不穏な空気
「ご機嫌様マーリン。と、アンスリア」
予想通りアンスリアをちゃんと相手にはしないという姿勢でくるようだね。アンスリアもそこを無理に割り込んでするつもりはないらしい。
いつもの堂々とした雰囲気が今はか弱く見える。
「こんにちはファーニアさん。それで何の御用なのかな?」
「貴様!!ファーニア様にその態度は何だ!!」
座ったまま再度聞き返したのが気に障ったのか、ファーニアの後ろにいた一人の男子生徒が、怒鳴り声を上げてきた。
何だ?と言われても、ここは学園だし、そちらから話しかけてきたわけで、僕の対応の仕方には問題ない。
わざわざ立ち上がって応対するとか、ましてや跪いて対応しなければいけない相手ではないんだから。
「僕は同級生の人と会話をしているつもりなんですが、君たちはそうではないんですか?
最初に言ってくださればそれ相応の対応をしますよ」
「なっ!!貴様の目の前におられる方はエファーラル・リヴィウネの長子であり、祝福を受けしファーニア様だぞ!!」
「知ってるよ。同じAクラスのファーニアさんだよね。君達枯らしたら違うのかもしれないけど、僕にとってはただのクラスメイト以上の関係はないよ」
どよぉっ……
ファーニアやアンスリアをはじめ、その僕の発言に食堂ないすべての人が動揺する。
しかしその中で僕に喋りかけていた男子生徒だけは怒りをあらわにしている。
「っっお前ぇ!!」
武器は手にとっていないあたり、まだちゃんと理性は残ってるみたいだけど、殴りかかってきた時点で僕には対応する権利ができる。
トンッ
僕が座っている木製の椅子に《clown mask》で同調し、魔力を流しこむ。
ジョブの【深緑】により得た植物魔法術と、ユグドラシルの力を紋章が浮かばない程度に引き出して木製の椅子を自由自在に成長させていく。
「うっ、うわぁあ!!」
殴りつけてきた拳に巻きつく様にして成長させ、完全に威力を殺したところで拳から体全体に伸ばしていく。
その事態にファーニアをはじめ、同じようなお付きの人達も反応できていない。
そしてその木が男子生徒の首元に迫る直前に
「マーリン」
アンスリアが静かな声で僕の名前を呼んだ。
「冗談だよ。流石にそこまでする気はないよ」
トンッ
男子生徒に絡み付いた木や僕が余分に成長させた部分を白化させて、粉にする。これで一応全部元どおり。
植物系統の魔法術も練習のおかげでかなり素早く扱えるようになってきた。
僕としてはその確認ができただけで満足なので、改めてファーニアへ用件を尋ねる。
「それで今日はどうしたのファーニアさん?この食堂に来ている姿は初めて見たけど」
「……えぇそうね。私は基本中央のビップルームで昼食をとるもの。ここで見かけないのは当たり前だわ。
その私がここに来たのはマーリン貴方のクラスメートとしての気遣いよ。
私の所属するクランに入らない?クラン〔実りの大樹〕へ貴方を入れてあげるわ」
アンスリアの所属するクラン〔新緑の風〕の上。つまり第一位が〔実りの大樹〕。ついでにそのOB派閥が今のエルファエルの第一勢力。今の女王エファーラル・ティリアーノは味方が一人もいなくても政権を操れる規格外の怪物とエル父さんから聞いているので、除外して考える。
一人で政治を回せるとか意味がわからない。
で、そんな第一勢力をバックに持つクランからの誘いをしてくるファーニア達の顔には、すごい優越感が浮かんでいる。
ファーニア達からすればクラン説明をすっぽかした馬鹿に手を差し伸べている形だから、そういう風に思うのは当たり前なのかもしれない。
とはいえ
「母娘両方から誘ってもらえて嬉しいけど、僕はどこのクランにも入るつもりはないんだ。
そういうことだから、ごめんね」
「母娘両方、…まさか」
「嘘だろ…」「まさか……なにを考えてるんだ」
静かに食堂全体に広がる困惑の感情。
その中で数人だけがまだ、頭を働かされている。
その数人の中の一人。ファーニアは僕の顔を見て質問を投げかけてくる。
「母娘。それは私と私の母親、エルファエル・リヴィウネで間違いない?」
「直接ご本人とは会っていないけど、認識的にはそうだよ」
「そう…。ねぇマーリン。ここは貴方の生まれた国ではない別の国なのは理解してるかしら?」
「もちろんしてるよ」
「生きていくためには何かしらの"伝手"が必要になるものだけど。もしかしてその"出来損ない"の方につくってことなのかしら?」
「………っ。」
生まれ持っての力の差と、現在勢力で優っているという状況。少数対多数における数の差。これらからくる自信と、わかりやすい比較相手を貶めることで満たされている自尊心。
なんでこう、学校に似通った場所ではこう人達が多く現れるのか……,
「僕はどこのクランにも入るつもりはないって言ったよ?〔実りの大樹〕にも〔新緑の風〕にも、勿論それ以外のクランにもね。
ついでに僕はクランを作るつもりもないよ。」
「ふ〜ん。誰にも味方する気はないってこと…」
「そんな深い意味はないよ。」
「誰にも付かないってことはね。みんなの味方にはなれないわよ。……みんなの敵になるだけだもの」
「それでも誰の味方にもなれない訳じゃないよ」
アンスリアもお付きの人達も、食堂にいる人達も、シェフのお姉さんもただ静かに僕とファーニアの会話に耳を傾けていた。
「まぁその出来損ないにつくのでなければいいわ。自分の過ちに気づいたなら私のところに頭を下げに来なさい。慈悲深くも許してあげるわよ」
「僕はファーニアさんに謝る様な事をした覚えはないんだけどね」
「っほんっとに…あいつに似ているわよ貴方」
そう言い残して食堂から去っていくファーニアに続く様にして、お付きの人達も何か一言づつ言い残して去って行った。
そして残された食堂に残る人達なんだけど、とてもファーニア達がくる前の雰囲気には戻れそうにない。
「せっかくのこの食堂の良さが台無しだね」
気を取り直してまだ食べれていない朝食の残りをとろうとした時、前に座るアンスリアから声をかけられた。
「マーリン…本当に良かったの?」
「良いも悪いも、何もなかったでしょ」
「本気でそう思っているわけではないでしょう?人目のある場所で真正面から誘いを断ったということは、自分を敵と表明しているようなもの。
貴方は学園最大のクランを敵対したのよ?」
確かにそういう事をしたけど、する前の状況とはほとんど何も変わってはいない。
「ファーニアさんも言ってたことに似てるけどね。いくつかある勢力みんなの敵っていうのは、一方向から見てみんなの敵になってるわけじゃないんだよ。
僕をいろんな勢力が囲んでいる状態から、みんなは僕を敵として見てると思うんだ。
それでいて僕はみんなの敵ではあるけど、誰とも敵対はしてない。」
「……そうね。今のマーリンはそういう立ち位置にいると思うわ」
「アンスリアならそんな敵をどうする?ちなみにその敵は他国からの正式な手続きでいる流れ者」
手に持っていたフォークを皿の上に置いて、しばし沈黙した後にアンスリアは答えを僕に言ってくる。
「私なら、放置するしかないわ。
下手に手を出してしまえば違う勢力に機会を与えてしまうし、女王の思惑がわからない以上はマーリンを殺す事は出来ないもの。
それに女王はその思惑を他に悟らせないから、選択肢は放置くらいしか思い浮かばないわ」
「そうだよね。実際僕の実力を完全に把握するまでは暗殺なんか出来ないだろうし、暗殺事態色んなリスクが高すぎる。
なら無難な手は放置だよね」
「不安定な立場よ。どこかに着いた方が楽だと思うわ」
それはそうだけど、それは少し僕らしくないような気がするから。スカイとの一年はまぁ約束もしたし、ほとんどスカイの言いなりだったけどね。
一応自分の意思ではあるし、セーフの範囲だと思う。
「まぁ当分はこんな感じでやってくよ」
朝食を少し急いで全て食べると、常に杖とハープを合わせた形で維持しているユグドラシルの剣を軽く奏でる。
ツェララ〜ン
「三限目が始まるまで僕はここで適当に過ごすから、良かったら聞いていってね」
おねえさんに手を振ったら振り返してくれるし、嫌な感情の視線を向けてくる人もいない。
さっきの騒動のお詫びに丁寧にやろうかな…




