夜空の対面
気付いたら合計三十万文字を超えていました。よく書いたなと作者自身感心すると共に、もう少し纏められたんだろうなと反省しております
「停戦!!!!!停戦!!!!!停戦!!!!」
オフェリアと炎 虚苦の決着を待たずして戦場にこだまする音声。
それは今も弧を描くようにして空高く飛ぶ軍鳥から聞こえてきている。
軍鳥正しくは比翼鳥。
比翼鳥は必ず一つの卵から二羽生まれるとされ、その二羽は感覚を共有しており、片方が死ねばもう片方も死ぬ。その為鳴く時は常に同時である。
単語なら一言を鳴き声として覚えさせることができ、鳴く時の条件もつけられる。
条件は一度覚えると破られる事は絶対にない。
この特性から今の様な停戦などに用いられることが多く、絶対的な信頼性から即座にその命令を実行する事が戦争のルールになってる。
僕はある程度の支援魔術をした後は特に介入する事なく、ことの成り行きを見守っていた。
介入したくせに今更遅いとか思うかもしれないけど、僕なりのルールだから仕方がない。
「それにしても見事なタイミングだね。
あと少しで炎 虚苦が死に、その数秒後オフェリアが死ぬかもしれない状況での軍鳥の停戦宣言。
それも両国同時っていうおまけ付き」
僕の考えていた仮説の中で一番可能性が高いと予想していた仮説が見事に的中していたみたいだ。
エル父さんからの課題はこの後情報収集をして文章にまとめるだけで終わりそうだね。
問題があるとすれば、今なおある視線くらいだけど、今日中にはかたがつきそうだと思う。
なんとなくの僕の予想だけどね。
「それにしてもあのお爺さんが大将だったとはね。只者じゃないのはわかってたけどまさか軍のトップだったとは予想できなかったよ」
僕がオフェリア隊に支援バフを掛けていると途中から聞き慣れた音楽が流れてきた。
勿論僕の師匠であるお爺さんの音楽なんだけど、それに込められた意味がとても不愉快だった。
「(おーい小僧〜心がこもっとらんぞ心が〜
クールを気取りおってバーカー。)」
とかそんな感じの事をずっと言われ続けた。
それがむかついたから支援をやめたと言うのも理由になくはない。
「ジョナン・ディオ・トゥルウ・ベル・ドルケストね。噂じゃ思慮深くて用心深い防衛戦のプロフェッショナルって言う話だったんだけど。」
僕はドルケストで集めた大将の情報を改めてながら戦場の様子を記録していく。
戦場は軍鳥の停戦宣言もあり大部分では戦闘が停止されているものの、少し前にお互いの本軍が大混乱に陥っていたためにあちこちで戦闘が続いている。
一大決戦真っ只中だったオフェリアと炎 虚苦の場所は、軍鳥の停戦宣言と同時に炎 虚苦が倒れた事で私設軍が戦闘態勢を解き治療をし始めた事で今は落ち着いている。
ここからではディーノ・ツェッペリンの状況はわからない為ドルケストに戻ってから情報を集めるしかない。
最後に台風の目ともいえるオフェリアなんだけど、ここから見た限りではとても落ち着いている様に見える。
軍鳥による停戦宣言がされたと同時に動きを止めると、周りの様子を確認してから空を数秒仰いで、行動を再開した。本当に何を思っているのかがわからない。まだ停戦に納得できず暴れ出したとかの方が僕としては理解しやすいまである。
確認できる主要人物の様子とそれを見た僕自身の考えを紙にまとめ、今日の戦いの流れと場面場面での重要なポイントなどを箇条書きでまとめた紙に注釈を入れる様にしてまとめていく。
粗方書き終わると次は今後の情報収集の方針とそれに割く事ができる時間の計算などなどをし、全てのことが終わった時には日が暮れ始める時間になっていた。
僕は広げた紙をアイテム袋に仕舞い込み全身の装備を点検する。この二ヶ月くらいの旅で習慣になってきた行動だ。
最後にユグドラシルからもらった剣を腰にさして準備万端と言ったところなんだけど、やっぱり誰かに見られながらだと気恥ずかしい。
そんな締まらない感じで僕は今日の寝床と食事を求めた森の中を歩き始めた。
「オフェリア隊長、今しがた更に五十人ほどが息を引き取りました。確認できた死者数はこれで七百八十三人です。消息を確認できていないものがまだ六百人ほどおりますので捜索を続けます。」
「そうか、遺体は持ち帰り遺族に返す。遺体も見つからなかったものは可能な限り遺留品を集めてやれ。」
「了解しました。」
「それと私は少し外に出る。報告は明日の朝まとめてしろ」
「はっ!」
私は部下にそう言い残し北領同盟王国の陣から出る。
空は既に暗く星と月が輝くだけであり、風が吹くたびに戦場から戦いの匂いが漂う。
その匂いを嗅げば数時間前の光景が脳裏に再生される。
私を取り囲み圧死させようとする二万近くの敵
それに巻き込まれる事を承知で指示を飛ばす敵将
その敵将を守ろうと向かってくるわずかな護衛達
味方は生きているのかいないのかさえわからない状で自分が一人。
実質味方はいない戦場だった。
私がその時持っていたものは、魔術をかけた上で刃こぼれが激しくなった剣が二つに同じく損傷が激しい防具。
乗っていた軍のランガルは既に力尽き、体力の方は限界が見え始め、魔力に至っては備蓄分が空っぽになる寸前だった。
敵将の護衛を突破して、敵将を追い詰めたものの備蓄分の魔力はなく、敵将を殺してもその数秒後には二万近くの敵兵が攻め寄せてくる。それを突破できるかどうかはかなり怪しい。不可能ではないと思うが可能かどうかと聞かれればすぐには肯定できない。
「(結局私は勝ったのか?負けたのか?
私は大した怪我も負わず生きている。なら私の勝ちのはずだ。この世界は勝たなければ生きていられない世界なのだから。
それなのになぜ納得できない?」
私の足は自然と居心地の良い方へと進んでいく。
そこは人の世界ではない野生の世界。生きるも死ぬも自らの力しか関与し得ない世界。
襲ってくる弱い魔物を軽く瞬殺していき、力量の差が分かる程度の魔物は見逃す。
機械的に襲ってくるものを殺していきながら私の頭はまだ疑問に埋め尽くされている。
「(部下達が死んだのは弱かったからだ。実際に私の隊の中でも強いもの達は比較的多く生き残っている。死んだもの達を哀れに思わない訳ではないが、それ以上思うところはない)」
私の部下は半分が軍に入隊したばかりの辺境出身の者達で、もう半分は犯罪者だ。
私が生まれた国は他の国と比べ兵の力が高いと言う話だったが、私の生まれ故郷の基準で言えば訓練をする前のあいつらは魔物達の餌でしかなかっく、当時の私からしたら何故こんな力でこの年まで生きれたのかが本当に理解できなかった。
「最初の頃のあいつらは私が考えた訓練を一時間やっただけで立ち上がることもできなくなっていたな」
思い出すだけで呆れてしまう脆弱ぶりだったあいつらもまあまあな力量にはなった。
今回の戦争での戦闘不能者は死者を含め半数近い人数になるだろう。また最低でも千五百人ほど鍛え直さなければいけない。
そんな事を考えながら歩き続けていると魔物の気配が感じられなくなった。
どんな場所にでもいるゴブリン含めた雑魚の気配も感じられない。周囲を見渡せば至る所に魔物の死骸があることから何者かが周囲一帯の魔物を駆逐した事が分かる。
「戦場に流れた血の匂いに誘われ大物が来たのか?まぁそれならそれで丁度いいか。
私の気分転換に付き合ってもらうとしよう」
私は武器を持ち直し、体に染み込んだ狩の癖で気配を殺す。そして目的の奴がいるであろう森の奥へと進んでいく。
ザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッ
「ん?かなり近づいている思うのに気配をまるで感じられない。相当隠密に長けた魔物か?
もしそうだとして魔物の死体の数から想定される強さをもっているとなるとランクはS以上と考えた方がいいか」
敵の力の強さを改め直しさらに奥に進むと空がひらけた場所が見えてきて、その中央付近に木や岩ではない影があった。
「(魔物か?想像していたものよりも随分と小さいな。型は人型。武器らしきものは手に持っている木剣くらいか。)」
私は気配を消し隠れた状態のまま目標を観察していく。これは狩の癖というより習慣だ。
観察し分析して確実に殺せると確信した時にヤリに行く。あの龍、ノーブルファブニールを殺すときは五年程費やした。それでも最後はかなり敗戦の色がこくなっていたが。
「(それにしても目の前のあいつはやはりかなり強いな。目に見えているのに気配が全くない。空間の一部である様な存在感という感じか。しっかりとあいつの姿を意識していないと見失っていまう。)」
ある程度現状で見える範囲での分析を済ませ、今まで私が狩ってきた生き物の中に似たようなものがいたかを思い出す。保護色や擬態 透明化などで姿を消すものや気配をほぼほぼ完全に消すものは何度も戦ってきたが、目の前にいるやつの様に気配を空間に同化させるタイプとは戦った経験がない。
「同化させているというよりは一体化していると言った方が表現としては正しいかもしれないな。
確実に仕留めるなら後数時間観察をしてから実行するべきだが、そんな時間はないか」
消去法で奇襲を仕掛けようかとも考えてみたがどうやらあちらも私の存在に気付いているらしかった。
確証はないが確信がある。
偶に気づいているのに気づいていないフリをして相手を釣り出し殺す魔物がいたが、今はそいつを狩りに行く時と同じ感覚がする。
シャァン
腰にさした予備の剣を抜きゆっくりと森の影から出る。幸いなことに今日の夜空には僅かにある星と月明かりを遮る雲はない。
気配を感じられない者が相手でも十分に勝算がある条件だ。
いつもの様に精神を研ぎ澄まし、身体中に魔力を張り巡らせ闘争の興奮を抑え込む。
私が明かりの下に姿を表すと同時に相手は私の方へと視線を合わせてくる。
「(やはり完全に私の存在を掴まれていたか。
完璧に気配は消せていたはずだが、あいつのスキルか魔法術の何かか?)」
私の姿が完全に明かりに照らされると相手の顔も確認できる様になった。
その顔はとても整った女子の顔であり、どこか優しくありながら捉え所が少ない様に感じる顔立ちだ。
そのあまりにも想像と異なる姿に私は少し動揺をした。
本来ならそんな隙を作ってしまえば相手にとっては戦いを有利に進められてしまうのだが、今回はそうはならなかったようだ。
相手の顔にも私と同じくらい動揺が顔に出ている。
戦場から少しだけ離れ僕は食糧探しを完了させ、今はある人を待っている。
ある人と言っても顔も名前も知らない人なんだけどね。わかっていることといえばありえないくらいの索敵能力と実力を持っていることくらい。
何となくの僕の予想では、この人は僕が一人の状態で落ち着いた時に直接僕に会いに来る様な人の気がする。
「(って事で森の中でも開けた場所でこうやって準備万端な状態で待っている訳なんだけどなかなか来ないね。)」
ここで待機をして既に五分ほど何の変化もない。
視線の方はまだ感じてはいるんだけどね。
そつ僕の予想が外れたかと思った時、人が一人こちらに向かってきていることがわかった。
視線の方も消えたことから視線の主が来たと判断して僕はユグドラシルの剣を軽く右手に握る。
あちらの方も僕のことに気がついたみたいで森の影に潜んでいる。空間同調をしていなかったら気付けなかったと思えるくらいに気配を感じない。
エル父さんとかの気配の消し方は、自分の存在感を薄くしたりするやり方なんだけどこの人のやり方は獣に似ている。
自然に自分の存在を溶かし込み獲物を仕留める機会を待つ。あの嵐狼と同じだね。
かなり長い時間をお互いに動かずそのままの状態でいたけど、相手側が先に動き出した。
僕も背の動きに合わせる様にして相手のいる方向に顔を向けていく。
出来ればこれで相手の意表を突いて機先を制したかったんだけど驚いた様子はない。
僕が気づいていることに気付いていたんだろうね。
そして相手の姿が月の光に照らされる。
髪は透明感がある青みがかった白色。パッと浮かび上がった比喩としてはラブラドライトという石だ。
目はとても濃い青。
背はかなり高めで160後半はあると思う。
「(ちなみに僕は140もない)」
着ているものは軍服であり、ノースリーブのワンピース?にしては少し丈が短めのものでその上から胸元に余裕のあるジャケットを着込んでいる。
下はしっかりとした素材のパンスト?に膝までの黒のブーツといった感じ。
印象は深く鋭い。
内にある狂暴性を上手く隠しているけど、それでもここまで伝わってくるほどだ。
そして何よりも僕の目の前にいたのはオフェリアだった。ここ数日何回も見たオフェリアその人がいた。
違うことといえば戦場で見せた様な顔とは違う惚けた顔くらいであり、きっと今の僕も同じような顔になっていると思う。
「(あれ?なんでオフェリア?視線の正体はオフェリア?いやそれだと色々とおかしいよね。
じゃあなんでここにオフェリアがいるの?
いやそれ以前にこのままだと流れで戦闘になるよね。それはちょっとまずいかな)」
このままオフェリアと戦った場合、僕が逃げに徹したとしてもここら一帯の森は壊滅する。
これまでのオフェリアの戦闘から考えるとそうなると思う。
ついでに今の状況でそんな事が起きると国規模で何がどうなるかわからない。下手したらまた戦争が起きる。
戦闘を回避するにはお互いに頭が麻痺している今しかチャンスはない。
僕は混乱したままの頭を必死に回してそう結論づけると、それに合わせて体も動く。
「良い夜空ですよね。よければご一緒にお茶をしませんか?」
自分でもTPOを弁えない言葉だとは理解しているけど、自分からこんな風に女性を話し合いの場に誘う経験がない僕としてはこれが限界。
しかし割と僕らしい言葉選びをできたんじゃないかとも思う。
オフェリアの方は更に状況を理解できなくなったみたいで混乱しているが、反応としては割といい感じではないかな?
オフェリアへの声の掛け方について感想を心に抱きながら、これから予想される苦労に内心溜息が出る。
「(やっとエル父さんからの課題が終わったかと思えば、なんとも言えない追加課題だよ)」
少しでもお楽しみいただけたなら幸いです




