お酒はいかが?「(とっても強いけどね)」
本来一話だったものを半分にしたお話です。
ですのでちょっと不自然かもしれません
あれから数日が経ちようやく無事に収穫祭の日を迎えることができた。
僕の香木の調達のノルマも無事に達成することができたのだが、あの地獄の稽古の日からずっとあの女の子との奇妙な関係は続いている。
僕が森林に入って、前日に伐採した木の切り株に向かうと必ずそこで寝ているのだ。
違うところに向かえばいいと思うかもしれないけど、これはこだわりというかルーティンみたいなもので変えたくないんだよね。
それに女の子に会うのが嫌だからわざわざ違うところに行くというのが子供みたいで、かっこ悪く感じるのでしたくない。
女の子は僕に香木に位置まで導いてくれた後は少し距離を置いて僕を観察し、僕の作業が終わると近づいてきてまた観察を始める。
それが終わると森の奥へと歩いて消えていく。
未だに何がしたいのかがよくわからないけど、案内してくれる木の位置が少しずつ森の奥に近づいていっていることから僕を森の奥に連れて行きたいんだと思う。
やばそうな感じはしないから案内されるがままについていってしまっているけど、普通に考えたら僕が死んじゃう感じのフラグに思えて仕方ない。
そして困ったことがまだある。
あの地獄の一日の後パームさんとシーカさんが壊れた。
死んだとか体に異変が起きたとかではなく、ただ単純にテンションが壊れた。
二人とものんびりした感じの強者の老人といった人だったのに、今は現役バリバリの荒くれ冒険者みたいになっている。
今まではマエルを育てるということで好々爺を演じていたんだろう、久しぶりの旧友たちとの交流で十二年程被っていた好々爺の仮面が完全に剥がれてしまっていた。
そのため朝の稽古は実力者揃い踏みでのガチバトルがここ最近のお決まりになっている。
先日ついにシェーラ母さんも参加させられて、その棒術の実力を遺憾なく発揮していた。
その時のシェーラ母さんの雰囲気はいつものふんわりとした聖母の様なものではなく、気高く何人たりとも近寄らせない薔薇の様なものだった。
「(きっと王都ではずっとあんな雰囲気だったんだろうな)」
ちなみにルーリィは流石に参加させてない。
夜の防衛強化日も四日おきに発動された。
それにはシェーラ母さんは参加させられることはなく、代わりに若手の冒険者が参加させられた。
建前は若手の指導という至極真っ当なものではある。
真の理由としては、ずっと実力者とばかりじゃ疲れが明日に残ってしまう、よし!程よく強くない奴らも混ぜて休憩の代わりにしようぜ!!
というものである。
発案者は僕だ。
アスト達がボロボロになっている僕をよく笑うので同じ目に合わせてやろうと、パームさんとシーカさんにあれこれ理由をつけて提案した。
即採用されて、かなり楽になったのは良かったんだけど、後日発案者が僕だとバレてしまいアストを筆頭に若手冒険者達に追いかけ回された。
アスト達に捕まることはなかったけど、サリさんにお説教をされた。
僕とアスト達のあれこれを見ていた村の人たちは僕の【逃げのマーリン】という異名というかあだ名をまた使い出し、それを聞いた冒険者達も僕のことをそう呼ぶ様になり、一週間ほどそれは続いた。
それはいい!!!
その呼び方は気に入ってはいないけど、そこまで拒否する様な呼び方でもないし、僕はそこまで気にしていないからね。
実際僕の戦闘スタイルや性格は逃げる方向に強いから否定もできないし!!
でも受け入れることができないものもあるんだよ
「マーリンちゃーんちょっといいかーい」
僕は男だ!見た目が女の子よりなのは認めるけど僕は男だ!!
いつもならすぐさま訂正させるところだけど
「はーい!御注文ですか〜〜?」
だけど今はにこやかに対応しなければいけない。
誠に遺憾ではあるものの僕は今女の子として接客をしなければいけない状況になってしまっている
事の始まりは今日の朝食を食べた後だった
今日は収穫祭という事で村の大人達は朝っぱらから酒を飲んで騒いでいた。
そしてこの村の収穫祭はここら辺では一番大きなイベントということもあり、他の村からや行商人なども多く集まる。
ちなみに僕が集めた香木はこの人たちに買ってもらい村の収入とする為に集めたものだ。
一部は収穫祭当日に村のあちこちで使われる為、今の村にはいい香りが漂っていた。
販売価格は市場で出回っている物よりもは安いが仕入れ値としてはあまり儲からない値に設定されている。
そのため商人以外の人の中には香りを漂わせておくだけでかなり売れるらしい。
しかし村として売りたいのは商人達である。
商人達にある程度まとめて買ってもらうためにかなりの数を用意しているとのことだが、勿論普通の状態の商人は買ってくれない。
商人達を正常な状態ではなくす方法としては酒で酔わせること、異性がわっしょいすることが効果的なのは言うまでもないやね。男性限定の方法だけど。
その為に村の男どもは朝っぱらから酒を飲み、村全体を酒を飲む雰囲気にしていく。
酒は村で作られた酒の売れ残りや、他から買ってきた度数の高い安酒などを用意してだ。
酒の価格設定は割安にしている。なんで酔っ払って欲しいからね。
勿論その酒を配っていくのは若い女性や美女達である。
男はこれで大体すぐに酒を買う様になるらしい。これは今までの経験で証明されているとのこと。
勿論女性への過度なスキンシップは無しであり、破った場合は周りの男どもからボコボコにされて、商人なら香木を大量買させられる。
何人かこの手口に引っかかったことがあるらしい。
その為お酒を配る女性というのはとても大事であり、村の綺麗どころには大体やってくれないかという要請がいく。勿論その分収穫祭後の売り上げ配分は増える。
当然のごとくシェーラ母さんにも要請が今までも入っていたものの、子育てを理由にエル父さんが断っていたらしい。
まぁそれでもサーマさんはじめとする女性陣や、サーレやマエルなどの美少女達がいたため問題はなかったらしいが、今年はマエルがおらず、女性陣の中にも数人妊娠している人がいて人手が足りないらしい。
そんなわけで朝から村長が家に来てシェーラ母さんもやってもらえないかとエル父さんに頼んでいる。
シェーラ母さん自体はやるならばやるというスタンスらしいが、シェーラ母さん大好きなエル父さんは承知しない。
「どうしてもダメかの〜エルヴィンスよ?」
「ええルーリィはまだ小さいですからシェーラが一緒にいなければいけません」
「そうは言ってもの?後一人は最低でも欲しいんじゃよ。他の村の者達にも声をかけたんじゃが、動ける者や働き始めれる年齢になっておるものが他におらん。
ルーリィに頼んでも良いのじゃが」
「「それはダメ」」
「おぬしとマーリンが許さんじゃろ〜〜?
となるとシェヘラザードに頼む他なくないかの?」
「そうは言いましても」
エル父さんはシェーラ母さんやルーリィ、僕を見てどうにかできないかを必死に考えている
まぁシェーラ母さんやルーリィは美人だからね、
ウェイターの様なことをすれば必然的とそういう目で見られると思う。
シェーラ母さんは仕方がないとばかりにエル父さんを説得しようとする。
エル父さんはシェーラ母さんを見て何かを閃いた様で、また僕の方を見ると僕の肩を両手で掴み信じられないことを言った。
「マーリンにやってもらいましょう」
「「「「ッッえ!?」」」」
エル父さん以外の四人、僕 シェーラ母さん ルーリィ 村長の声が重なった。
僕は男だと全員がエル父さんに言おうとしたが、その前にエル父さんは口を開いた。
「言いたいことはわかるがまずは私の言い分を聞いてくれないか。
マーリンが男であることは勿論承知しているが、この村の者と冒険者以外はそれを知らない。
知らない状態でマーリンを見ればほぼ間違いなくマーリンを女だと思うことだろう。」
「まっまぁそうじゃろうの」
「そしてマーリンは体術、魔法術共に凄腕です。
お客とのトラブルや不測の事態にも迅速に対応ができ安全面がかなり上昇します」
「た 確かにそうじゃの。」
「以上のことから、シェーラやルーリィにやってもらうよりもマーリンにやってもらう方が色々と都合が良いと主張します」
「う〜む、おぬしのいう通りではあるがなエルヴィンスよ。
じゃがこればっかりはマーリンも受け入れられないところがあるじゃろ。
最終判断はマーリンに任せるぞ」
エル父さんはその言葉を聞くと、僕の肩を掴む力を強めながら目を見て聞いてくる。
「マーリン。私の言いたいことは全て理解しているな」
「……理解はできているよエル父さん」
「流石だマーリン。私を説得できると思うなら説得してみるといい」
「できる気がしないよ」
「悪いなマーリン」
「埋め合わせは期待してるよエル父さん」
こういう事情により僕はその後すぐシェーラ母さんとルーリィにメイクと衣装を装備させられ、サーマさんとサーレの所で一通りの接客のやり方を叩き込まれた。
シェーラ母さんとルーリィはとても楽しそうに色々意見を言い合いながら僕をいじくっていた。
そのおかげで今の僕はもうどこからどう見ても女の子だ。
僕が鏡で見ても女の子にしか見えない。
サーマさんとサーレにはとても驚かれた。その後に爆笑されて慰められた。
その時にシェーラ母さんとルーリィが誇らしそうな顔をしていたのが少しだけ気にくわない。
そして昼頃には表に出て接客をしている。
初対面の相手はまだいい。騙しているようで悪い気がするものの笑われたりはしないからね。
人によっては顔を赤らめたりするのでそれはやめてほしいと思う。僕はそっちの趣味趣向は持ち合わせてないんだ。
問題は村の住人と冒険者達。
この人たちには僕が男だとバラさないように事前に連絡が回っている。
そのおかげで驚かれることはないが、全員がわざわざ僕を見に来るんだ。
そして必至に笑いを押し殺して
「マーリンちゃーん頑張ってー」
「マーリンちゃん可愛いよー」
などなど日頃では言えないことをここぞとばかりに言ってくるんだ。
冒険者達はもっとひどく、大声で笑いながら色々と言ってくる。
アストやヒムは腹を抱えて転げまわり、ホットは顔を真っ赤にしながら綺麗だと言ってくる。
やめてほしい僕はノーマルです。
サリさんは羨ましいですと言ってくるが、なんなら変わって欲しい。
アンジュさんは普通に話しかけてきてくれるけど笑み隠しきれていない。
僕は恥ずかしさに震えながらもどうにか接客を続けていく、これも家族のためだと思いながら。
不本意なことではあるけど僕はかなり人気が出ている。
順位で言うなら二位だ。
一位はサーレである。
女の子のふりをして男に酒を勧めていくという行為が恥ずかしく、かつ家族のためだと頑張っている姿は、馬鹿な男どもには健気な頑張り屋と解釈される。
見た目はシェーラ母さんが小さくなったようなものなので優しそうで少し儚げな感じの女の子。
雰囲気はどこか捉えどころのない謎めいた女の子
まぁ人気は出るでしょうね。
そんなわけで僕はあっちこっちから呼ばれるほどの人気を獲得している。
僕が運んでいる酒はアルコール度数が非常に高い安酒ばかりなので、僕から酒をもらった人はもうべろんべろんになっているけどね。
もちろんその人達は香木などを買わされる羽目になっているが、僕は悪くない。
あと気づいた事がある。
それは割高な買い物をさせられるとわかっていてこの祭りに参加している商人がいるという事だ。
まぁ理由は分からなくもないけどね。
なんだって若くてかわいい女の子が踊ったり酒をくれたりするんだ。
それを見たいがために来る人は当然いるだろう。ある程度の会話なら問題にならないしね。
それと《同調》を人を対象にして使うと、ある程度その人に合われる事が出来るようになる事も今日初めてわかった。
今まで人を対象にしようと思わなかったから知らなかったけど、普通に考えたらそーいう使い方が一般的なんだろうなとも思う。
僕の使い方はどう考えても普通じゃないしね。
《同調》を使って接客をすると上手いこと話しをしながら仕事が出来る、これが素人がいきなり売上二位になれた理由です。
てな訳で現在僕は今複数人の商人の人から口説かれている。
「私の店で働いてみないかい?絶対に人気になると思うんだよ」
「良いや是非私の息子の嫁に来てくれないかい。
勿論生活に困らせたりはしないよ」
などなど元々汚い中年顔をアルコールで真っ赤にしながら僕にこんなことを言って来る。
そしてこれ以上のことはしてこないからこちらもうまく流していくしかない。
サーレは慣れたもので上手いこと流せているが、
僕はまだ慣れていないことと、単純に気持ち悪くて言葉がうまく出てこないことで苦戦している。
「わたしはまだ子供ですからこの村から離れるつもりはありませんよ。
それより杯が空いているようですから、おかわりはいりませんか?」
「う〜んそうだねぇー。興味が出たら声をかけてきてね。あとおかわりも貰うよ〜」
「成人したら考えてみておくれ、楽しみにしてるからね〜」
「はいおかわりですよ。それではあちらでも呼ばれていますので」
僕は手を振り、愛想を振りまいてその場から不自然にならないくらいの歩幅で立ち去る。
これは黒歴史だよ。
やっと収穫祭が始まりました。




