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第122話 初戦は衝撃的な再会とともに

「次の角を右に! その後は突き当たりまで真っすぐ行けば目的地だ!」


 茶々丸の背で地図を見ながらナビゲートする九龍の声を聞きながら、先行するミツルはダンジョンの狭い通路を走っていた。

 石レンガで作られたような迷宮は薄暗く、左右の壁に立てかけられた松明の明かりだけが頼りだが、最下層なだけあってトラップのようなものは無いらしい。

 出現するモンスターの数も少なく、ほとんどはこちらの姿を見ても逃げてしまうような弱いものばかり。お陰で目的地まで、随分早くたどり着くことが出来た。


 狭い通路を抜けると、急に視界がひらけた。

 黒い雄牛の頭を持った大男のようなモンスターが五体、二人のプレイヤーを囲うように立っている。

 ミノタウロス。

 通常のダンジョンであればボスのような立ち位置を占める難敵で、この階層どころか、塔全体に出現する一般モンスターの中で見ても指折り数えるほどの強さを誇る。

 流石に強さの程は下方調整されているとのことだが、それでも厄介な敵には変わりない。


 プレイヤーの内一人は地べたに完全にへたり込んでしまっており、もう一人がそれを背に庇いながら得物を片手にモンスター達を牽制し、なんとか均衡を保っていた。


「助けに来たぞ!」


 言ってミツルは飛び出すと、大剣を引き抜きこちらに背を向けているミノタウロス一体に斬り掛かった。

 完全に虚を突かれ、身動き出来ずにいるその大きな背に、鍛え直された大剣が赤い炎を上げながら、斜めに重く振り下ろされる。

 鈍い音と、低い叫び声と共に感じる確かな手応え。

 ミノタウロスは、瞬く間に蒼い粒子となって消滅した。


「茶々、後ろ頼んだ!」

「はい!」


 一体が消滅したことで穴の開いた包囲網に、ミツルと茶々丸は素早く潜り込むと、囲まれていた二人のプレイヤーを挟むように残りのミノタウロス達と対峙した。


「貴方たちは!?」

「通りすがりの勇者御一行ってところだ。ここは俺達に任せな!」


 突然の乱入者に驚きの声を上げた、仲間を庇っていたプレイヤーに、ミツルは少しカッコつけて返事する。

 それを尻目に茶々丸の背から降りた九龍が、二人に回復アイテムを手渡し、激減したHPを回復させた。


「茶々、そっち二体とも任せられるか?」

「この一ヶ月私がどれだけ死線を潜ってきたとお思いで? そっちこそ、大丈夫ですか?」


 ミツルはニッと笑うと大剣を構え、腰を低く落とした。


「バッチリだ!!」


 瞬間、ミツルは一歩踏み出すや、ミノタウロスの懐目掛けて突っ込んだ。

 ミツルの頭を叩き割ろうと、ミノタウロスが大斧を目一杯振りかぶり、振り下ろす――直前、ミツルは、その胸を深々と燃える大剣で刺し貫いた。

 雄叫びを上げて消えるミノタウロス。その身体が霧散するのを待たずに剣を引き抜くと、勢いのままミツルは大剣を右に薙いだ。

 ずしん、と重たい感触が両手に走る。

 残っていたもう一体が、ミツルの隙をついて大斧で斬り掛かってきていたのだ。

 寸でのところでそれを防いだミツルは、不意に右半身を後ろへ下げた。

 力任せに叩き切ろうとしていたミノタウロスがつんのめり、宙を泳いだ。

 そのがら空きになった背を、ミツルは勢いに任せて両断した。


「……先輩、お見事です!」


 瞬く間に二体ものミノタウロスを屠ったミツルに、先に始末し終えていた茶々丸が賞賛を贈る。


「そっちはもう終わってたのかよ……おつかれさん」


 ミツルは大剣を鞘に納めると、「さて」と言って背後の二人のプレイヤーへと向け直った。


「二人とも、大丈夫ですか?」

「……はい、なんとか。助けていただいて、本当にありがとうございます!」


 仲間を庇っていた青年は、ミツル達にそう言って深々と頭を下げて礼を言った。

 もう一人の方は余程恐ろしかったのだろう。まだがくがくと震えたまま、呆然とへたり込んでいる。


「まぁ、取り敢えず命があってよかった。みんなの所まで送りましょう」


 そう言ってミツルは青年の方へ手を伸ばし……ふと、その名前と国籍に目がいった。


 ツヨシ 日本・神奈川


「もしかして……剛君か?」


 脳裏によぎるのは、かつて愛した一人の女性――北条美幸――の一人息子で、自分の大ファンだと言っていた青年、北条剛のまだ幼さの残る姿。

 呟いて、いやまさかそんな偶然あるわけが、と思った。

 神奈川県内にツヨシなどという名前の人間がどれほどいるだろう。たまたまそれが合致したに過ぎないだろう……そう、思いたかった。


「え……? まさか……北条充、さん?」


 青年の動揺したようなその声に、ミツルは束の間息ができなくなった。

 彼の残基は、もう一つしか残ってはいなかった。

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