第123話 たった二人の家族会議
一旦広場まで戻ったミツルは、腰を抜かしていた一人を皆に任せると、ツヨシと二人でその輪から離れた隅の方へ移動した。
「まさか君もここにいるなんて、な」
「僕も、驚きました。まさか充さんまで巻き込まれてたなんて」
「巻き込まれたと言うか、自ら首を突っ込んだと言うか……ともかく、無事で何よりだよ」
とは言ってみたものの、彼の頭上に表示された残基は残り一つ。
本当に危ないところだったのを、奇跡のようなタイミングで救い出せたようなものだ。
「剛君は、どうしてバベルに?」
聞くと、ツヨシは背筋を伸ばした。
「……僕は、バベルの塔攻略組の初期メンバーとして参加していました。みんなを、助けたかったんです」
言って、「もっとも、結局三十階でリタイアしちゃったんですけどね」と苦笑を浮かべながら付け足した。
「いやいや、立派なことだよ。みんなの為に立ち上がれるのも、無理だと思ったら引けるのも。
大人でも、中々出来るようなことじゃない。本当に、立派だよ」
「……ありがとうございます」
恥ずかしそうに頭を掻きながらそういうツヨシを眺めながら、ミツルは、
(こういうとき、大人として本当は「なんでそんな無茶なことを!」って言ってやるべきなんだろうけどな……)
そう、心の中で呟いたが、そう言っている自分の姿を想像することは出来なかった。
多分、似ているのだろう。昔の自分と、今のツヨシが。
どこまでも無鉄砲で、正義感と行動力だけは一丁前だが、やることなすこと行き当たりばったり……だが、ツヨシは、かつての自分に無いものを持っている。
自制心、冷静さ。昔の自分に欠けていたものを持つ彼を見ていると、やはり立派だな、という感想がどうしても出てきてしまう。
母親に――美幸に似たのだろう。
彼女は今、眠りから覚めぬ息子の身を案じて夜も眠れぬに違いない。
かつて愛した人の一人息子を、未来ある若者を死なせてはいけない。きっと、家族の元に返してやらねば。
「ミツルさんも、攻略組に参加するんですよね?」
不意に、今度はツヨシが尋ねた。
ミツルは頷く。
「ああ。さっき一緒にいた二人と、攻略組に合流するつもりだよ。
上で、あいつも待ってるしな」
「足立大誠……さん、ですね」
ミツルは、また頷いた。
「巻き込まれた全てのプレイヤーの為にも、その家族の為にも、そして、フルダイブ技術の今後の為にも、俺はあいつを倒さなくちゃならない。
……もちろん、君みたいな次世代を担う若者の為にも、な」
ミツルはそう言って笑うと、ツヨシの肩に手を置いた。
「俺たちは多分、もう下には降りてこない。だからもう、今回みたいに危なくなっても助けてやれない。
無茶だけは、しないでくれよ。君が死んでしまったら、たとえゲームをクリアできても、フルダイブ技術を託す相手がいなくなる」
「僕に、託す……ですか?」
「ああ。君にしか、この技術の未来は託せない。だから、頼む。生きてくれ」
長い沈黙が続いた後、ツヨシは、静かに頷いた。
「充さん、それじゃあ僕からも一つ、お願いしたいことがあります」
「なんだい?」
「現実世界に戻って来たら、また、フルダイブについて色々お話を聞かせて下さい」
ミツルは小さく微笑むと、右手の小指を差し出した。
「ああ、約束だ。大学時代のことでも、なんでも話してやるよ」
「ありがとうございます! ……楽しみにしてますね」
「おう!」
二人はにっこりと笑うと、固く指切りをした。




