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乙女の柔肌でぶちかまして  作者: いもたると


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10/12

支度部屋で泣いた日。親方の声だけが、繰り返し響いた。

 神社の境内の一角を借りた、支度部屋の中。

 タオルで顔を覆い、声を出さずに泣いた。

 止まらない。


 すぐにタオルがぐしょぐしょになり、新しいのに変えた。

 止まらない。


 今までどんなに稽古が辛くても、負けてどんなに口惜しくても、私は泣かなかった。

 無様な姿で負けたときも、心無い野次を飛ばされたときも、私は泣かなかった。


 それなのに。

 桃優奈に対してずっと感じていた劣等感が一気に溢れてきて、私の涙腺を崩壊させた。


 新しいタオルに変える。

 鼻をかむ。

 私の涙と汗と鼻水で、もうタオルはぐちゃぐちゃだ。


「おい」

 私の背中から声を掛けた者がいる。


 親方の声だ。

「おい、玉桜」


 玉桜とは、私。

 振り向かないわけにはいかない。

 でも涙は止まらない。


「グスッ、グスッ、ヒッ、ヒッ、お、親方…。ヒック、ウ、ウゥ…、グスッ、ウッ」


「おい、玉桜。お前、何だあの相撲は。全然気合いが入ってないじゃないか!みんな見に来てるんだぞ!あんな相撲を取ってたら駄目だろ!もっと熱のこもった相撲を見せろ!」


「ウッ、ウウ、ウゥ、何で、何で…。グスッ、ウゥ、ヒック、グスッ…。何で、あいつはいいんですか?何で、あいつはあんな相撲を取っていても許されるんですか?何であいつは何もしなくても人気があるんですか?私だって、あいつが努力してるっていうのは分かっています。ちゃんと認めています。あいつが憎いってわけじゃないです。でも、私だって、私だって、い、一生懸命、努力して、が、頑張って、頑張って、いい相撲、取ってきたのに、何で、私が負けると、みんな喜ぶんですか?何で、何で…」


 何で、私は認めてもらえないんですか?

 そう、言おうとした。


 でも親方はそれを許さなかった。

「馬鹿野郎!強くなればいいんだよ!!」


 へっ?という顔で親方を見上げる。

 親方の説教はその後もしばらく続いた。


 らしい。

 らしいと言うのは、私の頭の中にはちっとも入ってこなかったからだ。


 想像するに、力女は強くあれとか、強くなって世間を見返せだとか、強ければ誰も文句を言わなくなるだとか、そういう、親方が普段から言っていることを言われたのだと思う。


 私の耳には、ただ、強くなればいいんだよという言葉だけが、繰り返し繰り返し鳴り響いていた。

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