甘えん坊ルーリィ
「いらっしゃいルーリィ。シェーラ母さん」
「マーリン兄さん!」
ボフッ
一年半ぶりに会うルーリィは今は僕と同じくらいか、ほぼ同じくらいになっていた。
というよりもやっぱり僕の身長が伸びているという事だろう。
スカイに出会った日以降は《天性の肉体》以外の全てを封じられていたから、身体強化も常識の範囲でしかやっていない。
そのおかげで普通に僕の体は成長し、《天性の肉体》による上方補正もかかって筋肉のつき方から何までいい感じになっている。
「マーリン一年半ぶりです。この短い間に見違えるほどしましたね。」
「…シェーラ母さん…。シェーラ母さん達が教えてくれなかった僕が成長しない理由もわかったからね。ようやく同年代の身長に追いついてきたよ」
「あの幼い少女の様なマーリンはとても可愛らしかったので……つい。」
「つい、じゃ無いよ。僕がどれだけ悩んでいたことか。まさか身体強化が全員だなんて思わないよ」
「普通は起こることのない事例ですからね。
ですがいずれ気付いて成長するなら、出来るだけ幼い姿を楽しんだ方がお得ですよマーリン」
シェーラ母さんは成長が以上に遅かった理由を、 僕に黙っていた事に、少しも悪びれることなくそう言ってくる。
言い分自体は間違っていないから、反論しようにも出来ない。出来るかもしれないけど、追い詰めきれず無駄になるだろうからね。
すんっすんっ
「それに成長してもマーリンは長髪がよく似合いますね。より魅力的になっていますよ」
「それは僕を褒めてるのかな?僕的にはすごく貶されている気がするんだけど、気のせいだよね?」
じゅうぅ〜〜
「もちろん褒めていますよ。スフィもここまでの道中でマーリン容姿をすごく褒めていましたし」
「あの人は色々と私情が混ざってるから参考にしにくいよ。……それよりも…」
ぐりぐりぐり
「ルーリィ?…どうしたの?ずっと気になってたんだけど」
抱きついてきたと思ったらそのまま僕の首筋や髪
の匂いを嗅いで、抱きつく力に強弱をつけたり、額を僕の頭に押し付けてきたりと。
兄として再開したときにこれだけ喜んでくれるのは素直に嬉しいけど、一年前に別れた時よりもスキンシップが激しくなっていて驚く。
こういうのは年齢が上がるごとに落ち着く物だとばかり思っていたから。
僕が呼び掛けた事でルーリィは、顔を向かい合わせられるジリジリの距離まで体を離し、なんというか悲しそうな目で僕を見てくる。
「……嫌だった、マーリン兄さん?」
「んっと、嫌とかじゃなくてね。少し驚いたというか…」
「後二年半ずっと会えないと思ってたから……。
会えて嬉しくて…。へん、かな?」
「ううん、変じゃないよ。僕もルーリィとこうして会えて嬉しいからね」
いらぬ発言をしてしまったかと思い咄嗟にフォローを入れると、ルーリィも機嫌を良くしたのか表情も柔らかくなり、また抱きついてくる。
とはいえルーリィは僕の体と密着する様に抱きついてきている為、僕の体には色々と押し付けられている状態だ。
まだ十歳程とはいえ、前世の子供基準ではない為十分に中学生と言えるくらいにはなっているルーリィ。
兄としてはこの抱きしめ合い方少し心配になるというかなんというか。僕やルート兄さん、エル父さんにならなんの問題もないんだけど、これを他の男子にやったとしたら大問題だ。
まず間違いなくエル父さんは瞬時に動くだろうし、ルート兄さんは穏便に動き出すだろう。
僕はジリジリまで本人達に任せるよ。下手な事を相手がやりそうになったら介入するけどね。
「そういえばスフィネラさんはどうしたの?シェーラ母さんからそう簡単に離れるとは思わないんだけど」
「?、スフィネラなら仕事の引き継ぎをしに、ここに私達を案内してからすぐにどこかにいきましたよ。スフィネラは学生の頃から静かで真面目で、少しシャイな女性ですからね。」
「っえ?」
「、?」
おかしい。いくらなんでも認識に差があり過ぎるし、シェーラ母さんが濁した表現をしているとしても行き過ぎでは?
静かで真面目はまだわかる。殆どは仕事に忠実だし、静かだという印象も最初はあったからね。
でもシャイは言い過ぎではなかろうか?
この半年そんなスフィネラさんを僕は見たことが無いんだけど。むしろ真反対な姿しか見ていない様な気がするんだけど。
状況が分からなくなった僕は、ルーリィとくっついたままベッドに腰掛け、体制を整える。
それに合わせてシェーラ母さんもベッドの横に置いてある椅子に座ってくれた。
トンッ
部屋全体が木でできている寮部屋の為、植物を成長させる事で僕が動かなくても、大体のものは自由に運べる。
部屋の隅っこにあるコップ数個と茶葉が入った壺をシェーラ母さんの前にある机に運び、そのまま植物を操ってお茶を煎れる。
お湯は魔術でチョチョイと用意してだ。慣れたとはいえすごくファンタジーを感じるよね。
「スフィネラから聞いていた通り、こっちではこうしているのですねマーリン」
「うん。こっちに僕が呼ばれた理由も理由だし、この方がわかりやすいかなって。
それに剣を扱うのにはここは適していない気がしてね」
「剣を扱うに見合う人はいませんか?」
「一人いたんだけど、その人とは剣で語る必要がないって感じかな。」
「少し変わりましたか、マーリン」
「ちょっとはね。色々と旅をしてみて気付かされる事はあったよ。
僕がどんな風に行きてきたのかとか、生きていくのかとかね。それに大きな目標も出来たし、悪くない旅だったよ。
それもこれもシェーラ母さん達が用意してくれたおかげだね。ありがとう」
僕が煎れたお茶を飲んでいたシェーラ母さんの動きが止まり、僕の顔をじっと見つめてくる。
「えっと、何か変なこと言ったかな僕?」
僕がそう聞くとシェーラ母さんは静かにコップを机に置いて
「いえ…本当にこの短い間に大きく成長したのですね。手紙に書いていたベテラン冒険者の方は素晴らしい人だったのでしょう。
帰ったときにエルにも伝えておきますね。きっとすごく喜ぶでしょうから」
「うん。凄い人だったよ。色々と厳しい人だったけど、大切な事を色々と教えてもらったからね。
"理解者"って感じの人なのかな。」
ピクッ
「それとエル父さんにもお礼を言っておいて。
機会があればまた挑戦するつもりだってこともね。」
「…ふふっ。わかりました。しっかりと伝えておきます。」
むくっ
「ねぇマーリン兄さん。"理解者"って…?」
僕の足の間に収まる様にして僕にもたれかかっていたルーリィが、顔を上げて聞いてくる。
少し言い回しが分かりにくかったかな?
「師匠として弟子の僕の事を良く見ててくれたんってことかな。問題点とか課題とかを結構厳しい方法で僕に教えてくれたり、結果的には凄くお世話になったんだ」
「……師弟の関係で…。そうなんだ。…マーリン兄さんはどうなの?」
「僕が師匠を理解してるかって事?」
「…うん。そういう意味で」
意外なところを真剣に聞いてくる。まぁ僕の今までの行動とかを知ってるから違和感があるのかな?
「僕は違うよ。自分の事で精一杯だったからね。
気づかされた所を飲み込むので忙しすぎたから」
「そうなんだね。…よかった」
それだけを確認すると、ルーリィはまた体を丸めて僕に体を預けてくる。
何が嬉しかったんだろう?
機嫌が良いなら問題はないんだけどね。
シェーラ母さんの方を見れば、何故か凄く微笑ましい目で見られるので、何かしらの事情を知っているのだろう。
出来れば聞き出したい所だけど、カードがあちらにある為、今突っ込めば必ず手痛い反撃に遭う事になる。
くいっ
シェーラ母さんと睨めっこしていると、ルーリィに服を引っ張られた。私にも構えって事なのかな?
初めて魔術を使ってあやした時を思い出す姿で、なんとなく懐かしい気分になる。
しばらくシェーラ母さんに見つめられたまま、ルーリィに構っていると部屋に誰かが訪れてきた。
こんっこんっ
「マーリンくん、スフィネラだが入っていいかな?」
「はい。大丈夫ですよ」
そうして扉が開いて、向こう側にいるのは間違いなくスフィネラさんだ。
しかし僕が最後に見たスフィネラさんと少し雰囲気が違う。よそよそしいというか、緊張している様な感じがする。
「あらスフィ。無事に手続きはすみましたか?」
「あっあぁ。えっとうん、無事に済んだよシェーラ。」
あれ?誰ですかこの人?




