ハープの少年
昨夜のヒムさんを揶揄う会から始まったお祭り騒ぎは日が昇るまで続いた。
街の外で野宿をしていた人達はみんな朝だというのにとても眠そうな顔で街に入っていくんだけど、みんながみんな僕を見ると近寄ってきて何か一言言ってきたり何かくれたりする。
ついでに門を潜る時に兵隊の人からめっちゃ挨拶された。
よくわからないけど特に何も問題ないから気にしない事にしてるんだけど、なんとなく僕に向けられる目は気持ち悪い。
言い忘れてたけどヒムさん お爺さん は完全に潰れていて、行商人の女の人は意識があるけどかなり辛そうに見える。女の人のお父さんだけが唯一意識がしっかりしている状態だ。
「私は仕事があるからこのまま仕事に行く。君達は今日一日宿で寝ているといい。」
「ごめんお父さん。今日はそうさせてもらうね。
宿前まで乗せてってもらえたらそこからは私がするから」
「お爺さんとヒムさんは僕がそこから運ぶよ。二人くらいなら担げるから問題ないよ」
「すまないが坊主頼んだ」
僕達がこれから数日寝泊まりすることになる宿は行商人のお父さんと長い付き合いがある人が経営している宿で、三つの部屋を割安で貸してくれるらしい。
理由は他にもあるけど割愛。
僕はヒムさんとお爺さんを担いで娘さんと別れ、二人を部屋のベットに置いて一息ついた。
街の規模はハープみたいな楽器を買った街とそう変わらない。
僕が大きいと思っていただけでこれくらいが普通なのかもしれない。
「(前世では比較にもならない人の量の中にいたのにね。想像以上にあの村での生活が僕の中で大きな割合をを占めているみたいだ)」
今は午前九時になるかならないかと言った時間で窓の外には陽気な音楽や笑い声が聞こえて来る。
窓の内側、つまり部屋の中はアルコール臭い息を吐きながらいびきや唸り声を発生させる成人男性と老人がいる。
昨日のお祭り騒ぎで疲れていなければ迷うことなく外に出かけていくところなんだけどそうもいかない。
理由は覚えていないけど昨日お爺さんと演奏勝負をすることになり、かなりその勝負に熱中してしまったから肉体的にも精神的にもかなり限界がきているしね。
ベッドはあの酔っ払い二人に占拠されているし、臭いから一緒のベッドで寝るのは選択肢にない。
僕は仕方なく椅子に座り込み、ローブを改めて羽織り直して瞳を閉じた。
ポンポン ポンポンポン ポンポンポンポン
「(何かが僕の肩を叩いてくる。今は眠たいから寝かせてほしい。〕」
パンパン パンパンパン パンパンパンパン!
「(いたい、ちょっといたい。できればやめてほしいけど起きたくないので我慢)」
バシン!バシン!バシン!バシン!バシン!
「痛い!マジな方で痛いよ!!」
勢いよく顔を上げた僕の目の前にはお爺さんがいた。
ポロロッロン ロロンロロン ポロロ〜ン
〜訳〜
「最初っから起きていたらよかったんじゃいバーカ〜」
〜終〜
「限度ってものがあると思うんだよね!
子供の頭を思いっきり叩きまくるとかただの暴力だから!!」
お爺さんは僕の言葉を軽く受け流しながら部屋の外に歩いていく。
このまま話を続けても何にもならないと僕は自分に言い聞かせてお爺さんの後ろをついていくことにする。
ベッドを見るとヒムさんの姿はない。多分お爺さんが向かっているところにヒムさんがいるんだと思う。
黙ったままお爺さんの後ろをついて行っていると目の前にある白髪頭を思いっきり叩いてやりたくなってくる。
今それを実行しても確実に成功しない。
第三者がこの状況を見れば失敗するとは思わないかもしれないけどなんとなく成功する気がしない。
「(多分これは罠。叩きに行ったら躱されて馬鹿にされる気がする。というか絶対そうなる。)」
どうにか叩きたいという衝動を押さえてはいるものの、お爺さんののほほ〜んとした動きが更に僕を煽ってきている様な気がしてかなりきつい。
僕は宿から近くの酒場までの数分間、自分自身と戦い続けた。結果はどうにか耐え切ることができたけど何故かお爺さんに負けた気がして気分はそんなに良くない。
「へっへっへどうしやしたマーリンくん浮かない顔をして、何かありやしたか?」
「お爺さんと少し遊んだだけだよ」
「へへへなるほど。通りで爺さんの方は上機嫌なわけだ。」
ポロロンポロロンポロロロン〜
「それで夕食でも食べるの?机いっぱいに食べ物があるんだけど。」
「へっへへいや〜これは違うんですよマーリンくん。あっしが頼んだわけではなくてですね、周りのお客さんが奢りだからって置いて行くんですよ。夕食も用事が済んだあと残りの二人と合流して食べる予定ですからあんまり食べ過ぎたらダメですぜ」
「じゃあ何をしに酒場に来たの?僕はまだお酒は飲めないんだけど」
「そりゃ〜お仕事ですよ、お仕事。
まぁお爺さんの方は違う目的があるみたいですからそっちは自分で聞いてくだせぇ」
「了解。で仕事っていうのは護衛の仕事?」
「ご名答ですよマーリンくん。
一応仕事なんでね、旅の障害になりうる事はしっかり調べないといけないんですよ。」
「それなんだけど僕 って」
パチコン!
ドルケストでの情報集めの為にヒムさんに同行を願い出ようとした僕の後頭部に突然の攻撃。
もちろん犯人は一人しかいない。
「お爺さん〜?理由によっては流石に怒るよ僕も」
お爺さんは僕が睨んでいることなど気にした風もなく撥弦楽器を一回かき鳴らした。
そして間を開けてからもう一度鳴らした。
「一体なんだって……言う…のさ。」
二回の音に違いはなかった。
だけど僕の耳は違和感を感じてる?変なことではあるけどおかしくはない。
僕はフル強化状態を空間同調に切り替えてお爺さんにもう一度やってとジェスチャーで伝える。
お爺さんは満足そうに笑って二回楽器を鳴らしてくれた。
間違いなく片方の音には魔力が乗っている。
二回目楽器を鳴らす時、お爺さんの手に魔力が集まっていた。そして集まっていた魔力が音か空気振動のどっちかに乗る形で飛んできた。
「(でもここまではある程度前から想定していた所。問題はどうやって魔術を発動させているか)」
僕が気づいたことを察したお爺さんは僕に背を向けて歩き出した。
チラッと見えた顔は胡散臭さ満点の笑顔だった。
ポロンッポロンッ ポロロロロン パララッパン
パラッツパララン ポパララララ〜〜ン
〜訳〜
「儂じゃね〜よ。儂は響かせ鳴らし導くだけじゃ。踏み出しとるのはお前らなんじゃよ」
〜終〜
お爺さんは適当な空いている机に登ると勢いよく楽器を鳴らし始めた。その音は酒場の中全体に響き渡る。
するとその音に反応して酒場にいる人たちの目がお爺さんに集まり、お爺さんの行動に驚くようにして更に騒ぎ出し始めた。
ヒムさんももう僕の近くにはおらず、自然な形で一組の酔っ払い達の輪に溶け込み何やら話している。仕方がないので後でコツだけを聞くことにして、今はお爺さんの方に集中する。
お爺さんの演奏は確実に酒場の雰囲気を更に活気あるものへと導いている。
楽器の演奏の腕が良いことや見た目が面白い事なども要因としてはあると思うけど、酒場全員にかかっている精神バフによるところも大きい。
自分にバフがかかっていることに気がついている人はヒムさんを含めて僕以外いないと思う。
みんながみんな楽しそうに騒いで喋っているし、おじいさんの音楽にのる形で踊っている人もいる。
僕は空間同調をしたまま椅子に座ってお爺さんの魔術発動方法を観察しているんだけど、これが全くわからない。
少し前のお爺さんとのやり取りで魔力を音に乗せている事はわかっているんだけど、なんでそれで魔術が発動しているのかがわからない。
シェーラ母さんの魔法術説明の時にも話があったように、魔力はそのまま放出しても意味がない。
飛んで行った魔力は物体に当たると霧散してしまうから。
実際音に乗って飛んでくるお爺さんの魔力は人に当たったりするとすぐに霧散している。あれじゃあ魔法術を発動させるどころの話じゃない。
当たった生き物の魔力循環にほんの少し波紋ができたらラッキーくらいだ。
それなのに僕含め酒場にいる人たち全員にバフがかかっている。気を配っていたはずなのに兆候をとらえることが出来なかった。
「(例えるならなんだろう。
花火が打ち上がるのを待っていたら、いきなり空に火の花が咲いていたビックリみたいな感じだと思う。納得できないけどこれが一番しっくりくる)」
「意味がわからないよ……。」
誰かに聞いてもらいたい訳ではなく、ただ言葉にしたかった。
音に乗っている魔力や自身にかかっているバフは割りと簡単に把握することができるけど、他人にバフがかかっているかどうかを知るのはかなり大変なんだ。一人一人に同調を使って魔力を合わせてから把握を使いバフの有無を調べる。
僕のスキルでは一人づつしか調べることができないので、酒場全員の事を調べるのにはとても労力と集中力を使うから今の僕はとっても疲れてる。
肝心のお爺さんは今も机の上で演奏を続けている。まるでライブの様な盛り上がり具合で、お爺さんはとってもハッスルしている。
今の僕とは真反対な状態で見ているだけで疲れてくる。一応僕にも精神バフがかかっているんだけど周りの人みたいに元気に騒ぐ程の気力はない。
カラン カラン
また酒場に二人のお客さんが入ってきた。
二人とも酒場の雰囲気に少しだけ驚いていたもののそのまま席を探しながら奥に入ってきた。
僕はすでに癖になりつつあるほど自然な動作で片方の男性に同調と把握を使い、不自然にならない程度に動きを観察する。
僕はこの二人で何も掴むことが出来なかったらギブアップすると決めた。
二人のお客さんは空いている席に座ると少しだけ会話を挟んでから店員を呼び注文をした。
それからは料理が来るまで少しずつ会話を挟みながら二人とも違う行動をする。
僕が同調把握をしている男性は机の上で未だにハイテンションで演奏を続けるお爺さんに目を向け
もう片方の男性は持ってきていたんだろ紙に何やら書き込んでいる。まだ二人にはバフがついていない。
「(ここなんだよね。二人ともすでに何かしらのバフがつくには十分な魔力が乗った音を浴びているはずなんだ。実際二人が店に入ってきてから四回バフが更新されてる。
この差が何で出来ているのかがわからない)」
そんなことを考えている内に僕が同調把握している方の男性にバフがついた。もう片方の男性にも同調把握をしてバフの有無を調べてみるとこちらにはまだ何もバフはついていない。
すると店員さんが注文されていたんだろう料理と酒を二人の席に運んできた。
それに合わせて何かを書き込んでいた男性も紙を仕舞い込んだ。
そこからはお互いに食事をしながら会話を楽しんでいる。その中で今も演奏しているお爺さんの話が出たのだろう、二人ともお爺さんの事を見ながら話をし始めた。バフがついていなかった男性もしばらくしてバフがついた。
「(………………………。)」
何かがわかったわけじゃない。
それなのに手は魔法袋の中にあるハープを手に取ろうと動き出す。
「そろそろここから出ますぜマーリンくん」
もうすぐ魔法袋の中に手が入ると言うところで後ろからヒムさんが話しかけてきた。
その声を聞くと同時に意識がはっきりとしたものになり、さっきまでの自分の行動の意味が気になって仕方が無くなってくる。
僕がヒムさんに返事をせずに考え込んでいると再度ヒムさんが話しかけてきた。
「ヘッヘッ 一人にしたからって無視は酷いでさマーリンくん。酒はダメですがねジュースくらいなら奢りますから機嫌を直してくれやせんかね〜」
「違うよヒムさん。ちょっと考え事をしてただけなんだ」
「へへへそうでやしたか、まぁ一人にしたのは悪かったと思ってますからねジュースは、奢らせてもらいますがね。
でははしゃぎ回ってる爺さんをあそこから引き摺り下ろして合流しに行きやすよ」
お爺さんを机から下ろし酒場から出た僕たち三人は宿近くの食事処に行き二人とも合流して夕食を食べた。
その時にヒムさんからいくつか情報集めのコツを聞くことが出来たので機会があれば試していこうと思う。ついでに盗賊についても情報共有がされた。
盗賊はほぼ間違いなくいること
集団に作り拠点を持っていること
何度か周辺の町などが資金を出して討伐隊を出したらしいが、相手の規模を小さく見積もって兵力の小出ししてしまい失敗に終わったとのこと
今は国による対処待ちの状態であることがわかった。
今後の方針としては今現在運んでいる殆どの商品をこの町で売り捌き品物を仕入れ、状況の変化を待つ事で決まった。
ヒムさんは販売の手伝いで僕とお爺さんは自由行動となりその場は解散となり、部屋に戻った。
ヒムさんとお爺さんにベッドを譲り僕は椅子という配置に、二人は横になるとすぐにガーゴーといびきをかき始めた。
最初はそのまま僕も寝ようとしたんだけど、少し前に眠った事や純粋にいびきがうるさくて眠れなかったこともあり、僕は椅子の位置を窓の正面に移動させ防音魔術を張り外の風景を見る事にした。
街からは明かりが消え、聴こえてくる音も余りない静かな夜で空には星が爛々と輝いている。
僕は前世では星に全く興味がなかったから星座なんで一個も知らない。前世で住んでいたところが都市部だったため星が殆ど見えなかったことが理由だとこの世界に来て思うようになった。
姉と兄は小さい頃よく星の話や神話の話の雑学を面白おかしく僕に聞かせてくれていた
「『迷わせ誘う幻想蝶の群れ』」
各種三頭づつに調整して自由に飛び回らせる。
特に理由はない魔術行使
ただこの夜にとても合うだろうと思ったから発動させただけ
足元のアイテム袋からハープを取り出して優しく奏でる
指先に魔力を集中させ幼い頃から姉さんと兄さんに貰った絵本を思い出しながら奏でる
前世での家族 祖父母に周りから見られる父母
父母に見られる程歳の離れた姉兄
その姉兄に初めて買ってもらった綺麗な絵本
まだちゃんと字も読めない頃でしかも外国語で書かれた絵本だった
よく家族の誰かと一緒に見た
内容は妖精とハープの少年の話だったと思う
懐かしい記憶 優しい記憶 大切な記憶
今世で初めて思い返す記憶の数々
寂しい訳でも悲しい訳でも戻りたい訳でも無く
ましてやあの時の選択を後悔している訳でもない
ただ懐かしいだけ
ふとした時に理由もなく部屋を掃除して、その時に見つけたアルバムをめくるようにただ思い出に浸っているだけ
今日偶々そんな気分になっただけ
「(だから今日この時だけはただ思い出に浸ろう
………………四人とも元気にしてるといいなぁ)」
いいなと思っていただければ幸いです




