二股疑惑の男。
スフィネラさんとの長くて短い車での旅が終わり、エルファエルの首都に到着した僕たちはそのまま国主エファーラル・ティリアーノへの謁見になった。
まぁ特に僕が何かを話すと言うこともなかったので問題はないんだけど、そこでもスフィネラさんは僕のすぐ近くにいたわけで。
こんなに自由で良いんだろうか?一級将官ってかなり高い地位のはずなんだけど?
そんな謁見も僕たち北領同盟王国側が気圧されて萎縮しただけで、滞りなく終わった。
「それでどうかなマーリン。君達がエルファエルの首都ハーメルンの学園に入学するのは今日から一週間後。それまでやることもないだろうし、私の家に来ないかい?」
「お誘いはうれしいですが、これから自分の生活する部屋を見ておきたいですから今日はご遠慮しておきます」
「そうか、なら明日は一緒に部屋のインテリアを街に出て見て回ろうか。何時に迎えにいけば良いかな?」
なんでこの人はこんなに粘り強く来るんだろうか?しかし約束してしまったからにはどのみち一回は付き合わなければいけないんだけどね。
「そうですね。約束もしましたし、僕自身は構わないのですが、明日以降なんの予定があるのか僕は知らないんです。ですから僕からは明確な返答ができないんですよ」
勝手に行動した挙句、また最初の時みたいにねちっこく怒られるのは勘弁してもらいたい。
僕がそうスフィネラさんに告げると、スフィネラさんは頷いてからまだ放心状態でいる講師プラス留学生のところに向かいしゃべりかけた。
そのまま数秒話してまたこちらに戻ってきたスフィネラさんはいい笑顔で、「この一週間は完全に生徒の自由時間の予定です」と講師が言っていたと教えてくれる。
「そう言うわけだから正午ちょうどに迎えにいくよ。」
「はい、…おねがいします」
今日早速シェーラ母さんにスフィネラさんのことを尋ねる手紙を書こうと決意したマーリンなのでした。
スフィネラさんにエスコートされながらハーメルン城から学園の寮まで移動し、そのまま寮の僕の部屋に入ってこようとするスフィネラさんをどうにか帰らせることに成功した。
ちなみに他の留学生や講師の人は当分正気を取り戻せそうになかったからあの場に置いてきている。講師の人もいるしまぁ問題はないだろう。
そして肝心の量の部屋なんだけど、驚くべきほどに広い。何人用の部屋ですかってくらいに広いんだけど。
何かの手違いかとも思って寮の管理人さんに確認しに行ったんだけど、僕たち留学生は全員一律で僕のと同タイプの部屋が用意されているらしい。
ここら辺で僕は庶民なんだなって思い知らされるんだけど、こんなに広い部屋だと全然落ち着かないよ。
「部屋って変えてもらうことは出来ますか?」
「出来ますが、あれよりも良い部屋となると難しいと思いますよ?」
「逆で、あの半分くらいの部屋はありませんか?」
「……ああ〜」
そこからは話も早く、いろんなタイプの部屋を見せてもらいながら部屋を探すことなり。
そして僕は一般の生徒が入るのと同じタイプの部屋に移動させてもらえることになり、そのまま管理人の人と小一時間世間話をしてからその場を後にした。
「やっぱりこれくらいが落ち着くよ」
新しい部屋についた僕は一通り部屋を見て回ってからそう感想をこぼした。
街の安宿よりもは綺麗で、簡易な湯船もある。
ワンルーム六畳くらいあって、一人で暮らすならこれくらいが丁度いい。
講師の人に部屋を変えた事を連絡しようかとも思ったけど、管理人の人がしておいてくれると言う。親切だ。
ついでに隣の部屋の人にも挨拶をすまして軽く自己紹介をした。この国のエルフの若い人達(年齢そのものはかなり曖昧で、同級生でも十歳離れていることがあるそうだ)は北領同盟王国にそこまで敵対意識は持っていないらしい。
戦争していた時の事を知っている人の中には友好的でない人も多いそうだけど、停戦直後に北領同盟王国が行なったエルフ種返還という大規模な政策のおかげで割と友好的な関係らしい。
とはいえゲオルグ正教には強い敵対心がある。
これらはさっきの管理人さんが教えてくれた情報で、友達関係に役立ててと言われた。
その後は適当に荷物を整理しようかとも思ったけど、僕の荷物自体がアイテム袋一つしかなくて、特に部屋に置くべきものがなかった。
中に入ってるのは全部医療系の道具か、薬になる物、食料ぐらいしか入ってない。
「なら今日はやる事は終わりかな」
ここ数日のスフィネラさんとの攻防戦でも疲れたし、謁見の時に感じたいくつもの探る視線でも疲れた。そういう立場であることは理解しているけど、ちょっとだけ休みたい。
どこにでもあるような木製のベッドに寝転んで目を閉じる。
まだ日の登っているうちから、眠るなんていつぶりだろう?木こりの真似事をする前はよくやっていた気もするんだけど、それからはこんな事をするきかいもなかったけ?
窓から差し込む太陽の日差しは窓がわりであろう、薄い葉をすり抜けて部屋の中に入ってくる。
少し葉っぱの黄色味が加わった光は、これはこれでなかなかいい。
なんとなく森の中でお昼寝してる気分になるから
ね。
「半身…」
もうすぐ眠りに落ちそうというその時、僕の精神に直接語りかけられる様にして声が聞こえてきた。
「半身…わたしのこと嫌いになった…?」
間違いなくユグドラシルの声ではあるんだけど、その声音は非常に弱々しい。というか言っている言葉自体がかなりネガティブになってる。
「えっと、久しぶりユグドラシル。僕はユグドラシルの事嫌いになってなんかないよ?」
「半身ずっとわたしほったらかしにしてた。
わたしからしてもずっと届かなくて、何回も死にかけてた」
うっ、確かにこの二年近くユグドラシルとは連絡をとってない。それは単純に距離が離れていてできなかったからなんだけど、ユグドラシルは心配してたんだろう。
「えっとねユグドラシル。それは近くにくることができなかっただけで、ほったらかしにしてたわけじゃないんだよ?」
「わたしの主との間に子供作ってた。」
「あれは事故みたいなもので……」
アズライールとスルーシーについては本当に事故で、それによっちゃんとの子供というわけではないと僕は思うし。
「わたしの半身なのに、マーリンはわたしの半身なのに……」
やばい、泣かしてしまっているんだろうか?状況だけ第三者に説明したら完全に僕がクソ野郎認定をされそうな状況じゃなかろうか?
「ユグドラシル!僕の〔結魂〕相手はユグドラシルだけで、この一生を共に歩くって誓った相手は相手はユグドラシルだけだよ!」
「永遠がいい…ずっとわたしといて欲しい。でも半身は一生がいいって言う。
わたしとずっと一緒はいや?」
「少し違うくてね!ユグドラシルと永遠に一緒が嫌とかじゃなくて、僕としては責任を持って答えられるのは今のこの一生までってことなんだよ」
「マーリンはわたしのこと必要じゃない?わたしの力を全然使ってくれない。わたし力になれない?」
「いやいや!!ユグドラシルから貰った剣に本当に助けられてきたよ!」
そうこの二年間どれだけユグドラシルから貰った剣で助けられてきたことか。これがなかったら確実にこの留学はできてないし、下手したら死んでる。僕がここにいるのはユグドラシルのおかげだ。
「剣よりも役に立てない……。わたしの能力使ってくれたのほんの数回だけだった。」
やばいね。相当落ち込んでる。伝わってくる感じからして、収穫最後に会った時とは比べ物にならないくらいに機嫌が悪くなってるよ。
しかも一番まずいのが、そのユグドラシルの能力を使ったことを覚えてないことだ。これじゃあ迂闊にフォローの一つも入れられない。
「半身もわたしを必要としてない?
またわたしは役割を失ったの?」
「ユグドラシル…」
よっちゃんからユグドラシルの過去は少し聞いてる。だからユグドラシルにこの言葉を言わせてしまう事の重大さは知ってるのに、僕は言わせてしまった。
スカイにも指摘された事を実際にやってしまった。助けるつもりが傷つけてしまっている。
力不足が原因でもなく、ただの僕の不注意で傷つけてしまった。
「ユグドラシル…僕はユグドラシルが必要だよ。力とかそんなんじゃなくて、ただ単純に必要なんだ。ずっとほったらかしにしちゃってごめんね」
「…………」
「何か僕にできる事はないかな?なんでもいいから聞かせてユグドラシル」
「…………逢いたい」
ちっちゃな声だったけど、ちゃんと聞こえた。
「うん。今から行くよ。すぐに行く。だからちょっとだけ待っててね。逢いに行くよユグドラシル」
ちゃんとユグドラシルは望みを言ってくれた。なら全力で答えよう。問題もそれなりに起こるかも知らないけど、それは後でどうにかすれば良し。
ユグドラシルよりも優先する事ではない。
「『幻影の影』『告死鳥』『誘い迷わす幻想蝶の群れ』」
一応身代わりを部屋に置いておき、デバフと阻害魔術でバレにくい様にも工夫しておく。エルファエル側にも僕の見張りは付けられているだろうけど、どれくらい強いかはまだわからないからバレても仕方ない。その時は謝ろう。
身代わりを作ったら後は窓を開けて、《clown mask》を使って空間に同調。幻影魔術と『誘い迷わす幻想蝶の群れの二つで魔術的にも視覚的にも姿を消して外に出る。
後は全力でユグドラシルのいる方向に走ればいいだけだ。《天性の肉体》と同調によるほぼ無限の魔力を使った身体強化、ダメ押しの魔術による肉体強化だからばれてようがばれてなかろうが多分追いつかれない。
『告命鳥』で回復しながら走れば、体が壊れることもない。
走り始めてから数時間後、僕は全貌が窺い知れないほどの世界樹の下で二年ぶりにユグドラシルに再会した。
二年ぶりに会うユグドラシルは少しだけ成長していたけど、鉱石の様に煌めく銀髪も綺麗な緑の瞳も、彫刻のように完成された容姿もそのまま。
僕のよく知るユグドラシルが夕暮れの光を浴びながら僕を待っていた。
「お待たせユグドラシル」




