


「(僕そんなに臭いかな?一応魔術で体は洗ったんだけど?)」


自身の衣服の匂いとかを嗅ぎながら目的のテーブルを探していると、よく知る後ろ姿を見つけた。

髪は黒が強い灰色で体の線は太くないもののよく鍛えられている事がすぐにわかる男性。

片方は銀をまぶしたような白色の長くて綺麗な髪に、後ろ姿でもわかるほどスタイルがいい女性。

そこのテーブルだけ周りから注目されているからとても目立っていた。

なんでかわからないけど、すごく凄く行きたくない。


「(そうもいかないよね。我慢だよ僕)」


そう自分に言い聞かせてそこのテーブルに近づくとその二人の間から見える対面の席の人物と目があった。

ナイトブルーに月明かりが差し込んだような色であり、宝石のタンザナイトを連想させる瞳に、エル父さん譲りの知的な目、灰色の髪の少女。ルーリィだ。

ルーリィも僕が誰かすぐにわかったようで笑顔で手を振ってくる。

「(久しぶり見るけど可愛いね。前見た時よりも成長したかな?)」


後ろ姿しか見えなかった二人もルーリィの行動で僕の方を振り向いてくる。目線が合った時なんだか安心した様な気分になった。自分の部屋に帰ってきた時みたいな安心感だ。

「(ははっ、やっぱりエル父さんにシェーラ母さんだったね。相変わらずの美男美女っぷりだよ)」


そんな感じ訳八ヶ月ぶりに家族と再開する事ができた。

ひとまずは僕の長がった一人旅が終わったわけだ。まぁ半分以上誰かと旅してたけどね。まぁそんなのは言葉の綾?みたいなものだよ。多分。 







「八ヶ月前から変わっていないなマーリン」


「再会早々に僕の身長についての苦言は如何なものかと思うよエル父さん」


「っふふ」


エル父さんやシェーラ母さんに勧められて僕はルーリィとシェーラ母さんの間に座った。

そして僕が朝を食べてこないと予想して待っていてくれたらしい三人と一緒に給仕の人に注文をして、料理が来るのを待っていた時にエル父さんが話しかけてきた。

普通に"久しぶり"から始まるトークで良かったのではないか?と思わなくもない。

そんな事を考えているとシェーラ母さんのフォローが入ってきた。


「ふふふっ。マーリン違いますよ。さっきのは元気そうで良かったと言う意味です。そこまで身長のことを気にする必要はありませんよ。

それとエルも普通に久しぶりなどから始める方がわかりやすいと思いますよ」


「ふむ、そうだな。すまない。久しぶりだなマーリン。元気そうでよかった」


「こちらこそごめんね。早とちりしたよ。

改めて久しぶり。エル父さん達も元気そうでよかったよ。それとルーリィも久しぶりだね。さっき笑ったのはどういう意味でかな?」


「マーリン兄さん久しぶり、会うのずっと凄く楽しみにしてた!」


どうやらルーリィはこのままいい感じの流れにして話を誤魔化すつもりらしい。

「(しかし僕相手にそうはいかないよ。)」


僕が追求をルーリィにしようとしたその時、タイミング悪く給仕の人が料理を持ってきてしまった。

ルーリィは僕の横で隠す事なく、ホッと息をついている。


「(今これ以上やろうとしてもシェーラ母さんに止められるだろうね。流石にシェーラ母さんが敵に回ると僕じゃ荷が重いから)」


僕を見ているシェーラ母さんの方を確認してから、僕はこれ以上の追求を諦めた。

あの顔は隙さえあれば僕を弄ろうとしている顔だ。経験則的に絶対に楽なことにならないと僕の勘が言っている。



その後冒険者ギルドの酒場では、全員が料理を食べ終わるまでの間、軽く八ヶ月で起こったことなどを話し、食べ終わるとすぐに酒場を出た。

これは四人全員が望んだことで、理由は周りの目線が痛いからだ。誰も言葉にはしなかったけど、最初から最後まで360°全範囲から襲いかかる視線の集中攻撃でかなり精神ダメージを与えられていた。


ギルドの酒場を出た僕らは、エル父さんに先導され、外装がかなり高級感のある服屋に入ることになった。

エル父さんの話によると、今の僕の格好では城に上がる事は出来なくはないが、出来ればするべきではないらしい。

まぁ戦闘用の装備だしね。僕としては特に反論はなかったし、王城での服装や振る舞いなんて一つもわからない。全部エル父さんやシェーラ母さんに丸投げした方が絶対にいい結果になることくらい考えなくてもわかるしね。

それと今更になって気付いたけど、格好といえばエル父さんやシェーラ母さんはいつもの感じではない。

エル父さんは全身各所に革製の防具をつけて装備を隠すための外套を羽織っているし、シェーラ母さんはいつものゆったりとした服ではなく動きやすさ重視の服になっている。

ちなみにルーリィはいつも通りで、少し簡素になっているくらい。元々が着飾る感じの服装を好んでいなかったからかもしれないね。


入った服屋では、予め前々からエル父さんが予約をしていたらしく、僕たちが服屋に入った時には従業員数名が待ち構えていた。

礼儀服は一応四人全員作るらしく、シェーラ母さんやルーリィはデザイン案などを見て楽しんでいる。

僕の方は事前に相手が予想していた身長と現在の僕の身長に差があり過ぎたために、色々とめんどくさい事になっていた。何故かすごく申し訳ない気分になる。


しかし相手側は僕の思っていたよりも数倍すごいプロの職人だったらしく、数分で僕の採寸と幾つかの服のデザインを完成させてくれた。しかも最初に僕の姿を見た時意外で、焦る姿や困惑した姿は見せない仕事ぶりだった。

肝心の出来上がったデザインが僕の目には中性的な、どちらかと女性よりなデザインに見えたのは気のせいだと思う。きっと僕が過敏になっているだけで、この世界では普通のデザインなんだ。きっとそうだ。



なんやかんやあったものの無事に服の注文を終わらした僕達は、服屋を出た後すぐに靴屋に向かう。

そこでも従業員が待機していて、服屋で書いてもらったデザインや僕達の意見をもとに靴のデザインをしてもらった。


その後も装飾品店や手袋専門店、その他諸々のお店を一日かけて周り、全てが終わった時には僕は疲れ切って何も話す気力が残っていなかった。

注文した品のデザインは魔道具でフルーベンスまで送られて今日の内から製作が始まるらしく、出来上がったものは小型翼竜で王都にまで運送されるらしい。

その運送費を含めた合計の費用は凄まじく、僕が八ヶ月の旅で使ったお金の何百倍というものだった。ちょっと金銭感覚が壊れそうになるのを密かに感じている。



ちょっと気になってエル父さんにそんなにお金を使って大丈夫なのか聞いてみると、ある程度は国からの支援金でどうにかなるという話だったので一安心。

どうやら政治の問題も絡んでいるらしい。

そんな感じで政治は大変だなぁと感心していた僕は、横でぽろっと口にされたエル父さんの言葉を聞き漏らさなかった。


「……それに私やシェーラは基本金は使わないからな。こういう時にでも使わなければ溜まる一方だ。」


どうやら僕の両親は想像以上のお金持ちらしい。

日頃の生活が普通過ぎて全く想像できないんだけど。



全ての店を周り終わり、ようやく今日は宿で休めると思っていた僕なんだけど、どうやらそうは問屋が卸さないらしい。

エル父さんは疲れ切った僕を負ぶって宿ではなく乗り物乗車場に向かい、そこでランガルを借りたかと思うとそのまま乗り込んで王都に向けて出発したのだ。

本当に僕の常識というか、庶民的な金銭感覚が悲鳴を上げているし、僕の精神と体が疲労で色々と限界になってきている。


しかしそんな僕を放置して、エル父さんとシェーラ母さんは席の前側で何やら予定の確認をして忙しそうにしている。

やる事のない僕とルーリィは後部座席に座り、高速で流れていく景色を見てぼぉ〜っとしていた。


「ルーリィ…」

「どうしたのマーリン兄さん?」


「僕達って平民だよね?」

「少なくとも貴族とかでは無いって言ってたよ」


貴族では無い。貴族では無いけどやっている事は貴族のそれに思える。

乗り物のランク的にはランガルは間違いなくトップクラスの乗り物だ。

ランガルは走竜であり軍事などでも用いられる事も多い。

そんなランガルは平民でも乗られないこともないが、基本は複数人乗車である。それでもかかる費用は他よりは断然高く設定にされているんだ。

そんなランガルを四人で貸し切りにしているなんてどれほどの費用がかかるのか。

考えただけで頭が痛くなる。



ルーリィはリューセンに着くまでの一ヶ月で慣れてしまったようでいつもの様にパラパラと魔法術の書を読んでいるんだけど、平民の家庭のお兄ちゃんとして育った僕としてはルーリィがこれに慣れてしまうのは少しどうなのかと考えてしまう。

「(……だけどエル父さんやシェーラ母さんがやってるわけだし、問題ないのかな??)」


あの思慮深く教育熱心な二人が僕でも気づく様な失敗をするとは思えない。なら僕がこれ以上心配する必要もないだろう。

その後はのんびりと空を見たり、ルーリィが時々わからないところや疑問に感じた所を聞いてくるので、それに答えたりしながら時間が流れるのを待っていた。

そんな感じで比較的緩やかな時間の流れを感じていた僕に、突然ルーリィが思い出したように重大発表をしてくる。


「そういえば、まだマーリン兄さんに伝えていなかったけどね。トムさんのお嫁さんのサーレさんが妊娠したよ。」


「っえ?」


「十二月ぐらいにわかってね。トムさんが凄くはしゃいでた。」


「トムってまだ十五歳だよね?」


「そう」


サーレは十七歳のはずだから前世基準で考えてもそこまで無理がないわけだけど、それでも早いのではないだろうか?

小さい頃からの知り合いがもの凄い速度で大人の階段を駆け上がっていくんだけど。

追いかけるどころか追いかけようとすら思う気が起きないくらいのスピードだよ。

夜空を流れる星を見ているかのように、ただそんなものなのかな?としか思えないまま過ぎていってしまうあの心情だ。

ルーリィの重大発表で放心してしまった僕の口からよく考えないまま言葉が流れ落ちる。


「〔夢幻の如くなり〕っ事なのかな?これも」


ルーリィは素直にその言葉の意味がわからないらしく、首を傾げて僕に疑問を投げかけてきた。


「どういう意味なのマーリン兄さん?」


「…えっとそこまで深い意味はないよ。ただ人の一生なんて夢や幻の様に儚いものでしかないねって言う意味」


一応前世での一般的な意味で説明してみたけど、この言葉を言った人が人なだけに、個人的には意味が推し量りにくい分類の言葉なんだよね。

口にする人や時と場合によって周りに与える言葉の意味の深さが全然違うと思うから。浅い人は本当に浅いし、深い人は本当に深いんだろうと僕個人は思ってる。

僕の説明を聞いたルーリィも、わかるけどわからないみたいな曖昧な表情で僕を見ているしね。


「ははは、本当に深い意味はないよ。ただ言葉のままに受け取ってもらえればいいから」


その僕の補足を聞いたルーリィは少しだけ頭の整理ができたみたいで、


「……なら私はもうちょっとこの今の時間を大切にするね」


そう言いうとルーリィは僕の方に体を倒して体重を預けてくる。

ルーリィは僕よりも背が高いから、少しだけ僕の体の位置を調節してルーリィを支える形になった。

僕が三歳の頃に初級魔術を使ってあやしていた頃から随分な時が流れたんだなと感じる。


「(きっともうすぐルーリィも何処かを目指して自分の足で歩いていく事になるんだろう。そう考えるとこうして兄妹いられる時間も僕が思っているよりずっと少ないのかもしれないね)」


今の関係が少しずつ変わっていく寂しさと、幼かったルーリィか無事に成長していっている嬉しさ。

前世を含め初めての自分の感情の揺れに戸惑いながら、僕たちはお互いが眠りにつくまで他愛のない話を止めることはなかった



楽しんでいただけたなら幸いです

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