理想と野望
「北両同盟王国軍の動きを報告しろ」
「はっ!現在我が軍の動きに遅れる形で城塞都市ドルケストを出陣しました。
我が軍が大河を渡りきり予定の場所に着くと同時に対面する形になるかと思われます!」
「ご苦労。そのまま北領同盟軍の動きを追跡し、動きがあれば逐一渡しに報告しろ。
それと精鋭五千人隊の上陸を急がせろ。
残りの二万五千は後回しでいい。」
「はっ!」
「では下がってよし。行動を再開しろ。」
俺がそういうと伝令役の男は素早く姿を消した。
私設軍を作り始めた当初からいる男であり、なかなか様になっている。
「"遅れる形"か。俺の作戦がたまたま気づかれなかったのか、それとも俺の"予想"があっているのかだが今考えることではないな。」
俺は周囲に人がいないことを確認してからため息をつき椅子に座る。
今回の北両同盟王国軍の指揮権を握っているのはディーノ・ツェッペリンで決まりだろう。
お目付役のジュナン・ディオが指揮権を持っていたなら瞬時に反応するか、事前に罠をはるかするだろうからな。
ディーノ・ツェッペリン ジョブは軍師だったか、俺と同じ祝福の世代か、まぁ〔野上 誠一郎〕のやつだろうな。
「確かこの箱に地図と敵将の情報が入っていたな」
俺は部下に運ばせていた荷物の中から少し大きめの箱を取り出して机に置き、敵将の情報を見ながら地図にコマを配置していく。
俺が自身で考えていることもあるが《大軍師》のジョブ補正の力がかなり大きい。
粗方敵味方のコマを配置し終わり頭の情報を整理してから一息つく。
《大軍師》は情報をもとに未来の事象を予測したり、戦略や作戦が頭に浮かんだり、その成功率が分かったりする。
だがそれは未来予知ではなく予想だ。絶対じゃない。
「あれほど待ちわびた実際の戦争だってのに、なんでこんなに不安なんだよ」
部下に聞かれたらこれまでの努力が全て水の泡になってしまう様な言葉を口に出してしまう。
よくない。手を強く握りあの時のことを思い出す。
「(そうだ。俺はこうなる事を望んで選択したんだ)」
俺は祝福の子だ。
ヒューマンの三大国家の一つである中天帝国の第六王子であり転生者。
前世で飛行機事故にあい、気がついたときには白い空間にいて、そこで神と名乗る少年に経緯とジョブ スキルをもらった。
俺は前世では普通の高校生で変わった趣味や特技はなく、容姿も平均より少し上くらいでクラスでは中間くらいの立場。
最初は興奮した。なんの取り柄もなかった俺が物語の主人公になれるチャンスが来たんだと思って頑張った。
その甲斐あって冠位十二階の《大軍師》と《カリスマ》《情報処理》を容量一杯で手に入れることができ、そのときに学年カースト上位の《野上 誠一郎》と喧嘩にもなったが勝った。
その後幼女の神に会って転生先を決めて転生することになり転生したわけだけど、楽しかったのは五歳くらいまでだった。
俺は王族や貴族はなんの努力もしないでいいんだと思ってた。学校の教科書や日本の政治家達を見ているとそんな印象が勝手についていたんだと思う。
でも実際はそんな事はなかった。
なんの努力もしていないなんて思っていた過去の俺をぶん殴ってやりたいくらいだ。
前世の日本のように、選挙で選ばれる政治家達はちゃんとした政治家でも中学や高校から政治について勉強する。勉強すらせず票集めに奔走している政治家達も多いだろうけど。
でも貴族や王族は幼い時から将来政治をする為の知識を叩き込まれ、自分の行動の責任を教えられるし、自分が何百万何千万もの命を背負っているのかを意識させられる。
全ての国で教育をちゃんとしているのかは俺にはわからないが、俺が転生した中天帝国では徹底していた。
朝から晩まで勉学に鍛錬 礼儀作法の授業で埋め尽くされ、自由な時間を作れるようになったのは授業が始まって四年後くらいだった。
俺の上の兄、つまり何人かの王子はそれに耐えきれず授業から逃げ出したが即刻捕まり帝位継承権を剥奪された上で強制労働の罰が与えられている。
それを見た俺はなんで帝である父上が多くの子供を作るのかを理解した。
不出来な子供を躊躇なく叩き落とし、少しでも優秀な後継を作るためなんだ。
その事がわかった俺はすぐに行動を始めた。
不出来と認定されないために、数少ない自分の財を切り崩して軍を作り、兵法書を読み漁って力をつける。
歳を取るにつれて険悪になってくる兄弟関係に危機感を覚えた時には帝である父上に懇願するような姿勢で帝位継承に関するルールを制定してもらった事もある。
とにかく必死に動き回った。
国民からの重すぎる期待や、その国民の命を背負っているという重責から少しでも逃げる為に兎に角走り続けてきた。
「(今までの全てがこれからの一戦にかかっている。十万の命と俺の命。そしてその家族達のこれからの人生。全部が俺一人の手にかかっている)」
「はははは……。重すぎんだろーが」
今だからこそ理解する。
前世の俺は理想はあっても野望がなかった。
なりたいと思う姿はあっても、成し遂げたいと思うものが欠落していた。
ちっぽけで夢みがちなただの高校生だったんだ。
その点で言ったら同じ転生者のあの二人とは違うな。あの二人は俺とは違ってそれがある。
「(・君と僕は違うよ。それに僕はクラスの誰とも違う。それは僕が特別だからでも、君やみんなが特別だからでもなくてね。
違いがあるのは僕やみんなが人として生きているからだよ。まぁこれも人によって意見は違うと思うけど・)」
「っは。今になってちょっとだけお前の言ってた事がわかる気がするよ。」
前世で聞いた言葉が今になって俺の心に響く。
これを聴くまでの経緯は全然覚えていないのにこの言葉自体はよく覚えている。
クラスの異端児で誰よりも全てを待っていたのにクラスの誰よりも何も持っていなかったやつ。
そんなあいつが面倒くさそうに答えてくれた言葉だ。
哲学すぎて全く意味がわからなかったけど、あいつにこれを言わせるくらい面倒くさい事を聞いたんだろうな俺は。
「(そうだよな。俺は別に機械でも役者でもキャラクターでも物語に出てくる登場人物でもないんだよな。
当たり前のことなのに忘れていたんだな俺は。
俺は人として、一つの命としてこの世界に来たんだ。
だから上手くいくこともいかないことも受け入れてやっていくしかないんだよな。)」
命を背負う覚悟や未来の不安が拭えたわけじゃ勿論ない。
それでも受け入れて進んでいく事は決められた。
「(今の俺の状況になってお前はいつもみたいに飄々としてるのか〔飛紙 魔理〕?)」
そんなありえない状況を想像してすぐにやめる。
あいつの事が俺に分かるわけない。俺とあいつは違うんだから。
俺は今他に考えないといけない事があるから。
すると陣幕の外から声が響く。
「炎 虚苦様!!
まもなく精鋭五千人隊の上陸作業完了いたします!!」
「そうか。すぐに向かう。他に何かあるか?」
「いえ!その他にご報告できるものはありません!!」
「ご苦労下がってよし。」
「はっ!!!」
俺はすぐに必要な荷物をまとめて、整列して待機している五千人隊のもとに移動する。
俺が作り上げた自慢の部隊だ。
その視線を一身に受けながらも緊張はしない。
前世なら背中から大汗をかいている場面だが、炎 虚苦として生きる今の俺は自然と笑みが出てくる。
「これも成長してるってことだよな」
俺は誰にも聞こえないほど小さな声でそう呟くと、目の前の五千隊に目線を向けて口を開く。
「覚悟はできているな!!!!!!!
お前達のその命俺に預けてもらうぞ!!!!」
「「「我らの命は貴方の剣 我らの体は貴方の盾
故にただ御命じ下さい」」」
「(さぁ先手をとらせてもらうぞ)」
一方
「聞いているんですかジュナン・ディオお爺様!
今回の戦争は貴方の教え子のディーノ・ツェッペリン様の初陣なのですよ!!!
何故こんなギリギリに来たんですか!!!!」
「(相変わらずうるさいの〜〜儂の孫は。)」
ポロロッロン ポロロッロンポララポロン
「えぇっと、うるさいで合ってますか?
音だけじゃわかりませんよ。文字でお願いしますジュナン・ディオお爺様」
〔相変わらず成長しとらんのおぬし。儂悲しい〕
「成長しないのは貴方ですよ!!!!!
なんで軍の詰所前で酔っ払ってアホみたいなことしてるんですか貴方は!??
身分証明証を提示しろと何度言えばいいんですか!!!
遅れた理由を聞いたらなんでしたか!?魔物に襲われてポップスに逃げられただ!!?
貴方がそこらの魔物相手にそんな状況になるはずないだろうが!!!!
しかも私はディミトリアで貴方にランガルを使えと言ったよな!!!!!!!
しかも数日前にドルケストに到着してやっていた事が飲んだくれとはどういうことですか!!!
それと・・・・・・・・・・・・・:・・・・・・
・・・・・・・・・・・」
地雷踏み抜いちまったかの。話が全然止まらんぞい。なんか口調も素が出てきおるし、儂の孫怖い
あ〜めんどっちいの〜〜なんで儂があんなアホの世話せんといかんのじゃ。
儂はどちらかというと世話されたい方なんじゃが
ちょうどディエゴの坊主が来とるようじゃし丸投げしてやろうかの。
〔すまんかった。儂が悪かったからもうやめい。
それに予定が詰まっとるんじょろ?〕
「っそうでした私とした事が取り乱しました。
現在ディーノ・ツェッペリン様とディエゴ・マルク様 オフェリア様が第一会議室でこれからの行動方針を話し合っておられますので、ジュナン・ディオ様にも参加してもらいます。」
〔めんどくさい サボったらだめ?〕
「参加してもらいます」
〔あいあい。案内しておくれ。できれば儂を抱っこしておくれ。〕
「では案内いたします。それとご自分で歩いてください北領同盟王国大将閣下様」
〔老人虐待冷血男め〕
あの小僧ならちょっと言ったらおぶってくれるのにこの孫と言ったらの〜。
小僧と遊びたいのう。この孫はまだ話に付き合ってくれる分マシじゃが、ディーノとかいう小僧はなんもおろしろーないからの。
まぁこれ以上孫に苦労かけるのもあれじゃし、行くんじゃけどな儂。
「おい耄碌じじい何やってたんだお前!!!俺の副官の癖に遅れやがって!!
今回の戦争に負けたらお前の責任だぞ!!!」
「おおやっと来たかジョナン爺さん!!
オフェリアの奴が退屈だからとすぐ何処かに行っちまってな暇してたんだよ」
〔おおディエゴの坊主か久しいな。昔と変わらずなんの変哲もない退屈な顔立ちじゃのう。〕
「おいじじい聞いてんか!!!!
もう炎 虚苦の奴が上陸しちまってるんだよ。
俺が聞いていた予定より一ヶ月も速いぞどうなってる!!!」
「はっはっは!!!こう会うやつ会うやつに言われるとむしろ清々しい気分になるぞ!!!
ほらホノルルティ名産の酒を持ってきたんだ共に飲もう!!!!」
〔ほ〜〜〜そういうところは顔に似合わずちゃんとしておるの〜〜。
儂の方は酒はないが面白い話があるぞ〕
うむうむ見た目はどこにでもいる中年の男であるが話し相手としてはちょうど良いの。
それにただ酒を飲めるしのう。
今夜も騒ぐとするかの。
「おい無視してんじゃねーよ!!!!
じじいやおっさんにはこれからの軍の動きを決めてもらわねぇといけねぇんだからな!!!!!
わかってんのか!!!???」
「〔さっきからうるっさいの〜〜〜〜???
ピーチクパーチク囀りよって誰じゃ。)」
周りを見回してもディエゴの坊主と儂の頭の硬い孫くらいしか目につかんのじゃが、隠蔽魔術でも使っとるんかのう??
すると孫のトル・ネリの奴が儂の耳に口を近づけで小さい声で何か言ってきよる。
「ジュナン・ディオお爺様。ディーノ・ツェッペリン総大将ですよ。お爺様から十一時の方角におられます。目を凝らしてください」
「(ディーノ・ツェッペリン?はて誰じゃったかの〜。それに十一時の方角には誰もおらんぞ)」
儂は不審に思いながらも言われた方向に視線を向けて見る。
そこには一見何もないように見えるが、薄らと人の存在があった。
〔オオ!!!???
そんなところにおったんかセルズの小僧!!??
急に現れおってびっくりしたわい!!
存在感なさすぎじゃろ!!〕
「なっ!!!??この糞じじいてめー!!!」
「はっはっはっは!!!!!!流石ジュナン爺さんだ!!!!!!はっはっはっは傑作だなおい!!」
「ハァ…………。お爺様せめてもう少しだけオブラートに包んでください。」
「(なぜ儂が悪いみたいになっとるんじゃ??
まぁ良いか、これで今回の戦争の主メンバーは一人を除いて集まったってことかのう。
オフェリア《氷の女帝》破階者か、あの小僧と同じくらい面白い奴なら良いんじゃがのう)」
その後オフェリアが会議室に戻ってくるとまた一悶着あり、北両同盟王国は炎 虚苦施設軍全てが大河を渡り切ってからの出陣となった。
この報はすぐに広まりそれぞれが行動を開始し始める。
両陣営主要メンバー
北両同盟王国軍
総大将ディーノ・ツェッペリン
北領同盟王国中央軍番外五万
城塞都市ドルケスト駐留軍二万
参謀ジュナン・ディオ
直属精鋭部隊から二千
ディエゴ・マルク
直属精鋭部隊から同じく二千
オフェリア
直轄部隊三千(元は五千だったが色々ありこの数になった。)
総数七万七千
中天帝国軍
総大将炎 虚苦
私設軍三万 そのうち五千が精鋭部隊、魔法術特化
中天帝国本軍七万
補佐
義 李文大佐 主な役割は中天本軍の統率。
夏 烈民 私設軍内トップクラスの古株。虚苦と私設軍を繋ぐパイプ役。
総数十万
ようやく魔理以外の転生者の登場です。
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