溢れ出る感情
「白組緑組の降参を持って勝者青組!
よって代表戦へは青組が出ることとする!!」
ルーリィ達が帰った数日後の正午。
クラスメイト過半数の歓声の中、晴天の空の下一人は無力感に打ちひしがれ、一人は青い空をただ仰いでいた。
その場でたった二人だけが歓声を上げていないのだ。
「マーリン。どう?今までの事を私に謝罪すれば代表戦に出させてあげるわよ?」
綺麗な青空を見上げていた僕に今は出来れば聞きたくないクラスメイトの声が聞こえてくる。
仕方なく目線を下げていけば思った人が想像したよりも数倍醜悪な表情で僕を見つめていた。
「留学生として一人だけ恥は晒したくないでしょう?」
「僕はそっちにいる五人と違ってそこら辺は気にしないからね。それにデルアドレくんがいるんだから僕は不要でしょ」
「そう、土下座して謝ってこれば本当に仲間にしてあげたのに。
本当にバカなのね」
「ははは、よく言われるよ」
「ふふふっ出来損ないと一緒に沈みなさい」
愉快そうに笑いながら青組の面子と一緒にどこかへと歩いてく。青組のクラスメイトが僕に向けてくる視線は様々だけど、何故か同じ国出身の留学生五人からは一様に馬鹿にされた目で見られる。
前から思ってたけどなんであの五人はあんなに胸を張っていられるんだろう?
「マーリンお前の負けだが、何か言いたい事はあるか?」
「あぁ魔法術第一位様。何というか律儀だね。宣言しにくるところも、確認しにくるところも」
「後でぐだぐだ言われるのは気にくわないからな。そうならん様にちっきり締めに来ただけだ」
「そっか。まぁ何でもいいけど。で、何か言いたい事だったっけ?
特に何もいう事はないよ。魔法術の成績ではもともと負けてるし、合同で決めたルールの下負けたんだからね」
「ふん。ファーニアの馬鹿がいらん事をしたが、お前との戦いも終わりだ」
決めた表情でそう言われても、僕は魔法術第一位個人と戦ってたつもりなんてないんだけどね。
直接そんな無粋な事は言ったりしないけど。
魔法術第一位はそう言って青組の一団とは違う方向に歩いていく。
「ああいう風にプライドが高いのも大変だよね。
そう思わないアンスリア?」
「…………」
アンスリアを除く全員の後ろ姿を見送ってから、数分前この場所来た時からずっと顔を下げて小さく震えている。
「今回はお互いに上手いことやられちゃったね。
今年はもうどうしようもないよ」
「………っ!、なんでそんなに落ち着いてられるの!」
「落ち着いてはないんだけどね。そう見える?」
自分では結構悔しさ滲ませてるつもりなんだけど、周りからはそう見えないらしい。
まぁ確かに今僕を睨んできているアンスリア程顔には出てないと自分でも思うけどね。
「戦ったわけじゃない!!今までの努力を何一つ私達は示すことも出来ないまま……こんな決着の仕方じゃ納得できないよ!!」
今日緑組と白組は合わせて二人。青組の二十三人対緑組一人対白組一人の状況で模擬戦は始まり、始まりの合図が出たとの同時に僕とアンスリアは降参した。
アンスリア以外の緑組五人は家の都合で今日は休むことになったらしい。
今日の模擬戦を休む理由は家が理由でもあり得るはずもなく、学園外の勢力争いにまで影響する決戦だった。
つまりは意図的に緑組五人は模擬戦の舞台から退場させられたわけであり、日にちを変えたところで結果は変わらない。
それを五人本人にか、家かにさせるだけのカードをファーニア達が持っているという事なんだから。
「戦ったんだよ僕達は。戦った上で僕達は青組に負けたんだからね」
「…戦えてない。あの時とは全然違う。競うことすらできなかった…」
「アンスリア、僕達は戦って負けたんだよ。ただ戦う前の戦いで負けたってだけなんだからね」
「っ、ならどうすればよかったのよ…」
どうすればよかったのかな。手を回される前に手を打つなり、手を回されたことにいち早く気付いてどうにかするなり言葉にするのは簡単なんだけどね。
それかあの時僕が一人で青組全員と戦って勝つかなんだけど、流石に今まで見せてきた範囲でじゃ勝てない。
勝てなかったらわざわざ見せる必要はないし、勝ったとしても更にややこしい状況になってアンスリア達が苦労するだけだ。
そう考えるなら僕だけじゃどうにもならないね。
「…やっぱり何も変わらなかった。やってきた事が全てが、何も出来ないまま消えちゃう…」
「、ほらアンスリアそろそろ戻ろう。もう今できる事は終わったんだからね」
「…全部終わっちゃた…。お父様やお母様の苦労をまた私が無駄にしちゃったよぉ…。
また、私が…無駄にしちゃった……。
ぐすっ…うっ、なんで私ばっかり…ぅうわぁーーぁぁああ!!」
「えっ、待ってアンスリア!」
ついさっきまでは僕やファーニア、アンスリア自分自身に怒りを向けていた目からは涙が溢れ、常に張り詰められていた顔は見る見るうちに崩れていった。
「うわぁぁああーー!!なんで…ずっと頑張ってるのに、どうしてうまくいかないの??
…お父様に褒めてもらいたいだけなのに…お母様に笑って欲しいだけなのに……なんで頑張れば頑張る程こんなことになるの??
…ねぇ…なんでなの?」
この半年間クラス内でどんな扱いを受けようと堂々と振る舞っていたアンスリアからは考えられないほど、目の前のアンスリアは感情を爆発させ年齢が半分以下になった様にポロポロと泣いている。
「ア、アンスリア?少し落ち着いて…」
「マーリンは!!!」
「はい!」
「マーリンはなんでそんなに何でも上手く出来るのよ!!
最初にあった時も!!それから今までも何で、なんでそんなになんでも上手く出来るの?
…私は何がダメだったの?
……努力が足りなかったの?
…凡人で生まれたのがいけなかったの?
…生まれなかったらお父様もお母様も苦しまずに済んだの?」
模擬戦場の地面にへたり込んで僕を見上げて純粋すぎる質問を投げかけてくる。
アンスリアの中で何かが崩れかけてるんだろう。僕の目を見ているはずのアンスリアの瞳は僕の目を見ている様で焦点が合ってない。
「ねぇなんでなの…?なんでなの?どうして?
あはは、もうわからないの…。
みんなにいっぱい頑張ってもらったのに、…全部私のせいで無駄にしちゃった……。
あはははは!!、ぜーんぶっ私が無駄にしちゃったのよ!!
………っごめんなさい…。ごめんなさい。ごめんなざい!……なにもできなぐて!……期待に応えられなくて!
……ぁぁあ、生まれてきで、ごっ……」
とさっ。
「それ以上は口にしたらダメだよアンスリア」
とんっ、とんっ、
精神性の魔術で無理やり意識を刈り取ってアンスリアを眠らせた僕は、眠って前に倒れてくるアンスリアを受け止めあやすように頭を叩く。
「ごめんね。僕が追い詰めちゃったみたいだね」
僕が作り出した状況の中でアンスリアは必死に考えて最善手を打ち続けてた。
そうでも無いといくら僕が状況を混乱させていたとしても、半数以下の人数で引き分けに持っていけるはずがない。
もっと言えばたった五人とは言え、味方の五人を半年間ずっと守れるはずがないんだから。
アンスリアはちゃんと勢力争いを自分の力で歩けてるし、ちゃんと周りもそれを認めてる。
「スフィネラさん。ちょっとだけアンスリアとハーメルンから出ますね」
周りに誰の姿もない模擬戦場で、僕は隣にいる誰かに話しかける様にそう呟く。
「了解したよ。距離をとって円陣を敷かせてもらうけど、会話は聞かない様にするから安心してね」
僕のその呟きに間髪入れず、眠っているアンスリアの後ろに立つ形でスフィネラさんがそう応えてくれた。
日頃はあれだけど、こういう時はすごく頼もしく見えるのが不思議だね。
「ありがとうございます。」
「私達の方こそすまないマーリンくん。可愛い姪を頼んだよ」
散歩に出よう。アンスリアを縛っているものがない所へ。
アンスリアには背負っているものを一旦置いて休憩する時間が必要だと思うから。




