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予期せぬ出会い

「おい、ルート、マエルあの話聞いたか?」


「臨時講師の話?」


「確か今の課題が終了したらって言う話だったわね」


「おう!その臨時講師の話なんだがよ。臨時講師としてくる奴がやばいんだって!」


北領同盟王国王都の教育施設の廊下を僕とマエル、ジルで歩いていた時にいつもの如くジルが話を振ってきた。ビヨンイ君との一幕があった後、課題の日まで学園を休んだ。理由は聞いていないけど、実家の方で何かしなければいけないことがあったんだと思う。ちなみに前期二年の最終な成績は僕 マエル ジルで順位が変動することはなかった。


「やばいだけじゃ何を伝えたいのかがわからないわ。それはここ最近の常勤講師達の様子よりもやばいわけ?」


「確かにそうだね。新学年に移ってからの学園の様子はちょっとだけ良くないことになってるから、それ以上にやばいって言うのは僕も想像つかないかな」


「ああ〜まぁ、確かに講師陣の疲労困憊ぶりはやべーな。前期新一年の奴らが暴れまわってるらしいからな、その尻拭いに走り回ってるんだろうぜ。」


今少し話に出たけど、話題の祝福の世代の王子と大貴族の子二人が揃ってこの学園に入ってきた。

講師陣はかなり前から起きるであろうと予想し、色々と準備はしていたらしいけど、どうやらそれじゃあ間に合わなかったみたいだ。

新学年になってから一ヶ月もしないうちに講師陣からは疲労の色が見え始めている。

僕たち三人とも他の生徒と比べれば講師陣との関わりは多く、心配に思う気持ちは強い。

そのまま三人で廊下を歩いていると目の前の廊下の曲がり角から、僕たち前期三年の武術講師リットリオ先生がやつれた顔で現れたのだけど、いつもキッチリとした姿の先生からは想像もできない姿で一瞬誰かがわからなかったくらいだ。


「リットリオ先生、ですよね?」


よく知る先生という事で思わず声をかけてしまった。リットリオ先生も僕達に気がついた様で、いつもの様に背筋を伸ばしてから僕達に近づいてくる。


「ルート達か、すまない。情けない姿を晒した」


「リット先生がそこまで披露してるとは素直に驚きだぜ。一年の奴らはそんなに元気がいいのかよ?」


「ああなかなかだ。二年前のジルヴァーニア、お前以上の暴れん坊どもだ」


僕たち三人の中でリットリオ先生と一番仲がいいのはジルだ。理由は単純にぶつかった回数がこの三人の中で一番多いから。それは僕達現三年の代で一番暴れん坊だったのがジルで、今の一年生の様にジルも一年の時は色々と凄かった。


「一年の時のジルヴァーニアは村のガキ大将みたいだったけれど、それよりも酷いのですか」


「ははっマエル。問題になっているのはな他にもあるのだよ。ジルヴァーニアの時はお前やルートが来てくれたおかげで、我々講師陣に回ってくる仕事が少なく済んでいたんだが、今年は甘え達の様に気骨がある者はいないのだ」


「リット先生さぁ、なんか俺への物言い酷くねーか?」


「本当のことだろう。あの時はルートとマエルが動き出すまで毎日の様に私がお前への対処をしていたのだからな。私にはそれへの不満を言う権利がある。」


当初僕とマエルはジルには関わらないと言う事で意見が一致していて、六月くらいまでは事を荒立てる事はしなかったんだ。結局見過ごすことが出来ない事態になったから、関わりに行ったわけだけど。その頃にはジル以外にも暴れている人が出だしていて、かなり大変だった。


「それにしても学年の違うリットリオ先生が対応しているのですね?」


「第四王子様がな、流石《勇者》と言ったところでな。馬力だけはとてつもない。今年は他にも問題児がいるのでな、どうしても対応する講師の数が足りないのだよ。

そこでさっきまで私が第四王子の相手をしていたわけだ。シェヘラザードやルート、マエルの様に学徒同士で問題を解決されるのが理想なのだがね。」


リットリオ先生はかなり古株の常勤講師でシェヘラ母さんとも知り合いだ。シェヘラ母さんが教育施設に通っていた時は今とは違い貴族と、地方からの推薦組の格差が激しいかったらしい。それをシェヘラ母さんが今の様に表立った格差がない状況に変えたそうで、その話は講師や学生の間では有名な話となっている。

そのシェーラ母さんの息子とシェーラ母さんが推薦する学徒ということで、入学前から講師陣の間ではジルへの対抗装置として期待されていたらしいんだよね。


「まぁ話が長くなったがそういうわけだ。お前達の方で何か動きたくなったら動いて構わない。私がどうにかしておくからな」


「いえ私としてはわざわざ関わり合いになりたいとは思いません。理由もありませんし、特に被害を被ったわけでもありませんから」


「俺もマエルと同意見だね。ディミトリアの奴やマルケルの奴ならまだ我慢できるが、レオンハートはやだね。話してるとぶん殴りたくなんだよあいつ。」


「僕も出来れば関わりあいになりたくはないですね。学年も違いますし、きっと関わることもないでしょうから」 


「そうか、まぁ…一昨年のお前達の様に関わる機会もあるかもしれないからな。その時はうまく対処してくれ」


リットリオ先生はそう言い残して去っていった。


「なんかすげー意味深なこと言い残していったなリット先生」


「ええ、あまりいい意味とは受け取れない言葉だったけれど」


リットリオ先生が言っていたのは、ジルが丸くなり始めていたときに当時の前期三年から殴り込まれた時の事だろうけど、リットリオ先生と僕達がそんな事をするとは考えていないだろう。

でもさっきのリットリオ先生の話からして、逆のパターンならあり得るのではないだろうか?


「すいませーん!!この中にーー」


例えば一年の彼から僕達に殴り込んでくるみたいな。リットリオ先生が第四王子との戦いの後、そうなる様に種を撒いていたとするなら十分に考えられる展開だ。

そして今さっき、リットリオ先生が出てきた曲がり角から出てきた男子学徒はまさに僕が想像した通りの流れで、


「ルートって人はいないーー??いたらちょっと俺と戦って欲しいんだけどーーー!!」


今一番聴きたくない言葉を叫び出した。基本的に廊下での大声が禁止されていることを知らないのだろうか?

とか思ったものの、このままここにいるのはまずいと考え逃げようとしたときには、そばにいたはずのマエルとジルは廊下の遥か後方まで待避していた。対応が早過ぎる。

いや今回に限ってはあまりにタイミングが良かった事で反応が遅れた僕のせいかもしれないけど、もう色々と手遅れだった。周りの講師初めて学徒全員が僕の方に視線を送ってきているのだから。


「あーー!!あんたがルートって人か???」


後ろからはさっきの男子学徒が僕を見つけて話しかけてくる。遥か向こうにいるマエルとジルは助けてくれそうにもない。

たとえ僕が違うと言っても周りの視線の説明ができなくなるし、下手な嘘は事態を悪化させるだけだと知っている。

僕は後でリットリオ先生に意見する事を決めて、声のする方に振り返る。


「えっと、僕に何か用かな?」


あくまで和かに、敵対心は敵対心しか生まないとシェーラ母さんに教えられている。

僕のその対応が良かったからか、相手の男子学徒もにこやかに喋りかけてきてくれた。


「ああ!!用ってのはさっき言ったとおり、一回俺と戦ってほしいんだよ!!」


「そうなんだね。でも君と戦う理由は僕にはないからさ、できれば遠慮してほしいかな」


穏便に丁寧に断る。きっとこの男子学徒みたいな人は少しでも機嫌が損ねるとすぐに暴走するタイプだと思うので、マナーみたいな事は諸々今は指摘しない。


「でもさ!!俺の方にあるんだから頼むよ!!

別にいいだろう?ちょっと戦ってくれたらすぐに俺が勝つし、そんなに時間は取らせねえって!」


いやそれでも僕に戦うメリットが一つもないのは変わらないんじゃないかな?

とか思うけど我慢だ。今それを言っても堂々巡りになって相手が爆発する流れになってしまう。


「えっとさ。僕にも予定はあるし、君がどうして僕と戦いたいのかも理由を聞かせて貰って無いんだよね」


「ん?ああっ言ってなかったっけ?ごめん!ごめん!俺強くなりたくてさ、色んな強そうな奴と戦ってきたんだけどな。さっきまで戦ってたこの学校の講師に、戦いたかったらお前を倒してから挑んでこいって言われたんだよ。んで仕方なくお前と戦うってわけ。わかったか?」


仕方なさそうに理由と経緯を話してくれたけど、僕としては勘弁してほしいな、としか言えない。

戦ってきたって今みたいに殴りかかったって事なんだろうけど、なんて迷惑なやり方なんだろう。

それに話の節々からなんとも言えない傲慢さが溢れていて、もう僕の中では関わり合いになりたくない人で認識が固まってしまった。


「理由はわかったんだけど、それならその先生とは違う人を探せばいいんじゃないかな?

君なら探そうと思えば色んな人をすぐに見つけられると思うからね」


「いやだね。俺は一度やると決めたらやるんだよ!!それに俺はこの国の王子レオンハートだ!

知らねーわけじゃないだろ!!」


出来れば身分は明らかにしないで会話を終了したかったんだけど仕方ないね。この国の王子なら学園内では身分を振りかざす行為が非推奨されてることくらい知ってると思うんだけど。

それにリットリオ先生に負けたのが悔しいから、勝つまでやるって事なのかな。それはあのリットリオ先生があそこまで疲れるはずだ。


「北領同盟王国第四王子様でしたか。お姿を初めて拝見しましたもので。ですがここは教育施設の場ですので、あまり外の身分を中にお持ちになるのはいかがなものかと」


「は?俺がいつ持ち込んだんだよ?意味わかんない事言って話を逸らすなって。

それと補足しておいてやるけど、俺は王位継承権は二位だからな。一個上やお前の代にいるあのあいつらよりも上だからそこら辺間違えるなよ。」


本人としてはこれで持ち出していないつもりか、周りの反応を見て判断できるはずなんだけど。

講師陣はまだマシだけど、学徒全員がゆっくりと僕らから距離をとって関わらない様にしている。

講師達にはそんな判断に迷うみたいな顔をせず、今すぐに割り込んできてもらいたいんだけど、いくら待ってもきてくれそうにない。


「レオン様どうなさったのですか?」

「急にどこかへ行かれましたので心配しました」


僕がどう対応しようか考えていると、どこからともなく数人の女子生徒がレオンハート王子の側に近づき話し始めた。


「あぁみんなごめん。ちょっとこいつに用事があってさ。こいつが話をそらそうとしてくるから困ってんだよ」


「まぁそうでしたの」

「それは大変でしたね」


などと内輪で勝手に盛り上がっていくレオンハート王子の一団。なんだか本当にめんどくさくなってきた。ジルの言っていた気持ちもよくわかる。

レオンハート王子達はある程度自分達だけで盛り上がった後、結論が出た様に僕を見て


「おいルート!!今から訓練場で手合わせするぞ!!あの出来損ないのジルを倒して【学園の王子】とか調子に乗ってるのかもしれないけどな、上には上がいる事を教えてやるよ。

まさか嫌だとか言わないよな?まぁ弱い者いじめしかできない卑怯者だっていうなら仕方ないと思うけどよ!」


「出来損ない、弱い者、ね。」


周りの生徒達は距離を開けているものの、その人数は多い。その前でジルを平気で名指しで貶める。これが王子で祝福の子か、マーリンとは比べ物にならない。

それに僕をここまで怒らせた人はあの時の三年生達くらいだよ。本当は別に負けても良かったんだけど、もうそんなつもりはない。


「【学園の王子】っていうのは僕が名乗っているわけではないけどね。まぁそれでもここは学び場。そこの先輩としてはしゃいでる後輩の面倒くらいは見てあげるよ。」


「うおおおおぉぉおおお流石だぁ!!!!」

「あぁぁぁルート様カッコいい!!!!」


なんでか周りの同級生や後輩のみんなが歓声をあげるんだけど、恥ずかしいからやめてほしい。


「ははっこんな挑発に乗ってくれて助かるよ先輩。すぐに終わらせてあげるから言い訳でも考えてろよ」


「僕にも予定があるから早く移動しよう。どうせここでどんなに喋ったって何にもならないんだから」


「あぁいいぜ!残り少ないそのプライド大切にしてな!」


訓練場に移動する僕とレオンハート王子の後に続き多くの生徒や講師がついてくる。その中にはリットリオ先生、マエルにジルの姿も見えた。


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