プロローグ
それは、奇妙な噂だった。夜な夜な、小学校の屋上にあるスピーカーから、誰かの話し声が聞こえるのだという。
誰が最初に言い出したのかはわからないが、その噂話はSNSに乗ってあっという間に拡散され、怖いもの見たさに遠方からの車が、小さな町の学校に押し寄せる始末だった。中には、誰も見ていないことをいいことに、深夜の校庭に侵入する不届き者まで現れ、町の警察は、連夜のようにその対応に追われた。
もちろん、学校側も手をこまねいている訳ではなかった。地域住民たちからのクレームだけでなく、恐怖におののいて学校を休む児童が現れ出したとあっては、原因究明に乗り出さずにはいられなかった。そうして、校長の米倉以下教員たちによって、学校中を捜索されることになったのだ。
職員室や校長室、放送室や技術職員室など、考えられる場所は隈なく探した。だが、原因は見つからなかった。いや、正しくは、見つけられなかったと言った方がいいかも知れない。
ただでさえ、築五十年以上にもなる古い校舎なのだ。教室のテレビや校内の放送関係の配線だけでも複雑に入り組んでいるのに、ここ最近になって教育のICT化なる国を挙げての政策によって、見慣れない機器が一気に増え、天井裏だけに収まり切れずに、配線がむき出しのまま、校舎の廊下や教室の天井を縦横無尽に這っている。もはや、配線の接続ミスや、ケーブルの外し忘れのような、かつて「教室のテレビがちらついている」とか「放送の音が途切れ途切れになる」と聞いて、職員室から担当の先生が教室に駆け出していくだけで解決できたような、そんな単純な原因ではなさそうだった。
校長の米倉は、頭を悩ませた。学校に割り当てられた修繕費はあるにはあったが、ただでさえ年々減らされてきた予算である。しかも、他に修理したい場所はいくらでもあった。頭を抱えた米倉の脳裏に、ふと一人の人物の顔が浮かんだ。彼なら、多少は無理を聞いてくれるのではないかと思った。
「え~っと、どこだったかな」と、誰もいない校長室で、米倉は自問自答した。「あったあった」そう呟きながら書棚から出してきたのは、二十年近く前の卒業アルバムだった。
当時は今とは違い、個人情報にそれほどうるさくない時代だった。だから、卒業アルバムの最後に、卒業生一人ひとりの連絡先が、当然のことのように載せられていたのだ。
米倉は、六年二組のクラス名簿の中から、一人の男子児童の名前を探し出すと、そこに書いてある電話番号に電話をかけた。




