表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の死体を運ぶ話  作者: ゆず


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/7

首なし街道(後編)

兵士は、震えていた。

 瞳は開ききり、焦点は合っていない。

 レインはゆっくりと歩み寄る。

「何を見た。」

 問いかけても、返事はなかった。

 兵士は何かを見つめ続けている。

 いや。

 見ているのではない。

 見せられている。

 汗が頬を伝う。

 唇だけが、かすかに動いた。

「……来る。」

 誰に言ったのかも分からない。

「みんな、死ぬ。」

 その一言で、ガルクが腰の斧へ手を掛けた。

「レイン。」

「ああ。」

 二人は同時に理解していた。

 ――漏れた。

 魔王の首から。

 未来視が。

 兵士は突然、絶叫した。

「嫌だぁぁぁぁッ!!」

 剣を抜く。

 振るわれた刃は、隣にいた護衛兵の肩を深く裂いた。

 鮮血が舞う。

「お、おい!」

「近寄るなぁッ!」

 兵士は仲間の顔など見ていなかった。

 彼の目には、別の光景が映っている。

 未来。

 自分が死ぬ未来。

 誰かに首を刎ねられる未来。

 その恐怖だけが、理性を食い潰していた。

 もう一人の兵士が押さえ込もうとする。

 だが。

 その瞬間。

「後ろだ!」

 叫んだ兵士は、誰もいない背後へ剣を振るった。

 空を斬る。

 そして、自分の喉へ剣先を向けた。

 レインが腕を掴む。

 剣先が喉を掠め、赤い線だけを残した。

「離せ!」

「落ち着け。」

「見えるんだ……!」

 兵士は泣いていた。

「俺の首が……何度も……何度も落ちるんだ……!」

 その言葉を聞いた瞬間。

 ガルクが動いた。

 鈍い音。

 斧の柄が兵士の側頭部を打ち抜く。

 男は崩れ落ちた。

「気絶だ。」

 ガルクは短く言う。

「殺してねぇ。」

 だが、もう一人は違った。

 未来に怯えた兵士が、仲間へ斬りかかる。

 止まらない。

 止められない。

 ガルクは迷わず斧を振るった。

 一撃。

 兵士の胸を裂く。

 血飛沫が雨上がりの石畳へ散った。

 静寂。

 誰も責めなかった。

 責められなかった。

「……封印を見ろ。」

 ガルクが低く言う。

 レインは棺へ駆け寄る。

 黒い棺。

 何十枚もの封印札。

 そのうちの一枚が、黒く焦げていた。

 触れた途端、灰になる。

「破られてる。」

 銀の釘を打つ。

 新しい札を重ねる。

 短い祈祷を唱える。

 やがて、棺の中から漏れていた禍々しい気配が静まっていく。

 兵士たちは肩で息をしていた。

 生き残った者も、誰一人として顔を上げない。

 レインは倒れた兵士へ歩み寄る。

 目を閉じさせる。

 剣を胸の上へ置く。

 外套を静かに掛けた。

 死体は語らない。

 言い訳もしない。

 だからこそ。

 死体は、嘘をつかない。

 それだけが、レインの揺るがない価値観だった。

 その時だった。

 ガリ……。

 何かを引きずる音。

 石畳を、重い鉄が削る音。

 全員が顔を上げる。

 森の奥。

 暗闇の向こう。

 また。

 ガリ……。

 誰も動かない。

 護衛兵の一人が槍を構えた。

「……何だ。」

 返事はない。

 風もない。

 鳥も鳴かない。

 聞こえるのは。

 ガリ……。

 そして。

 ガチャン。

 処刑台の刃が落ちる音。

 二つの音が、闇の中で重なる。

 レインは、背中の封印箱へ視線を落とした。

 その時。

「……あ。」

 少女の声。

 久しぶりに聞く声は、小さく。

 どこか懐かしそうだった。

 少しだけ間を置いて、

 ぽつりと呟く。

「この子、私を食べた子だよ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ