旅は陽気に
乗り場はあの後すぐに見つけることができ、今は交渉をしている最中。
「城塞都市ドルケストまでこのお爺さんを連れて行って欲しいんです」
「えぇ、ドルケストまではいく予定ですからそれは構わないんだけど、後ろのお爺さんだけでいいの?」
「お爺さんだけでいいよ。僕はこのまま歩いて旅を続けるつもりだからね。」
「でも女の子の一人旅は危ないわよ」
「いや僕は男だから大丈夫だよ。それに呼称の仕方も僕だから男ってわかるでしょ」
「見た目が女の子だからね、少し変わった子なのかなって思うくらいで女の子に見えちゃうのよ。まぁお爺さんの事は任されました。
今は護衛を頼んだ冒険者の人を待っているの
だから一先ず台車に座って待っていてもらえるかしら」
「わかりました」
僕が交渉した相手は商人の娘さん。
人を運ぶ専門の人に頼んでも良かったけどなんとなく気になったのでこっちに声をかけた。
行商人の人達は運ぶ商品が少ない時などこうして人を乗せてくれる事が良くある。
勿論料金は取られるけど値段は運ぶ専門の人と大差ない。
「さぁお爺さんここでお別れだよ。
この人達がお爺さんをドルケストに運んでくれるからね」
僕は背負子を台車に向けてお爺さんに喋りかける。
お爺さんも素直に背負子から降りて台車に乗り込んでくれる。
「じゃあお金も持っているみたいだから僕はもういくね。短い間だったけど楽しかったよ。ばいばい」
ポロロッポ パロロッポ パララポロロロン
お爺さんは僕が別れの言葉を口にすると同時に僕に薄くバフをかけてきた。
そしてお爺さんの手には小金貨六枚(元の世界では六万円くらい。白金貨一千万 大金貨が十万、銀板五万、銀貨が五千、銅板千円、鉄板百円、銅貨十円、鉄貨一円国によって差異あり)がある。
あれはお爺さん一人をドルケストまで乗せてもらうために女性の行商人の人と交渉した値段の二倍の金額だ。
ここからドルケストまでの距離を考えると割と安めの料金だと思う。二週間ほどの旅での街や村での宿の宿泊代、ご飯代諸々こみのこの料金だし。
「(このお爺さん僕の分まで払うから僕も一緒に乗れって言ってるね。でも)」
「お爺さん僕は自分の分のお金くらいは持っているよ。僕が乗らないのはお金をあんまり使いたくないからで、ここでお爺さんのお金で乗れたとしてもそのお金を返さなくてはいけないなら変わらないよ」
ペペェッン!
お爺さんは胡散臭い笑みを浮かべながら右手の人差し指を立てて左右に振る。
そして両手や顔を珍妙な動きで僕に何かを伝えてくる。
「(・金を返してもらう必要はない。
旅の期間中儂の演奏の練習を受けることが条件。
儂のこの魔術の発動方法は坊主も興味があるんじゃろ。・)」
的な感じだと思う。
率直に言って悪くない提案だ。
ドルケストまでの移動時間が大幅に短くなる事に加えて、シェーラ母さんすら知らない魔術の発動方法を教えてもらえる。
条件が良すぎて逆に信じにくいまである。
「何が目的お爺さん?」
僕の言葉を聞いたお爺さんは楽器を鳴らし始めた。するともともと活気のあった街が更に熱を持ち出した。
「(精神系のバフをここら辺に発動させたんだね。それにバフをかけられた事に誰も気づいてない。護衛の冒険者や衛兵の人達も全く異変を感じ取れていない。これには効果がそこまで高くないことも関係してると思うけど、魔術そのものを直接掛けられていない事が大きいと思う。)」
お爺さんが演奏を終えると街の活気も元に戻った
そしてまたジェスチャーで僕に語りかけてくる
「(・この通り誰も気付かん。
坊主の様に気付くものもごく稀におるが大体そういう奴らに限って個で強い。
見ての通りこの発動方法は効果が薄く、集団戦で力を発揮するものだ。個で強いものはこんなものは求めていない。
しかし坊主は違うだろう・)」
だいたいこんな感じだと思う。呼称の仕方などは本当にフィーリングで適当にやっているからちょいちょい違うところがあると思うけどだいたいこんな感じ。
ついでにお爺さんの予想はあってる。
僕の性格上お爺さんの魔術発動のさせ方は是非とも習得しておきたい。
お爺さんはニヤニヤしながら手を差し出してくる
僕は渋々その手を握ったが、きっと表情はお爺さんとは真逆の表情をしてると思う。
あの日から一週間ほどが経ちドルケストまでの旅路の三分の二まできた。
行商人の女性ともあの後簡単に話して乗せてもらう許可を取った。
そのおかげで当初予定していたものより三倍以上早いスピードでドルケストに向かえている。
お爺さんとの魔術の練習の方はよくわからない。わからないのはうまくなっているのかどうかが全くわからないという意味でのわからないです。
ペペェ〜ンッツッツパララパッア〜ン
ポォッ〜ン ポォッン ポロロパララララ〜ン
ポロン パンッ ツッポロロン
ツェレレ〜ン ツェェラッツェトゥラララ〜
〜訳〜
「お〜〜い小僧ぅ なにぼ〜っとしてるんだ?」
「してないよ お爺さんが寝こけてたから寝かせてあげてたんだよ」
「儂はそこまで老いとおらんわ!」
「一回鏡見た方がいいよお爺さん いつ逝ってもおかしくないと思える見た目だから」
〜終〜
ポロンポロロパラッパァッ〜ンッツ ポロロロン
ツェララトゥラーン トゥララリィーン
パラララッ ラ〜〜ン ポロロラッラーン
ツェラツェラ〜ン ツェラレラリェラーっトゥララレラーン
〜訳〜
「なんじゃと〜 弟子のくせに師匠に生意気じゃぞー」
「一応師匠だからちゃんと言われた通りに練習してるでしょ」
「もっと敬意じゃ、も〜っと敬意と尊敬の念を持って儂に接せい。」
「そういうのは自分から言って持ってもらうものじゃないよ。日頃の自身の行動から周りが勝手に持っていくものだからね」
〜終〜
何をやっているかいまいち自分でもわからない。
お爺さんとの練習は何かの曲を練習したりなどはせず楽器を好きに弾いて相手に自分の意思を伝えるという練習だ。
この練習を始めた当初は音をうまく出すことができず、一日中お爺さんに音で煽られまくった。
やり返せず、一方的にやられ続けるのはすごくストレスがたまる。
この時初めて自分のフィーリングセンスを疎ましく思った。
僕は三歳くらいの時の言語を勉強していた頃を思い出して、スキルを活用してとにかく必死に頑張った。
とは言ってもべつにちゃんとした言語というわけではなく、単なる音の強弱とリズム 雰囲気でなんとなく意思を伝えているだけだ。
ちゃんとした理解というよりも《同調》によるお爺さんの動きの模倣でやり方を覚えていった。
上の訳も僕がそう感じているだけで実は全く話が噛み合っていないかもしれない。
お爺さんの表情を見るにちゃんと意思は伝わっているっぽいけどね。
上達していると信じたい。
そしてもう一つ問題というか困ったことがある。
「ヘヘヘ相変わらずあっしには全く何を言っているのかわかりゃしませんね。
マーリンくんはなんでわかるんですかね?」
「僕もちゃんと理解しているわけじゃないよ。
なんとなくこうかな〜ってやってるだけだよヒムさん」
行商人の女の人が言っていた冒険者というのが収穫祭の時僕の村に来たヒムさんだった事。
別にヒムさんが嫌いとかじゃなくて、ただ単に収穫祭の事とかでいじってくるのが嫌なだけだ。
「それにしても運命ってものは怖いですねえマーリンくん。二年ほど前に依頼で行った村の男の子とまた依頼の最中に会うなんてねぇ」
「それだけじゃないでしょヒムさん。
あの日の夜一緒に過ごした女の人と縁が繋がっていた事もすごいと思うよ」
「ヘッヘッヘ流石マーリンくん。気づいてやしたか」
「ヒムさんを見て思い出したんだよ。それまでは
気になりもしなかったよ」
「ヘッヘへあの祭りの後ご縁がありやしてね、良く護衛を依頼してくれていますよ」
「どおりで着いた村々での動きが良かったわけだね。ほぼ商人の動きだったよ。
それで個人的な進展はどうなの?」
「相変わらず子供らしい可愛さが少ねーですねマーリンくんは」
「この質問は今興味なさそうにしながらも実は興味津々のお爺さんからの質問だよ」
「そっちの爺さんは見た目よりも随分と若いみたいですねぇ。
まぁ隠すことでもねぇですしね言いますけど、悪くはねーですよ。」
ヒムさんはお父さんらしき人と何やら話している行商人の女の人を見ながら言葉少なめにそう言った。
どうやら僕が予想していたよりも深い繋がりになっているみたいだ。
「そういえばホットはあれからちゃんと立ち直ることができたの?」
「ホットくんですかぁ。
フルーベンスについた日に結構いいお店に連れて行きましたからね一時的には立ち直れたみたいなんですがねぇ。まだ時々思い出すことがあるみたいで、かなりの頻度店に通い詰めていますねぇ。」
「まぁ生活に支障がないならよかったよ。
アストやサリさんはあの後どうなったの?」
「あの二人は仲が更に良くなったこと以外はそんなに変わりやせんよ。若手らしく失敗と成功を繰り返しながら成長していってやす。
特段何かがすごいというならアンジュの嬢ちゃんでしょうね」
「アンジュがどうかしたの?」
「アンジュの嬢ちゃんはあれから無事Bランクになりやしてね、その後の依頼でも依頼主とトラブルを起こすことはなくなったそうですぜ。
それでですね、もうすぐAランク昇格って話が出ていやす。ついでに異名持ちにもなったりとめざましい活躍をしてやすね」
「へぇ〜!!なんて異名がついたの?」
「【弧炎の魔術剣士】ってな感じでやすね。
あの年で冠位九階まで行くなんて羨ましい限りですよ」
「【弧炎】か。ショーテルや見た目 戦闘スタイルからそうなったんだろうね。
そういえばヒムさんは何階なの?」
「あっしは六階ですぜ。詳細は流石に話せやせんがね。」
「流石にそこまでは聞かないよ。」
あの収穫祭からもうすぐ二年が経つ。
〔昇月の節〕(九月)に次の〔収穫の節〕(十月)の豊穣を願う祭りが収穫祭。そして今は〔昇陽の節〕〔七月)に入ったばかりだ。
去年はノーブルファブニールの事とかで少しだけ規模が小さい収穫祭になった。
今年はあの大樹の問題もあるからやるかどうかは微妙なところになるって村長がぼやいていたね。
この〜節というのは国によってあったりなかったりとバラバラで、北領同盟王国は未だ部族意識が残っているため〜節という言い方が一般的。
暦についても種族や国により違いがあるけど僕は一月〜十二月で考えている。その方がわかりやすいからね。
「まぁそれよりもあっしとしてはあの大樹の事についてマーリンくんが何か知らないか聞きたいところですがねぇ」
「ん?あぁあの大樹の事ね。
僕もあの大樹については何も知らないよ。
情報とかについてもあの村には殆ど何も入ってこないからね。ヒムさんの方こそ冒険者だし、行商人としてのつてもありそうだから何か知ってるんじゃない?」
ポロロン パラポパララッツパラッツ
「そんな事よりもあの行商人の女の人との話を詳しく話せってお爺さんが」
「へへへっへ野暮ってぇ〜爺さんでさぁ。
あの大樹についてもあっしは何にもそれらしいことは知りやせんぜ。」
あの大樹のことについては勿論本当のことを話すつもりはない。
自然に話を交わしていくつもりで喋ってみたけどうまく行ったみたいだ。
ヒムさんの方も行商人の人との関係は話したくないみたいだし、お爺さんはさっきから「もっと聞けもっと聞け」とうるさいしね。
このままヒムさんをからかう方向で行こう。
そんな風に移動の時間を楽しんでいると御者台の方から僕達に声がかけられた。
「もうすぐ次の街に着きますが、開門している時間には間に合いそうにありません、門の近くでの野宿になります。」
「へい了解しやしたぜ」
「それと次の街を超えたら盗賊のグループがいるという情報がありますから、街で数日情報収集をするつもりです。問題ありませんか?」
「僕は問題ないよ」
ポッポロロン
「大丈夫だってお爺さんが言ってるよ」
「そうですかありがとうねお二人さん。
それとヒムさんと私がどういう関係なのかは私も聞いておきたいですねヒムさん」
「っ!?……勘弁してくだせぇ。」
「楽しみにしてますね」
ヒムさんは行商人の女の人から顔を隠すようにして頭をボリボリとかいて話をごまかしている。
女の人のお父さんも特に反対はしていないのか不機嫌そうにはしていない。モックさんとはえらい違いだ。
それからはヒムさんはからかうのに行商人の女の人も加わり、街の前に着くまでにどうにかヒムさんの口から「恋仲」という言葉を出させることができた。
その時のヒムさんの顔がヒムさんのイメージからかけ離れた顔でとても面白かった。
その日の夜はその事を話の種にしてとても賑やかな夜になった。
開き直って黒歴史を生産し続けるヒムさんに、それを照れながらも嬉しそうにしている行商人の女の人。からかう様に、盛り上げる様に空間を音楽で包み込むお爺さん。
言葉少なめに茶々を入れる女の人のお父さん。
僕達につられて騒ぎ出す僕達の他の野宿をしている人たち。騒いで笑って馬鹿をして、初対面の人とも語り合う。
本来は寂しく静かな夜が今日このひと時だけは昼より明るい夜になった。
「(一人気楽な旅も悪くはないけど、きっと今より楽しい旅にはならなかったね。
…うん。悪くない)」
この日門を警備していた兵士は酒場でこんな話をする。
「あの日は街の中より外の方が賑やかで楽しそうだったんだよ。それで気になって俺も加わってみたんだがな、もうあれは祭りだった。
特に祭り騒ぎの中心で美少女と老人の演奏バトルはすごい盛り上がりだったぞ。
後にことの始まりを聞いて回ったんだがな、これがまたおかしな理由でな。
一人の男の恋話が原因だったらしい」
「そりゃ〜変な話だがよ。
お前仕事サボっちまってるよなそれ?」
「いや〜あれはとても楽しい時間だった。」
「おいごまかしてんじゃねーぞ」
「いや〜ほんっとうに楽しかったな〜」
そうしてしばらく話の種として語り継がれていったとかいかないとか。
少しでもいいなと思っていただければ幸いです




