決断は意思の下
目を覚ますと彫刻品の様に美しい女の子の顔が僕の顔のすぐそこにあった。
驚いて叫びそうになるがすんでのところで食い止める。
どうやら僕は女の子に膝枕をされているらしい。
僕は恥ずかしがっていることを表情には出さず体を起こす。
あくまで自然に驚いてないよと主張するように。
そして僕は女の子の顔を見る前に、周りの景色を見て落ち着こうとした。
壮大な緑を見たら落ち着けると考えていた僕だけどその考えはすぐに打ち壊される。
「…………………………ホォーー」
僕の目の前には馬鹿でかい巨木達が連なる森ではなく、モワモワした白い海と澄み渡る青がうつった。
「……これが雲海ってやつなんだね。
そういえばあの時は雲があんまりなかったから見ることができなかったんだっけ?
予想していなかった時に初めての雲海を見ることになっちゃったけど綺麗だなぁ。」
一応声に出しながら状況を確認していく。
今僕が座っているのは地面じゃなくて多分木の枝の上だと思う。
それも特大サイズの枝
「(だって表面が完全に木だしね、あちらこちらに僕よりもはるかにでかい葉っぱがいっぱいついてるし)」
下を見ると雲海に突き破る様にしてアホみたいにでかい木の幹が見える。
そしてそこから伸びる様にしていくつもの枝が生えているようだけどここからじゃ全体像が全然見えてこない。
「(まさに世界樹って感じのサイズ感だね。ははははははははは。……………どうしようかなこれ)」
そんなことを考え込んでいると後ろから肩を突かれた。
振り向くと女の子が僕に手を伸ばしながら立っていた。僕はその手に捕まる様にして立ち上がる。
「本当にありがとう 半身」
…一瞬誰の声かわからなくて反応ができなかった。
ちゃんとした女の子の言葉を聞いたのはこれが初めてだ。そのことに驚くとともに女の子の言葉にも驚いた。
「半身?って僕の事?」
「そう 半身はわたしの半身」
女の子は僕を指差してそう言ってくる。
いやいや色々なことがありすぎてよく状況を掴めない。
「ちょっと待って、何がどうなってるのかよくわからないんだけど」
女の子は考える人の様に顎を手に置いてから
なにかが閃いた様に顔を上げて
「パートナー 番 伴侶 相方 相棒でも良い」
「いや意味そんなに変わらないよそれじゃ」
「半身がわたしとしてはしっくりくる」
「しっくりくるとか以前に色々と問題あるから!」
女の子は本当にわからないと言う顔をしている。
このままじゃラチがあかないと思った僕は女の子に質問していくことにした
「え〜とっじゃあ僕が質問していっていい?」
「それでいい」
「それじゃあ気になってたんだけど、喋れたの?」
「喋ってるわけじゃない。今は半身の心にそのまま意思を伝えてるだけ。前はそれが出来なかった。」
「なんでできる様になったの?」
「昨日の儀式を成功させるためにわたしと半身の魂を繋げた。それはわたしと半身二人の魔力を合わせたものをあの種に注ぎ込まないといけなかったから。
その副次的なものでわたしと半身の魂は今でも繋がってる」
「あぁ〜なるほどね、そういえば口も動いてないね。」
「そう言うこと」
「二つ目の質問。
なんで僕をあそこに導いたの?」
「少し前に半身の姿を見て、半身ならできると思ったから」
「今まで僕以外にできそうな人はいなかったって事?」
「いなかった。昨日のアレが成功するための条件は厳しい。それに失敗したら次がないものだから。
条件はわたしと森の魔力に馴染む魔力の質を持ってる事。そして森に嫌われていない事。
ここまでのことで苗木を守っていた古木がその守りを解くの。あの古木はわたしの管轄下にある木ではないの。
あとは苗木を目覚めさせるに足る魔力量をそそぎ込めるくらいの魔力を保持してること。
目覚めさせるための魔力はわたしの魔力では代用できないから。
そしてそれで死なないこと。死なれたら残りの手順ができなくなるから。
これが問題。前の二つをクリアしていてこれもクリアしているのはほぼ不可能。
後は意思疎通のできないわたしの意思を汲み取ってくれることくらい。…………これは問題ない。」
最後のを少し顔をそらしながら女の子は僕にそう説明した。
確かにこれは難しいと思う。魔力質は生まれつきのものだし、魔力量は僕の保有しておける魔力の限界分。僕の魔力生産量は今でも少しずつ増えてるし、限界循環量は十倍くらいのままだ。
森に嫌われてない云々はわからないけどこれは運だと思う。
そして喋らない女の子と意思疎通が必要最低限出来る事。これができてなかったらあの時何をしていいかわからなかった。
これも相当難易度高いよ。
「僕が森に嫌われてないのはなんで?」
「きっと森の健康をずっと守ってきたから」
「と言うと?」
「森の命の循環の手助けをしていたから。それも一回のミスもなく」
「腐りかけの木を切ってたからってことだよね」
「そう」
うん。僕のミラクルパワーがここでも仕事をしていたわけだ。
後聞いておかないといけない事は
「このアホみたいにでかい木はなに?」
「なにと聞かれてもなんていえばいいかわからない。
それでも言葉にするならわたしの目的、世界の流れの一部、あるべきであったもの。名前はなくてて、ん本当はずっと前からここにこうしてあるべきだったもの」
「どう言う役割がある木なの?」
「絶対にここにある必要はなくて役割もない。
だからこれまでもこの木がなくてもなんの問題もなかった。
氷の山脈がそこにある様に、とてつもない大きさの湖がそこにある様に、炎を溜め込む山脈がある様にただそこにあるだけのもの。」
つまり自然の一部であり、今までなかったことが不自然だったってことなのかな。
となるとこの女の子の正体もなんとなく理解できる。というよりももうそれしかない。
それをわざわざ聞くのもどうかと思うので聞かない。
そうして質問を止めた僕に反応して女の子は突然名乗り始めた。
「わたしは精霊。
半身たちが【深緑の大精霊】と呼ぶもの。
この大樹を司る精霊。
そしてこの大樹の苗木を守っていたもの。
半身のおかげでわたしはようやく本来のやるべき役割を遂行するができる。
本当にありがとう。
わたしの真名は【ユグドラシル】
神より賜りしわたしの名前。」
この流れは僕も名乗り上げないのはダメだね。
何というかここで名乗らなかったら逃げたみたいになるし
「僕は【マーリン】
この森の隣にある村で生まれて育ったヒューマンだよ。
そして前世の名前は【飛紙 魔理】。
ちょっと訳ありでね、前世の記憶があるんだ。
よっちゃんや神くんと友達で色々とお世話になってね」
そう僕が名乗りあげると、僕の中で何かが一体化しかけた感覚があった。
「(あれ?これってそういえば前にシェーラ母さんから教えられた精霊との契約の仕方に似てるんだけど)」
女の子は僕がそれ以上何かを口走らせない様にどんどん言葉を紡いでいく。
「魔力に触れ合い繋がりとし、真名を明かして信頼とする。
半身がわたしの力を望む時わたしはわたしの出来うる限りを持ってそれに応える。
わたしが望んだ時半身もそれに応えてほしい。
敬いしお方に宣言しこの人と精霊の契約がなされる。
わたしは主たる神にこの契約を宣言する。」
確かここで僕の方も誰かに宣言すれば契約は完全に成立するはずなんだけど。
「(今の世界情勢で【深緑の大精霊】と契約するのはやばくない?ていうかこの馬鹿でかい木がいきなり生えた時点でやばいかな?)」
頭を高速回転させてそんなことを考えているとユグドラシルは僕も早く宣言しろと視線で圧力をかけて くる。
その目は真剣そのもので僕は数秒も耐えることができなかった。
「僕の友にして恩人たる二柱にこの契約を宣言する」
そう僕が口にした瞬間完全に僕の中で何かが繋がった。右胸が少し暑くなったのでそこを見てみると淡い緑色に輝く紋章ができていた。
それは九本の曲線が絡まりあっている木の様な紋章だった。
「(やっちまったなー)」とか考えてる僕を置きざりにして女の子はまだ言葉をつなげていく。
「契約者マーリンとわたしの間に心の繋がりあり。
わたしはこの魂の繋がりを誇りに思う。
わたしと心の繋がりありし者との間に契約あり。
わたしはこの契約を愛おしく思う。
この異なる二つの繋がりがより強いものに、より太い繋がりになることを望む。
ゆえに永遠にわたる魂の繋がりをわたしは切願する。
我が友にして契約者たるマーリン、貴方はどうだ?」
「(なにこれ?こんなのシェーラ母さんとの勉強に出てきてないよ。でもなんとなくどんな儀式かは祝詞でわかった。……………そう言えばエル父さんの雑学に一回出てきた様な気もするんだけど、あれなんだったっけ?)」
今回女の子は僕に視線で圧力をかけてくることなく静かに目を瞑って僕の返答を待っている。
これは純粋な僕の意思で答えてほしいってことなんだろう。
この儀式は僕が平穏な人生を望むなら受けない方がいいものだ。
契約してしまった時点でかなりアウトだけど、これはさらにアウト。ゲームオーバーといっても過言じゃないと思う。
「(それに多分僕とユグドラシルの間にはこの二年間で信頼関係が出来上がってた。
だから契約をする必要はなかった筈だ。
それをわざわざしたのはこの為なんだろうな)」
僕は辺境の村の子供で、騎士団長の息子や王子様なんかじゃない。受ける理由や利点はほとんどない社会的立場に僕はいる。
「(でもそんな立場云々でこれを断ったらあの二人は友達として僕を許してくれないだろうね)」
僕は確かに自分から何かをしようとは思わない。
面倒がないならそれに越したことはないっていうスタンス。
でも僕は目の前にある困難からは逃げたいわけじゃないんだよね。
僕がありのままに生き、そしてその結果起こり得る困難は僕がありのままに生きる為に乗り越えないといけないものだと思うから。
これはただの僕のこだわりで、僕だけのルール誰かに押し付けようとも思わない。僕が勝手に、守ってればいいだけのもの。
「(だからこれもちゃんと僕が乗り越えないといけないことなんだよね)」
ここで大切なのは世界情勢のこととか、これからの僕に降りかかるかもしれない問題じゃない。
問題なのはユグドラシル個人と永遠に魂をつなげていたいかどうかだ。
いつものように決めて、そこからなにが起こっても頑張ってまた乗り越えたらいい。
なら答えは決まってるよね。
僕は目の前のユグドラシルの顔を見ながら喋り出す
「ユグドラシルと僕の間には信頼があり契約があり魔力の繋がりがある。
僕はユグドラシルとのこの繋がりをマーリンとしての一生において失いたくないと思う」
僕が責任を持って言えるのは今はここら辺が限界
永遠は誓えないけど一生なら責任を持って誓える
だから今はこれで許してほしいね
ユグドラシルは少しだけ不満そうに目を開けて僕を見てくるものの、諦めた様に納得した様に言葉をつなげていく。
「ここに合意はなった。
わたしユグドラシルはマーリンの一生を共に歩む者。」
「僕マーリンはこの一生をユグドラシルと共に歩む者」
胸の紋章はその大きさを増し複雑なものになって
いく。そして一瞬強烈に輝くと見えなくなった。
それ以外には特に変化がないけど何かあるんだろう。、
それを確認してから女の子を見ると、女の子はいつもの表情に戻っていた。
「今回はこれで我慢する、けど諦めるつもりはない。いつでも期間の延長は受け入れる」
「その時はよろしくね。それよりもそろそろ今の状況をどうにかしないとまずいと思うんだよね僕。」
女の子はよく意味がわかっていない様で、頭を少し傾げている。
「いきなりこんな木ができたら驚くし、パニックにもなるよ。そしてその木の上いる僕たちはとっても重要な参考人ってことだね」
「それなら森の中にいろんな種族の人が入り込んでる。それら全てがこの木を中心に円を作る様にしてる。半身が言っていることはこの事?」
「そうそうその事。僕としては出来るだけその人たちと関わらずに家に帰りたいんだ」
「それならどうにか出来ると思うから気にしなくもいい。そんな事より半身にあげたいものがある。」
「そんな事って………これ結構重要な事なんだけどね。それより僕のことは半身呼びなんだね」
「半身は半身。わたしはそう呼びたい」
「……ん〜じゃあそれでいいよ」
女の子は少しだけ笑って枝の上を歩いていく。
そして枝の生え際までたどり着くと木に手を置いて一言二言喋る。すると黄金の花三輪が木から生まれ、あの時と同じ様に三つのタネを残して消えた。
女の子はそのタネを持ったまま木のてっぺんの一番若い枝を折り僕のところに戻ってきた。
「少しだけ持ってて」
そう言い僕にそれらを渡す。
そして女の子は側頭部から綺麗な銀色の宝石みたいな角を出した。王冠みたいになってる、馬鹿でかいけど。
「その角って自由に出し入れできるの?」
「できる。私たち精霊は自分のあり方を自由に選べるから」
「へぇ〜知らなかったよ」
女の子は立派な角から二箇所適当な大きさの角を折った。
「ちょっと待ってユグドラシル!!
その角って結構自慢の角なんじゃないの?」
「わたしの自慢の角」
「じゃあなんで折ってるの!?」
「これ以外に適当なものがなかったから。
あともうそんなに時間がないから手短に終わらせる」
そういうと女の子は僕の手から種二つを取り角と合わせるようにした。すると二つの角は一つになり剣の刃の形になった。二つの種はそれぞれ剣の切っ先と腹の部分に収まっている。
最後に木の枝(結構でかい)と残った種を取りその剣と合わせる様にすると、枝はその姿を変え柄の形になった。種は柄と剣の間に収まっている。
女の子は出来上がった剣を少しだけ眺めてから軽く剣に意匠を施して僕に渡してきた。
「それなりの剣にはなったと思う。
わたしからのお礼。受け取ってくれると嬉しい」
「いやそれなりどころじゃないと思うよこの剣。
それにあの種ってこんなに簡単に渡していいものなの?」
「構わない。予め魔力を溜め込む能力以外は全て封印しておいたから多分問題ない。流石に三つも生み出したから今この木にある葉は全て枯れて散る。
それと数千年は新しく種を作るのは難しくなるくらい」
「結構な期間だよね数千年って。
それにこんなに馬鹿でかい木の葉が大地に降り注いだらそれだけで大問題だよ」
「たったの数千年。それに葉の事は心配ない大地に到達する少し前には結晶化して風になるから。
それと半身はそろそろ葉に乗ったほうがいい。
そろそろ葉を維持するのが辛い」
「ユグドラシルの考えってその葉に僕を紛れ込ませる事?」
「そう。そうすればかなり安全にこの場所から降りれるし、半身のスキルがあれば気配でバレることもない。完璧。」
そういうと女の子は僕の手を引いて近くの葉僕を乗せ、僕に剣を握らせた。
「それじゃあ半身また会おう。
わたしたちには繋がりができた、だからまた必ず会うことになる。
その時を楽しみにしている。」
女の子がそういうと僕の乗っている葉は枝から離れた。周りの葉も上の方から順に散り始めてる。
「じゃあねユグドラシル!
会える機会は少なくなると思うけどまた会いにくるよ!
それとこの剣もありがとう!大切に使わせてもらうからね!」
僕はどうにかこうにか葉の上でバランスをとりながらユグドラシルに手を振った。
ユグドラシルの姿はどんどん小さくなっていった
今にもあの名作でおなじみの〔君を乗せて〕が流れてきそうな光景だ
僕があの名作の最後のシーンを思い出していると突然ユグドラシルの声が頭に響いた。
「言い忘れていたけどその剣の柄は魔力を流すことで成長させたりすることができる。
わたしの魔力が必要になれば好きに使ってくれて構わない」
「そういえば魂が繋がったことで会話も自由にできるんだったね」
「寂しくなったらいつでも話しかけてくれていい。とは言っても距離には限界があるけど。」
「そうさせてもらうよ」
なんでだろう全然お別れをした気分になれない僕ことマーリンなのでした。
葉っぱに乗っての空の旅は意外と長い。
風に乗ってユラユラヒラヒラと降りていくのでかなり長い。周りには同じように舞い散っている葉があってかなり幻想的ではあるんだけど、ずっと見ていることができるほどでもない。
僕は風魔術で周りの風を操りながら、ユグドラシルに教えてもらった剣の能力で遊んでる。
「お〜本当に成長させられるようになってる。
このまま持ち歩くのは出来ないからダンさんに鞘を作ってもらおうかと思ってたんだけどこれなら刃の部分を丸ごと木で覆って木剣に出来るね」
そんな風にしてなの飛行機事故の時とは違い、のほほんとした感じで空の旅を楽しんだ。
わかった事は成長はさせられるけど、元の剣の形を変える事はできない。
成長させた部分は切り離せる。
あとは異常に魔力伝達がいい事くらい。
そしてユグドラシルの言った通り葉は村の上空二十メートルほどで消えた。
これくらいなら魔術を使って安全に着地できる。
僕は風魔術を編み上げながらシェーラ母さん達にどんな言い訳をしようか必死に考えていた。
少しでもいいなと思っていただければ幸いです




