第125話 もう一つのフルダイブ
ミツル達が新右衛門の案内で向かった先は、広場の片隅の方に作られた簡易テントの中だった。
内装は、中心に置かれた長テーブルを挟むように十数個の椅子があるだけの簡素なもので、そこで五人のプレイヤーが深刻そうな面持ちで何やら話し合いをしている。
「失礼しますよっ、と」
テントの入り口に掛かった布を持ち上げ足を踏み入れた新右衛門の声に、プレイヤー達が各々顔を上げてこちらを見る。
最初に口を開いたのは、最奥の椅子にどっかりと座っていた壮年風の男性プレイヤーだった。
「おや、九龍。まさかあんたまで乗り込んでくるとはな……それも、ジュードーマンとサムライガールまでご一緒か」
声を掛けられて、ミツルの後ろにいた九龍がひょいっと前に出た。
「やぁトビー、久しぶり。二人とはちょっと縁があってね、一緒についてきたんだ。
それより、昨日私が公開した例の情報、ちゃんと読んでくれたかね?」
トビーと呼ばれた男は頷くと、
「丁度その話をしていたところだ。ま、取り敢えず好きなところに座ってくれ。
……あぁ、それとお前ら、悪いんだが少し席を外してくれんか?」
と言って、先に座っていた四人と新右衛門を見た。
「何故?」
四人の内の一人が驚いたように問い返す。
トビーはただ冷静に、
「理由は後でしっかり説明する」
とだけ言った。
どうやら相当頑固な性格で、一行もそれをよく承知しているらしい。
四人と新右衛門は目を見合わせると諦めたように苦笑して、各々テントの外へ出た。
彼らの足音が遠ざかっていくのを確認して、トビーは、
「ま、取り敢えず座ってくれ」
と手招きをし、ミツル達に自分の近くの席へ座るよう促した。
「失礼します」
ミツル達が一礼して手近な席に腰掛けるのを待って、トビーは再び口を開いた。
「あんたら、ユメミライ、もしくはその母体のユメカガクの関係者だな?」
ミツルは一瞬眉をひそめた。
落ち着いた様子の茶々丸とは対照に、九龍がこちらへ顔を向ける。
ミツルは九龍に小さく頷くと、その問いに答えた。
「九龍は違いますが、俺と茶々丸に関しては、半分正解です」
「半分、か。なら、もう半分は何だ?」
「俺は日本国政府の関係者として、ユメカガク、ユメミライからもたらされた情報を持って、つい先日フルダイブして来ました」
ミツルの言葉に、トビーは「なるほど」と言葉をこぼすや、
「では、貴方がフルダイブ研究の第一人者の北条充殿か?」
と、尋ねた。
ミツルは落ち着きを払った様子で返事する。
「ええ。……まぁもっとも、第一人者と言われるほどの者ではありませんが」
ミツルが言い終えた直後、俯いたトビーがぼそりと呟いた。
「……なら、この情報は信頼できる、か」
トビーは顔を上げると背筋を伸ばし、言った。
「俺の名前は、ウィリアム・トビー・フォン・ブラウン。Dream Star社の、社員の一人だ」
その一言に、ミツルも、茶々丸も、そして九龍も、目を見開いた。
Dream Star社は、アメリカに本社を置くゲーム会社。
そして、ユメミライに次ぐ、もう一つのフルダイブゲーム開発企業でもあった。
「高名な北条充殿と行動を共にできることを、うれしく思う。一緒に、フルダイブ技術の未来を救いましょう」
トビーはそう、手を差し出した。




