存在の証明
気持ちよく書いていたらまたもや長くなっちゃいました。
あれから数ヶ月経ちもうすぐそこに秋が来ている。
ルート兄さんとマエルが王都に出発した日から一週間後に僕は約束通りシェーラ母さんに『踊り狂う土の人形』と『告命天使』『告死天使』を見せた。
結果は順番に中級の上、極、極だった。
(評価の仕方
入門 属性を発現させる
初級 下中上
中級 下中上
上級 下中上
特級 下上
極
となり、下に行くほど難しく効果が高くなっていく。
魔法術のランクは賢者以上の者が判断する。(判断する者により多少の違いはある)
シェーラ母さんに『告命天使』『告死天使』は絶対人目がつくところでは使わないように言われた。
「この二つの魔術はやり過ぎです。
貴方の戦った嵐狼は間違いなくSに到達していた魔物でした。そこまでいっている魔物ならかなり高いデバフ耐性を持っているものです。
マーリンの話だと嵐狼はデバフがかかったと同時に治しているようだったとのことですから、その時点で『告死天使』のデバフ性能はかなり強力という事になりますね。そして本来の使い方が広範囲拡散型であるというのですから間違いなく戦場の優勢を左右するほどの魔術です。
『告命天使』についても同様ですね。
戦った直後の貴方の体を見ましたが、貴方からの話を聞く限り『告命天使』が消えてからの傷ということでした。
『告命天使』が消える以前の傷は右足くらいにしか残っておらず、それも数瞬だけ『告命天使』に治癒させたものだとか。
そしてこれも広範囲拡散型です。
極め付けに味方へのバフ付与 デバフ解除まで付いているのですから言うことはありません。
『告死天使』『告命天使』は間違いなく極に到達しています。
これが特級という人がいたなら、その人の頭は相当残念な人だという事なので気にする必要はありません。
それに貴方は気配を完全に消すスキル応用技と、姿と匂い、音を消す魔術を複数習得しています。
一対一ならまだしも戦場のような場所で貴方を捉える事はできないでしょう。
そしてマーリンの魔力確保の方法があれば魔力はほぼ無限ですから、状況次第ではマーリン一人で戦場を支配できると思います。
そんな事が国などに伝われば必ず貴方を手に入れようとするでしょう。手に入らない場合は殺すことも躊躇しないと思います。」
「…そこまで?」
「マーリンならもうすでに理解しているでしょう。
どんな戦いでも確実に役に立ち、戦いを優位に進められる。それがもしも敵国に渡ったとすればどうなるか、国がそんな危険を犯すかどうかくらい」
「……そうだね、うんよくわかるよ。この二つを編み出した時にやり過ぎかなって思ったけど、『迷わせ誘う幻想蝶の群れ』みたいな分裂術式は入ってないから特級の下か上くらいだと思ってたんだ」
「これに分裂術式が入っていたら国はマーリンを殺しますよ。リターンも大きいですがリスクが大き過ぎますからね」
「でも極にまでいってるとは思わなかったよ、確か大賢者で三つから五つ持ってるかどうかって話じゃなかった?」
「その通りですよ。賢者で少数の者が持ち、大賢者が三つから五つ持っていると言う認識で合っています。
まぁ極といっても直接的な攻撃系魔法術が殆どで対応の仕方もかなりあるんですけどね。
マーリンのような支援系で極まで高めるのはかなり難易度が高いですし、才能が物を言いますから。
支援系で極を持っている人はかなり少ないんですよ。
それもほとんどが回復系で、体の欠陥すら治すとかがほとんどですね。」
「でも攻撃系の方が強そうだけどね」
「確かに広範囲で高威力 、まともに食らえば場が一変するでしょう。ですがわたしとしてはそこまですごいとは思いません。
魔法術としては単純なものですからね。言ってしまえば入門魔術を高威力広範囲にしただけで工夫すれば対応可能、状況によっては腐るものですからね」
言っていることは本当なんだろうけど僕じゃない誰かに言い聞かせている雰囲気がある。
「何か嫌な思い出でもあるの?少し言葉に棘があるように感じるんだけど」
「王都で少しそういうような馬鹿な人達がいたので全員幻覚で沈めてあげた事ならありますよ。」
そのシェーラ母さんの顔には静かで深い怒りがあった
これは触れない方がいい話題だ。
まぁそんな感じで話が進み、『告命天使』と『告死天使』を使用するなら範囲をわざと狭くして、効果も少し低くしておく事で話がまとまった。
『告死天使』『告命天使』は少しだけ魔術式を改良して特級の上あたりにまで落とした。
効果範囲を複数にまで絞り、効果も弱くし、必要な時に元の効果に近い能力を出せるようにした。これだけで魔術式を半分にすることができたね。
拡散術式と拡散した分効果が弱くならないように馬鹿みたいな量の効果上昇術式を無くせたのが非常に大きい。弱くし過ぎたかなとも思ったけどシェーラ母さん曰く十分強力だということだった。
名前も区別がつきやすいように変え『アズライール』と『スルーシー』にし、姿も蝶から烏に変えた。
『迷わせ誘う幻想蝶の群れ』もその時に少しだけ改良して、空気中の魔力も吸えるように改良。
これで分裂速度も上昇し、一々魔力を放出する必要もなくなった。ついでに空気中の魔力の量もコントロールできるようになった。
これを見たシェーラ母さんは『迷わせ誘う幻想蝶の群れ』のランクを極にした。
理由は分裂速度が速過ぎて数秒で空間を埋め尽くす事ができてしまうこと、自分で魔力を与えていく必要がないこと、魔力を使った感知系魔法術を阻害出来ることだった。
ついでに詳しく説明したところ
「好みまで組み込んでいたと知っていれば前の状態で特級の上にしていましたよ。」
とのことだった。次からは詳しく説明してくださいと言われ、『迷わせ誘う幻想蝶の群れ』も改良前の状態で使うようにと言われた。
『告死天使』と『告命天使』、改良された『迷わせ誘う幻想蝶の群れ』の事は僕とシェーラ母さんだけの秘密になっている。
僕の魔法術の話はこれくらいにして、今の村はかなり慌ただしい。
収穫祭が迫っていることでこの時期はいつも慌ただしいんだけど今年はさらに慌ただしいんだ。
理由としては"あいつ"のせいだ。
あいつ(嵐狼)が【深緑の大森林】にいる闇熊とかの中ボスクラスをボコボコにして回ったせいで、今の大森林にはボスクラスが【深緑の大精霊】とSランククラスの数体しかいないということ(エル父さん調べ)で外からどんどん魔物が入ってきている。
そうなれば自然と大森林には魔物が溢れて近隣の村へ魔物が溢れていく。
この村にも魔物の被害が出てきていた。
その回数が多すぎるせいでエル父さん達の対応が間に合わないほどだ。
それに対応するために大森林近くの村は冒険者組合(ギルドとも言われている)に村の防衛と大森林の魔物の討伐を依頼した。
そしてこの村も依頼していて、冒険者達が複数名この村に来ている。若手が数人、ベテラン数人(エル父さん達の知り合い)など様々な冒険者がきているので村の被害はかなり少ない。
木こりの仕事だが冒険者の護衛付きで一段階までは行けるようになっているので収穫祭に必要なものも揃いそうだ。
僕については一人でも森の好きなところに入っていいことになっている
ドスッ
というわけで今僕は二段階で木を切ることにしてるんだけど、持っていく物が増えた。真剣だ。心意気じゃなくて実際の剣の事ね。
ついでにさっきの効果音はゴブリンの喉を背中側から刺した音。今日で十三体目。
この世界にもゴブリンはいるらしくだいたいの生態が元の世界で考えられていたゴブリンと同じ。
ついでに気になった人もいると思うが、ウーパー、シーハとガラガラ鳥とかオークとかの呼称の仕方違いだが、草食か肉食かで区別しているようだ。
基本草食がこの世界独特な名称
肉食は前の世界の名称が付いていることが多い
僕はめんどくさいので元の世界での呼び方で基本呼ぶ。みんなの前ではこちらの世界に合わせるというやり方にしている。
話を戻し今日はゴブリンとよく遭遇するという話だが非常にめんどくさい。
今の一体は倒したが少し離れたところで何体かが僕を見ている。ゴブリンキングかジェネラルでもこの森に入ったのかな?
一々殺していくのもキリがないので収穫祭に必要な香木の伐採作業を続けていく。
今の村で香木を一定量持って帰れるのは僕くらいなのでしっかりやっておかなければならない。
ゴブリンとかは最悪『アズライール』と『スカイバタフライ』で殲滅すればいいしね。
まぁその前に他の魔物にやられていると思うけど。
二本の香木を伐採し、日もだいぶ低くなっていた。そろそろ帰ろうと準備をしていた時ふと気づくと少し離れた巨木の横に僕と同じくらいの背をした女の子が立っていた。
髪は色素の薄い銀髪で膝くらいまで伸びている。目は深く美しい緑、大きな目で少しだけ吊り上っている。
切れ長の目といった感じだと思う。
顔の造形は間違いなく整っていて、シェーラ母さんに美しさという一点では勝っているのではないかと思うくらい整っている。
服装は古代ローマみたいな布を羽織ってる感じの服装をしていた。
耳が尖っているとかではないからエルフではないと思うが、森と一体化しているような神秘的な美しさがある。
印象としては何だろう、彫刻品といったところだろうか。
その女の子は、僕が女の子の存在に気づいたことを認識すると自然な動作でこちらに歩いてくる。
歩く姿まで洗練された美しさがある女の子だ。
敵意を向けられているわけでもないので僕は特に警戒することはせずに女の子を待つ。
女の子は僕の目の前というか鼻がくっつきそうになる距離にまで近寄ってくると、僕の目をじっと見詰めてくる。
今の状況がよく飲み込めないものの、目をそらすのは逆に恥ずかしいので僕も女の子の目を見続ける。
「(…第三者がこれを見ていたらなんて思うかな?)」
ガサガサ!ガサガサ!
そんなことを考えているとゴブリンが大量に現れた。
その顔には欲望がにじみ出ておりきっと女が二人いるように見えているんだと思う。
ゴブリンなんかに答えを教えられる形になり、さっきまでのドキドキ感が急速に萎えていく。
女の子は未だに僕のことを見詰め続けており、僕も必然的に女の子を見続けている。
「kalakalakala!!!」
ゴブリンがいかにも怯えろという声で叫んできた。
女の子はそれでも僕の目を見ている。僕も同様。
女の子はゴブリンの存在に気づいてないというか、認識はしているが、認知はしていないと言わんばかりの態度だ。
そんな僕たちの態度が気に入らないのかゴブリンはさらに大きい声で叫び始める。
「KAJAKAJJAJAJAJAJAJAJAJAAAAAAA!!!!!」
かなりうるさい、何十体もいるゴブリンが汚い唾を撒き散らしながら叫んでいるんだからもうたまらない。
それでも女の子は眉ひとつ動かさないのだから信じられないね。
ゴブリン達はどうにか僕たちに怖がってほしいらしく
叫ぶのを続けたまま落ちている石や枝を投げてくる。
ゴブリンの貧弱な腕では大した威力もなく僕たちの体までは全く届いていない。
なんとしてでも気づいて欲しいというゴブリンの健気さが伝わってくる。哀れでならない。
女の子はそんなゴブリンの存在などには目もくれない。そして手で僕の体をペタペタ触り始めた。
ゴブリン達はその女の子の行動にさらに苛ついた様子で、持っている木の棒やボロボロの剣や斧を叩き始めた。
「(………うぅ僕はどうすればいいんだろう。)」
僕は一応ゴブリン達を無視しながらそんなことを考えていると、女の子は僕の周りを回るように移動して髪の毛などを触り始めた。
もう反応してあげて欲しい。
するとゴブリン達は我慢の限界らしく何体かが襲いかかってきた。
僕が魔術を使おうとする前にそのゴブリン達は地面から隆起した土に飲み込まれ、そのまま地面に埋もれていった。
一瞬のこと過ぎて魔術の発動すらできないを
ちなみに僕は視線を動かしていないよ。
空間同調で把握している。
ゴブリン達もその突撃していったゴブリンの結末に言葉を失っている。
もうさっきまでの元気の良さはなくただ呆然とその場に突っ立っているだけの置物になっていた。
女の子はまた僕の目の前にきて僕の顔を観察すると満足したように頷いて森の奥に歩いていった。
「(……なんだったんだろう、あの女の子は?)」
残された僕とゴブリンはしばらくして再起動し、一応戦った。ゴブリン達は仕方なく倒しておいたが、魔物を倒してこんな虚しい気持ちになったのは初めての経験だった。
日はもうかなり低くなっているが、僕はゴブリン達を埋めてから帰路についた。
せめて埋めてあげようと思ったんだ。
身体強化に加えて強化魔術で体を強化しているといっても身体的な大きさの問題で一本しか持つことができない。
そういうわけで数体の土の人形を生み出しその人形にもう一本を持たせている。
それならば二本とも人形に持たせればいいと思う人がいるかもしれないけど、僕なりのこだわりでこういう風にしている。
村には夕暮れ時に着くことができた。
村の出入り口付近にはジャヤの大将やトム そして護衛の冒険者達がいた。
「おーい!マーリン調子はどうだ?!!」
トムのやつが僕に気づいて叫んでくる。
それで他の人たちも僕に気づき話しかけてくる。
冒険者の人たちとも数週間ほど交流があるのである程度打ち解けている。
若手の冒険者五人は今回の依頼で臨時にパーティー組んでいるらしくランクはバラバラだ。
Fランクのホット。片手剣片手盾 印象としては中学生でクラスの人気者って感じ。十三歳らしい。
Eランクのアスト 両手直剣使い 元気のいい運動部系の高校生、
サリ修道女。落ち着いた高校一年生、共に十五歳でよくパーティーを組むらしい。
Dランクのヒム短剣斥候役 目の下のクマが酷いコンピュータ研の大学生。年齢不詳。
最後にCランク、この以来の後にBランクに昇格する予定のアンジュさん。ショーテルと魔法術で戦うアタッカー。十七歳。高校生くらいのカッコいい不良といった感じ
人付き合いが苦手らしく依頼主とよく問題を起こすということでBランク昇進ができなかったらしい。
今回の依頼でパーティーを組んだのもそこら辺を人に任せるためなんだとか。
「悪くないよ。もうそろそろノルマの量の香木を集めれると思う。」
「悪いなマーリン。本来は本職の俺たちがやらねーといけねー仕事を任しちまってよ」
「いいよジャヤの大将、その分の給料ももらってるしね」
「そういってもらえると助かるぜ。その香木もここからは俺たちが運んどくからよ、ルーリィの嬢ちゃんのところに行ってやれ。
言葉と態度には出さねーがありゃ相当寂しがってる」
「そうだね言葉に甘えるよジャヤの大将」
そうしたジャヤの大将やトム他の木こり達は木を担いで倉庫の方に向かっていく。
残された僕と冒険者のみんなも村の中に入っていった。
「それにしてもよ!マーリンってちっちゃくて女の子みたいなのにあんなデカイ木担げるなんてすげーよな、俺あれを運ぶ自信ねーぜ」
「そうですねマーリンくんは色々とすごいです。」
「ヘッヘッヘその代わりに可愛げがねーですがね。」
「ヒムさん本人の前で言わなくてもいいでしょ」
「へへへすいやせんねホット君。一目惚れの相手を貶しちゃいやして」
「ハハハハハそう言えばここに来てすぐぐらいの頃はマーリンに見とれてたなホットは」
「ヒムさんもアストもからかわないでくださいよ!」
「ホットさん、確かに恥ずかしいとは思うかもしれませんが、仕方のないことだと私は思いますよ。
マーリンくんは本当に女の子にしか見えませんから」
「サリさん 僕の方に攻撃が飛んで来てるんだけど」
「ハハハいいじゃねーかマーリン。ある意味褒め言葉だぜこりゃ」
「違うんですよマーリンくん、そーいう意味ではなくてですね」
「そうだよマーリンくんは男の子に見えるよ!」
「へっへへへへ流石にホット君が言っても何の根拠にもならないんじゃないですかね」
こんな風に四人と雑談をしていると
「もうそろそろ終わりにしろ。
警備の仕事があるだろ。ローテーションは決めた通りにやっていく。それでいいか?」
アンジュさんが注意をしてきた。
「すまねーアンジュさん今から行ってくるぜ。んじゃマーリンまた後でな」
「ごめんなさいアンジュさん、それではまた後でマーリンくん」
「わかってますぜぇアンジュ嬢ちゃん、ちっとからかってただけですよ」
「すみませんアンジュさんすぐにいきます!
マーリンくんもじゃあね」
「四人ともまたね」
四人はそれぞれの場所に向かって走っていく。
もうここにいるのは僕とアンジュさんだけになった。
アンジュさんの表情には僅かな後悔の色が浮かんでいた
「アンジュさんそんなに落ち込まないでよ」
「落ち込んでない」
「はいはい、じゃあいつもみたいにエル父さん達のところに行って鍛錬しようよ」
「ああ」
アンジュさんはこの村に来た当初からエル父さんやシェーラ母さん、パームさんにシーカさんのところを訪ね稽古をつけてもらっている。
その時シェーラ母さんに悩みを当てられて相談に乗ってもらっているところを僕がたまたま聞いてしまった。
アンジュさんは人との付き合い方がわからなく、悪い印象を与えてしまっている事を悩んでいたそうだ。
僕に聞かれたと知った時のアンジュさんの慌てぶりは凄まじかった。
アンジュさんの顔はアンジュさんの髪の毛と同じくらいに赤く染まっていて、ものすごいストレートが飛んできた
僕じゃなかったら死んでたよ
少しでもいいなと思っていただければ幸いです。




