【スノーフェアリーガーデン】
ここからは当分ほのぼのとする予定です
北領同盟王国の冬
それは喜ぶべきものであり、親しみを持つべきものである。
何故なら、これまで北領同盟王国領で戦いが起きず、安らかな家族の時間を過ごせた時はその大半が冬の季節だったからだ。
それは部族の歴史や古くから残っている歌 詩 儀式 物語から証明されている。
雪は全てを孤立させ、全てを包み込み、全てを隠し、全てを守る
北領同盟王国外では 白の地獄 白の死 など恐れの対象で呼ばれるが、北領同盟王国内では
【雪精霊の庭】 【スノーフェアリーガーデン】と呼ばれている。
これは雪が積もってあたり一帯が真っ白になっているからこの名前がついたとかではない。
日頃仕事や戦で家族と過ごせない父親達が冬の季節になったことで家に留まれる様になり、久しぶりに会う子供達が雪の中で戯れる姿は、雪の精霊の様に尊い存在に見える。という話からきている。
ついでにもう少しだけ北領同盟王国の冬について話しておくと、北領同盟王国では冬の餓死者はほぼいない。
これはさっきの雪精霊の庭の話にも関係がある。
この国で最も尊いとされているのはほぼ間違いなく冬に子供が戯れる光景で、それは話した通り、平和の象徴であるからだ。
故に冬の季節、この国の人達は助け合う。
昔の国として成立していない部族時代でもだ。
食糧を分け合い、村同士、街同士、果てには貴族王族まで動き子供が遊べる環境を作る。
一部の例外は存在するけどほとんどがそうしている。
そして僕が何でわざわざこんな事を長々と説明したかというと、それにはちゃんとした理由があるんだよ。それは
バフッン!!
「冷てっ!」
「あははあはあはあはあはは!!!フードのおねいちゃんの負けーーー!!!!あはあはあはあはあはああはは!!!」
今現在僕は平和の象徴たる雪の精霊達に包囲され雪玉で攻撃されているからだよ。
「へっくしゅっ!!!」
「ごめんなさいね。子供達の遊びに付き合ってもらって」
「いえ大丈夫ですよ。こうして家に泊めていただいていますし」
城塞都市ドルケストを出発して既に二ヶ月が経ち、僕は徒歩でエル父さん達との待ち合わせ場所リューセンに向かっている。
ここまで何度かの遭難 生き埋め 凍死の危険にさらされてきたものの道先々で会う親切な人達に助けられて来た。
正直に言うと舐めてたね。魔法術があるからどうにかなると思っていたけど、どうにもならなかった。
村や街は雪に埋れて見えにくくなっていたり、吹雪で見えなかったりするため闇雲に探すべきで無い事。
魔法術は冬の寒さで頭や体が思うように動かせなくなることがあるから、事前に紙などに術式を書いて待っておく事。それか歩いている間は常にかけていないといけない事。
北領同盟王国の魔物は雪の積もっている時に本領を発揮する事。僕の生まれ故郷では森の中でしか魔物と戦うことがなく、それを実感する機会が少なかった。
この二ヶ月で改めて僕は何も知らない子供である事を実感したよ。
出会った人達に助けられ、少しずつ冬の旅の仕方を学んだ僕はどうにか旅の四分の三程をクリアすることができた。
今が二月〔幸雪の節〕で三月〔立生の節〕にリュセン到着予定なので順調といえば順調。
そんな順調な旅をしている時にさっきの子供達と出会い、巻き込まれて遊ばされ。
挙げ句の果てに凍っていた湖の上で大暴れをし始めた。ここ最近晴れの日も多かったことで運悪く氷が薄くなっていたのか、湖の氷に所々ヒビが入り子供数人が湖に落ちそうになったため慌てて救出。
最後にうっかり助ける側の僕自身が落ちてしまい、こうして子供達の家で世話をされているというわけです。
「本当に助かったわお嬢ちゃん。子供達を見ていたはずの男どもは完全に気を抜いてたからね」
「仕方ないですよ。一番幸せな時間でしょうから。それに僕は助けて貰いましたしね」
「まだ小さいのによくできた子だね。」
そう言ってこの家の奥さんは魔道具に魔力を補充してから台所に向かい、暖かい食べ物を持って来てくれた。
「私は子供達の面倒を見に行くから、お嬢ちゃんは適当に暖まってゆっくりしときな」
「ありがとうございます。あと僕はお嬢ちゃんじゃなくてお坊ちゃんの方ですよ」
そう僕が言うと奥さんはとってもびっくりした顔をして、笑いながら歩いて行った。
ここ数ヶ月で慣れた反応ではあるけど少しだけ悲しくなる。
それからは奥さんが持って来てくれた料理を食べ、久しぶりの快適な空間を楽しんだ。
旅では完全に降り積もった雪の上、つまり地面にちゃんと作られた道ではないところを歩いているために都合よく村や町に到着すると言うことがなかった。
ベテランの人はちゃんと到着するらしいけど僕はまだまだそこまで到達していない。
だから基本僕はかまくらを作ってそこで寝るとかが多かった。何度かは寝ている最中に壊れたりして生き埋めになりかけた経験があるんだけどね。
そんな経験がある僕は暖房があるこの空間がひどく居心地が良くて仕方がない。
村にいる頃はそこまで意識することがなかったけど、これは幸せそのものだ。
しかしその幸せな時間を邪魔する存在が来たことに僕はすぐに気がついた。
さっきの子供達だ。
「スー スー スー スー スー」
ここは安定の狸寝入りで流そうと考えた僕。
しかし子供達は僕の予想の斜め上を来た。
「おい、あのお姉ちゃん寝てるぜ」
「寝てるね。」
「うん寝てる」
「じゃあやる事は決まってるよね」
「やめたほうがいいんじゃないかな。怒られるよ」
「ばれなきゃ問題にしようがないだろ」
何か不穏な事を言い始めた五人組の子供は、ゆっくりと慎重に歩く様にして僕ではなく、僕の荷物の方に移動していく。
大切な報告書とかは僕のポケットの中にあるアイテム袋にあるから外の荷物を漁られても問題はないんだけど、さっき助けてもらった人の荷物を漁ろうとするものだろうか普通?
「おい!見たことねー本があったぜ!」
「これお菓子かな?」
「こっちも変な道具があるよ!」
「旅の道具かな?結構いいものに見えるけど?」
「みんなぐちゃぐちゃにしすぎだよ。ばれちゃうよ〜」
「そう言うお前も面白そうなもんとってんじゃねーかよ」
「うっ〜。うるさい〜」
想像以上に子供達は僕の荷物を派手に漁ってくる。流石に長く放置は出来ないと思い僕は軽く起きそうになる演技をした。
「やっやべぇ!!急いで片付けるぞ!!!」
「うん!」
「早く!!」
「君たちが騒ぐからだよ」
「バレたら怒られるよー」
「バレないために急いでんだろ!!」
子供達は数秒間ガチャガチャとやった後逃げる様にして部屋から出て行った。
僕は子供達が出ていったのを確認して体を起こし、置いてあった荷物の方を見る。
「確かに外に荷物は散らかっていないけどね、鞄が凄く膨れ上がってるよ。」
僕の鞄は正に慌てて詰め込みましたという様なあり様だった。
「ばれなきゃ問題にしようがないって言うのは正しいんだけど、それって逆にバレたら問題になるってことをわかっているはずなんだけどね。」
僕は呆れ半分で鞄を引き寄せ、一度全部を鞄から出す。
鞄に入っているものは取られても僕自身は困らないものだけど、子供達が持っていていいものかどうかは別で、危ないものもなくは無い。
出した荷物を一個一個並べて行きながら、取られたものを探していく。
「流石に料理器具は盗まねて無いね。
本は、え〜っと【五英傑物語】かな?あれは確かにあんまり安価な本じゃ無いけど、そこまで気にする本でも無いね。
一週間前にあった行商の人からもらった飴の瓶が無くなってる。
後は砂時計(水時計と同じ機構の)にサバイバル道具数個。
それに救命光弾か。旅の人に助けられた時に貰った道具だけどこれはちょっと危ないかな」
取られた物の中に危ないものがあることがわかった僕はすぐに荷物をしまい空間同調で子供達の場所を探る。この村から少し離れた場所に秘密基地みたいなものを作っているらしい。
居心地のいい部屋から出るのは少しだけ迷ったけど、仕方がないので諦める。
「なんでこんなことになったのかな……。」
そんなこんなで子供達がいる場所まで来てみたわけなんだけど、何やら揉めているらしい。
「おいここなんて読むんだ?」
「わかんないわよ」
「わかんない」
「僕がわかるわけないだろ」
「みんなそんなに乱暴に本を扱ったらダメだよ」
どうやら本が読めなくて困ってるらしい。
五人とも見た感じ七歳くらいだから読めないのも無理はないと思う。僕たちの家庭が普通じゃないことくらいは随分前から知ってるからね、今更比べたりはしないよ。
それに目的の救命光弾は使っていない様だし、このまま救命光弾をバレない様に奪い返して後は放置するのもいいんだけど、流石にあのままは可愛そうかな。
「今より遠い昔の話。
一つの国が建国され大地に根を張るまでのお話。
五人の大英雄のお話を語ろう。」
「えっ誰だ!」
子供達は急な僕の声に驚いているけど、僕としては意識をこちらに向けてくれるだけで十分だ。
「始まりの男はバナージ・フィルヴァーニア。
数多の英雄達の心を繋ぎその羨望となったこの男こそ、その国の初代国王にして英雄達の王。
即ちその名は【英雄王】」
「「「「「おおおぉぉ!!!!」」」」」
つかみは悪くなさそうだね。
後は順番に紹介して適当に纏めればいい感じに終われるかな。
時に面白おかしく、時に真剣に、時に悲しく子供達が飽きない様に感情に強弱を作っていくのがポイント。
「…………………そして五英傑の中で最恐と呼ばれた【戯壊のチュニチュル】はその胸の内を誰にも語ることなく、理解されることの無いまま命を落とした。これにより大戦は決着し、その国は真の意味で大地に根を張ったのだった。
これにて、本日のお話は終わり…」
「「「「「スッゲェーー!!」」」」」
「満足してもらえたかな?」
「すげ〜姉ちゃん」
「すごく綺麗だった」
「楽しかった様で何よりだよ。それと何か僕に言う事はないかい?」
そう言うと五人とも僕から物を盗んだ事を思い出したのか、バツが悪そうに謝ってくれた。
謝る態度としては減点だけどこの年でここまで出来たら合格と考えていいだろうね。
「今回は許すけど同じ事は繰り返さない様にね。
やるならやるでちゃんとバレない様にする事だよ。それと君たちが持っていった物であの黄色いボール以外はいらない物だからあげるよ。」
「「「「「やったっーーー」」」」」
「それと僕はそろそろ出発するから奥さん達への説明よろしくね。下手に嘘をつくとさらに怖いと思うから素直に話したほうがいいと思うよ。」
「「「「「えぇぇぇーーー」」」」」
わかりやすい子達ではあるけど少し単純すぎるかな。それと最初の雪遊びの時から感じていたけど少し危うい。
もう少し落ち着いてほしいと思うけど、そこは僕がどうこうする話じゃないからね。一言言うくらいにしておこうかな。
「それじゃあ、あんまりやんちゃしたらダメだからね」
そう言い残して僕は子供達の秘密基地から出て、村の外へと走った。
急いで村を出る理由は無かったけど、なんとなく僕の家族に会いたくてたまらなくなってきたから少しだけ急ごうと思う。
約九ヶ月ぶり家族との再開に僕は思った以上にワクワクしているらしい。
残された五人の子供達
「なぁっ」
「どうしたの」
「どうしたんだよ」
「どうかしたの」
「なに?」
「年上の女ってなんかよくないか?」
「「「わかるっ!!!」」」
「ちょっと!」
マーリンに部屋を貸した家の奥さんがネタバラシした後。
「男だったのかあの姉ちゃん」
「男だったんだ」
「男だったんだね」
「お 男の子だったんだ」
「みんな女の子を見る目がないわねっ♪」
「「「「でも可愛かったな」」」」
「ちょっとみんな!?」
「そういえば名前聞いてなかったな」
「「「今からでも教えてくれないかな」」」
「正気に戻ってよみんな!!」
作者的にはこの様なお話の方が書いていて楽しいです
楽しんでもらえたら嬉しいです




