過去のトラウマ、現在の困惑
「あぁどうしてスウィフト様の御息女が出来損ないで、リヴィウネ様の御息女が祝福の子なのだ」
「今までのスウィフト様のご苦労が全て水の泡ではないか…」
「せめて祝福の子ではないにしろ、才有るお方であったなら」
「どうして同じ歳でお生まれになるのか、数年早くか遅くお生まれになられていたなら」
「最早我らに再起を図れるチャンスは無かろう。終わりじゃ、アンスリア様がスフィフト様の努力を全て台無しにしてしまった」
幼い頃の私は周りの人間全てに期待されていた。
遊ぶ時間などなく、起きては弓を引いたし、寝る間も惜しんで勉学に励んだ。
周りの大人達が私にそう求め、私は期待されているのだと思い込み、その期待に応えようと必死だった。
それが私の将来への期待などではなく、私の不出来さを補うものだとも知らずに。
「素晴らしいアルスリア様!!
さあもっと研鑽をお積みください!才能がございます!!」
これは私の弓の指導官がいつも私に言っていた言葉
「……やはりダメですね。才能がないとは言いませんが、天才とはお世辞にも言えない。
ファーニア様と比べるのがお可哀想だ」
いつも私に聞かれない様に漏らしていた指導官の言葉。
「エルファエル文字は完璧でございます。アンスリア様の落としからすると驚くべきスピードでございます。さぁこのまま多様な言語を覚えましょう!」
これは私に付けられた講師の言葉。
「ファーニア様は数ヶ月前にご習得されましたのに、ジョブとスキル以外でも敵わないのですかアンスリア様は…」
いつも私が退室した後扉の向こうから聞こえてきた講師の独り言。
「アンスリア様、今日のドレス非常によく似合っておられる。
アンスリア様は将来お母君に似た美しき女性になられるだろう」
パーティーで私を称賛した誰かの言葉
「見た目はややファーニア様よりもお母君のお陰で優れているとは言え、愛嬌の無さは否めんな。
ファーニア様はその点においてアンスリア様を圧倒している」
称賛してきた誰かが漏らしていた本音の言葉
私が誰かと比べられていて、その誰かよりも私が遥かに劣っている事は薄々気がついていた。
でも周りの人は私に頑張れと言う。まだ努力すれば私をちゃんと観てもらえると思っていた。
比べる相手としてではなく、私自身をみんなが見てくれると、そう幼い私は疑う事がなかった。
いつも悲しそうに私を見るお母様も、言葉を交わす機会すらほとんどないお父様も、きっと私を褒めてくれると信じていた。
指の皮が剥がれても弓を引いた。才能がないのなら、その誰かよりも多く弓を引いて頑張るしかないと思ったから。
使える時間全てを使い勉強に励んだ。誰かよりも理解するスピードが遅いなら、遅れを取り戻すために多くの時間を費やすしかないと思ったから。
鏡を見ながら表情を作る練習をし、周りの大人達の会話に耳を澄まして、会話の仕方を学ぼうとした。見た目では勝負できているなら、ここが最も可能性があると思ったから。
それから数年後、私とファーニアの社交界へのお披露目がされることになった。
私とファーニアだけではなく、その他の貴族の子供達も一緒にお披露目する場ではあったけど、私にとって重要だったのはファーニアだけ。
お披露目の会ではお披露目される子供達が弓を三回引き、自己の力を示す事になっている。私からしたら私を見てもらえる一世一代のチャンスだった。
魔法術なしの百メートル先の的を狙い、三度弓を引く。お披露目される多くの子達は三射を当てるか、外して一射だけ。
エルフが他種族の人に誇る、技能。エルフの代表になる貴族達はそれくらいできて当たり前だとされている。
私はそこに私の全部をかけていた。
体に刻みつけた型を完璧に遂行し、全てが静止した瞬間矢を放つ。
一射目を放つ。矢は綺麗な流線を描き、遠く離れた的にある中央の印を射抜く。それだけで倒れてしまいそうな疲労を感じた。
二射目を放つ。その矢は先の矢の流線をなぞる様に、刺さっている矢のすぐ横を射抜いた。
体に力が入らない。周りの音も聞こえない。視界も霞み始めていた。
三射目を放つ。今までの中で最も綺麗な一射で、窓の中心を射抜くと矢を離した瞬間に確信した。
中心を射抜いたことを確信した私の体は徐々に感覚を取り戻し、周りが私へ大きな歓声をあげている事に気付いた。
全てが報われたと思える瞬間だった。
ダンッ ダンッ ダンッ
たとえ一瞬の幻。束の間の幸福だったとしても、確かに私はあの時幸せだった。
歓声に包まれた会場に響いた弦音。静まり返った会場を見渡せば、私から離れた場所で弓を持った少女が無邪気に笑い、少女から百五十メートルほど離れた的の中心には一本の矢が突き刺さっている。
いえ、一本ではなかった。中心に刺さる矢左右には裂かれた矢が二つづつある。つまりは一部もずれる事なく先にかかった矢を射抜いたと言う事だ。二回続けて、間髪入れずに、私の1.5倍の距離からいとも簡単に。
私の存在はその瞬間ただの引き立て役になり、正式にファーニアの出来損ないの烙印を押された。
あれから数年後。お父様の勢力は第一勢力から第二勢力へと落ち、周りは自然と私を避ける様になった。
幼い頃私に頑張れと言ってきた人たちはもう何も私に言ってこない。何をさせても無駄だと確信しているからだろう。努力させるだけ無駄だと。
お父様は家に帰ってくる事がほとんど無くなった。帰ってきたとしても一瞬で、言葉を交わす機会はない。もう何年会話していないだろう?
お母様は…私と会うと泣かれてしまう。
申し訳ありませんお母様。アンスリアが不出来なばかりに。
私誰に言われるからでもなく鍛錬と勉学に励んだ。それしかできる事はなかったし、これ以上お父様やお母様に私の不出来さで迷惑をかけたくなかったから。
数年後体も成長し、ハーメルンの学園に通う事になった。ファーニアと共にだ。
六年間私の惨めな生活が決まったと思っていた。
それが
「青組 白組 緑組の模擬戦はどの組も勝利条件を満たせていないため引き分けとする!」
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「デルアドレ、貴方がマーリンに好きにさせるからこうなったのよ!!」
「そう言うファーニア、君こそアルスリア達を始まってすぐに倒すと言っていた割に、一人も倒せていないじゃないか?
アンスリア達が僕の邪魔をしたせいで僕はマーリンを倒しきれなかったんだ。責任と言うならむしろ君にあるだろう?」
「なんですって!?」
十数分全力で動き回っていたせいで、呼吸が乱れている。
青組はファーニアを始め、もう一人の祝福のことデルアドレがいる事からクラスの大半が集まり。
私の緑組は、〔新緑の風〕に属する数人。
勝ち目はほぼなく、少数で真正面から戦えるはずもない私達は、体力の限界まで動き回り、相手を撹乱しながら戦った。
「はぁっ…、はぁっ…。みんな大丈夫?」
「ぜぇ、ぜぇ。はぁ…。はいアンスリア様がフォローしてくださったので、全員無事です。。」
青組も疲労は顔に出ているものの、数の違いから私達ほど疲労はしていない。
少ない人数なりに連携も取れた。いい戦いをしたとは言え、人数の違いによる余力の差はどうしようも無い。
「引き分けの為、三つの組み全ての生徒一律に評価を下します。」
講師はそう私たちにいつもと同じ事を言った後、模擬戦場から姿を消す。
模擬戦は学園の実技評価のほとんどを占める重要な試験であり、勝者チームと敗者チームでは評価に大きな差がある。
エルファエルの基本方針として、謀略を許している為、人数に制限はなく、二つ以上の組みがあれば問題ない。
その為最初の模擬戦からファーニアはデルアドレと手を組み、クラスをまとめ上げ多数対少数を作り上げた。
「今回もどうにか引き分けに持ち込む事ができましたね。アンスリア様」
「えぇ、負けてしまうよりも引き分けの方がまだマシですから。みんなもよく休んでください」
「はい。ではまた」
「また、」
ファーニアが私と同じ組にならない事から、少数組に私がなるのが決まり。親の派閥の関係で私に嫌々味方してくれていたみんなは、模擬戦を数回経て少しずつちゃんと仲間意識が出てきた。
それも圧倒的に不利な立場の私達が、全ての模擬戦で引き分けを掴み取っているからだろう。
そう、今回だけが特別なわけじゃなく、今まで5回あった模擬戦全てで引き分けになっている。
それは奇跡に等しい。
当初一人を除いて誰も予想していなかった事だろう。
「お疲れ様アンスリア。」
今私に話しかけてきているマーリン以外は。
「お疲れ様マーリン。また貴方のおかげで引き分けにできたわ」
「大袈裟だよ。僕は全員に同士討ちする様に仕向けているだけだからね。攻撃魔法術が使えない僕じゃ引き分けには持っていけないよ」
ファーニアとデルアドレの青組と私の緑組
そして最後の白組はマーリン一人だけだ。
最初の模擬戦の時、青か緑に入ると思っていたマーリンはクラス全員の予想を裏切り新たな白組を一人で作った。
マーリンが強い事は最初の試験の時からクラス全員が認識していた。そして授業でも全てを難なくとこなしていた事からそれは事実として受け止められている。
マーリンの他の留学生はまず間違いなく勝つであろうファーニアについており、ファーニアと私以外は、マーリンも同じくファーニアに着くと予想していた。
ファーニアと私の予想は、緑につき戦力のバランスを取るだろうと言うものだったと思う。
「たった一人だけで青と緑にを混乱させてるんだから、この引き分けはマーリンの力によるところが大きい。誰も口にはしないがそう思っているよ」
しかしマーリンは単独でバランスを取る事を選択し、実際見事に結果を引き分けに持っていっている。
「すごいなマーリンは。君のおかげで数人ではあるけれど仲間になってくれる人もできた。
全部君のおかげだよ」
マーリンがいなければ私には仲間なんてできなかっただろうし、味方してくれていたクラスメイトまで私に巻き込んで辛い目に合わせる結果になっていた。また私の不出来さで色んな人に迷惑をかせてしまうところだった。
「アンスリアは真面目だね。もう少し肩の力を抜いて、息をしてたらいいと思うよ。
意外と見えていないだけでアンスリアを気にかけている人はいっぱいいると思うからね」
「えっ、」
「じゃあまた明日学園でね。アンスリア」
そう言い残して歩いていく美しい少年の後ろ姿を見ながら、私はその言葉の意味がわからずにいた。




