クラス分け試験
「続いては隣国の北領同盟王国から我が国エルファエルへ留学することのなる五名の生徒を紹介きます。」
司会進行役の講師の言葉で、僕たち五人は新品の学生服を身にまとい舞台の前に進み、エルファエル首都ハーメルンの学園全生徒に注目される。
興味六割、無関心二割、嫌悪一割、その他一割くらいの視線で、管理人さんの話の通りそこまで悪い印象はもたれてないみたいだった。
舞台に登ってから学園のトップの人に軽く紹介をされ、その後に一人づつ挨拶をして一応最初のイベントは無事に終わった。
入学式みたいなのが終わると、新入生はクラス分けのために試験をする事になっているらしく、別の会場に移動する様だ。
他の留学生四人に聞いたところ、北領同盟王国ではこんな事はしないらしく、驚いている様子だった。
「で、スフィネラさんはどうしてこんな場所までついてきているんですか?」
「それはマーリンくんの実力が気になったからだよ」
「仕事はいいんですか?」
「これも私の仕事でね。君の護衛兼監視係なのさ」
「もともとはどんな人だったんですか?」
「確か近衛一級騎士の誰かがなるはずだったけど、それじゃあ不安だから私がする事になったわけだよ」
堂々と無理やり変わらせた発言をするスフィネラさん。ユグドラシルにあった日の次の日に約束通り一緒に出かけて、予想通りインテリアとか全く関係ない所へ連れ回された。
劇場にカフェに衣服類、アクセサリー、観光名所に連れて行かれ、疲れ切っている所で家にお持ち帰りされそうになった。
「そうなんですか…」
「まぁ他にもマーリンくんを見るついでに従妹達を見にきたって理由もあるわけだけど」
「従妹達?」
「私の母である女王には子がたくさんいるわけで、私は末っ子。私が見にきたっていう従妹達は長女と長男の子供でね。両方とも良いくらい成長したから今年学園に入学したわけさ」
「入る時期は曖昧なんですね?」
「エルフ者は他種よりも幾分か魔力との相性がいいからね、ある程度体が出来上がるまでは順調に成長するけど、個人差は他種族よりも大きいんだよ。だから学園への入学は親が決める事になってる」
なるほどね。そこは種族によって工夫されてるわけか。まぁ他よりも長寿なエルフからしたら数年くらい誤差の範囲なんだろうけど。
「じゃあ私は少し離れた場所で見物しているから、頑張ってね。簡単な肉体戦と魔法術の試験だから、気にする事はないよ」
そう言い残して歩いていくスフィネラさんなんだけど、その指差す方向からかなり激しめの音が聞こえて来る。
みんなやる気満々で、どう見ても簡単な試験をする様には見えなかった。
「肉体戦闘試験は二人1組で行ってもらいます。ペアを作ったものから受けにきなさい!」
魔法術の試験を終わらせた後、肉体戦闘試験を受けにきた僕なんだけど、僕以外の留学生四人は四人でペアを作ってしまっている。
こうなったら初対面の人とペアを組んでやるしかないんだけど、大事な試験でよくわからない奴とペアを組んでくれそうな子は見当たらない。
まだ同じ留学生の四人の様に一人でポツンとつっ立っている僕を笑ったりとかはしてこないだけマシではあるんだけどね。
「さてどうしようかな。最後までここに一人でいれば、試験官が何かしら対応してくれると思うけど、流石にそれは留学生としての印象がよくないかな」
それをいうなら、あの留学生四人の様にすぐさま留学生同士でペアを組むのも印象はよくないと思うけどね。
「うぉおおおーー!!!!流石はファーニア様!!!」
「あれで私たちと同年代なんて信じられない。あれが祝福されしお方の力ですか」
一際大きな歓声の上がっている試験会場を見れば、剣を落として蹲っている少年と周りの人に笑顔で手を振っている少女がいた。
状況的に見てファーニア様と呼ばれていたのが少女の方なんだろうけど、なんとなく良い印象は持つ事ができない少女だ。
「ねぇ貴方、ペアはいる?」
僕がファーニアという少女を見ていると、横から僕に声をかけてくる人がいた。
声の方向を見てみれば、少女が一人僕の顔を見ていた。
「ペアはいないけど、君も?」
「……えぇ、そうよ。貴方もいないみたいだし、私とペアを組んでくれないかしら?」
「…こちらこそお願いするよ。誰も組んでくれなさそうで困ってたんだ」
「ありがとう。私はアンスリア。短い間だけどよろしくね。綺麗な留学生さん」
「僕はマーリンって言うんだ。こちらこそよろしくね。端麗な美少女さん」
勝ったね。
僕は特に心が揺れていないのに対して、僕に話しかけてきたアンスリアの表情が一瞬だけ崩れた。
僕と同年代くらいで僕に勝てる人なんて前世でもそうはいなかったし、今世では今のところ家族以外で会った事はない。
アンスリアは思わぬ返しで面食らっていたけど、すぐに表情を戻してから、試験場へと歩いていく。
僕もアンスリアさんの後ろを歩いていくんだけど、周りの人たちから僕ではなくアンスリアさんに忌避の視線が集まっていた。
「マーリンごめんね。貴方まで巻き込んで」
前を歩くアンスリアさんから僕以外に聞こえない様な小さな声が聞こえてくる。
何になんて聞かなくても、この視線の事で謝られている事は理解できる。とはいえ僕としては謝られるほどのことではない。
「慣れてるから良いよ。それに僕に直接きているわけでもないしね」
「……ありがとう」
「どういたしまして」
それ以上アンスリアは何も言わず、アンスリアを避ける様にして作られる道を堂々とした足取りで歩いていく。
そのまま試験官と手続きを済まして、僕たちの前に試験をしていたファーニアとペアの男子達と入れ替わる様に試験場へと入る。
その時にファーニアとアルスリアで何か言葉を交わしていたけど、僕には聞こえなかった。ただ友好的な話でなかった事は、アンスリアの顔を見ればわかる。
「ではこれより、エファーラル・アンスリアとマーリンの試験を始める。お互いにこちらが用意した武器の中から好きなものを選び、所定の位置につけ。
始まりの合図とともに戦闘を開始し、試験管が取れるまで続けよ」
という簡単な説明の後、試験官の一人が台車に乗せた木製の武器を運んでくる。見たところ簡易な衝撃吸収魔術がかけられている様だし、死ぬ心配も殺してしまう心配もなさそうだ。
それよりもエファーラルという名前の方が気になるわけだけど、アンスリアは早々に弓矢をとって所定の位置についてしまった。
僕は木製の槍を選び、所定の位置に移動してから、軽く振るい構える。剣を選ばなかった理由はなんとなく学生相手に使う気にはなれなかったからだ。この学園では『迷わせ誘う幻想蝶の群れ』や『告死鳥』『告命鳥』とかを使うつもりはない。
だって多分完全に学生相手に使うものとしての許容範囲を超えていると思うからね。
「では、始め!!」
試験官の掛け声と共に高速で飛んでくる矢をかわして、アンスリアを見る。
選んでいる武器は弓矢。狙いもかなり良いし、スピードも悪くないと思う。言い方が曖昧になってしまっているのは、比べる相手が【命の境界線】で狩人をしている人達しかいないから。
流石にあの人たちと比べると微妙と言わざる得ないけど、この年でと考えればなかなかだと思う。
「じゃあこっちからもいくよ」
模倣するのはティッティさんの槍。獣みたいに動き回って突き技を主とするやり方。
スキルは意識的には何も使ってないし、身体強化も生産量分までしかしていない為、わりと真剣にやらないと下手をしたら負ける。
バスッ カァンッ カンッカン! バスッ
というよりも他の試験者を見ていた感じ、これでも十分に勝てると判断していたんだ。まだほとんどの人が武器の扱い方とかを習っただけで、戦い方を学んでいるわけではなさそうだったし、少し工夫すれば負けるわけはないとたかを括っていた。
「っと、」
「(前だめ、後ろだめ、右は微妙。左は罠。一本目は囮、二本目ブラフ、見にくい三本目が本命)」
カンッガンッ バスッ
一本目二本目を打ち落とし、三本目は飛んで回避。
ばひゅっ バシュッ!
二本いっぺんに撃たれた第一射目はあえて遅く、第二射は渾身の力で。
浮かび上がった僕を同時に三点狭めしようという容赦ない攻撃を、僕は槍を地面に突き刺して軸にして使い空中を移動する。
避けられると思っていなかったらしいアンスリアさんが一瞬動きを止めた隙に、一気に距離を詰めていく。
「っ!!」
「はぁっ!!!」
槍の間合いに入った瞬間、アンスリアの右肩狙いで槍を突き出す。流石にティッティさんほどのキレは無いとはいえ、十分な威力の速度はある。このタイミングでアンスリアが避けるのは不可能。
その筈だったのに、番えようとしていた矢を握り直して、僕に向かって投げつけてきた。
「(避けれはするけど、重心がブレる。なら)」
僕は突き出していた槍を捨てて、姿勢を低くしながらさらにアンスリアに接近し格闘戦に持ち込むことにした。
これにはアンスリアも想定していなかったらしく、
バスんっ!
「か、はぁっ!」
アンスリアが対応し出す前に組んで、背負い投げて最後はあっけなく僕が勝った。
周りからは歓声の一つも上がらず、試験官は決着を宣言しない。
「アンスリア大丈夫?」
「………….、え、えぇ。大丈夫。」
仕方がないのでアンスリアの状態を確認すれば、意識もあるし、受け身も一応取れてる。びっくりして上手く思考が回ってない事以外は問題なさそうだ。
「良い戦いだったね。まだ決着を宣言してこないけど、続きをする?」
「……ふっふふふ。私の負けよマーリン。こんな状態の時に言われても、ふふっ、おかしいわ」
「試験官の人!まだ戦った方がいい?」
その声でようやく試験官は正気に戻ってくれたのか、僕の勝ちを宣言した。
宣言がされたというのに周りの生徒からはなんの歓声も声ひとつ出ないのが不思議ではあるけど、まぁいっか。
まだ上手く立てそうになかったアンスリアに手を貸して試験場を後にしようとしていた時、スフィネラさんからは好奇の視線。ファーニアという女子生徒からはあまりよろしくない視線を向けられた様な気がした。




