始まった学園生活
「ねぇマーリンくんってすごくわたし達の言葉上手だよね!?話してて違和感がないもん」
「そうそう。マーリンくん以外の留学生の子達もちゃんと話せてるけど、少しだけ違和感もあるよね。」
「そういえば寮も変えたんだよね?留学生ようのすごく広いところから僕たち一般生徒の寮に。」
「マーリンくんって言葉とか計算とかは誰に教えてもらったの?すごく頭いいよね。それに魔法術も武芸もすごいし!」
入学のクラス分け試験から数日経ち、一応僕は上からABCDEあるクラスのAクラスになった。
で今は昼の休憩時間なんだけど、食堂に移動する前に何人かのクラスメイトに捕まって質問攻めになっている。
「僕の母さんが教育者で家でも色々と教えられてたんだ。寮を変えたのは、留学生用に用意されてた部屋が広すぎて起きつかなかったからだよ」
ちなみに僕の他の留学生達も一応全員Aクラスにいるけど、いっつも四人固まっていて僕と話をする機会がない。
アンスリアも案の定Aクラスになっていて、ちょこちょこ話をする様になってる。
クラスメイト達ともいくつか授業を受けているうちに自然と話す様になったんだけど、思慮深くて、気品のある種族と聞いていたエルフの印象が少しだけ変わった。
前世基準で大人の容姿をしているエルフはスフィネラさん以外が今のところその通りで、スフィネラさんも僕以外と喋るときはすごい。
管理人さんにそれを聞いてみたら、エルフは魔力に馴染みやすい体質のせいか、幼い時はとても好奇心が強い傾向があり色んな事を知ろうとするらしい。そしてそのまま多くの知識を集めながら成長すると、落ち着きがあり、気品のあるエルフになっていくといっていた。
「そうなんだ!!さっきの授業で古代エルフ語を完璧に訳してた時は僕達も本当に驚いたけど、出題した先生も驚いてたよ!!」
「そうそう!顔がポカンってしてたもん」
「あれは驚いたね。間違えたのかと思っちゃったよ」
「私たちもまだ古代エルフ語はわからないから、どう反応すればいいのかわからなかったわ」
「まだ習うものじゃないの古代エルフ語って?」
「前期の後半から習う分野でね。だからさっきも先生は例題として使うつもりだったんだろうけど、マーリンくんが訳しちゃって手順が崩れたんだと思うよ」
「…そうなんだ。悪い事しちゃったかな」
つまり古代エルフ語は日本で言う漢字的なものじゃなくて、本当に古典みたいなものなんだね。
シェーラ母さんが早めに教えてきたから、わりと日常的な言語だと思ってた。
「じゃあ僕はそろそろ昼食を食べに行くね。」
「うん!引き止めちゃってごめんねマーリンくん」
「じゃあまた午後の授業の時ね」
そういってクラスの子達と別れると、馬鹿でかい学園を歩いて食堂へと向かう。この学園には幾つかの飲食エリアがあり、ここはいくつかある中で一番こじんまりとした食堂だ。
「おねえさん、いつものお願いします」
「あぁ…坊や今日は。いつものね。それといつもいってますが、私はおねえさんと言う歳ではありませんよ」
この食堂のシェフをしている人は、前世で言うなら二十五くらいで、僕からしたら十分におねえさんの範囲なんだけど、おねえさんからしたら違うらしい。
この人とは数日前の放課後、ここで暇つぶしに演奏していた時に出会い仲良くなった。
「僕からしたらおねえさんがしっくりくるんですよ。」
「そう…これも種族での違いというものですか」
そう言いながら手早く料理を作ってくれるおねえさん。ものの数分で料理をプレートに乗せて僕に渡してくる。
「いつもありがとうねおねえさん」
「こちらのセリフですよ坊や。」
おねえさんと仲良くなった日の昼。僕は学園全ての食堂を周り、パンや果物、野菜の植物系だけではなく、動物系のご飯が無いかを探していた。
結果は苦労虚しくなかったわけだ。もともとエルフは肉食の文化がないから仕方ないわけだけど、僕としては少しでいいから食べたかったわけです。
それをおねえさんに相談したら、作ってくれるというので、存分にそのお言葉に甘えている。
「やっぱりベーコンが一枚皿にあるだけで、印象はかなり違うよね」
プレートのお皿に乗ったベーコンを見ながら機嫌よくいつもの席に向かい、座る。この席は観賞用の庭園に近くて、日差しも強すぎない良い席だ。
「どうアンスリア。ここ、とっても落ち着くでしょ?」
その席に先に座ってご飯を食べていたアンスリアに僕は話しかける。あの試験からなんだかんだとアンスリアとはよく喋る様になった。というのもちゃんとした理由があるわけだけど、今は割愛。
一人で黙々とご飯を食べていたアンスリアは一旦食べるのをやめて、僕を見てから言葉を返してくる。
「そうね。騒がしい人はこの食堂にはいないし、食堂自体の作りが落ち着いていてとても私好みよ。食堂によってこんなにそこでの時間が変わるものなのね」
「食堂の作りはそこのオーナーが決められるからね。ここはオーナー兼シェフのあのおねえさんがデザインしたらしいよ。席数をかなり減らしてこの庭園を作ったのもおねえさんらしいし」
「貴方は放課後のクラン説明にも参加せず何をしていたのかしら?マーリンが最初にクラスで浮いていたのは、それが原因なのだけれど」
「参加は自由って聞いてたから、殆どの人は行かないのかと思ってたんだよ。それが実際には参加していなかったのは僕だけって事で、あれは驚いたね」
「マーリンはとても頭がいいのに、どうしてそう自由というか、周りに興味がないの……」
後から聞いた話によると、エルフの学園では全学年の生徒が作るコミュニティみたいのがあって、基本はみんなそれに参加するらしい。
いくつかクランがあるかは学園によって違うみたいだけど、そのクランというのは試験や学園行事にかなり関わってるものらしく、いい成績を収めたい人はより良いクランに入るため頑張るそうだ。
ついでに卒業後もそのクランのOBとかいう縁で出世がし易かったりと、かなり重要なものらしい。
国や学園自体もクランというものを推奨しており、特に問題とされる様な事はないとの事。
前世の日本で考えれば汚職とかの原因になり得る事だと思うけど、それすら今のところつまらない事はすぐに摘発されているらしい。
それがより一層怖いと思う僕でした。
「別に新たなクランを作りたいわけでもないんでしょう?」
「そういうわけでもないよ」
例外というのが自分で新しいクランを作るというものだけど、これは殆どの確率でうまくは行かない。理由は言うまでもないと思う。
「マーリンならファーニアみたいにどこでも入れるでしょうに…。実際かなりのクランから勧誘は来ているでしょ?」
「まぁ何個かはね。でもなんていうか、僕の場合入る入らないは本当に自由だから。今はもうこのまま入らないで自由にやるのもありかなって思ってるよ」
「留学生の特権ってことになるのかしら?確かにこの国で一生過ごすわけではないマーリンからすれば、そこまで重要なことではないものね」
「正直なところね。成績はどうにかするよ。まだ個人でどうにかやっていけそうだし。
それでアンスリアはどこに入ることにしたの?」
少しだけ問いから沈黙を挟み
「〔新緑の風〕よ。現実的に私が入れるクランはそこしかないもの。」
「精力で言うなら第二位って聞いたよ。十分にすごいと思うけど」
「確かにそうなんだけど、これはお父様の派閥のクランという理由が大きいもの。元から選択肢は私にはないわ」
「どこの国も派閥争いは大変なんだね」
いつまでもないことだけど、第一位のクランはファーニアの母親の派閥のクラン。
十数年前までは逆の順位だったらしいけど、ファーニアという祝福の子が生まれたことで逆転したらしい。
そのファーニアの母親とアンスリアの父親はいわゆる犬猿の仲で、絶対的な女王エファーラル・ティリアーノの後継者争いの真っ最中だ。
それを試験をした日にスフィネラさんから聞いて、どうしてアンスリアが周りから避けられていたのかを理解できた。
そりゃあ今圧倒的に不利な派閥の中心人物に近づいて、ファーニアに目をつけられたくはないだろう。
「マーリンはすごい人ごとの様にいうのね。」
「僕からしたら人ごとだよ。だって僕はたまたま仲良くなった同級生と食事しながら会話しているだけだからね。
それでそんな僕に御用ですかファーニアさん?」
僕の後ろからする複数の足音と気配。
僕の前に座るアンスリアの表情からその相手が誰かなんてすぐにわかる。
一応後ろを振り向いて見れば、お連れをたくさん連れてきて、この食堂の落ち着いた雰囲気を壊しているファーニアがそこにいた。
「ご機嫌様マーリン。と、アンスリア」




