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思い出話に花咲かせ

城塞都市ディミトリアへたどり着いた僕と師匠は宿が併設されている酒場に入り、一応のお別れ会?みたいなのをしている。


ティララーツェラン、ツェラン〜ティーララ ティラン ツェララ〜ティラーティラン


まだお昼にもなっていないので酒場に賑わいがなくて、それがなんとなく気になった僕は酒場の雰囲気を盛り上げるため興行をしている。

そのおかげか酒場も夜ぐらいの熱気が出てきたし、師匠にも意外と好評だった。


「マーリンその魔術の技法はジョナン・ディオが得意としている技法だと私は記憶しているのだが、お前あいつから習ったのか?」


「そうだけど、知り合いなの?」


「あいつが全盛期終わりにな、この私と戦ってみぬかと誘いをかけたことがある。あれやこれやと理由をつけられ、結局やらなかったがな」


なんというかすごく師匠らしいです。そしてあのお爺さんが師匠の誘いを断っている情景もすごく鮮明に思い浮かぶよ。


「あのお爺さんは絶対にやらないだろうね。師匠は結構そういうことしてるの?」


「そうだな、随分前からやっているな。めぼしいものを見つけては、その全盛期が終わるその時に誘いをかける。それで向かってこぬならそれでもよし、向かってくるなら立ちはだかってやった」


「僕の時は問答無用じゃなかった?」


「問答はしただろう。それに前提としてマーリンを殺すつもりがなかったしな。」


「あの日は何回死にかけたか覚えてないよ僕」


「即死でなければ、まぁどうにかなるしな。何度か即死させかねなかったが、今更だろう。」


なんでこの人はこんなに賢いのに、こんなに大雑把なんだろう。長く生きてたらこんな感じになるんだろうか?


「師匠って本当に大雑把だよね。」


「なに?私は真面目で凝り性だぞ」


「真面目で凝り性って。そんな人は弟子になにも持たせず魔物の巣を踏破させたり、避けて逃げることしかできない状態にして迷宮に放り込んで、何度もタイムアタックなんかさせたりしないよ!!!」


「何を言うかこの馬鹿弟子は!!あの村から出た後も自身の分を弁えぬお前のせいだろうが!

儂自ら事前を調査した上で、お前が死力を尽くせばギリギリ達成できる課題しか与えておらんわ!

そこらにいる阿保共が儂と同じ事をすれば、マーリンはここにおらんと断言できるぞ!!!」


「師匠以外であんなことする人なんかいるはずないよ!!それに何回かは本当に運が良くて生き残れたところもあるからね!!氷柱がたまたま目の前の魔物に当たってくれたりとかしてさ!!」


少し考えただけで運に助けられた事が何回も思い浮かぶ。その度によっちゃんへ感謝の祈りを捧げたくらいにね。

それだと言うのに


「ほぉ〜それは初耳だな。この馬鹿弟子は儂があれ程丁寧に作った課題ですら運の助けがなければ達成できなかったのか?」


「師匠の考えが足りなかっただけで僕に落ち度なんてないよ!!それに迷宮の中に師匠から聞いてなかった魔物とか結構いたんだけど!!吸血鬼とか、竜王とかね!!」


「その程度誤差の範囲だろう!!儂からすればそこらにいる魔物と大差ないわ!!」


「だからそこが大雑把って言ってるの!!」


【命の境界線】での修行時は生きていく為の最低条件が師匠に握られていたから下手な事が言えなかったけど、今僕がいるのはもう人が本来なら生きられない秘境の地じゃない。好きな事を好きなだけ言えるってすごく気分がいい!!


「……む、あの時の約束がなければ今すぐに半永久トレーニングコースだと言うのに……」


「半永久って師匠が言うともう永久だよね!?」


「大丈夫だ。儂を倒せるくらいになれば自動的に終わるからな」


揺るがない絶対条件なんだねそこは。師匠の願いってのもそれなのかな?結局願いの内容を聞かされてないし、僕としては一緒にいる今日までに教えて欲しいんだけど。


「まぁまぁ!!綺麗な兄ちゃんもねえさんも盛り上がって行こうぜ!!」


カウンターで師匠と二人で飲んでいると酒場のマスターが大ジョッキ二つを持って僕達に話しかけてきた。


「む?すまないな。ありがたく頂こう」


「ガハハハ!!気にしなさんな美人なねえさん!

横の兄ちゃんのおかげで人の入りは最高!!

綺麗な二人がいてくれるおかげで注文殺到で、俺としちゃあ感謝しかねーぜ!!!」


そう言いながらマスターは料理を持って他のお客さんのもとへ歩いていった。

しかし僕の頭は違う事で埋まっている。


「兄ちゃん………」


「どうしたマーリン?何にそこまで感動しているんだ?」


「はじめて…酒場で、初対面の人に、男扱いしてもらえた。」


「さっきまで会話を聞いていたからだろう」


「もしそんなんだとしても!僕は大きな一歩を踏み出せたことには変わりないよ!」


この一年間よっちゃんに言われた通りスキルを使っての身体強化はしてない。というか師匠にスキル封印されてたからできてなかった。

そのおかげで体も少しずつ大きくなってきたし、前世基準で考えれば中学生に見えなくもない身長になってる。

このままいけば


「マーリンお前、都市に入る時も、宿を取る時も女に間違われたのを忘れておるのか?」


どこから見ても男に見えるんじゃないか、という僕の淡い希望を容赦なく粉砕する偉大なる師匠なのでした。


「ははは、少しくらい希望を抱いてもいいじゃないですか師匠。このまま成長したら男らしくなるかもしれないじゃないですか……」


「そこまで落ち込む事なのか?それにお前が今からエルフの国に行くのだろう。ならば尚更どちらに見えるかなど、どうでもいいだろうに」


「エルフについての知識は持ってるけど、僕としてはどちらに見えるかってのは重要な事なの」


「お前はほとんどのことを上手くやる代わりに、よくわからない所にこだわるな。

だからこそお前はひどく不安定だというのに」


「そういう師匠だってほぼ全ての事をできるくせに」


お互いに手元にある酒を空け、また新しい酒を頼んでまた空ける。城塞都市ドルケストで酒場を回っていた時は、お酒なんて一杯飲むか飲まないかだった。情報収集を目的にしてた事もあるけど、なんとなくお酒を飲もうとは思えなかったんだよね。

師匠の方は修行中にもよく趣向品と楽しんでいるようだったし、前後不覚になった姿は見ていないから普通にお酒が好きでお酒に強いのだろう。

そんな師匠は見るからに度数高めの酒が入ったグラスを傾けながら、遠いどこかを見るように喋り始める。


「そうさな。私はほぼ全てをほぼ完璧に私一人の力で実現できる。……だがな、なにも最初から出来ていたわけではない。………才能があった事は認めるがな」


「それは、うん。そうなんだと思うよ」


「儂はな、全てを出来る様になろうとしたよ。己の可能性、才能全てを活かそうとな」


今の師匠になる前の話。どれほど昔の話なんだろう。


「一つ、また一つ出来る事が増えるに従い、新たな競争相手が増えた。そ奴らを打ち倒す為に更に才能に磨きをかける。

幼き頃は休む事もなくそれのみに熱中したものだ」


師匠らしい。師匠は熱中すると周りが見えなくなるから、きっとその時もそれ以外は視界に入らなかったんだろうね。


「強くなればなるほど競う相手は増えた。超えるべき壁もな。……だがな、ある段階までいくと急激に競い合う者は減り、壁の高さも格段に上がる。

まぁあの頃はそれでも良いと考えていたがな。競う相手が選りすぐられただけ、壁を越えにくくなっただけだとな。

その行き着く先など考えてもいなかった」


普通は考える必要のない事なんだろう。上には上がいる。それは一種の覆し様のない真理であるのだから。それを考える必要があるのはただ一人…


「そんな事をし続けてどれだけの時間を経たのか、儂の周りから競争相手が消え、いつも目の前にあった壁は姿を消していた。

簡単に言えば登り切ったというわけだ」


正真正銘ナンバーワンになった人だけだ。そこに至るまではただ前に進むことだけを考えればいいんだからね。

そこにたどり着いたスカイは何を思ったんだろう?


「頂きに立った儂はそこからその頂きに立ち続けた。挑んでくるものは返り討ちにし、儂の知識や力を求める者へはそれらを与えた。

そんな事をまた長い事し続けたわけだ。次第に減る挑戦者の数と儂に畏怖しながら助けをこう者達から目を逸らしながらな」


頂点に立ち続ける絶対強者。

そんな存在は普通なら一瞬で消えるんだ。最強は確かに最も強いのかもしれないけど、複数で、罠を張って、準備を整えて、ありとあらゆる手段を用いれば倒されてしまうものだから。

だけどスカイはそれでも絶対強者であり続けたんだろう。


「それはもう…「それはもう人では無い」…」


僕の言葉に重なるようにスカイは言い切った。

そしてそう言い切ったスカイの表情は、あの時に僕に見せた表情になっている。


「そうそんな存在を人は人として認めん。そうあればという願いを持ちながら、象徴としてでもなく、実態のあるものとしてそんな存在がある事を許容しない」


きっとほとんどの人は今のスカイの表情を見てだとしても、何かを感じる事はないだろう。

それほどまでにスカイの表情は冷静そのものなんだから。


「いつからか儂はな…儂は人として認められんようになっていた。人という枠組みから、人という認識から除外される様になっていたわけだ。」


スカイは笑っていた。微笑む様に優しい笑みをたたえて優雅にグラスを傾けている。

周りの客達が自然と目を奪われるくらいに優雅に華麗な仕草だ。


「ふふっ…つまりは儂は人ではなくなったというわけだ」


晴れやかな表情を僕に向けるスカイ。

だけど僕はそのスカイの顔を真っ直ぐに見る事ができなかった

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