ガタツク王子
「あっれぇーー?どうしたんですかルート先輩こんなところに。教室でも間違えてるんですか?
ここは前期の棟で後期のルート先輩が来る所じゃないですよ?」
「僕も来るつもりはなかったんだけどね。目に留まれば止めにも来るよ」
「流石は【学園の王子】様は凄いっすねぇ。呼ばれればすぐに登場する物語の主人公気取りですか?」
「別に物語の主人公じゃなくても、君の噂は学園にいたら誰でも耳に入ると思うよ。ここ一年で随分と荒れてるみたいだねレオンハート君」
「、っち。君呼びしてんじゃねーよ。俺は王位継承権第二位のこの国の王子だぞ!!」
「…なら、レオンハートで良いよね。」
「なっ!?」
「それで君と周りの人達は、君たちの後輩でもあるリュミエールに何をしようとしているのかな?」
後期になってから早くも九ヶ月という月日が経ち、いろいろな出来事を経て今日の学園での一日が終わるというところで、リュミエールがレオンハート達に取り囲まれている所を偶然に見かけて来てみれば。
案の定仲良く談笑をしようとしている雰囲気ではない。
「第三王子ともあろう人が自分よりも年少の女性相手、しかも多数で囲むとは情けなくありませんか?
今学園にいないジルは決してその様な事はしないよ」
ジルは今母方の領土で少し問題が起きた為、その対応の為に北西の端の領土に行っている。
ジルは放課後すぐにリュミエールの様子を見にいく過保護ぶりで、今の様にレオンハートがちょっかいをかけられるということもなかった。
「どいつもこいつも、ジル、ジルってうるせぇんだよ。
俺はただリュミエールに話があるだけだ!
割り込んでくるんじゃねぇーよ!!」
「いっ!」
言葉を荒らげるレオンハートは壁際で立ち尽くしていたリュミエールの手を掴み、強引に引っ張っていこうとする。
その掴む力と無理やり引っ張った事で、リュミエールから小さな悲鳴が僕の耳に届いた。
その声が届いた瞬間、全身へ身体強化をかけレオンハートの一団へ向かって疾走する。
僕がいくら全力で身体強化をかせて走ろうと、オフェリア先生みたいに目で追えないスピードを出せるわけではない。
そして僕が行動した事を視界に収めたレオンハートの取り巻きか順次戦闘態勢を作っていき、僕を迎撃しようと行動し始める一瞬手前。
小さな青い火球がレオンハートの一団全員の目の前に出現し弾けた。
勿論それをしたのは僕ではなく、廊下の影に隠れていたマエルの魔術だ。
戦闘態勢を崩し怯んだ隙に、レオンハートにたどり着くまでの最低限の人数を転がし、怯んだ全員が再度行動し始める前にレオンハートの所にたどり着いた。
「レオンハート、リュミエールから手を離してもらえる?」
「ルートさん!」
「っく、だから邪魔すんじゃねーよ!ルート!」
ガァっ!
レオンハートはリュミエールから手を離して、僕と組み合う。
学園内での武器の使用、及び生徒に危害が及ぶ様な魔法術の行使は身分関係なく休学処分になる。
実際の武器を使って良いのは戦闘講師の目の前と、訓練場などの施設内のみ。
だからこそレオンハートも僕も素手で組み合い、魔法術の類は使わない。
さっきのマエルの魔術は精密にコントロールされた魔術であって、僕やレオンハートは至近距離で戦闘しながらあれほどのコントロールは出来ない。
ガァっ ばっ ダダッ ガッ ダンっ バシッ
「いつもいつも!お前やあいつが邪魔するから!」
「君が相手側の了承を取っている様なら、僕もこんな事はしないよっ!」
どガッ
身体能力任せの左フックをレオンハートの内側に体を差し込む様にして躱し、その勢いのまま右肘をレオンハートの右頬に打ち込む。
とはいえ基礎ステータスが違う為、レオンハートは一瞬昼間はするもののこれだけでは倒れてくれない。
すかさず内側に入った僕をレオンハートは捉えようと動き出すけど、予想していた僕は左フックで伸ばされた腕両手で掴んで腰を沈めたから起き上がらせる。
僕を捕まえようとするレオンハートの力も借りる形で、レオンハートの体を浮き上がらせ勢いのまま投げる。
ドンっ!!
「がっぁはっ!」
背中を強打し、肺の空気を吐き尽くして動きが止まった隙に掴んでいた腕を捻り、そのまま拘束。
レオンハートも一年半以上前に初めて戦った時と比べれば、動きが随分と改善されてるけど、まだ身体能力を生かしきれてない。
《勇者》の補正がどれだけ高くても、その力を生かしきれていないなら僕にも勝ちようは沢山ある。
何より一年以上オフェリア先生の猛威にさらされてきたおかげで、自分よりも圧倒的に強い相手と戦うことには慣れた。
レオンハートが真剣に基礎訓練を積むなり、これ以上の力を付けない限りは、今の僕でも確実に勝てる。
裏を返せばやる事をやられれば確実に負けるって意味だけど、その時はジルやマエル。講師の力を借りるしかない。
うまく流したはずなのに数発受けただけで手が痺れてるし、出来る事ならもう戦いたくはないよ。
「レオンハート。今日はここまでまだよ」
「くっそぅ…」
騒ぎを聞きつけて講師も数人駆けつけてきた。もうこれ以上の戦闘はできない事を理解したであろうこの場の全員が解散を始める。
僕は押さえつけているレオンハートの高速を時に来た一人の男子生徒にレオンハートを渡して離れる。
その時にまた暴れ出そうとするレオンハートだったけど、その男子生徒が僕に聞こえない声で一言二言何か囁くと大人しくなり引き下がっていった。
あのレオンハートを言葉で大人しくする男子生徒、少なくとも僕が前期にいた時には見た事がない生徒だ。
「………」
「ルートさん、」
「え?ああ、リュミエール大丈夫だった?」
「はい。ルートさんやマエルさんが来てくれましたので」
レオンハートが離れていく後ろ姿を見つめていると、リュミエールが不思議に思ったのか話しかけてきた。
さっきまで大勢に囲まれていたとは思えないくらいにいつも通りの表情だけど、さっきレオンハートに握られた方の手首を不自然ではないくらいの仕草で庇っている。
本当に表情に出すのが苦手な子だと思う。
「……そこまで苦手ではないと思うのですが…」
「痛い時や嫌な気分をした時は少し表情に出す事で意思を伝える事ができるからね。
今も手首が痛むなら隠さずに言わないと」
そう言うとリュミエールは庇っていた手首を見て、もう一度僕を見上げてから
「…、少し怖かったです。それと、手首も少し痛みます」
その時の表情は少しだけ感情に歪んだ顔をしているけど、まだまだ上手に表情に出てはいない。
まぁそれでも少しずつ表情が出る様になってきている。
「じゃあマエルと合流してから保健室に行こっか」
「はい」
笑顔はうん。とても上手になってきた。
「それでマエルはなんでずっと隠れてたの?」
「フィーナ・シアールに会いたくないからよ。知ってるでしょ?あの子は私の顔を見ると勝負を挑んでくるのよ」
「凄い対抗心向けられてるもんねマエルは。お互いに純魔法術職だからかな?」
「はぁ…まぁそれもあるんでしょうけど、半分以上は貴方のせいよルート」
「?」
僕はフィーナ・シアールとそこまで離したことがないから、多分僕は関係ないと思うんだけど?
「リュミエールも気をつけなさいね。ルートに関わっているとこういうこともよくあるから」
「わかりましたマエルさん」
「本人を置いて二人で納得しないでよ」
リュミエールも特に不思議に思っている風もなく、すぐに頷いていて何かしらの理由がわかっているらしい。
この三ヶ月でリュミエールとはジルとの関係もあって随分と仲良くなって、とりわけマエルとは姉妹の様なやり取りをする事がある。
僕、ジル、マエルの中で一番リュミエールと距離があるのは間違いなく僕なんだよね。
結構仲良くなろうと頑張ってるんだけど、ここら辺が限界なのかもしれない。
「ルートもマーリン、ルーリィとよく私を置いていくでしょ?今までの私の気持ちを味わいなさい」
「いやそんなつもりはなかったんだけど」
「確かルートさんの弟様と妹様でしたか?」
「ええそうよ。仲がいい家族でね。一人っ子の私からしたらとても羨ましかったわ。
三人が集まったらとても楽しそうに喋り出すのよルート達は。それにルートはマーリンやルーリィにとても甘いから」
「今のルートさんからは想像できないですね」
「そこまで甘くはしてないよ。普通の兄弟くらいのはずだよ」
僕としては普通の兄弟として接してるつもりなんだけど、マエルはそんなふうに思ってたんだ。
なんか微妙に恥ずかしい。
「またリュミエールが後期になった時に二人と会うでしょうから、その時にちゃんと紹介するわ」
「その時はよろしくお願いしますマエルさん。前にルートさんから弟様のお話を聞いてから、ずっとお会いしたいと思っていたのです。」
「そうだね。その時はジルやリュミエールを二人に紹介するよ」
学園の保健室。数ヶ月前のあの時よりも柔らかい笑顔をリュミエールはしてくれる様になっていた。




