ルーリィとアンスリア
「スフィネラさん」
「どうしたんだいマーリンくん」
「ルーリィがとても不機嫌そうなんですが」
「そういう事もあるさ」
「スフィネラさんがアンスリアとの約束を破後にして僕とルーリィに押し付けたせいで、アンスリアとルーリィがとても不機嫌そうなんですけど」
「・・・・」
ルーリィとシェーラ母さんがエルファエルにいられる最後の日の朝。
昨日の夜とは打って変わってご機嫌なルーリィと一緒に朝の鍛錬をして、流れで小さな風呂に一緒に入って汗を流して朝食を作った。
今日は朝から夕方まで遊び、そこからスフィネラさんの直属部隊と一緒に、夜間警備に同行して北領同盟王国に帰るらしい。
「ふっふ〜ん〜」
と鼻歌混じりに出かける身支度をするご機嫌な妹を見ながら、軽く今日行く場所を思い浮かべている時に事態は動いた。
バァッン!
「マーリンくん!!」
扉を開け放ったのは僕の知るスフィネラさん。あの恥らしい乙女みたいなスフィネラさんではなく、想い人の息子を初っ端からナンパしてくる様なスフィネラさんだ。
「ダメです。先約がありますから」
そしてこのスフィネラさんは僕にロクな事をしてこない。取り合う前に断ってお帰りいただこう。
「ちょっ!少しは話を聞きたまえ!君にしか頼めない事なんだ!!」
「僕以外にも頼める様な事なら聞きましたが、僕にしかは聞けません」
「そんなつれない事は言わないでおくれよマーリンくん。十分なお礼はするからさ」
話せば話すほどに、スフィネラさんからの頼み事がロクでもない頼み事だとわかる。
「ルーリィ準備はできた?」
「うん!マーリン兄さん出来たよ!」
ルーリィも僕と同じ様にスフィネラさんとの会話を取り合わない選択をしている様だ。というか存在を認めようとしていない感じといえばより伝わるだろうか?
「ルーリィちゃんまでそんな冷たい態度はよしてくれないか。…あっ本当に待って!」
ルーリィは僕の手を取ると強引にならない程度に引っ張って行く。スフィネラさんの横を通る時も一切スフィネラさんに視線を向けない徹底ぶりだ。
そのまま廊下に出て、スフィネラさんを置き去りにしようとしたところで、スフィネラさんが僕に聞き流せない事を言ってきた。
「アンスリアが泣いちゃうから!」
キキィ…
ルーリィに先導される様にして動いていた足が止まる。
足を止めた僕に悲しげな目を向けてくるルーリィを見ながら、背後であからさまにほっとしているスフィネラさんに問う。
「……ご用件は」
あぁまたルーリィの機嫌がマイナス下降を始めてしまいました。
それはもうすごいスピードで不機嫌そうになって行くんだけど。
スフィネラさんからのお願いはこんな内容だった。
最後の日はなんとしてもシェーラ母さんと二人っきりでデードがしたい。あわよくばそのまま色々したい。待ちに待ったこのチャンスを逃したくない。
それで昨日必死にデードにシェーラ母さんを誘ってOKしてもらえた。
でもそういえば数日前にアンスリアが市街を見回る付添人になる約束もしていた。
アンスリアは多くの問題を抱えている為下手な人には付添人は任せられないし、ましてや一人でなんてあり得ない。
可愛い姪が楽しみにしている市街見学をさせてあげたいけど、私はシェーラとデートして、あわよくば色々したい。
だから僕がアンスリアの付添人になってくれ
というものだった。
なんだろう。突っ込みどころが多すぎて何から指摘すればいいかわからないあの心境だ。
ルーリィはルーリィで話を聞いている最中からずっと、冷たい視線をスフィネラさんに無言で向けていたよ。
話を聞き終わった後、色々と話し合った結果。
スフィネラさんがシェーラ母さんとのデートを諦める事が出来ないと駄々をこねた為、アンスリアは僕やルーリィと一緒に市街を見て回ることになった。
ここで話は冒頭に戻り、スフィネラさんと市街を見て回るつもりで待ち合わせ場所にいたアンスリアに事情を説明した後。
スフィネラさんが逃げる様にシェーラ母さんの所に走って行ってからのこと
「えっと、じゃあ二人とも取り敢えずどこかに行こうか…」
「「…………」」
二人が二人とも、本来の約束とは違う約束の守られ方に不満がたらたらだ。
まだ苛ついているだけならば、矛先を変えてどうにか納めさせる事もできるんだけど、二人とも悲しみが混ざっている為それは出来ない。
「あ〜っと先ずは自己紹介かな。僕はマーリンで、この子が僕の妹のルーリィ。一昨日からエルファエルに来てるんだよ。
そしてこの子が僕のクラスメイトのアンスリア。
入学初日から話す機会も多くて、仲はかなりいいと僕は思ってるんだ」
僕が二人の中間に立ってそれぞれにそれぞれを紹介する。すると二人ともやっとお互いの姿を見合って軽く言葉を交わしてくれた。
「私は先程マーリンが紹介してくれた様にアンスリアという。そちらの約束を邪魔してしまってすまない。妹君が不満に思うのは理解しているが出来れば同行させてほしい」
「はじめましてアンスリアさんルーリィです。
アンスリアさんにもご都合があると思いますから、大丈夫です」
言葉が硬いけどこれぐらいなら問題はないだろう。時間の経過と共に柔らかくなってくれる事を祈るだけだ。
「ルーリィはどこか行きたい所はある?」
「ううん。何も決めてなかったから」
「アンスリアは?」
「魔術具店とハーメルンの有名どころを見るつもりだった」
「ならアンスリアに付いて行かせてもらおうかな。その時に色々と僕やルーリィに教えてくれると助かるんだけど、二人ともひとまずそんな感じでいい?」
「それでいいよマーリン兄さん」
「私の方も問題ない」
「じゃあ、出発って事で」
いつもよりも意識テンション高めで二人を先導して行く。僕が自分の意思で引き受けてしまったからにはちゃんとやり抜こう。
「本当に良かったのかマーリン。私を同行させて。スフィネラ叔母様の急な頼み事だったんでしょ?」
「そうだけどね。でも今のところルーリィもそこまで不機嫌ってわけでもなさそうだし、いいんじゃないかな?」
「マーリンの妹は十分に悲しんでいる。それがわからないマーリンではないだろう?
私の市街の見回りもマーリンが無理に叶える必要はなかった。ただの私の我儘なんだから」
「僕がこの半年で何もして無かったらそれもいいかと思うんだけどね。随分と色々やっちゃったし、スフィネラさんの思いも知っちゃってるし、アンスリアの性格もちょっとは知ってるつもりだからね。」
魔術具店を訪れた際にルーリィが僕たちから少し距離を取ったタイミングで、アンスリアが話しかけてきた。
道中あまり話をしなかったのはルーリィを気にしてらしい。
「マーリンにも原因はあるけど、この半年での君の行動は仕方がないものよ。
市街に出るのが中止になるくらいなら問題ないわ」
「でも少しは影響があるでしょ。相手は第一級将官で女王の末娘。代わりの人も用意せずにただ約束をは後にしたとなれば邪推する人もいる。
想像が働くからこそ勘違いをする人もね。」
「…勘違い?」
アンスリアは不思議そうな顔で僕を見てくるけど、ルーリィが何かの魔術具を持って戻ってきた。
「お帰りルーリィ。何かいいのを見つけたの?」
「うん。この指輪」
そう言ってルーリィが僕に見せてきたのは見たことのない二つの指輪だった。
横で見ていたアンスリアが説明してくれる。
「精神魔法術補助の指輪。ペアの指輪をつけている人へ精神魔術をより精密に強く掛けれるようになる指輪だね。
とは言っても自身の感情を伝えやすくするくらいの効力しかないけど」
「ヘェ〜こういうのもあるんだ。ルーリィはこれに興味があるの?」
そう聞くとルーリィ小さくうなづいて、片方を僕に渡してくるので、僕はそれを受け取って右手の人差し指に嵌めた。
ルーリィも右手の中指に嵌めて早速効果を確かめようとしている。
しかし特になんの変化もないので、ルーリィは少しづつ焦り始めるんだけど、そこをアンスリアがフォローに入ってくれた。
「ルーリィちゃん、慣れないうちは先ずお互いに触れ合ってやるいい。慣れてきたら触れなくても感情を伝えられる様になってくるし、魔法術と組み合わせればもっと色々なことができるらしいから」
アンスリアのアドバイスに従いルーリィは僕と手を繋いで再度効力を確かめようと挑戦する。
するとなんとなく僕の感情じゃない期待と焦りが混ざり合った感情が伝わってきた。
僕も同じようにやってみると、ルーリィが目に見えて表情を綻ばせる。
「これってマーリン兄さんの感情?」
「ルーリィにも伝わったみたいだね。僕の方にもちゃんと伝わってきたよ」
その後何回も同じような事を繰り返しようやく満足したルーリィは一直線に購入して戻ってきて、僕に片方の指輪を渡してきた。
それからはルーリィの機嫌も明らかに良くなり、アンスリアとも少しずつ話すようになってきてる。
アンスリアもそれでようやく肩の荷が下りてきたのかいつものように話せはじめてきた。
アンスリアの案内の元ハーメルンを観光し、三人でご飯を食べて、軽く話しながら散歩する。
終わってみればルーリィとらアンスリアは普通に話せるくらいには打ち解けあっていた。
そのままアンスリアは僕で、シェーラ母さんとルーリィがスフィネラさんに護衛されて北領同盟王国に戻る時は、一緒に見送りしたしね。
「マーリンとルーリィは仲が本当にいいのね」
「まぁね。割といい方だと思うよ」
二人を見送ってからアンスリアは独り言のように呟く。
「…本当に羨ましい…」




