夜空の茶会
「へぇ〜オフェリアさんは料理が上手なんだね」
「狩猟で撮った獲物の中に痛むのが早いものが多くあってな、自然と覚えただけだがな」
「それでも上手なことには変わりないよ」
「マーリンは人を褒めるのがうまいな。しかし料理がうまいのはマーリンの肉の処理がうまいからでもあるだろう」
「さっき見せてもらったオフェリアさんの処理の手際には敵わないけどね」
「それでも上手いことには変わりないだろう?」
「……ぷっ。一本取られたね。僕の負けだよ」
「ふふ私の勝ちだな」
少し前キザっぽく冗談めかして声をかけてみた後、オフェリアさんは僕の誘いに少しためらいを見せたものの了承してくれた。
僕はその返事を聞いてすぐに魔法術で最低限必要なものを作り出し、オフェリアさんへ椅子に座るように進めるところまでは上手いこと流れを作れたと思う。
後は僕が会話で和やかな感じにしていくだけだと考えていたんだけど、そううまくはいかなかった。
「お茶をするとはただお茶を飲めばいいのか?」
「お茶を飲みながら話しましょうというだけのことだから絶対にお茶を飲まないといけないとかは決まってないと思うよ」
「そういうものなのか、なら私から一つ提案なんだがいいか?」
「良いですよ」
「とりあえず一回戦ってみないか?」
「嫌ですよ?」
「お互いに相手の力量が気になっているだろう」
「周りに与える被害が大きいのでダメです。それに話しをするこの場には不要ですしね」
「そういうものか」
そういうとオフェリアさんは話している内に僕が用意した紅茶を僕に視線でことわりを入れて飲み始めた。
エル父さんから聞いた話の通り、話が通じる人ではあるみたいだ。
雰囲気自体もさっきまでの好戦的な雰囲気とは違う柔らかなものになっている。
僕としては今の状態でいてくれた方が話しやすい。
「(それにしてもいきなり戦いを申し込まれたのはびっくりしたよ)」
話を穏便な方向へ流そうと自然な流れで会話をコントロールしようとこちらからオフェリアへ話しかける。
「一応お互いにこの場が初対面ですし自己紹介をしませんか?ちなみに僕の名前はレイ………」
「オフェリアだ。私の名前はオフェリア。平民出身で姓はない」
僕が偽名を名乗り切る前にオフェリアさんは自身の名前を隠すことなく言ってきた。僕の考えを読んでいたのか、はたまた勘かはわからないけど僕が考えていた以上に厄介な人らしい。
「ちなみに僕の名前はマーリンです。平民出身ですから姓はありませんよ。」
「マーリンか、レインやレイクではなかったのだな」
「マーリンですよオフェリアさん」
「ふふっそうだなマーリン」
会話でなら簡単に主導権を握れると思ったんだけどね。今のところ僕が押される形になっちゃてるのは予想外だよ。
「ところでマーリンはここで何をしていたんだ?
マーリンほどの年齢でこの時間にこんな場所にいるのは不自然だと思うんだが?」
「食料の調達とある人を待っていたんですよ。
ある人の方は結局来ませんでしたけどね」
「食料調達と人待ちか。それなら悪いことをしてしまったかもしれないな、私がここに来たせいで来なかったのかもしれない」
「いえ構いませんよ。その人とも僕は一回も会ったことがありませんでしたから。」
「そうなのか。それは不思議な話しだな。
しかし話の内容からすると今ここで私と会っていることを見られたら困るんじゃないか?」
「それはお互いにだと思いますよ。此処は大河寄りの場所ですからね」
すると先ほどまでの僕を探る雰囲気は霧散し、どこか納得したようにオフェリアさんは小さく笑い始める。
エル父さんから聞いた話だとオフェリアさんの年齢は高くて二十歳ちょうどのはずで、今のオフェリアさんは年齢通りのどこか幼さが見える雰囲気になっていた。
ひとしきり笑い落ち着いたのか、オフェリアさんは僕の顔を見てまた喋り始めた。
「ああ確かに私としても今此処にいるのを知られるのは立場上よろしくない。マーリンには此処にいたのは秘密にしてほしい」
「秘密にしますよ。僕としても此処にいるのを広められて良いことはありませんからね」
どうやら僕の勝ちということで良いらしい。
負けっぱなしはシャクだったので早めにやり返せて良かった。
するとオフェリアは僕の顔を見ながら意外なことを言ってくる。
「マーリンは意外と負けず嫌いなんだな。」
「多分そんなにだと思いますよ?」
「いやかなりの負けず嫌いだと思うぞ。」
妙に自信たっぷりに言われるので何かしら顔に出ていたんだろう。
「(そんなに僕は感情が表情に出る方じゃないと思うんだけどな)」
僕が自分の顔を少しだけ触ってそんなことを考えているとオフェリアさんは話を再開する。
「最初から気になっていたんだが私に敬語を使う必要はないぞ。辺境の出身で作法に詳しいわけでも作法を気にしているわけでもないからな」
「年上の方に対する年下の礼儀ですよ。」
「マーリンは今何歳なんだ?」
「十一歳ですよ」
「ほおぉもう少ししたかと思ったが七歳しか変わらないな。それなら尚更敬語は必要ないだろう」
「…身長のことは言わないでください。」
僕の言った言葉にさほど反応せずにこちらに期待の眼差しを向けてくるオフェリアさん。
前世の記憶がある僕からしたら七歳はかなり大きな差だと思うんだけど、今の世界ではやっぱり大した差ではないみたいだ。
調べる調べると言いながらまだあんまり詳しくは調べていない僕が悪いんだけど、この世界の年齢に対する考え方はいまいち理解できない。
しかしここで拒めば年齢の割に幼すぎる僕の身長についての話になりそうなので大人しく従うことにしよう。
「そういえば夕食は食べた?僕はこれからなんだけどよかったら食べる?」
「ああ私もまだだからな、一緒させてもらおうか。食材は少し待っててもらえたらすぐに自分の方で用意するが」
「そうだね。うん僕もついていくよ。予備の食糧を確保しておきないからね」
するとオフェリアさんはすごく機嫌が良さように狩りの準備をし始めた。
きっと僕がその様子を不思議そうにしていたのがばれたのだろう、オフェリアさんは僕を見てその理由を説明してくれる。
「私は幼い頃から狩りが好きなんだ。最近気が付いたんだが如何やら私は力で何かを奪うことが生きがいらしい。
それとマーリンと喋るのは楽しいからな。」
「僕そんなに変なこと言ってないと思いますよ?」
「なんだろうな。今までマーリンほど歳の近い者とあまり話す機会がなかったこともあるだろうし、マーリンが私の意思をよく汲み取ってくれるからだろうな。話していて気分がいい」
「普通だと思うんだけどね」
「まぁその話はいい、早く狩りに行くぞ」
それで話は冒頭に飛ぶわけなんだけど、話の流れが微妙に危ない方向に行ってしまっている。
「というわけで私の部隊に来ないかマーリン?」
「何がというわけなんだい?行かないよ僕は」
「どうしてだ?マーリンの腕があれば苦労することもないだろうし、うちは完全実力制だからな出世も早いぞ」
「行がないよ。それに僕は戦いが好きじゃないからね」
「好きではない か。嘘ではないな。だとするとマーリンは生きる事が辛いんだろうな」
「?別に自殺願望は持ち合わせてないよ」
「そういうことではないが。一つだけ聞きたい事があるんだがいいか?」
「答えられるかはわからないけどね」
「戦いが嫌いならどうして私の部隊を助けたんだ?」
まいったね。オフェリアの性格から考えて理由なくこんなことは聞かないだろうし、鎌かけにしてもオフェリアさんの隊が他から援護を受けたのは僕とジョナンお爺さんからの二つだけだった。
まだちゃんとした情報として僕だと特定できるだけの情報はないだろうけど、オフェリアさんの中ではもう確定事項なんだろうね。
「何のことかな?僕はただの子供だよ」
「…………そうか。なら聞き方を変えよう。
戦いが嫌いならどうして戦いにしか必要のない程の力をもっている?」
「(本当に理解が早いねオフェリアさんは…)」
僕が戦争に関することでは話せないもしくは話したくないことを察して、戦争を省いた僕個人の話として聞いてきたね。聞き方を変えても核心部分をついてくるところがオフェリアさんらしくはあるんだけどね。
「力が必要じゃないとは思っていないからだよ。
僕が望む望まないに関わらず起きてしまう時は起きちゃうからね。その時に抗えるように、失わない様に僕は強くなりたいんだ」
「……共感はできないが納得はできる理由だな。
では礼を言っておこう。ありがとうマーリン。お前のおかげで少なくない部下の命が救われた。
部下たちの命を預かる者として礼を言う。」
「気にする必要はないよ。偶々僕がしたくなっただけのことだから。むしろ責められるべき行いを僕はしたんだよ。自国からも敵からもね」
「意外と不器用なんだなマーリンは。」
「周りからは器用って言われますよ」
「私にはひどく優しい不器用さに見えるぞ。
その優しさで自分が潰れてしまわない様にな」
「僕は普通以上に優しくはありませんよ」
「ふふっそうか」
いろいろな面がある人だ。この数時間程で僕が抱いていたオフェリアさんの印象が少しずつ変わってきてる。
エル父さんから聞いた政治的な考えを持つ少女
戦場で見せた冷酷で残酷 勇猛果敢な姿
今ここで見せる、頭を撫でてくる様な優しさ
全てがオフェリアさんのそのものの一面だと言うことは何となく理解できてる。
歪な様に感じるけどどこまでも真っ直ぐなんだろうね。
"
「("僕は普通以上に優しくはありませんよ"か、
優しさに普通などないだろうに本当に面白いなお前は)」
見た目は私が見たことがない様な儚げな少女。
触れてしまえば幻想の様に消えて無くなりそうなほど脆弱に見えるのに私の部下たちとは比べられらいほど強い。
マーリンの話ではまだ祝福の儀も受けていないと言うのにだ。
しかし狩りである程度の力量を測ってみたが、改善の余地は多い。
身体の大きさの問題もあるが、獲物の優先順位の付け方や相手の力量を測る為の幅が少ない。
身体の動かし方と木剣の使い方は何も言うことはないが他の部分がまだまだ未開発といったところだ。
「(可能性の原石というところだな)」
その時何故か私の心に感じたことのない欲が生まれたのを感じる。
その欲は自分でもよくわからないまま口から出て行ってしまった。
「マーリン 軍には入らなくていい。軍でも国でもなく、私個人の物にならないか?」
「・・・・・・へ?」
口から出た言葉がなんの欲から出た言葉かはわからないが、言葉自体には不思議と違和感はない。
私はこの少年のこれから先の姿に興味がある。
出来ることなら自分の手で育てあげたい。
もっとこの少年の事を知りたいとも思う。
なら私個人のものにしてでも手元に置いておきたい。
「戦いが嫌いなら今すぐには参加しなくてもいい。ただ私の下に留まり鍛錬をすると思えばお前の考えに合わないということもないだろう?」
「合わない合う以前に僕にも予定があるんだよ」
「ふむ。」
予想はしていたが断れたか。
しかし今回の案は取り下げる気にはならなかった。これに似たものを最近どこかで感じた様な気がするからだろうか?
「実は私は今悩んでいんことがある」
「諦めてくれるの?」
「まぁその話は一旦置いておいてだ。マーリンの意見を聞いておきたい事がある」
「一旦って…。僕は行くなんて言わないからね」
「確実に倒せる状態の敵のリーダーが目の前にいて周りにはその部下たちが包囲している。リーダーを殺した後その部下たちを突破出来るかはわからない。しかし戦いはそこで結果は出ないまま終わったとしよう。
これは私の勝ちか?負けかどっちだと思う?」
マーリンは私の話を聞き少し考えてからまた私の方を向いて喋り出した。
「普通に考えるなら引き分けって事なんだと思うけど、オフェリアさんはその言い方からして違うんだよね?」
「引き分けという結果は受け入れている。しかしそれとは別のところで引っ掛かりがあるといったところだ」
「そうだね。僕にはオフェリアさんが何に引っかかっているのかはわからないけど、僕の意見で言えばオフェリアさんの勝ちかな」
マーリンは私の目を見ながら淡々と理由を説明していく。
「理由は二つ。一つ目は集団の戦いではリーダーを倒された方が負けだから。二つ目はその場での選択肢が多いのはオフェリアさんの方だからかな」
「選択肢か?」
「オフェリアさんの話だと敵方に出来ることはそんなにない。リーダーを犠牲にしてオフェリアさんを倒しに行く賭けをするか、部下たちだけでも逃げるか。
それに対してオフェリアさんはリーダーを殺して包囲の突破をするか、リーダーを人質にして包囲を突破するもいいね。後はリーダーを殺すための時間を包囲の突破に回すとかね。」
「なるほどな」
マーリンの言い分に私は納得できる。そう考えるなら私の勝利で間違いない。私の力が敵を上回ったが故に選択肢の数で敵を上回り、私は生きている。私の考えにも合う。
しかし理屈ではない感情の部分で私はまだ悩み続けている。
その私の思いが顔に出ていたのか、マーリンは更に言葉をつなげていく。
「もしまだ何かに引っかかるなら、それは勝敗が気になっているからじゃないからじゃない?」
勝敗が気になっているんじゃない?
それ以外の別のところで私は引っかかっている?
「きっとオフェリアさんは結果が出なかった事。
自分が勝っていたのか負けていたのかが試されないまま勝負が終わった事自体に引っかかっているんだよ。」
「結果が出なかった事がか」
「もっというなら敵を打ち破り生き残る事が出来ていたのか、はたまた突破できずに死んでいたのかかな。
自分の力ではない別の力で戦いの結果が出たことにオフェリアさんの心は納得できていないんじゃない?」
「自分の力ではない別の力」
確かに今までの戦いは相手と自分の力だけで結果が決まっていた。それが今回の戦いでの違うところか。
「オフェリアさんはいってたよね。"自分の力で何かを奪う事が生きがい"だって、多分それ自分の力で結果を掴み取り生きていくっていう事だよね」
「なるほどな。ようやくスッキリした。」
マーリンのいう通りこれまで私は全てを自分の力で掴み取り生きてきた。
自分以外の力で得られた結果を私はうまく受け入れる事ができない様だ。
手に入れたいものは自分の力で掴み取るからこそのものだ。
「決めたぞマーリン。私はお前を私のものにする事にした。」
「まって!話が戻るの早すぎない?」
「抵抗したければ好きなだけ抵抗しろ。
私はそれを打ち破りお前を連れていくだけだからな」
「いやここで戦ったら大問題になるって話だったでしょ!」
「それはお前を捕まえてからどうにかするさ。
私は私のやりたい様にする事にした。
お前もお前のしたい様にしたらいい!!
私はその上でお前を私のものにするのだからな」
言葉にしてみれば簡単な事だった。今まで理由もわからず悩んでいた事がバカらしくなってくる。
私は常に私のままだ。誰にも染められない。
自分のありたい様にあり続けるだけだ、
「マーリン。お前も私で染めてやろう」
しかしでもいいなと思っていただければ幸いです。




