こいつにだけは負けたくない!あれ、歓声が聞こえる?
夕方5時。
決戦の火蓋が切られる。
私・玉桜と桃優奈の取組順は、前座の取組の次だ。
入門して2年目同士の相撲なのだから、取組順は早い。
私はこの前座の後の取組が一番嫌いだ。
前座は入門1年目の幕下同士。
まだ体が細い。
今年の春に高校を卒業したばかりで、あどけない顔のほどよいムチムチボディ。
それに続いての桃優奈である。
こいつは相撲は弱い。
経験は私と同じで3場所だが、最高成績が2勝5敗である。
まだ勝ち越したことがない。
従って私達の取組はいつも前座の後に組まれる。
エロ目的の客が注目するのは、この序盤の取組だ。
そこに身長156センチ体重124キロの私が登場する。
場違い感が半端ない。
全力女で言えば、私の方が標準体型なのだが、若い子たちの間で比べると、どこか別の惑星に漂着してしまった宇宙人のような感がある。
桃優奈との対戦は、いつも独特の緊張感に包まれる。
呼び出しに四股名を呼ばれ、茄子紺の締め込み・玉桜が土俵に上がる。
続いて桃花の締め込み・桃優奈が呼ばれ、大きな歓声が上がる。
その音がヒューヒューと聞こえる。
実際にヒューヒューなんて口に出して言っている人はいないだろうが、私の耳にはそう聞こえる。
下品な指笛も鳴っている。
桟敷席の一角に向かって、桃優奈が小さく手を振る。
お尻を突き出し、投げキッス。
桃優奈コールが起こる。
こんな体型になってさえ、こういうことが出来るこの女に、私は憎しみしか感じない。
一方で玉桜を呼ぶ声は一つもない。
私が手を振ったら喜んでくれる人は、この世に何人いるだろう?
それが男であろうと女であろうと。
待った無しの声が掛かり、蹲踞の姿勢から拳をついて構える。
ファンに向かってお尻を突き出す、桃優奈お得意のポーズ。
はぁーっと、客席からため息が漏れる。
あれっ、おかしいな?
いつもなら集中して歓声は聞こえないはずなのに。
行事軍配が返った。




