特訓
今回もちょっとだけ長いです。すみません。
一話五千くらいで収めたいんですが、
「(誰か僕を助けてくれないかな)」
僕は今Cランク冒険者(実力的にはBランク)と互いに実戦用の武器を持って向かい合っている。
冒険者のランクはF E D C BAA+S SS SSSとなっていて、Cランクと言えばかなり低いように感じるかもしれないがそんなことはない。
A+を三角形として考える。その三倍がA
その三倍が B その三倍がC その五倍がD
その六倍が E その七倍がFとなっている。
見てわかるように Cから上の数がかなり少なくなっている。
A+〜SSSまでは全冒険者、全人種を合わせて五百人ほどしかいない。
まぁそんなわけで十分に Cランクは実力者だということがわかってもらえたと思うけど、今目の前にいる人
アンジュさんは実力は Bランクだ。もうベテラン冒険者と同じかそれ以上に強い。
「アンジュさん僕の負けです。降参させてください」
「マーリンそれはダメだ、しっかりと勝負をつける」
周りで僕たちを見ている数人の実力者達も僕の降参は認めないという事で意見が一致しているらしい。
今は早朝でアンジュさんで三回戦目、僕は自然とため息が出てしまう
事の始まりはあの女の子にあった日の夕食後に家で行われた村の警備の打ち合わせだった。
打ち合わせといっても毎日行っている事であり、本題の仕事の部分はすぐに終わり雑談に移行していくのがいつもの流れになっている。
そこでアストがいらない一言を言った。
全てはこの一言が原因だ
「そーいえばこの中で強さ順にランキングを付けたらどーなるんですかね?」
これにベテラン冒険者とアンジュさん パームさんシーカさんが反応した。シェーラ母さんは静かにルーリィを連れて部屋から退出しており、あまりにも自然な動きで声もかけることができなかった。
エル父さんは既にベテラン組に捕まっている。
エル父さんの顔は全てを受け入れる覚悟が決まっている顔だった。
僕はスキルを使い気配を無くしてから自然な動きで部屋から抜け出そうとする。
ここでまたアストのアホがいらないことを口にしてしまった。
「今日の夕方マーリンがデッカい木を担いでるの見て気になりだしたんですよ!」
あと少しで気づかれずにこの部屋から出られるという所で僕の両肩に二つの重さが加わった。
パームさんとシーカさんだ。流石に反応が早い。
「そういえばよぉ〜まだマーリンの戦闘を直接見たぁことなかったなぁ〜ばあさん」
「そうだね、確かに気になるところだねじいさん」
エル父さんを見るとその目は諦めろと僕に言っている。
エル父さんを捕まえているベテラン組の視線も完全に僕をマークしていて、見逃してくれない事が十分に伝わってくる。
そしてそのまま話は進んでいき、明日の朝にみんなで稽古をすることになった。
主旨は気になる相手と戦おう!
ルールは魔法術とスキルの使用は不可
身体強化は有り
指名されたら断れない
という具合になった。
それが決まるとすぐに雑談会はお開きになり、明日の稽古に参加する気のある人は朝の予定を調整しに村を走りまわっている。
「エル父さん」
「どうしたマーリン」
「僕一人にも勝てる気がしないし、お腹もついさっきから痛くなってきたから明日の朝の稽古は休むね」
「それはいいがマーリン。
それをすると後日さらに人数が増えた状態で全員と総当たりをさせられることになるが大丈夫か?」
「……エル父さんありがとう。
その言葉を聞けて僕の体調は治ってきた気がするよ。
もちろん明日の朝の稽古には参加するね。」
「それがいい。………あれは地獄だからな」
「体験談?」
「昔の話だ。私も少し若かったからな。」
「今何歳」
「五十一歳だ。
ん?どうしたマーリン顔の表情がすごいことになっているぞ。」
「あっえあえ!?!?
エル父さんその見た目で五十一歳!?!?」
「何をそんなに驚いているんだ?
パームさんやシーカさんが百八十過ぎなのだからそこまで驚くこともないだろう。
そういえば人の平均寿命をマーリンに教えたことはなかったか?」
「聞いたことないよエル父さん!!
僕はてっきりエル父さんは二十半ば過ぎくらいと思ってたんだよ!!!」
「まぁその事をまたの機会に詳しく話そう。
それよりも明日に備えてしっかりと寝ないと後悔することになると思うぞ」
そして現在に至るわけだ。
最初の男性ベテラン冒険者との試合で僕は適当に負けて終わろうと考えていた。実際あっけなく負けた。
しかし周りがそれを認めてくれなかったんだよね。
抗議してみたんだけど、パームさんとシーカさんは話を聞いてくれなかった。
僕が全力でやるまで終わらせないと言われ仕方なくちゃんと試合をすると、何とか勝てた。
身体差が半端じゃ無いけど一回目は技量で押し切りやすいからまだ勝てる。
ほぼ純粋な武術の競い合いだから苦労するんだよね、魔法術が使えたらかなり楽なんだけど。
この六年間自慢ではないが自分より大きい相手としかやったことがない僕の経験がここになって輝き始めたってわけだね。
てな感じで第2回戦がすぐに始まった。
周りを見るともう何組も勝手に始めている。
二人目の相手は徒手空拳つまり素手で戦う相手で、僕が今までに戦った事のない相手でかなり苦戦した。
忘れてはいけないのがこの人たち全員ベテランでBかCの人たちで何人かはAだ。
まぁこちらも普通に勝つことができた。
みんな強くはあるけどエル父さんに比べると大分楽な相手ではあるんだよね。
流石にここくらいで休憩をしようとすると、アンジュさんから指名された。
アンジュさんの前には数人のベテランが倒れておりさっきまで戦っていたことがよくわかる
「アンジュさんも連戦の後だし、少しだけ休んでから戦わない?」
「いいや大丈夫だ、体は温まっているから今の方がいい」
「流石だね、でも僕は少し疲れたから休憩させてほしいな」
「マーリンのことは色々な人から話を聞いている」
それはこういうことですか?
「お前がエルヴィンスさんと毎日稽古していることや嵐狼と戦った話は知っている。
これくらいでへたらないことはもうすでにバレているからさっさと戦え」
誰だ僕の個人情報をペラペラ喋った人は!
「そうだね、あと一戦くらいならいけるかな」
「よかった、なら早速始めよう」
あと最初に行ったかも知れないけどここにいる人たちは今全員実戦用の武器を使っている。
曰く
「全員結構やる方だし、命落とさないように調整するくらいできるよね」
という認識のもとこうなっている。
僕の手には最近使い出した鉄製の普通の直剣
アンジュさんの手にはかなり使い込まれている鋼のショーテルが握られている。
刀身が日本刀以上に反り返った両刃の剣で、元の世界ではエチオピアでつかわれてたとかなんとか。
勿論それは向こうでの話でこっちの世界ではそんな話はない。名前については何でか同じだけどね。
僕は剣を正眼に構えるようにして腕を少しだけ伸ばし
防御の姿勢を作る。
アンジュさんはそれに反応してショーテルを自身の斜め下に構える。突撃姿勢かな。
そして少しだけ足を僕の方にずらす。
僕はそれに反応するようにして後ろに左足をずらしていく。
アンジュさんは僕が後退するとほぼ同時に突撃してきた。
「(一応僕の考えていた戦いの流れ通りに始められそうだ)」
想定した通りの流れで始まった事を確認した僕は、すぐにアンジュさんの突撃に対応し始める。
まず僕は後ろに下げた左足が地面につくと同時に踏ん張りがつくように地面を踏み込み、体は前傾姿勢に。
腕を少しだけ折りたたんで、そのまま左足を支点にして前方に突撃をする。
そのままの動きの流れに沿うように腕を突き出し、アンジュさんの喉元「突きを入れに行く。かなりスムーズな流れで突撃、突きをすることができたと思う。
アンジュさんは防御している僕を切り崩すつもりだったようで少し動揺したものの、すぐに頭を切り替えて対応してくる。
僕の剣が届かない位置になる様に踏み込んだ足の着地点を修正し、自分の剣だけが届く間合いで切りつけてきた。
僕は前に進みながら腕をたたみショーテルを受け流す構えにする。この時角度や受ける位置を間違えると、ショーテル特有の反り返りにやられる。
「ギッキィィィイン」
うまく流すことはできたものの、アンジュさんは剣を振り切る時に肩を前に出し体当たりを仕掛けてきている。
身体の大きさの違いで僕が当たり負けることは容易に想像がつく。
できれば剣で対応したいけど、ちょっと間に合わないね。
後ろか横に飛んだらショーテルの一撃が来る。
そこで体を思いっきり屈めながら地面を這うようにアンジュさんの足と自分の肩がぶつかるようにタックルをした。
少し痛いが我慢してそのまますくい上げるようにして前に進んで行く。
するとアンジュんさん自分の体当たりの勢いで宙に浮き上がる。
そこを振り向きざまに剣を振るい、僕の勝ちで終わる様に思えた。
ところが起き上がるのと同時進行で後ろに剣を振っている僕の目に入ってきたのは、空中で逆さになりながらもうまくバランスを取りショーテルを振るおうとしているアンジュさんの姿だった。
僕の体の位置や体勢 剣とショーテルがぶつかる位置を考えると受け流しはできない。受け流そうとしたら僕の顔が飛ぶ。
避けるにしても体体勢が悪すぎて中断すらできない。
力勝負をするしかない状態になっている。
今の僕はフル強化が使えない。スキルを使ってはいけないからね。
というわけで本来の自分の魔力のみで身体強化をかけている。それでもかなり上がっているんだけど、アンジュさんの方もそれは同じだ。
体がでかい分僕よりも威力が出る。
通常の地面に足をついての戦いなら僕が確実に押し負ける。
まぁ今回は運が良く、押し負けはしないだろう。
だってあちらは空中だからね。
「ガッギィィン!!」
かなりの衝撃だけどどうにか耐えれた。
とは言っても身体からかなり離れた位置で衝突させたりとか色々工夫をしたんだけどね。
それでもショーテルの切っ先が僕の顔のすぐ近くを通過していったからかなり危ない。
アンジュさんは上手いこと身体を回転させて着地している。
追撃を入れたいところだけど、僕の方も体勢を整えないとやばいので追撃することはできない。
「マーリンはやはり強いな。二回ほど勝ったと思ったけど、逆に私の方が負けそうになった。」
「アンジュさんの方こそさっきのは確実に勝ったと思ったのに僕がやられるところでしたよ。」
「流石あの四人が森での個人行動を認めるほどの実力者だ」
「僕の戦い方は逃げ専門だからですよ。」
「確かに捉えどころのない戦い方だと思うが、それでも逃げ専門は言い過ぎだ。そこまでいくと嘘になってしまう」
アンジュさんの雰囲気が変わった。
さっきまでは調節してくれてた様だけど、目線で「(もう手加減はしない)」と伝えてくる。
「(これは楽に終わろうとしたら大怪我をするね)」
僕は楽な落とし所を探すのを諦めて、アンジュさんに勝つことに集中していく。
スキル使用なしに試合をした経験は今日を除けば一番最初のエル父さんとの打ち合いだけだ。
あの時より相手との身体能力差は少ないものの僕の方が劣っていることには変わりがない。
その分を技量で補いつつ、六年間意識的に鍛えてきた読み合いで上回るしかない。
対人での読みとフェイントはエル父さんに言われた通り慣れてきた。練習の成果だと思う。
それに元から動きの不自然さを見抜くことがあの空間での時間のおかげで得意なので、今ではエル父さんよりも読み合いという部分では上にいる。はず。多分。
アンジュさんも戦闘での読み合いはかなり得意そうだけど、勝率はあると信じたい。あるよね?
「ガンッ!!ギィィィッッン!!ギィン!カァン!」
そこからアンジュさんと打ち合いを続け、お互いに煮詰まってきている。
展開もかなり速くなってきて思考する時間もほとんどない。
「フォン!!」
アンジュさんの縦の一閃が僕の目と鼻の先をかすめてる。
そこに僕が突きを入れていくと、アンジュさんは後ろに下がる様にして避けようとする。
「(っ!!多分これで決まる)」
理由や根拠となるものは言葉として頭にはないが直感的にそう確信した僕は、そのままアンジュさんを追う様にして突きを押し込んでいく。
アンジュさんは僕が追ってきたことを確認すると一気に後ろに飛んで距離をとった。
そして振り下ろしていたショーテルの弧の内側の方を上向きにして振り上げ、
ショーテルの切っ先が僕の剣左側面の根元に、ショーテルの根元部分が剣の右切っ先に来る様に交差させてくる。
そしてアンジュさんは手首を捻り、僕から剣を奪い取った。
アンジュさんの目には勝利の確信が宿っている。
僕は急いでアンジュさんの間合いから出るために距離を置こうと"する様に"した。
アンジュさんは僕を逃がさないとばかりに今まで見た中で最速の袈裟斬り僕の左斜め上から振り込んでくる。
それを右に避ける様に動きながら気づかれない様、僅かに左足をアンジュさんの体の下ら辺に移動させておく。
もうすぐそこまでショーテルが迫っているというところで僕は右足を蹴り込み、左足を支点にして回転しアンジュさんの懐に背を向ける様にして入り込む。
入り込む時にショーテルを持っているアンジュさんの右腕を掴んでおき、振り下ろす勢い加速させる様にして力を込め、アンジュさんの姿勢を倒れ組む様にさせる。
あとは僕の腰でアンジュさんの太ももら辺を外に押し込む様にして投げる。
「ダァァッッン!!!」
アンジュさんはまだ何がおきたかがよく理解できていない様子だけどしっかりと受け身をとれている。
「(流石ほぼBランク冒険者ってところだね)」
僕は投げ技が成功したことを確かめると深く息を吐き出して地面に座り込んだ。
「ふぅぅ〜〜〜う」
「(やっぱりスキルなしでの身体強化でアンジュさんほどの人と戦うのはしんどいな)」
アンジュさんも落ち着いた様子で、目を瞑ったまま息を整えるために深呼吸している。
その時にアンジュさんの胸が上下に大きく動くのが目に入ってしまい、投げる時に肩ら辺に押し付けられた感覚を思い出してしまって視線をそこから外した。
その時にアストのニヤニヤ顔が目に入り、アストと同じことを考えていたのかという自己嫌悪してしまいそうになった。
「私の負けだマーリン」
僕が視線を空に向けているとアンジュさんは僕と同じ様に地面に座りながら話しかけてきた。
「僕の勝ちだねアンジュさん」
僕はアンジュさんの顔を見て応じる。
「剣を奪えた時には勝てたと思ったんだがな、まさか全部誘導されてたとは気づかなかった」
「お互いにヒートアップしてたからね、冷静なら気づかれてたよ」
「それならマーリンは私が下がった時に追撃はしてこなかった。完敗だ」
「この後も稽古を続けるの?」
「いいや少し休む、かなり体力を使ったからな」
「じゃあ一緒にシェーラ母さんのところに行こうよ、
あそこの端っこの方でルーリィと棒術の練習してるからさ」
「それはいいがマーリンは当分行けないと思う」
「なんで?僕もかなり疲れてるよ」
「周りの方々がマーリンとやりたくてウズウズしてるからな、逃してはくれない」
周りを見てみるとほぼ全員が僕のことを見ていた。
さっきの戦いで注目を集めてしまったんだろう。
しかも全員が泥まみれになっている。
エル父さんを見るとやりきった顔でシェーラ母さんのところに向かっている最中だ。その姿はまさに死闘の後と言ったかんじだった。
「エルヴィンスさんはかなり飛ばしていたからな、もう全員と試合をしたんだと思う。
私も休んでから挑むつもりだけど、すぐにとはいかないから。」
「ちょっと待ってよみんな!!僕今すごく疲れてるから後でやろうよ!!」
「安心しろよぉ〜マーリン。おれぇら全員疲れてるからぁよ、条件はぁ同じだぜぇ。なぁばあさん」
「じいさんの言う通りさ坊、あたしら全員坊と同じだからねなんの問題もないさ。」
エル父さんを見る「(助けてエル父さん!!)」
思いが伝わったのかエル父さんは僕の方を見てくれた。
だがエル父さんは僕を助けてくれることはないとすぐにわかった。
エル父さんはあまり見せない穏やかな笑みを浮かべて
「(これも経験だ、しっかりと鍛えてもらうといい)」と目で伝えてくる。
アンジュさんを見る。
アンジュさんはもう立ち上がっていて僕の剣も拾ってくれている。
アンジュさんは僕の手を掴んで立ち上がらせると僕の手に剣を握らせながら
「エルヴィンスさんに挑んだ後にまた指名するつもりだ、その時はまた頼む。
あと出来るだけ無事でいてくれ」
そう言い残してアンジュさんはシェーラ母さんのところに向かっていった。
残された僕は自分の剣の具合を確認してから空を見て深呼吸をする。
「(今日の空は薄い雲がいくつかある晴れだ。こういう天気も空の青が雲の白で良く映えて見えるから好きなんだ。雲の表情もわかりやすいしね)」
そして目線を戻して周りを見る。
僕の周りを取り囲むようは大人達が立っていた。
逃がさないということだろうな、わかりやすい。
「(ルート兄さん、僕は今とってもルート兄さんに会いたいよ。ルート兄さんがいれば半分は任せることができるからね)」
そんなことを考えながら僕は剣を構えて、自分自身を誤魔化す様に笑う。
「(神くん、よっちゃん)僕の人生に七難八苦を与えてくれてありがとう」
「がっはっはっはマーリンいい覚悟ぉだなぁ〜!!」
「坊へばるんじゃないよ」
そこからは嵐の様に過ぎていった。
何人もの実力者と戦って戦って戦い続けた。
勝っても負けても戦いは続いて、全てが終わったのは太陽が僕の真上にまで昇った時だった。
僕も周りのみんなもボロボロで泥まみれである。
僕以外のみんなはやりきったという顔でいるが、僕の顔は多分死んでいるだろう。
僕が大切に使っていた鉄の剣はもう使い物にならないくらいにボコボコになってしまった。
この剣もダンさんのところに持っていって、鉈と同じ様にしてもらおう。
向こうからルーリィが水筒を持って小走りで近づいてくるのが見える。
その姿が天使に見えてしまうほどにルーリィの姿は尊いものに感じられた。
「(やっぱり僕の妹は可愛いね)」
少しでもいいなと思っていただければ幸いです




