一夜の後に
「アザーレ様!その御業どうか我ら人種をお助けください!!!」
「アザーレ様、我が生涯をかけし武勇をご照覧あれ!!」
「アザーレ様」
「スカイ・アザーレ様」
「どうかその〔人〕ならざる力で我ら弱き人をお助けください!!」
…あぁ助けよう。私にはその力がある。
「古の亡霊よ!!今の世にお前は要らぬ!!!」
「過去の遺物が我ら人の上位者を語るな!!!」
「神に挑み敗れた敗北者が!!何を偉そうに物を語るのか!!」
…あぁ受けて立とう。それは私も望むところだ。
昔の記憶だ。どちらも多少の違いはあれど、人ならざる者として私を扱った。頼られる存在だろうが、敵対される関係だろうが、私からしたら大差の無いものだ。
言うなれば距離は同じなのだから。どこから見られているかという差しかそこには無い。
まぁそれはいい。特に不思議な事ではないのだからな。慣れたものだ。
不思議というなら今私の横で眠る少年の方が私からすればよくわからない。
最初はただ面白いと思った。
見た目にそぐわぬ力と、行動。私の《神眼》にすぐに気づいたことも、それからの反応も、私の目にはとても興味深く写った。
そうだな、新しき勇士を見つけたと言ったところか。これまでの者達の様にその最後に試させてやろうかと思った程度だ。
「実際にあった時は少し落胆したがな」
私の髪色とはほぼ真逆の白銀の髪を撫でながら、すやすやと眠るマーリンを見つめる。
あの戦場での姿が嘘であったかのように、怯え、竦んでいたマーリンだ。
しかし揶揄うつもりで投げかけた問いには嘘偽りを混ぜず、私の真正面から答えてきた。あの状態なれば私の質問にも嘘を申せばよかっただろうに、そこだけは曲げようとしなかったな。
しかもまだ私に怯えたままでだ。
感情も隠しきれんその姿は戦士としての未熟さを表していたが、それと同時に将来への期待感を私に持たせた。
「まぁそんな印象など戦いを始めれば一変したがな」
当初は数合打ち合い勝負を決め、マーリンへの過度な興味を捨て去るつもりだった。興味や期待は大きければ大きいほど裏切られた時の悲しみもまた大きくなるからな。
しかしそのつもりが始まってみればなんとも心躍ったものだ。
鍛え上げられた下地を持つ剣の腕。類い稀なる才能を感じさせる魔法術。判断の速さ、リスクリターンの計算、それを実行する精神力を併せ持っていた。
そのせいで当初の目的を忘れ、危うく殺しかけたわけだが。あれは実力を隠して過ぎていたマーリンが悪かろう。
抑えるつもりがポンポンポンポン対応されれば、興も乗っていくというものだ。
「豊富な手札と強靭な精神。あの難儀な信念を持っていなければ、私がここまで心労を重ねることもなかったというのに。この馬鹿者は…」
寝ているマーリンの頬を千切らない様に気をつけながら引っ張る。この一年ずっと見ている顔だが、眠っているマーリンは男には見えない。
あらゆる問題点と、矛盾点。危険性をその身をもって教えてやったつもりだが、結局マーリンはその考えを改める事はなかった。
むしろ開き直って悪化していく始末。
最終的に私の方が折れたわけだからな。
「だが今になって思えばそれで良いのかもしれないな。」
私の過去を知った上で私を人だと言い、理解したいと言い、一人にしたくないと言った少年。
この部屋で飲み直した時にはすでに気が緩み切っていたマーリンは、いつもは理性で塞き止めていた言葉を容赦なく私に伝えてきた。
私がマーリンの事を観察していた様に、マーリンにも見透かされていた事を改めて解らされたな。
お互いに酒が入っていたとはいえ、あれほどまでに昂ったのいつぶりか。
私自身あまりにも浮かれ過ぎたと言わざる終えない乱れようだった。
「はぁ…マーリン、お前は毒だな。甘い毒だ」
一見誰にも関わらぬ孤高の浮雲だが一度触れれば優しく全てを包み込んでくる。自分を理解してくれるというのは酷く中毒性を含んだものだ。
しかしそこに優しさに区別はない。故に特別もない。
そこをわかっていなければ猛毒になりかねんのがマーリンの行いだ。
「相手が男ならばそれでもまだ良かろう。だが女はちと面倒な生き物だぞマーリン」
マーリンはまだそこをよく理解しておらぬだろうが、いや一つほどならば知っておろうが、それを例外だと認識しているのだろう。
哀れな事だ。両者ともにな。
「私はお前の師匠としてお前を待とう。」
そう言い残して私はマーリンと共に寝ていた寝台から抜け出し、服装を改めて部屋を出る。
別れならば昨日夜に散々済ませた。ならばこういう別れ方でも構うまいよ。なぁマーリン?
「んん……」
城塞都市の朝の喧騒により、沈んでいた僕の意識は浮上し始める。だけど僕の精神はさらなる睡眠を求め、体もそれに従う様に寝返りをうち手を伸ばす。
なんとなくそこに温もりがある様な気がして伸ばした手ではあるけれど、その手は何も掴むことも触れることもなかった。
不思議に思って思い目蓋を少し開いてみれば、ベッドに寝転がっているのは僕だけで、手を伸ばした先には何もない。
「…あれ?…」
なんとなくあると思った何かが無い事に違和感を感じた僕は、ゆっくりとベッドの上で上半身を起こし、寝ぼけた目を擦る。
妙に体中がカピついていて変な感じが……する?
「昨日あのままスカイとお酒を飲んで…」
飲んでそのまま……あれ?
僕はスカイになんて言ったんだっけ?なんか、もっと知りたいとか、一人にしたくないとか、思ったこと全部ペラペラ喋った様な気がするんだけど。
いやでもちゃんと弟子として、とか…は言ったっけ?言った様な気もするんだけどあんまり自信ないかも。
「で、酒場が閉まってから階段を登って」
スカイの取った部屋でまた飲み直した、はず。
とっておきの酒だ、とか言われて付き合って飲んでたけど、まあここら辺になると殆ど記憶がない。
スカイの昔の話とか、僕と出会ってからの事とかを話して、僕の話になって………
「………///////////」
前世含めて二度目。今世では初めてのはず。結局相手はスカイなんだけど、記憶があるのは昨日のものだ。
細かな経緯とかは覚えてないけど、抵抗感がなかった事は覚えてるし、結構艶かしいスカイの姿も記憶にある。感触とかも、安息感とか諸々の抱いた感情も全部覚えていた。
昨日ほど誰かに甘え切ったのは本当にいつぶりだろう?
というか前世とのジャップが凄過ぎて、頭が追いつかない。今の僕は収穫祭翌日のアストみたいな顔になってるんだろか?
いや流石にあそこまで緩んでは無いだろうけど、いくら何でも前世での経験と違いすぎる。
僕はそのまま昼過ぎくらいまで昨夜の自分の恥ずかしさに打ちひしがれていた。
「おう、にいちゃん!!昨日はあんがとな!!」
「おはよう店主さん。」
「別嬪のねぇさんは明け方に、にいちゃんの分の代金も払って出て行ったぜ。」
「そうなんだ。じゃあ鍵だけ返すね」
「おう確かに!!昨日はいい夜過ごせた様で良かったな!!」
「っう、」
「ははははは!!じゃあな!!」
表の扉から出て行く少女の様な少年の後ろ姿を見つめながら、俺はため息をつく。
確かに顔には出てねーんだかな、それでも雰囲気に出てりゃあわかるもんだろうがよ。
ねぇさん然り、にいちゃん然りよ。




