表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
103/129

マラソン終わりの一休憩

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、」


身体強化も切れ、師匠からかけられていた魔術も切れてる。僕は体を地面に投げ出して久しぶりに感じる青臭い草花の匂いと温かな日差し、時折吹き抜ける爽やかな風を全身で感じていた。


「なにをこれくらいでへばっているんだマーリン。たかが長距離走をしただけだろう?」


「いやっ、はあ……。これは長距離走なんてものじゃ無いでしょ。【命の境界線】の奥地から城塞都市ディミトリアまでのノンストップなんてまともな思考回路の人がすることじゃ無いよ」


「ほぉ、この私がまともな思考回路じゃないと?」


「師匠。視力と武器を奪った上で【命の境界線】にある迷宮や魔物の巣に弟子を放り込む人はまともな思考回路を持ってるとはいえないよ?」


「はははまた楽しい長距離走をしたいらしいな。丁度もう一回する時間ならある、またスタート地点に送ってやろうか?」


「勘弁してください」


あの日村を出てから、半年以上師匠と二人で【命の境界線】を旅し続けた。食糧調達も何もかも自力でやって、師匠から出される課題をとにかく達成していく日々だ。課題達成の褒美が温度調整の魔術で達成できなかったら死ぬ。というか失敗イコール普通に課題で死ぬんだけどね。


「冗談だ。今しばらく休んでいろ。それまでここにいるのも悪くはないだろう。」


師匠はそう言って僕の体を持ち上げてまた寝かせてきた。後頭部に柔らかな弾力を感じるんだけど、相手が師匠なだけに恐怖が勝る。


「よくやった弟子に麗しの師匠からの褒美だ」


「それ自分で言うことじゃないですよ」


「なんだ?愛しの、の方がいいか?」


「もう好きにしてください」


師匠にはいろんな意味で何回も殺されかけてきた。それでも生きてるし良いんだけど、まだ僕は師匠には全然敵わない。願いの内容も何も教えてもらっていない状態だ。


「そういえば師匠はどうして神に挑んだの?」


ずっと気になってた事で、聞くことがなかった問い。師匠、スカイの事はよっちゃんから聞いていたけど、その印象と今僕のそばにいるスカイの印象は少し違う。

もっと言えばあの洞窟で出会った時から違和感があった。一致はするけど微妙にずれる感じ。

スカイがよっちゃんの言っている人である事は間違い無いけど、よっちゃんの話の通りでならきっと僕はあの時に死んでた。


「………昔の話だ。何年前かなどもはや覚えていないがな。答えを探して旅をし続けた先にたどり着いたから挑んだ。そして私が自分の意思で捨てた旅の果てでもある。」


「旅の果て。でも何かが違うかったんだよね」


「そうだ。神々と戦っている最中それに気付いてな。それに気付いてからは必死に逃げたよ。神々はそんな私をこれでもかと追い詰めてきたがな」


あれ、よっちゃん少しだけ話が違うんだけど。よっちゃん達も結構楽しんでた感じなのかな?


「結果命からがら神の領域から抜け出し、こちらの世界に帰ってきた時には私の体は半神へと昇華していた。まぁ一種の呪いだろうな」


何を思ってどう考えたらそこまでたどり着くんだろう?力を求めた先なのか、もっと違う理由からなのか。


「未熟だった私の誤ちだ。その事を覚えているものも語り継いでいるものももういない。忘れ去られた人の罪の形が私だ。」


語り継ぐものもいない。一万年前にあったとされる【第一次聖魔大戦】が今把握されている事象の中で最も古い記録。少なくともそれ以前の世界から師匠は生きている事になる。

それほどまでの時間を生きてなお見つけられない答えとは一体何なんだろう。


「昔話は終わりだ。そろそろ城塞都市へ向かうぞ」


「えっ!ちょいきなり立たな…」


僕は軽く地面に頭を打ちつけ、頭を押さえる。


「立ち上がる時に一言お願い、師匠。驚くから」


「今更これくらい痛くもなかろう。」


「痛くなくても驚くから」


溜息をつきながら体を起こすと、僕の額に師匠の手が触れられる。


「それと修行も終わりだ。魔法術とスキル、視力を戻してやろう」


そうして約一年ぶりに僕は自分の本来持っていた感覚を取り戻した。それは今の僕からしたら多すぎる力だけど、酷く懐かしい観覚だ。

目蓋を閉じていてもその上から感じる光。少しずつ目蓋を開けば目が眩む太陽の光でまともに目を開くこともできない。


「久しぶりです師匠」


「私の姿は覚えていたか?馬鹿弟子」


「忘れたくても忘れられませんよ」


何度か瞬きをしながら、目に写る師匠の姿は最後に見た時と何一つ変わらない。夜空の様に光を飲み込む黒髪も月光の様に輝く瞳も、何もかもが変わらずあの時のままだ。

それでもその顔に浮かぶ笑みは幾分か柔らかなものに僕には見えた。







 






「どう僕のダーリンは見つかった?ウルティマ」


「ううん、今のところそれっぽい人は見つけてない」


「ああーどうなってるのかな〜。あのクソ女とは違って僕たちと同じ様に転生してるのは確認したんだけど。今のところ集められた祝福の子の中に僕のあそこが反応する子はいないんだよね。

となると王族、貴族以外の平民らへんに転生したってことになるんだけど、ウルティマの能力でも見つからないなんて何をしてるのかな僕のダーリンは」


魔王城の一室。色気を漂わせる仕草で手元の資料へ目を通す美丈夫と布で顔を隠した少女が言葉を交わしていた。


「父上が僕にくれたこの各国の祝福の子の資料。僕が見ても情報を隠蔽してるとは思えないし、カッシアちゃんにも隠し事の気配はなかった。それにウルティマの《巫女》の力でも反応なしね。」


「《巫女》の力は人探しじゃない。いくつかの条件に合う人物を集合無意識から啓示として受け取り、動物に乗り移って確認してるだけ。効率が悪い」


「そうなんだけどね。あの神は時間差などほぼ関係なく僕たちを転生させると言っていたから、どう考えても僕たちも同年代で転生しているはずなんだよね。実際に他の転生者達はちゃんと一年の枠に収まってる」


「あいつの考えは私には前世からわからない。

あなたの考えも」


「ハハ当たり前だよ。僕とダーリンはお互いに求めあった中だからね。あのクソ女の邪魔さえなければとうの昔に僕のものになっていたんだから」


手元の資料をテーブルへと投げ置き、美丈夫は椅子から立ち上がって部屋を歩きながら熱弁を始める。


「あのすらりと伸びた手足も!陶器の様に白い肌も!容易に人を近づけようとしない可愛らしいその心も!!

あの時あの瞬間僕が手に入れるはずだったんだ!!!少しずつ少しずつ丁寧に建てた計画のもと、あの瞬間彼は僕にその純潔を自ら僕に捧げるはずだったんだ!!!」


その顔は薄暗い部屋明かりでもわかるほどに紅潮し、隠す気のない欲望に溺れた笑みが張り付いている。しかしその美丈夫の端正な顔立ちのおかげか、はたまたその身に纏う濃厚な色気のおかげか、その様子を静かに見ているウルティマの顔には軽蔑の色はない。


「あの時、選択を悩む彼の顔!!!ああっぁ〜なんて可愛らしいんだ!!!是非にっめちゃくちゃに愛でたい!!!

彼が誰も入れた事のない純白のキャンバスに僕と言う存在をこれでもかと殴り書きしてぇーーー体も心もぉ!!僕のものになるはずだったんだぁ!!!」


タキシードの様にスッキリとした服とは不釣り合いにすぎる美丈夫の狂乱。これでもかと主張する美丈夫の下半身の昂り。それは今美丈夫が何を想像しているのかをありありと示していた。

しかしそんな美丈夫の狂乱もウルティマと呼ばれていた少女が、小さな声で呟いた一言により終わりを告げる。


「でも結局は、あの人にあいつを横取りされたんでょ」


美丈夫はその言葉で動きを止め、不自然な動きで先ほどまで座っていた椅子に座り直す。そしてテーブルに置かれていたグラスを手に取り、口にしてゆっくりと息を吐いた。


「っんふぅ。ハァ……。そうだね……ウルティマ。そうなんだよ。……後ほんの少しと言うところであの女が全て持っていってしまった。ダーリンと僕が争っている間に準備を済ましてね。あそこまで僕とダーリンが誰かの罠にハマるなんて予想外だったよ」


ぐびっ、とグラスの残りを一気に流し込み、残った氷を弄びながら。その美丈夫は窓から見える空を見つめながら続ける。


「本当に見事にしてやられたよ。はははぁっ!!弱みを握られて動けない僕の目の前で、あのクソ女ぁが僕のやりたかった事をぉ見せつけてくる様にやっていくんだからなぁー!、」


ガシャァーンッ!!


「柊のクソ女がぁ!!!この俺を利用した上にぃ、俺の愛し魔理の純潔まで奪いやがってえぇ!

しかも四つとも容赦なくだぞ!!あぁぁークソがぁぁあ!!!

一個ぐらい残しとけヤァァアーー!!!!!」


その絶叫は部屋全体に響き、空気を振動させ窓が軋む。ウルティマと呼ばれていた少女は耳を塞いでただその絶叫が収まるのを待っていた。

窓にヒビが入り、限界を迎える寸前でようやくその絶叫は収まり美丈夫も落ち着きを取り戻した様だ。


「はぁーはぁー、はぁーはぁー。だけど今世では柊 紫苑はいない。僕から奪ったくせに、最後に魔理を逃しちゃう様な馬鹿女はいないんだ。

今世こそ絶対に魔理を見つけて僕のものにしてやる。

だからウルティマ。君も手伝ってね?」


「私はあなたの欲望なんてどうでもいい。これは取引。あなたが私の願いを叶えてくれるならなんだっていい。忘れないでアマデウス」


「勿論さ。君の復讐は僕が叶えてあげるよ。戸向 明日菜さん」


「うん、お願い。暦音 無灯。それともうすぐ魔王からの呼び出しが来る。」


ウルティマと呼ばれた少女がそう言った数秒後、扉をノックする音が部屋を響いた。

「さすが」と美丈夫は呟き、扉の向こうにいる者に向かって用件を尋ねる。


「はっ!!魔王様が王子をお呼びでございます」


「そう、今いくよ。先に父上のところに戻って伝えてきていいよ」


「はっ!!」


「じゃあ、魔理の居場所がわかったら教えてね」


「わかった」


そう言い残して部屋を後にしたアマデウスは、長い廊下を歩き、父上がいる円卓の間を目指す。


「父上達の計画が崩れて早くも一年。当分は何もできないかと思っていたわけだけど、流石は僕の今世の父上ということか。

ハハハ、どんな面白い事を考えているのか楽しみだ」


僅かな期待を胸をに秘めながら、僕はまだ見ぬ愛し人への思いを募らせていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ