ライバルとの決戦を前に。かわいいからなんだってんだ!
東京での本場所は一旦、道場に帰る。
夜のちゃんこを食べたら就寝し、次の日の朝はいつも通り5時に起きる。
輪になって朝稽古の柔軟体操をやっている最中から、私は今日の対戦相手に向けて闘志を燃やしていた。
ちょうど対角線に敵がいる。
今日の相手は幕内最軽量、同期入門の元AV女優・桃優奈である。
AV時代の芸名をほんの少しいじっただけの四股名を持つこのふざけた女は、あろうことか私と同じ日に鳴り物入りで入門してきた。
まわし姿になるのをを恥ずかしがっていた私の前で魅惑的なボディをこれ見よがしに晒したため、思わず女としての劣等感を感じてしまった。
ここは女子大相撲なんだ、男が見て喜ぶような体は関係ないんだ、必要なのは強くあるための体なんだ、と頭の中で何度も反芻して、自分を慰めたのであった。
桃優奈の入門はマスコミにも取り上げられて話題になった。
それが女子大相撲に世間の目を向けさせるきっかけになって、彼女目当てに見に来るファンが現われるようになった。
今場所初日も、彼女のファンと思しき集団が桟敷席の一角を占めていた。
土俵の上で彼等に向かって媚を売り、時には投げキッスまでする桃優奈を苦々しく思う力女は私以外にもいるはずだが、世間の注目と固定ファンを呼んできた彼女を、親方でさえも黙認せざるを得なかった。
実際、桃優奈は努力家であった。
入門当時は体重50キロに満たなくて、単なる売名行為だと思われていたが、今では80キロを超えてきている。
稽古も熱心で、決して手を抜くことがない。
雑用も真面目にやるし、彼女が作るちゃんこは誰のものよりも美味しい。
今では桃優奈は本気で力女になろうとしていると、誰もが認めていた。
それだけに、私は彼女には絶対に負けたくないと思う。
80キロを超えても、彼女の体は尚、男の視線を惹きつける。
太ってはいても、そこにはやはりフェロモンというか、何とも言えないセクシーな雰囲気がにじみ出ている。
自慢じゃないが、私は仮に体重45キロになったとしても、男を惹きつけない自信がある。
おまけに料理の腕もない。
不器用である。
入門当時に、もう既に女性としては地球3周分くらい引き離されていたのに、ここで負けたら完全に女が廃る。
こいつに相撲で負けるわけにはいかない。
過去の対戦は全て私が勝っているが、油断はしない。
今日も全力で叩き潰して、土俵に這いつくばらせてやる。




