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世界の広さ


「あぁ…クソなんでっ俺の剣が当たらないんだよ!!」


フォンッ カァン!ガンッ! フォンっファンッ


猛烈な剣撃。剣速でならエル父さんに迫るほどだし、威力でなら上回っているかもしれない。

それでも圧倒的に劣っているところがある。


「レオンハート王子、剣の稽古はしていますか?」


「当たり前だ!!小さい頃から軍の実力者相手で打ち合いをしてきた!!」


フォンっ ガァッ


レオンハート王子を相手にこの国の上層部がそんな事をするだろうか?《勇者》のジョブを持っているレオンハート王子は確かに強いけど、この国の軍部の実力者相手にまともな戦いができるかと考えればそれはあり得ない。

なら適当に相手をされていたと考えた方が良さそうだ。そうなると基礎鍛錬の方はそんなにしていないんだろうね。


「レオンハート王子の動きは確かにすごいです。ですがその動きは空っぽだ。中身がない」


「俺は《勇者》なんだ!!最強なんだよ!!」


マーリンとは真逆の剣。力とスピードに頼った剣だ。十分に強力な組み合わせだけど、鋭さはないし、剣の腕も何かに操られた様な動き。


「動きが直接的すぎるんですよ。レオンハート王子」


元々直接的な動きは、精神が乱れるとすぐに大振りをする様になる。後はうまく流してその勢いを利用すれば


ドンっ


「グハァッ…」


すれ違いざまに鳩尾を柄を打ち込んで終了。きっとリットリオ先生にも同じ様なやられ方をしたんだろう。

膝をついてうずくまっているレオンハート王子の顔には困惑の表情が浮かんでいる。


「レオンハート王子。この国ではジョブに頼った戦い方ではすぐに限界がきます。

二年前のジルはその事を既にわかっていましたよ」


「ぐぅっうう」


「「「レオンハート王子!!」」」


一応戦いも終わったと判断して、その場を後にしようとすればここに来るまでずっとレオンハート王子に付き添っていた女子生徒がレオンハート王子へ駆け寄っていく。

観客の様子を確認すれば四分の三ほどが僕への歓声を上げていて、残りの多分一年生達はレオンハート王子が僕に負けた事に驚いているみたいだ。


「よっ!流石は【学園の王子】だぜ!!」


「お疲れ様ルート」


訓練場の準備室へ移動しようとしたとき、観客席からジルとマエルが話しかけてきた。

二人とも自分たちが観客側だという事で随分と楽しそうだ。出来る事なら僕もそちら側でいたかったけど、もうそれはできないだろう。


「二人ともあの時僕にも声をかけて欲しかったよ」


「あの馬鹿はお前を名指しにしてたからな。ルートにこけてたら俺まで標的にされてたぜ」


「それにルートだけ十分と思っていたし、無駄に私達まで認識される必要はないでしょ?

それと私たちの横で戦いを見てたリットリオ先生が「よくやった」って嬉しそうに言ってたわ」


先生の立場上僕の様にレオンハート王子をあそこまでの状態にする事ができなかったんだろう。多分転ばすぐらいで相手をしていたけど、相手が諦めないせいで相手にしきれなくなったんだと思う。

それがすぐには立ち上がらないくらいに僕がしたのを見て気分が良くなったんだろうね。




「気持ちはわからなくもないけど、あんな直接的な方法で僕に押しつけないで欲しかったかな」


「はははっ!!確かにあれはわかりやすいくらいに押し付けてたな!!」


「ルートがこれまで色々と手を出してきていたから、講師陣の間でも頼る抵抗感があまりないのでしょうね」


「それは僕だけじゃなくてマエルやジルも同じだと思うんだけど」


僕たち三人は身分の事でや、成績のことで少なからずの因縁をつけられる事がよくあった。

レオンハート王子みたいな直接的な解決ができない問題や、僕たちだけでは解決できないことをいくつかあったりして、講師の人達には助けられた事も何度もある。

これはそのツケが回ってきたという事なんだろうか。


「それにしても意外だったのがディーノ・ツェッペリンとフィーナ・シアール両方ともレオンハートが負けたことにそこまで反応してなかった事なんだよな。ディーノのやつはこの前の戦争からだいぶ丸くなったんだが、フィーナの方は相変わらずめんどくさいやつだからな」


「そうね、私も注意していたけどディミトリアの方はとても落ち着いていたと思うわ。マルケルの方も……えぇそこまで問題ないと思うわ」


「マエル、その言い方だと大丈夫に聞こえてこないよ」


マエルが言葉を濁したうえで、問題ないと言うというという事はそういう事なんだろう。まぁ確かに戦いを挑まれる事も無いだろうけど、あれはあれで違う問題がある。


「ああっ!なるほどな。確かにあれならルートには問題ないだろうぜ。なんたってこの学園であれに一番慣れてるのは間違いなくルートだからな」


「慣れてるって言い方はどうなのかな?それにそれもマエルとジル二人ともに返せる言葉だと思うんだけど…」


「ははは!まぁどっちかと言うといい事だぜ。

なんたって相手は大貴族だからな気に入られれば色々といい事もあるだろう」


人事の様に好きに言ってくるジル。実際人事なんだけど、僕としては全く良くない。

まだ将来どんな道に進むかも決めてないし、決めたとしてもその時に僕以外の力で成ろうとは思わないんだから。

この話を続けても嫌な流れにしかならないと判断した僕はこちらから話を振ることにした。


「そういえば話が途切れて聞けてなかったけど、臨時講師は結局誰になったの?」


「ん?あぁそういえばまだ言ってなかったか?」


「そうね、リットリオ先生との話になって聴けていなかったわね」


なんでだろう。この話をここでするのはすごくまずい気がする。なんとなく何かを呼び寄せてしまいそうで。


「聞いて驚くなよ。臨時講師としてくるのはノーブルファブニールを倒し、この前の戦争で暴れ回ったって言うオフェリア大佐だ。

どうだ驚……「私を呼んだか?」…いた、 か 」


僕たちの後ろで誰かがジルの言葉に割り込んできた。驚いて振り返ると、僕たちと歳がそう変わらない一人の女性が楽しそうに僕たちを見つめていた。


「どうしたそんなに驚いた表情をして。お前達が私の名を呼んだんだろう?」


驚いている理由なんてわかっているはずなのに、そう言ってからからかってくる。

ジルが否定をしようとしないって事は本人であると言う事なのだろうけど、あまりにも唐突な登場の仕方であり、どう行動するべきかがわからない。


「なに、ただの挨拶だ。近いうちにお前たちの講師になるオフェリアというのは私で、その生徒になるのは前期三年。お前達がその中に入っているだろうと予想して話しかけた。あっているか?」


「はい。私達は前期の三年なのでその認識で問題ないと思います」


「ルート、マエル、ジルヴァーニアであっているか?」


「はい。僕がルートでこの二人がマエルとジルヴァーニアです。」


オフェリアさんは手に持っていた紙の束をペラペラとめくり、何かを書き込んでいく。時節僕たち三人を見るその目は、オモチャを見つけた魔物の様で、恐怖心が心を支配していくのを感じる。


「ルートら先ほどの戦い見事だ。それにマエルにジルヴァーニアの観察眼も悪くない動きをしていた。いくらか私なりに見て周って、ヴィオレラの言っていた通りかなり手加減が必要だと理解したが、少なくともお前たち三人にはある程度までなら力を入れて指導して良さ様だな」


その時に僕たちへ向ける笑みに背筋が凍り、全身から嫌な汗が溢れてくる。そんな僕たちを見てなおさらに笑みを深めオフェリアさんは僕たちに近づき、通り過ぎていく。


「ではな。出来るだけ早く課題とやらを終わらせて私が講師としてこれる様にしてくれると助かる。安心しろ、部下たちをしごいてから来るつもりだ。そこまでやりすぎる事はないだろうからな」


どこにも安心する要素なんて感じられず、初めての絶対強者恐怖に固まっている事しかできなかった。いつまでそうしていたかはわからないけど、やっと動け出した時の疲労感はレオンハート王子と戦った時の疲労とは比べ物にならない。


「……凄かったね……」


「えぇ……ほんとうに……」


「完全に、目をつけられたな」


「…そうだね」


僕たち三人は学園にあるテラスまで移動して、ただじっと心が落ち着くのを待った。

いつもは調べ物や課題対策、鍛錬をする時間なんだけど、流石に三人ともやろうとは思えない。


「(マーリン。世界は僕が思っていた以上にすごく広いみたいだよ。)」


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