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思い出話に花添える

同日、僕と師匠は日が落ちてからもまだ酒場の同じ席で話を続けている。

【命の境界線】にいた頃は、その殆どの時間僕が一人無茶な課題をやり師匠はその僕を見ているという構図が多かった為、ゆっくり話す時間はあまりなかった。

だからか、お互いに話のネタが尽きることなく、またお互いに気になるところが多い。 


「マーリンやジョナン・ディオが使うあれはな、随分前にゲオルグ教の最高司祭が考え出した魔術方法だ」


「ああ〜なんとなく想像つくよ」


今は僕が最初使った魔術方法についての話をしているんだけど、スカイは本当に色んなことを知っている。


「あの司祭は実に現実的な思考回路をしていてな、常に信仰を広める方法を考えていた。そこで辿り着いたのが、バレないように多くのものを先導し団体感を生成するという方法だ。

しかしなその司祭には後継者がおらず、その技は一旦そこで途絶えた」


「スカイは知ってたんでしょ?」


「見様見真似、完成度で言えば七割型は再現できるがな。あれは演奏と魔術の合わせ技だ。マーリンらの様に多種多様とはいかん」


「演奏が苦手ってわけじゃないんだよね?」


「昔にかなり練習したからな、大抵の楽器なら弾ける。問題は心の根の方だ。薄れ霞んだ心では大衆は魅了できん」


自身を貶している様ではあるんだけど、スカイの表情は晴れやかで、僕から見てもスカイからは暗い感情は見えなかった。


「大事なのは"認識"だ。認識する事で人は物事を捉えられる、扱える様になる。"認識"次第で人は物事を本質からねじ曲げる事ができるのだからな。

人を神に、人を獣に、人を亡霊に。たとえそいつが人であったとしても、そいつ以外がそいつを亡霊と"認識"しその様に扱えばそいつは亡霊だ。」


人からも神からも〔人〕ではないと"認識"された人はそう語る。きっとスカイは人の集合無意識からも〔人〕としては"認識"されていなんだろう。

だからこそ、その身は半神へと至っている。

だからこそ


「じゃあスカイはもう亡霊じゃないね。僕の目にはスカイは人に見えてるんだから。」


僕はスカイという存在をしっかりと掴んでいよう。僕以外がその存在を切り捨てたとしても、除外したんだとしても僕だけはその存在を把握する。


「なら、もうスカイは人だよ。スカイを〔人〕として"認識"する人がいて、〔人〕であるスカイを理解しようとする人がいるんだから」


「………」


あれ?僕会話の流れ的にかなり恥ずかしい事を言った気がする。なんでさっきまでの僕は言って良い空気って判断したんだ?

実際スカイは僕の顔を見て驚いてるし、何も言ってくれないし。

酒場の雰囲気に当てられたのか?もっと言えば今日何杯目かわからないお酒が遂に頭にまわってしまったのか?

でももうここまできたら、開き直って飲むしかない。そう思い手元の杯を口にした時


「……まるでプロポーズだなマーリン」


「っぷふ!」


スカイの言葉で驚き、口に含んだ酒を吹き出してしまった。そんな僕を見てスカイは笑いながら


「私を人と見て、私を深く知りたいです。そう言われればそう思うだろう?」


「ゴホッゴホッ!…そうかもしれないけど」


「それと重要な事だが、それは誰だ?」


「誰、とは?…」


「私を〔人〕と"認識"し、深く理解しようとしているのは誰だ?空想の人物などとほざけば、我が弟子とはいえ容赦せん」


スカイの目は本気だ。僕がそう言えば、まず間違いなく本気で首を跳ねにくるだろうし、どこかで生き返ったとしてもその命を狩りにくるだろう。

だけど本人を目の前にして言わないといけない事なんだろうか?

凄く恥ずかしいんだけど……


「…どうしたマーリン?早くその者の名を言え。

…………それともなにか…。やはり私をその様に想う者なぞ………この世にはもうおらぬか?」


「(こんな時に限ってそんな顔をしないで欲しいよ…)」

僕は手元にある杯とスカイの前に置かれた杯の中身を一気飲みして答える。

なんともカッコ悪い姿だけど、泥酔いしてなければ口になんてできないんだ。


「僕です…よ…」


お酒の力を借りてもこれが精一杯だった。本当にカッコ悪い。

しかしスカイは、そんな僕の頑張りでは満足できないらしく、顔を近づけて更に問うてくる。


「名を……言え」


「マ、…リン」


「もう一度」


「っっ、マーリン///」


顔から火が出そうなくらいに顔が熱い。恥ずかしさで目頭も熱くなってくるしで散々だ。


「ふふっ、そうか…マーリンお前か。」


「///////」


「どうした?何故顔を俯かせる?…それでは私を見る事はできんぞ?」


「っうぅぅ/////」


なんか言い方がいちいちずるいんだけど、いっつもグイグイ来るくせに…なんでこういう時は一歩下がるみたいにして僕を試す様な事をしてくるんだ………


「ははは…愛いな。」


顔を上げてスカイの顔を見れば、その僕の顔を見て笑みを深めているスカイの顔があった。


「…いつか、マーリンが私を私以上に理解したと、叶えれると思ったなら……私に会いに来い」


「スカイ以上に?」


「そうだ。…それが私の願いだ」


「……それって…」


スカイからようやく明かされたスカイの願い。

それは確かに願いではあるけれど。

僕がスカイに話しかけようとした直後、いきなり後ろから背中を叩かれて、顔のすぐ横で臭い息を吐きかけられた。


「お〜〜い〜!!嬢ちゃん〜!!もう一回演奏してくれよ〜!!!」


「臭い!!臭いよ息が!!」


「そんな〜もん!!ここにいる奴らはそこの別嬪さん除いてぜ〜〜いんでき上がってんだから〜たっりめ〜だろ〜がぁ!!!」


「僕はっひぐ、そんなに酔ってないよ!!」


「ぐはははははは!!!そんな顔で〜酔ってね〜つうのは無理あるぜ〜嬢ちゃん!!」


僕に話しかけてきている酔っ払いがそう言うと、酒場のマスターやウェイター、客に至るまで笑い出した。どうやら本当に隠せもしないくらい僕は酔っ払ってるらしい。


「そ〜んな状態じゃ〜演奏はできね〜かぁ!?」


「言ってくれるね、」


完全に乗せられているけど、この人を馬鹿にした態度が気に食わないので、乗ってやる事にした。 

絶対この酔っ払いが財布をすっからかんにするくらいに、精神バフを盛りまくってやる。


「ちょっと行ってくるよ」


「あぁ行ってこい」


さぁオンステージだよ。




ティララ〜ンッ!!


そして酒場の中央の机の上で数分全力で演奏してやった。客全員に精神バフをかけまくり、酒の追加注文の声が飛び交っている。僕を煽ってきた人には意識的にバフをかけてあげたから、今は気持ちよさそうにお酒ガンガン、つまみもガンガンに頼んでいるみたいだ。


机から降りて、ふらつきながら元の席に戻ろうとしてると、ウェイターの人に一緒に宿の部屋に行かないかと誘われた。

心配されてるのかもしれないけど、待たせている人がいるからと断りを入れたけどね。


「っ、お待た、せ」


「なかなか良かったぞ」


どうやら僕の演奏はそこそこの出来だったらしい。一安心して残していたお酒に手を伸ばすと、思いがけない事をスカイが聞いてきた。


「それはともかくとして、マーリンお前、まだ小僧なのか?」


「小僧?」


「先程娘に誘われておっただろう?」


「?」


「年頃の娘がこの時間に誘いをかける理由など、少し考えればわかるだろう?」


「あっ….、」


言われてみれば、簡単な事だ。それに結構わかりやすく言葉にしてくれてたし。なんかすごいあの人に悪い事をした気分になる。


「今更気づいたのか、あの娘も気の毒だな」


「〜っ//いつもならちゃんと気づいたよ!!」


「わかっとるよ。マーリンがここまで気を抜いているのは私が相手だからだろう?」


スカイが相手だから?僕がこうなってる?

意味がよくわからなくて、そのまま顔に出てしまっているだろう。


「例えばあの村であったあの娘とここにくれば、お前は決してその様な有様にならんかっただろう?」


少し考えてみる。メーフェと酒場に来た。楽しく過ごせる様に頑張るけど、基本はメーフェに何か問題が起きない様に気を張るだろう。

確かに今みたいにはならない。


「あの娘以外のマーリンの知り合い、肉親でも良いが、その者らとここに来たとしよう。お前は今の様になるか?」


また考えてみる。エル父さんやシェーラ母さんとここに来た。あのお爺さんやザイバ達とここに来た。ある程度は気を抜くだろう。お酒も飲むかもしれない。

でも何かあった時に守れる様、守り合える様にしておくだろう。

そう考えてみると確かにここまでの状態にはならないと断言できる。


「ならないと思う…」


「ならその相手を私やそれに類似する者で考えてみると良い」


スカイやスカイに似た様な知り合い。

神くんとよっちゃんだろうか?

割と好きにするかもしれない。

神くんとこんな機会があれば、多分全力でふざけ合うし、おちょくり合うと思う。

よっちゃんとなら、まったりしながらお互いに色んな話をするだろう。お酒もあるからもっと盛り上がるかもしれない。

スカイとは実際こんな状態になってるし。


「どうだ?さぞ気を抜いているのではないか?」


「抜いてると思います」


「だろうな、お前は己が分を弁えぬ馬鹿者だが、それを理解した上でなお諦めん愚か者だ。」


「……それは……はい」


思いっきり呆れられた目で見られ、流石に反論できない。


「分を超えていると理解しているからこそ、後悔をせんし、迷いません。その道を諦めんと決めておるが故、屈しませんし、臆しません。」


今度は褒められた。喜んで良いところだろうか?結構純粋に嬉しいんだけど。


「だからこそだろうな。失う心配のない者、自分よりもはるかに強く、己が力が関与出来ない者が相手の時は酷く緩む。日頃の張り詰めとるからこそ、緩んだときの心の制御が甘い」


何も言い返せないし、否定できる所が見つからない。というか、自分でもびっくりするくらいにストンっと受け入れられるくらいだ。


「お見それしました。」


「ふふ、言っただろう。私は真面目で凝り性だとな。マーリンは私の初めての弟子だ。それは丁寧に育てる」


「それは初耳だね」


「候補はいたがな、仕方はない。〔人〕ならざる者に強くなれと言われるのだ。諦めるのが普通だろうよ。

マーリンの様な阿保はそうおらん」


最後の言葉は余計。だけどそれも良いかもしれないね。阿保は阿保らしく、やっていこう。

今はまだスカイの方が僕を把握してるけど、いつか必ず。


「その阿保を弟子にしたんだからスカイも相当さ。」


「ふふっ、そうかもしれんな。私も相当なら馬鹿者だろうよ」


「スカイ、あの日の言葉に嘘はないよ。死ぬ気でスカイの願いを僕から叶えに行くから。

…僕が死ぬまで待ってて」


「ああ…気長に待っておいてやる。お前の人生は長そうだからな」


「あははははは!!!!」


「はっははははは!!!」


楽しい夜だ。こんなに楽しい時間は前世含めて初めてかもしれない。

必ず行こう。まだ遥か頭上にいる人だけど、必ずたどり着いて見せよう。

僕はこの人を一人にしておきたくない。

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