お爺さんは凄腕
ポロロン ポロロロロッロンロロロンッ ポロポロポロ〜 ポポロポロロ〜
朝、僕は愉快な音楽で起こされた。
もちろん演奏者はお爺さん。
これが下手糞な演奏なら文句の一つも言えるんだけど、お爺さんの演奏はめちゃくちゃうまい。
音楽自体は良いんだけど朝っぱらから近くでやられると少し疲れる。
「おはようお爺さん。」
ポッン
タイミングと感じ的におはようかな?
表情が変わるかしてくれたらちゃんと汲み取れるんだけど、楽器の音での意思疎通は今までに経験がないのでわからない。
「今日この村か近くの村でポップス便が何かを探してお爺さんにはそれに乗ってもらうからね。
お金は一応僕が出すから、それで良い?」
ポンポンポロッポンポン
ダメだ。流石に何を伝えたいのかが全然わからない。何かを伝えようとしているのかすらわからない。
僕は一旦服を抜いで魔術で洗い、乾かしてまた服を着た後簡単に身なりを整える。
お爺さんの方も僕が起きてくる前にある程度のことはしていたらしく準備はできていた。
僕とお爺さん(背負子に座らせて)は小屋を出て、小屋を貸してくれたおじさんに礼を言いついでにこの村で乗り物が何かないかを聞いた。
結果としてこの村にはないけど次の街にはある事を教えてくれ、嬉しい事に朝ご飯まで用意してくれていたおじさん。ありがたく頂戴した。
おじさんに見送られながら村を後にして、また奇妙な旅を再開した僕とお爺さん。
街までは二時間ほどで着くとのことなのでそこまで焦ることもない。
お爺さんの演奏を聴き、周りの景色を見ながらひたすら歩く。
お爺さんの曲調は明るいものから暗いもの、緩いものから激しいものまですごく多彩で聞いていて飽きない。そしてもう一つ凄いことがある。
「ねぇお爺さん。音に魔力を組み込んで魔術を発動させるのはコツとかがあるの?」
ポッ。
「言葉での詠唱は言葉自体の意味と文章による構成、それに魔力を乗せる形で発動させると思うんだけど楽器ではそうはいかないよね。
音自体には特定の意味はないし、自分の体を使って出している音じゃないから魔力も乗せ辛い。
言葉での詠唱と楽器での詠唱は似ているようで全然違うよね」
「・・・・・・・」
やっぱり秘伝の技だったりするのかな?
最初一時間僕は身体能力上昇や魔物除け、精神鼓舞、疲労軽減とかが使用されている事に気づかなかった。
偶々些細な違和感を感じて自分の体をチェックしてみたら微弱で多種多様、だけど完成度は抜群なバフをかけられていた。
今お爺さんは演奏をやめて黙っている。
「(やっぱり聞いたらダメだったかな)」
楽器で魔術を行使するのはそこまで珍しくはない。もともと楽器自体に魔術を書き込んでおいたり、楽器の音に合わせる形で魔術を使ったりと色々ある。
だけどお爺さんは少し違う。
楽器から奏でている音には魔力しか乗せておらずそれ自体ではなんの意味もない。
だというのにいつのまにか魔術が発動されている。
原理はわからないけどこの方法は魔術を使われている事に非常に気づかれにくい。
従来の魔法術や楽器を使った魔術を突風とするなら、お爺さんのやり方は微風だ。
異変を感知する力は普通じゃないとエル父さんやシェーラ母さんに言われている僕が、些細な違和感しか感じられなかったんだから普通は気づかないものなんだと思う。
ずっと黙り込んでいるお爺さんが気になり後ろを振り返ってみると、顔と顔がぶつかりそうな距離にお爺さんの顔があり、僕をじっとみつめていた。
「(うぉっ!!あの女の子の時はドキッとするけど流石にお爺さん相手だと拒絶感がすごいね)」
ポンポロポッポ ポンポロポッポ ポンポロロロ〜ッッポン パンパンポロロッポ ポロロッポ
〜〜……
お爺さんは僕を見たまま演奏を開始した。
楽しい雰囲気の曲だ。
僕はお爺さんに見つめられた状態でおじいさんの演奏を聴いていると
「(あっ。精神系バフがついた)」
僕がそう思った瞬間お爺さんはなんともいえない笑顔になった。
そのお爺さんの笑顔は宝物を見つけた子供のような、目的地を目の前にした冒険家のような、獲物を見つけた肉食動物のような顔だ。
僕がお爺さんの笑顔に引いていると、お爺さんは元の体制に戻り酔っ払いが引くようなご機嫌な演奏を始めた。
僕はお爺さんの行動の意味がよくわからないので仕方なく歩くのを再開する。
相変わらず道ゆく通行人たちに笑われながらの旅でかなり恥ずかしい。
昨日はローブ姿の少年が今にも小途切れそうな楽士の老人を背負っている図だったけど今は違う。
ローブ姿の少年と酔っ払いピエロの図だ。
もう見せ物をしているとしか思えない状態になっているし、実際すれ違う人たちからコインを貰った。
そんなこんなで約二時間後おじさんから教えてもらった街に到着した。
僕は街に来た事はないけど割と大きめな街なんじゃないかなと思う。
だって街の周りには柵があって、門には衛兵がいて入ってくる人のチェックをしているからね。
お爺さんの方も演奏を止めて街の方向つまり僕と同じ方向を向いて座っている。
今は九時くらいでちょうど街への出入りが可能になった時間なんだろう、街に入りたい人が列を作っている。
僕はその列の末に並び前の様子を伺う。
どうやら名前と出身地、目的をいうみたいだ。
鉱石とかでできたカードを見せている人もいるけど僕は持ってない。
そんなうちに順番は僕に回ってきた。
「名前と出身地、この街に来た目的をお願いします」
「マーリンです。出身地はラート村、この街に来た目的はこの後ろのお爺さんをドルケスト行きの乗り物に乗せるためです」
「マーリンでラート村ですね。男性という事で良いのかな?それと問題なければそのお爺さんについて聴いても良いですか?」
「僕は間違いなく男だよ。このお爺さんは僕が一人で旅をしている時に初めて会ってね。お爺さんが魔物に襲われて乗り物が何処かに行ってしまったらしくてこうして僕が背負って移動してるんだ」
「そうなのかいありがとう。
まだ随分と小さいのに凄いな。
それとお爺さん。名前と出身地をお願いできますか?目的はこの子から聞きましたので」
「・・・・・・・」
お爺さんは衛兵の人を手招きして何かを見せている。僕の場所的に見る事はできないけど動き的にそうだと思う。
「っえぇ!!ま・むぐうううぅぅ」
衛兵の人が驚き何かを言おうとしたらお爺さんは背負子に乗ったまま衛兵の人の口を塞いだ。
そして衛兵の人が落ち着いた事を確認して手を口から離して衛兵の人が持っていた髪とペンを奪って何かを書き込み、それを衛兵に渡した。
何を書いたかすごく気になるので見せてもらおうとしたら後ろからお爺さんに頭を軽く叩かれ、先に進むように促される。
衛兵の人ももう何も言わないので言って良いんだと思うけど、さっきの書き込まれた紙を受け取った人はものすごく慌てている。
ものすごく気になるが、さっきからペチペチとお爺さんが僕の頭を叩くので仕方なく街に入った。
街は朝の活気に溢れて人が慌ただしく動き回っていた。
マーリンとして生まれてから街を訪れたことがなかった僕は一瞬その人の熱気に気圧されてしまう。
出店や飲食店がパッと見ただけでも数軒ある事からやっぱり大きめな街であることがわかる。
僕が街を見て回ろうと足を進めると、後ろのお爺さんが凄い勢いで頭を叩いてくる。
流石に文句を言おうと後ろを振り向くとお爺さんは真面目な顔でどこかに指先を向けていた。
気になってその方向を見てみるとそこには楽器のお店が有り、お爺さんがそこに行きたがっていることがわかった。
「あそこに行きたいのお爺さん?」
ポッーン
これは多分行きたいって事なんだろうな。
気づいてしまったからには行くしかなく、楽器のお店に向けて歩いていく。
何故か朝からテンションの高いお爺さんは背負子の上ではしゃいでいる。
「(なんか変なものでも食べたのかなこのお爺さんは)」
楽器の店に入ると見たことがない楽器がたくさん置かれていた。
前の世界と似たような形のものも数多くあるんだけど元々楽器に興味がないので詳しくはわからない。
店の人は見た限りではおらず、奥のカウンターにベルがあることから、用があれば呼んでくださいといった感じなんだと思う。
僕が周りを観察しているとお爺さんは背負子から飛び降り楽器を物色し出した。
「(歩けたのねお爺さん。出来れば昨日のうちから歩いて欲しかったよお爺さん。
さっきまでの僕の頑張りはなんだったのかな)」
お爺さんが一人で歩けたという事実に少しだけ全身から力が抜けてしまう。というか地面に手をついてしまっている。
しばらくそうしていると頭を叩かれてた。勿論お爺さんだ。
僕が顔をあげてお爺さんを見ると、お爺さんは手にお爺さんのと似た形の撥弦楽器を持って僕の前に立っており、その楽器を僕に向かって差し出してきた。
その場の流れで僕はそれを受け取ったものの、僕は前世含めて楽器を演奏した経験がない。
楽器を両手で抱えたままの僕を見てお爺さんは演奏を始めた。
ポォン ポォン ポォン ポォン ポォン
単調なリズムでただ弦を弾くだけの演奏をしながら僕を見続けるお爺さん。
やってみろって言っている様なので、仕方なく楽器を鳴らす。
ベッエェン ベッエェン ベッエェン
「…………………//////////」
「・・・・・・・・・・・・・・プフッ」
お爺さんは僕を鼻で笑った後、さりげなく僕から楽器を取りまた違う楽器を渡してきた。
今度はヴィオリンみたいな楽器だ。
さっきのは何かの間違いと思い直してまた挑戦する。あの空間を思えばなんて事ない。
キュィィィィィーーン キュィィィィィーーン
「(もう煮るなり焼くなり好きにしてもらいたいです。はい。)」
僕は力なく地面に膝をついた。
僕ってこんなに才能なかったんだね。
聴いた瞬間に理解させられる音の汚さだ。
しかしお爺さんはそんな落ち込んでいる僕を無視して更に新しい楽器を渡してくる。
その時のお爺さんの顔は心の底から僕を馬鹿にしている笑い顔だった。
その後も何種類かの楽器を試したけど全てダメ。
お爺さんの顔も僕を馬鹿にするものから励ます感じの表情になっている。
なんでだろう。それはそれでむかつく僕がいる。
そしてまたお爺さんは僕に楽器を渡してくる。
今度は手で抱えられるくらいのハープに似た楽器だった。
僕がハープを手にどう弾こうか考えているうちからお爺さんはもう新しい楽器を準備している。
後ろから頭を叩いてやろうかという考えが僕の頭をよぎったがどうにか堪える。
「(落ち着くんだ僕。僕は前世を含めたら三十歳近くになるいい大人だ。ここはハープ?を綺麗に弾いてお爺さんを見返す方向で頑張るものだよね」
前世でハープを演奏している人を一度だけ見たことがある。確か小学校の音楽の先生の恩師の人だったかが演奏してくれたんだったと思う。
とは言ってもそれは馬鹿でかいハープで、今僕の持っている様な小さいものではなかったけどね。
僕はその人の弾き方を記憶の底から引っ張りながらハープの弦に指で触れる。
「(印象としては優しく撫でる感じだったかな)」
ポォォン ポォォン ポォォン ポォォン
かなりいい感じの音を出せたんじゃないだろうか?これまでのものと比べると明らかにいい音が出ているんだけど。
お爺さんを見ると僕を見てびっくりした顔をしていた。多分僕がまともな音を出した事に驚いているんだと思う。失礼なお爺さんだ。
お爺さんは準備していた楽器を戻して僕の所に戻ってきた。そしてお爺さんはお爺さんの撥弦楽器を弾き始めた。
それに合わせる感じで適当に僕もハープみたいな楽器を鳴らす。
ある程度やった後お爺さんはテクテク店の奥に歩いて行きベルを鳴らした。
チリィィィィン チリィィィィン チリィィィン
思っていた以上に澄んだ音が響いた。
数秒後更に奥から店の人が出てきて僕達に話しかけてきた。
「どうもいらっしゃいませ。
お待たせして申し訳ありません。
ご用件の方をお伺いしてよろしいですか?」
お爺さんは店の人の肩をポンポンと叩いてから僕を指差してきた。
「ふむ、あちらのお嬢さんが持っているハープをお買い上げしてもらえるという事でいいすかお爺さん?」
ポロン
お爺さんは笑いながら短く弦を鳴らした。あの笑いは僕が女の子に間違われている事を笑っている顔だ。
そしてお爺さんはポケットから数枚の硬貨を取り出して店の人に渡した。
「(お金も持ってたのねお爺さん。一回何を持っているのか聞いた方がいいかもしれないね)」
店の人はそれを持ってまた店の奥へと行き、また戻ってきてお爺さんに硬貨を渡していた。
お爺さんはその硬貨をポケットに入れて僕の方に歩いてくる。
そして僕の目の前で立ち止まり
ポロン ポロロン
と楽器を鳴らす。
多分僕の背負っている背負子に乗りたいから僕にしゃがんでって事なんだろうけど
「お爺さん自力で歩けるよね」
「・・・・・・・・」
ポロロロロン
お爺さんは出会った時と同じ様に床に座り込み、歩けないんです私と主張してくる。
「もう遅いよお爺さん。さっきまでテクテクテクテク歩き回ってだでしょ」
「・・・・・・・・・ブーブー」
お爺さんはひとしきり駄々をこねた後諦めた様に立ち上がり僕が持っているハープに手を伸ばして触り、引っ掻いた。
「っちぇっとお爺さん!?」
「ピュ〜〜 ピュ〜〜 ピュ〜〜 ピュ〜〜」
「流石にそんなんじゃ僕はごまかせないよ。
どうするのこれ!?傷つけちゃったけどもう返品できないよね?僕知らないよ、これ買ったのおじいさんだし」
するとお爺さんは再度ハープに傷を入れた。
僕が慌てている状態だった事を入れても普通のお爺さんができる動きじゃなかった。絶対ロクな人じゃないよこのお爺さん。
そしてハープを見ると[マーリン]と刻み込まれていた。これでお爺さんは僕が所有者と言う事にしてくるだろう。実際これを見た人は僕が所有者だと思うに違いない。そして僕はこの楽器を賠償する程のお金はここで使いたくない。
「っはぁ………わかったよお爺さん。僕の負け。」
僕はお爺さんが乗りやすい様にしゃがみ込み降参を宣言した。
お爺さんは背負子に上機嫌に乗り込み僕の頭をポンポンと叩いてくる。
少しイラッとするものの何も反応はしてやらない。店の人に挨拶をして楽器店を後にして、乗り場を探す事にする。
お爺さんは僕が反応しない事で諦めたのか小さな音で演奏を始め出した。
「(演奏の音と人格に差がありすぎるお爺さんだよね全く)」
少しでもいいなと思っていただければ幸いです




