それぞれの思い
「スフィ貴方がマーリンの護衛をしてくれていると聞いて私は凄く嬉しかったですよ」
「う、うん。シェーラの子供だし、」
「少し会わない内に第一級将官にまでなっていたなんて知りませんでしたよ。手紙で教えてくれればお祝いの品をちゃんと用意したのですが」
「いいよっ、私はシェーラとまた会えただけで、その嬉しいから…」
いや本当に誰ですか?スフィネラさんですか貴方?記憶喪失にでもなったんですか?
そんな事を考えてしまうくらいに目の前の女性の姿が信じられない。
出会った瞬間からナンパをしてくる様なスフィネラさんが、本命であるだろうシェーラ母さんを目の前にした瞬間に恋愛経験皆無の女性になっている。
シェーラ母さんはなんの違和感もないみたいだけど、僕からしたら違和感しかない。
顔を見たいだろうに恥ずかしさからかまともにシェーラ母さんの顔を見れないスフィネラさん。
近寄って触れたいだろうに微妙な距離でモジモジしているスフィネラさん。
もっといろんな事を喋りたいだろうに、外野の主導権をシェーラ母さんに丸投げして、詰まりながら喋るスフィネラさん。
「(誰ですかこの人?)」
なんというか、うん。
僕は口を出さない様にしていよう。
ルーリィの頭を撫でながら、なんとも微笑ましい光景を僕は眺めていることにした。
「そういえばいつまでこっちにいれるの?」
「明後日までってシェーラ母さんが言ってたよ」
「やっぱりそれくらいの期間なんだろうね。明日は学園の授業があるけど、明後日は休みだから一日中遊べるよ」
「うん。楽しみにしてるね」
シェーラ母さんはスフィネラさんの家に泊まり、ルーリィは僕の寮に泊まることになった。
スフィネラさんがもしも僕の知っているスファネラさんのままなら、絶対にシェーラ母さんをスフィネラさんの家に泊めようとは思わなかったけど、昼の有様を見たら無理に反対しようとは思えなかったんだ。
あれがもし僕に安心させ、シェーラ母さんを自分の家にスムーズに連れ込む為の演技だったなら大したものだと思う。
明日の朝シェーラ母さんに何かあったら、エル父さんに全力で謝ろう。謝っても多分殺されると思うけど。
………ちょっと今からスフィネラさんの家に行ってこようかな?
「どうしたのマーリン兄さん?」
僕の動揺が伝わってしまったのか、腕の中にいたルーリィが僕の名前を呼んでくる。
「ううん。何にもないよ。」
疑問は残ってるみたいだけど、またルーリィは体を丸めて眠りに入ろうとしていた。
二年半くらい前の僕が家を出る一日前にも、ルーリィとこうして一緒に寝た覚えがある。
「ルーリィも大きくなったね。僕が覚えてるルーリィはもっともっと小さかったのに」
「ふふ、じゃあ今の私はどれくらい成長できてる」
僕の予想では昔の話を持ち出したことに慌てるかと思ってたんだけど、ルーリィは慌てることなく僕に顔を近づけて逆に僕に問うてくる。
抱き締めるでもなく、ただ体全体が触れるくらいの距離
「そうだね。予想通り綺麗になってきてるよ。
シェーラ母さんとはまた違ったタイプの美人になると思うよ」
「…私はマーリン兄さんがどう思ってるのかを聞きたかったんだよ?」
「自慢の妹だと思ってるよ。エル父さんやルート兄さんもきっとそう思ってるしね」
じゅう〜
「ん、どうしたのルーリィ…?」
「ちゃんと…私がマーリン兄さんから見ても美人に成長できてるのかなって思って…」
体に感じるルーリィの体を感じながら、ルーリィの髪をすくように頭を撫でる。
「僕から見ても美人になってきてるよ。もう十分 ルーリィは美少女だし、そんなに慌てて成長しなくても大丈夫だよ」
「マーリン兄さんがそう言うと少し変に感じる」
「僕の場合は普通に成長したかっただけだよ。早く大人になりたいとは思ってないしね」
「私は早く大人になりたいな。マーリン兄さんよりも早く大人になって、頼ってもらえるように。守れるように」
「はは、一応僕がお兄ちゃんだから守る側でいたいんだけどね。
まぁうん。いつか頼る事があったらその時はお願いね」
きっとルーリィに一方的に守られる事はないと思うけど、助け合う事はきっとあるだろう。
スカイが僕に教えてくれた通り、僕が人に頼り切ることが出来ないんだとしても、頼る事は出来る人間らしいからね。
「ねぇマーリン兄さん。」
「どうしたのルーリィ」
「無茶な事はしないで、今みたいに少しの間離れるだけだったら我慢できるから私。
だから死んじゃう様な無茶な事はしないでね。
……私を見捨てないで…」
子供の頃から色々やらかしているせいだろうか、ルーリィは僕が思っている以上に僕を心配してるみたいだね。
死んじゃいそうな事はスカイとの約束があるから守れそうにないけど、僕がルーリィを見捨てるなんて事はありえない。
「大丈夫だよ。僕がルーリィを見捨てる事なんて絶対にないから。ルーリィが危ない目にあってたら、その時僕がどんな状況でもルーリィを守りに行くからね。」
「……( )」
「なんて言ったの?」
「ううん。何でもないの」
そう言って僕に抱きついたまま眠ろうとするルーリィの頭を撫でながら、ルーリィの頭をなでる。
そしてちゃんとルーリィを安心させてあげられるくらいに強くなろう。
どの道僕はスカイとの約束もあるからね。
スカイとは言葉を交わせた。それでもまだスカイの事をちゃんと理解できていない様に思う。
僕なりにスカイの願いを叶える為の方法を考えてみたけど、強くなるしかないじゃないかという結論になった。
強くなる事でしかわからない事もきっとあると思うから。
「僕はもっと強くならないとね」
スカイが僕に強くなる事を要求してきた。そこにちゃんとした理由があると僕は確信している。
「はじめまして、というには少し変な表現になってしまいますね。
シェヘラザード。私はエファーラル・ティリアーノと言います。そこにいるスフィラネの母親でもありますね」
「お初にお目にかかりますエルファエルの女王陛下。私は北領同盟王国教育組合五大幹部が一人ヴィオレラの御名の元、使者として参りましたシェヘラザードでございます。」
「では一応の手順は踏みましたので、ここからは楽に話しましょう。元々の予定では明日の正午にする予定の会話を、スフィネラの楽しみを奪う形で今日する事にしたのは私ですからね」
「お言葉に甘えます。それにしても驚きました。女王陛下がこの様に接触してくるとは思っていませんでしたから」
スフィのお家にお邪魔すると、お昼マーリンの寮で見かけた寮母さんがリビングでお茶の用意をしていたのですから。
私は当たり前ですが、スフィもとても驚いていました。
「少しだけ二人を驚かしたかったので、ちょっとしたサプライズだったのですがね。スフィネラが思いの外落ち込んでしまいましたから」
「お母様は私がどれだけこの日を楽しみにしていたかを知っているはずですよ。」
「私としては手伝いに来たのですよスフィネラ。
あれだけ沢山練習していたのに、肝心のシェヘラザードの前でそれではなんの意味もありませんよ」
「うっ、ですがこうして家に招けています!」
「そしてこのまま何もせず寝るだけでしょう?」
「そ、それはまだわからないでしょう」
「学生の時から何も進歩していませんねスフィネラ。それでも私の娘ですか」
「ぅぅ…」
お話が盛り上がっているのはわかるのですが、内容にうまくついていけません。
わたしが関わっている事は理解できるのですが、どの様に扱われているのかが把握できないですね。
「っと、ごめんなさいねシェヘラザード。置いて行ってしまって。
ではマーリンの事について軽くお話をしましょうか。」
「はい。談笑はその後に」
まずは護衛をしていたスフィからマーリンの日頃の行いを聞き、エファーラル・ティリアーノ様から客観的なマーリンの立ち位置と、スフィが護衛を離れていた数日の様子を聞けました。
まさか女王陛下自らマーリンを監視していたとは驚きですが、マーリンの状況を聞けば納得です。
まさかたった半年でこの国の勢力争いの中心にまでなっているとは予想外でした。
そうなっていても不思議ではないのですが、マーリンからそこに行くとは考えられないので、何かしら外からの要因が関係したのでしょう。
そこまでを聞き、エルファエルとしてのマーリンへの対応を聞いたところで、私の北両同盟王国教育組合からの使者としての役目は終わりました。
「ではここからはお楽しみの時間ですね。
スフィネラからここ数年貴方の話を聞かされていましてね。わたし自身とてもシェヘラザードに興味があるのですよ」
「お母様!いくらお母様とはいえ、シェーラはダメです!!」
「どうして?別に貴方のものでもないでしょう?」
「っそうですがダメなものはダメです!!」
こんなに言葉をはっきりというスフィは珍しいです。何故わたしの話で盛り上がっているのかはわからないですが、楽しい夜になりそうですね。




