情を交わして信頼とする。
「楽しみだね代表戦」
「楽しみではあるけれど、私達がそんなに楽しそうにしているのは少し変よ」
「もうあの日から三ヶ月ぐらい経ってるし、首都ハーメルン全体でのお祭りなんだからみんな楽しみにしてると思うよ」
「それはそうなのだけど、これでも私達はクラス代表選抜で戦うこともできない様にされて負けたのよ。なら悔しそうな顔をしておくのが普通だと思うのだけれど」
「そう言ってるアンスリアもあの時みたいに思い詰めた表情じゃないよ。」
「私は今もとても悔しく思ってるわ。あの時の無力感もずっと覚えてるから。
ただ今はもう結果が出てしまっているから、次は同じ失敗をしないようにするしかないもの」
着々と代表選の舞台が学園の広場に建設されている様子を見ながら、アンスリアしっかりと先を見据えたいい表情でそう話す。
僕より背が高い為か、そんなアンスリアの姿はとても大きく見える。
いや今というよりもこの三ヶ月でアンスリアは少しずつ変わってきてると思う。
三ヶ月前、何かしらの理由で来ることができなかった緑組の生徒達が、代表を決める模擬戦の数日後に登校してきてアンスリアに謝っていた。
それ自体は簡単に予想できることだと思う。組での人間関係が良かったからこそ、来ることができなかった緑組の生徒達は凄く思い詰めていた。
ファーニア達はそんなアンスリア達の様子を高みの見物でもするみたいに楽しんでいたのが、とても印象に残ってる。
「あの代表を決める日、わんわん泣きじゃくって、日向ぼっこして遊んで、夜は夜空の下はしゃぎ回ってた女の子と同じ人とは思えないね」
「その時私を宥めて、安心を与えて、楽しませて、受け止めてくれた人とマーリンが同一人物なのかこうしていると分からなくなってくる。
あの時は凄く年上の人に見えたのに、今は私と同じ位の男の子に見えるもの」
「アンスリアが正確に何歳かは知らないけど、僕はアンスリアと同世代だよ。
それに前々では微妙なところだけど、今はきっとみんなアンスリアの方が僕よりも年上と思うんじゃないかな。
少なくとも緑組のみんなはもうアンスリアだからこそ、君の側にいるんだと思うよ」
緑組のみんなが登校した日、アンスリアは大勢の目がある中でただ静かに謝罪を受け入れ、アンスリアもまた謝罪をした。
そしてそれで全てが済んだとばかりに重い空気を切り裂き、これから目指す方針を示し、力を貸して欲しいと語りかけていた。
語りかけられていた緑組の生徒だけではなく、見物していたファーニア達でさえ、アンスリアの姿に目が奪われ、言葉にしないまでも確かにその瞬間アンスリアが一歩成長した事を感じたんだろう。
「そうなら嬉しいよ。この三ヶ月でみんなと少しずつだけど成長出来てきてる。
これからも力を貸してもらわないといけない私としてはとても嬉しい。
そういえばマーリンはどうして私の側にいてくれるの?」
「僕は一応全員の側にいるつもりなんだよこれでも。ただ全体で見て僕の事を近くに置いたままでいてくれる人が少ないんだよ。
だからアンスリアの側にいるんだろうね」
「言葉にして聞いてみると、とても信頼できる人には聞こえないわね。
でもマーリンはそれでいいのかもしれないわ。マーリンが絶対に側にいてくれると思ってしまえば、私は頼り過ぎてしまうと思うから」
「あの日アンスリアが言っていた様にすれば良いよ。信用はするけど信頼はしない。
いつかは離れていくだろうけど、側にいる時は頼る。
アンスリアは好きな様にすると良いよ。僕もそうするからね」
「ありがとうマーリン」
本当にいい顔をする様になったと思う。
まだ成長段階でスフィネラさんを始め僕の知る多くの人達には及ばないけど、それでも人を率いる人の顔になってきてる。
あれから二度あった模擬戦でも勝つまではいかないものの、かなりいい戦いをする様になってきたしね。
僕の方は魔法術一位様からの攻撃が激しさを増してきて、模擬戦中ずっと走って逃げ回っている。
カッコ悪いかもしれないけど、数で負けてる上で、応戦できない時点で逃げな一手しか残ってない。
「じゃあ私はそろそろみんなのところに戻るよけど、マーリンはまだここにいる?」
「そうだね。もう少しここにいるよ」
「じゃあまた明日ね」
「うんまた明日」
軽く別れを済ました後アンスリアは学園の中に歩いていく。
姿が見えなくなってすぐに楽しそうに話す声も聞こえてくる。きっと緑組の人達がアンスリアを探してたんだろうね。
「可愛い姪にはいい友人達がいっぱいいる様だけど、マーリンくんはあいも変わらず一人かい?」
「これでもクラスではたくさんの人と喋れる位置にいるんですよスフィネラさん」
「それは勿論知っているよ。私はこれでもマーリンくんの護衛なんだから。君がクラスメイトの名前もろくに記憶していないことも知ってるわけだよ」
アンスリアの姿が見えなくなると同時に僕の横に現れたスフィネラさんは、現れて早々に僕の友人関係にケチをつけてくる。
確かにまともに名前を覚えてる人を言えと言われたらアンスリアとファーニアくらいしかいえないけれど、そこまで酷い人間関係とは思っていない。
クラス内では組派閥に関わらず多くのクラスメイトと喋るし、何人か以外からは邪険にもされてないしね。
名前も、まぁメーフェに気付かされてから自分なりに克服しようとはしてるんだけど、うまくはいかない。
というか名前を知らなくても親しくできるんならそこまで気にすることはないのではないかとも最近になって思い出している僕がいる。
「それでもクラスでの人間関係はマーリンくんのいう通り私から見ても良好。
護衛役としては要注意人物が少ないのは正直言ってありがたいところではなるんだけど、国として、いや女王の意思としてはマーリンくんが深くこの国に関わってくれる事を望んでいるんだよ」
「そういう事ならもうすでに十分に関わってると思うんですけど」
「マーリンくんもなんとなくその答えは理解していると思うけど、私達は結婚とまでは行かないまでも誰かしらと関係は持ってもらいたいという事だよ。
学園の同級生でも講師でも、街の子でも、私でもね」
「僕にはそこまで警戒されるような力はありませんよ。実際この国の祝福の世代二人よりも随分低い成績ですから。
なんなら同じ留学生の五人と同じくらいですよ」
実技、筆記ともに結構頑張ってるんだけど、グループ課題がどうしても低いせいで結果は微妙。
なんたって白組って名乗ってるだけでメンバーなんて僕一人しかいないからね。
複数同時進行の課題で多くの課題をクリアしろなんて言われても、一人だと限界がある。
実技と筆記で上位に食い込めてるおかげで、落ちこぼれにならずに済んでいる現状。とてもそこまで警戒される程のものとは思えない。
「エルファエルに到着すると同時寮部屋を一般寮に移し、数刻後私から見ても部屋の中にいるのかいないのか分からない事態になった。
確かめてみるまでは判断できない状況というものでね。どう対応するか決めあぐねた結果、次の日の私の約束の時刻までは様子を見ることになったよ。
覚えているかい?」
「ハーメルンについた日の翌日、インテリアを見て回るって話だったのが、スフィネラさんに関係ないところに連れ回された事ですよね。
勿論覚えてますよ。
今の寮に着いた時に今までの魔法術のおさらいで、出鱈目な種類の魔法術を適当に使ってたらそんな事態になるなんて驚きました」
本当は意図的にそういう状況を作り出して、ユグドラシルに会いに行ってたんだけどそれをいうわけには行かない。
もしユグドラシルとの関係や、今は浮かんでいない胸の門城を見られたらその瞬間に僕の人生が終わる。もしくは王手がかかる。
冗談は抜きでだ。
北領同盟王国でならまだ国の責任を担う何かにつかされるなり、エルファエルと合議された上で身の振る舞い方が決まるなりしただろう。
しかし今見つかった場合は、下手し戦争。最悪僕の処刑。その他諸々の嫌な待ったなし。
僕の人生さようなら。
自由な人生さようなら。
スカイとの約束叶えられる可能性さようならだ。
「学園に入学早々、現在の国全体での勢力争いの中心人物エファーラル・アンスリアと戦闘。
見事勝利。
あの時のアンスリアは今ほどではないにしても実践という条件下でならかなりの実力を持っていたからね。
ファーニアやデルアドレと戦った場合でも、実戦の姿をそれまで見せていなかった事もあり、勝つ確率はそこそこあったはずだよ。」
「その口ぶりからして、戦い方を教えたのはスフィネラさんですよね?」
今にして考えてみても、入学する学生が実戦を想定した動きをしていたのは不自然だ。しかも後に聞いてみてもアンスリアにその自覚はなかったという。
つまりは誰かが、その事を教えずに動き方だけを教えたという事だ。
学園に入るまでに教える様なことではないからまともな講師のすることじゃない。
実戦は実戦であって、学園ではほとんど使うことのない技能だ。学園で評価されるのはそんな技能ではなく、ただ純粋なる技。どこまで上手に武器を扱うのか、姿勢は正しいか。
実戦の技能を使う機会があるとすれば、入学式の時の試験と、模擬戦中の一瞬だけ。
模擬戦では基本多数大多数で、拙い実戦の技能が輝く機会は本当に少ない。たまたま一対一で戦う機会があったとか、そんなレベル。
お世辞にもアンスリアが多数戦闘でも輝く様な実践技能を持っているとは言えない。
「姪という事で軽く話す機会はあったからね。
雑談混じりに狩をする時獲物を追い詰めるやり方や、一対一での有効な戦い方を軽く教えてたんだ。勿論私は見本も何も見せてないし、講師の様に詳しくも説明してないよ。
あの拙い技能はアンスリア自身の努力のたわものというわけさ」
「そういうことですか」
アンスリアの拙い技能の理由は納得することができた。そしてスフィネラさんがアンスリアを気にかけている理由の一端もなんとなくわかってきた。
「少し話が逸れたね。
話を戻して、入学式後も私達の言語や歴史、その他学問において秀でた能力を見せる。
実技のおいても高い実力を示す。その際の武器は槍であり、事前情報であった木剣を使っていないことから実力を見せていないと判断する。
いくつものクランから勧誘があったものの、どこにも属さない。その上でクラスでの自分の立ち位置を定め、数人を除いて良好な関係を維持する。
模擬戦ではまたどこにも属さないまま、戦場を混乱されるなどの、特異な行動が目立つ。
…どうかな?改めて言葉にしてみれば警戒する必要性は十分にあると思わないかい?」
自分以外から改めて自分の行動を言われると、どうしてこんなに反論しにくいのか。
むしろ納得してしまいそうになる。
「これはエルファエルの上層部、マーリンくんが留学することになった理由を知る人達の合同見解。
だからこそマーリンくんには留学しているうちに、私達に情を抱いて欲しいわけだよ」
「情ならもう少なからずありますよ。安心してください。」
よく話す食堂のお姉さんやクラスメイトに、街で挨拶くる様になった人達。名前は知らないけど、僕としては親しいという判定になる人達だ。
しかしスフィネラさん達はそれでは納得しないんだろうね。
「出来るなら特別をエルファエルで作って欲しいわけだよ。
数多ある大切な者の中で少しだけ違うものをね」
「それがどうしてそっち関係に行くんですか?何人もの人とすれば簡単に薄れると思いますよその関係は」
「そうかもしれないけどね。最も手っ取り早いのはそういう行為だし、安心できる材料になる。
それにもしマーリンくんがアンスリアと情を交わしたなら、今の勢力争いの優勢が拮抗もしくは逆転するだろう。
それはアンスリアの手柄になるから、マーリンくん達がお互いに憎からず思っているなら一度肌を重ねるのも悪くないと私は思うよ。
ひとつの経験としても、思い出としてもね」
そこまで僕の行動に責任があるとわね。
とはいえアンスリアとは友達だけど、それ以上になろうとは思ってない。
この国にいる間成長していく姿を近くで見ていたいとは思うけどね。
スフィネラさんがそこまでアンスリアを大切に思っている事は少し意外だったけど、生憎と僕にはそのつもりは一切ない。
「アンスリアは友達ですから、そういう関係になることはありませんよ。」
「そうか、叔母としてはアンスリアの容姿は男女に関わらず情欲を刺激すると思っていたんだけどね。
マーリンくんは同年代には興味がないのかい?
なら是非私としようか。
忘れられない最高の夜にすると約束するよ」
さっきまでの姪を思いやる年上のかっこいい女性から、どうして素早くこういう姿になれるのか。
本当に掴みどころが少ない人だよスフィネラさんは。




