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見当たらぬ護衛

「マーリン君聞いたわよ。また模擬戦は引き分けになったそうですね」


「寮母さん。情報が早いですね。ついさっき結果が出たばかりなんですよ?」


「ここは多くの人が通りますし、私はその上人脈がありますからね。

何より何かと注目される要素が多い学年ですから、そこで学園史上初の五連続引き分けとなれば、数分で学園中に知れ渡りますよ」


模擬戦も終わり自分の部屋に戻る途中、良く世間話をするくらいに仲が良くなった寮母さんに呼び止められた。


「ハーメルンの学園は生徒による工夫を許容していますから、引き分け自体は珍しいことではありません。ですが工夫ができるからこそ、引き分けが続くこともまたありえないんですよ?」


「たまたまみんなが努力した結果ですよ。青組は大勢力ですけどその数を生かし切れていない。

緑は数を補うために連携を高めて、計画もしっかり立ててます。

漁夫の利を狙って頑張る僕は決定打にかけながら、ちょこちょこと邪魔をする。

それが偶然バランスが取れしまっただけなんですよ」


「ふふ…言葉にしてみれば簡単な様に聞こえますね。マーリン君は今の前期一年生がなんて呼ばれているか知っていますか?」


「何か変な名前をつけられているんですか?」


「【暗雲の学年】と呼ばれていますよ。もともと学園の外の勢力争いの縮図であった学年ということもあり、学園での出来事がほぼ直接外に影響します。」


祝福の世代に、国全体での第一勢力と第二勢力の長子が固まった学年。確かにファーニアがアンスリアよりも成績でうわまったというだけで、勢力図に影響を及ぼすだろうね。


「最初は出来レースになると多くの人が思っていました。

学園の講師を含めてです。

それが蓋を開けてみれば5戦5引き分け。

圧倒的に有利でありながらのこの結果に多くの人が戸惑っています。

〔実りの大樹〕〔新緑の風〕などのクランをはじめ、それこそ学園外の勢力まで」


「確かに予想と違う出来事が起きたらどこも驚くでしょうね。

一回の学生。それもこの国の人ではない僕に情報として教えていいものかは疑問に思いますが」


「ふふふっこれくらいの事なら既に把握しているのでしょマーリン君は。

私はここで人の流れを見ているのですよ。

その人の流れで、誰にどんな情報が流れているのかは簡単に予想がつきます」


恐ろしく難しい事を簡単に言う寮母さん。

薄々わかっていたけど、この寮母さんは只者じゃないらしいね。

通った人達を見ただけで情報の流れを予想できると言う事は、通った人がどこに所属していて、どんな情報を持っているのか。生活の流れまで知っておかなければいけないんだ。

きっとエル父さんでもそれ程の情報を管理して利用する事は難しいだろう。


「勢力争いに暗雲を落とす学年。その異質な学年の中でさえ目を引く異質な生徒とくれば、そこに目が向くのは必然ですよ」


「……漁夫の利を狙って一人勝ちを狙ってみたけど、そろそろ限界が来てるのかな」


ここ最近になって色んな勢力からの接触も増えてきた。

内容は様々。勧誘や交渉、脅し。他勢力への牽制目的に会いに来ただけの人もいた。

ここまで色んな勢力から接触されば、いずれどこかの勢力かが決定的な行動に出る。

そうなってしまえばまず真っ先に不安要素の僕が狙われるだろう。

殺されはしないだろうけど、身動きはできなくなる。


「困った事があれば私に相談してくださいね。貸し一つでお手伝いしますので。」


「寮母さんに貸しを作るのは避けたいんだけどね」


「あら、それはまた。私は皆さんの優しいだけのただの寮母さんですよ」


「ただの寮母さんとは思えないですけど、頼れる寮母さんだとは思います。どうしても手が回らなくなったらお願いしますよ」


絶対に頼らない様にしようと心に決めながらそう言うと、寮母さんは笑いながら本題に入る。


「ふふ、マーリン君は感情を隠すのが上手ですね。ではそろそろ本題に入りますよ。

エファーラル・スフィラネ一級将官様からの言伝もあり、マーリン君のお母様と妹様がこの寮を出入りする許可はおりました。

一度私の所に許可証を取りに来て頂ければ、お帰りになるまで自由です。」


「そうですか。じゃあ数日後シェーラ母さん達と合流したらとりに来ますね。」


「はい。呼び止めてしまいごめんなさいねマーリン君」


「問題ないですよ。僕に関係する用件でしたし」




寮母さんと別れ、半年ほど暮らしている自分の部屋に向かう。半年も同じ場所で過ごせば、生活感が出てくるもので、部屋に入るだけで安心する。

荷物を机に置いて、制服を壁にかけ、弦楽器と杖が合わさった様な形になっているユグドラシルの剣をベッドのそばに立てかけた。


「まさか、本当にシェーラ母さん達が来るとは思ってなかったよ。流石にエル父さんは役職や仕事の事もあり来れないみたいだけど、エル父さんがシェーラ母さんとルーリィを来させるとは予想できなかったね。」


あの愛妻家のエル父さんはまずシェーラ母さんとルーリィだけで、エルファエルに行かせることを承諾するはずがない。

まず間違いなく、その話が出た時エル父さんはシェーラ母さんを説得したと思う。

その上で来るという結果になったという事は、エル父さんを納得させるだけの何かをシェーラ母さんは用意していたという事だ。


「どんな理由なら、息子に女装させて酔っ払いの相手をさせる人を説得できるのかな?

今後の参考に是非聞いておきたい所だけど、なんとなくシェーラ母さんしか出来なさそうな方法の気がしなくもないだよね」


それならわざわざ聞くだけ無駄だし、聞く必要はないか。

手紙の内容からエルファエルに入るまではエル父さんが、エルファエルからはスフィラネさんが護衛するみたいだから安心ではあるね。


「二人とも張り切り過ぎなほどに張り切って護衛するだろうからね」


あのエル父さんに、スフィラネさん。シェーラ母さん大好きな二人だ。

スフィラネさんはこの半年で僕へ、シェーラ母さん愛を伝えられた。スフィラネさんはお酒が入ったらもうそれは凄い。


最初の一杯は

一章 学園での出会い

二章 始まる恋

三章 学園の革命

四章 伝わらぬ愛。

五章 無念の別れ

を語られ


二杯目で僕をシェーラ母さんと勘違いし出す。

三杯目で完全に思い込んで口説きだす。

四杯目で暴走しだす。

五杯目でしばらく暴走した後、寝落ちする。


そんなやりとりを事あるごとに付き合わされてるし、シェーラ母さん達からこっちに来るという内容の手紙が届いた時。

スフィラネさんはものすごいテンションで僕の部屋に突入してきて、感謝の嵐をお見舞いしてきた。

その流れでスフィラネの財産半分を渡されそうになるくらいには、凄い喜び様だったね。


「もうスフィラネさんはシェーラ母さん達を迎えにハーメルンを出発してるはずなんだけど、その代わりになる僕の監視役の人が来ない」


スフィラネさんは僕の護衛兼監視役のはずだから、スフィラネさんがいない時は代わりの人が来るはずなんだけど。今のところそれらしい人はいない。

本当に誰もいないとは考えられないから、もともと代わりのなる人が僕の周りにいたって事なんだと思うんだけど。


「一番それらしいのは寮母さんなんだけど、護衛にしてはあまりに実力不足だと思う。

肉体や魔力の流れが戦う事を想定しているものとはとても思えないんだよね」


なら間接的か、《神眼{把握}》で見つからないほどの実力者って事か。


「一体誰なのかな?」

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