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ドラゴンおぢさん ~人の皮をかぶった最強ドラゴン無双乱武~  作者: 雨森あお
エルフの国の酔いどれドラゴン
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賊滅乱武

「ミィフィーユ、エクレア、下がっているんだ」

「うん!」

「……(こくり)」


 元気を取り戻した双子が下がり、代わりにルリーシェラ、クラウディア、ルクレツィアが前へと出る。

 彼女たちはすでに臨戦態勢で———しかも怒っている。


「おじさん、怒ってる?」


 ルリーシェラの問いかけにアレクニールは笑った。


「かもな。君たちは?」

「……ミィフィとエクレア、泣いてた。許さない」

「わたしも……です」

「わたくしも熱くなってきましたわ!」


 アレクニールたちと白備えの間に走る緊張感に、人質扱いとなっているエルフの兵たちは息を呑む。

 彼らは状況が飲み込めていない。


 アレクは娘たちに兵士を守らせて、自分一人で戦うつもりだ。

 エルフの者たちが立て直して自衛できればいいのだが、それは叶いそうもない。


 今にも始まるであろう激しい戦の予兆。

 両陣営はそれぞれどう動きを見せるのか、探り合いが始ま…………らなかった。

 

「いやあ、あの料理なんて言うんだろうな」

「兄貴さあ、俺の分つまみ食いしたろ」

「ところであのコックさん、どこ行ったんだ?」


 まるで緊張感のない声がする。

 

「あれはさっきの」


 アレクニールが夜食を振舞った者たちが城の裏手から呑気にやってきて、止まった。


「なんだ?」

「おいおい、みんななにしてんだよ」


 顔を出した八人の見張りは、戦場を見ても呑気だ。


「ちょうどいいな。君たち、助太刀してくれ!」

「あれー? コックさんじゃん!」

「なにしてんだ?」


 不思議な男たちの登場に、白備えたち五百人が身構える。


「こいつらは街に入り込んだ賊だ。姫たちをさらおうとしている」


 アレクニールの言葉に応えて、ミィフィーユとエクレアがうなずいた。


「へえ……クソだな」

「ああ、まじでクソだ」


 八人は武器を抜き、流れる動作で陣形を組み始める。


(ふむ、これは)


 アレクニールは驚いた。

 初めて見た時にそこそこやりそうだとは思ったが、予想以上だ。


「ミィフィーユ、彼らはけっこうやるのか?」

「あー……あの人たちはブッシュウッド兄弟」

「兄弟なのか」

「うん、八人兄弟で、いっつもサボってばっかりいるんだけど……」


 大丈夫かな、とミィフィーユが不安そうに呟く。

 思わぬ助太刀を得たことで、状況が変わった。


「ルリーシェラ、クラウディア、ルクレツィア、みんなを守ってやってくれ」

「言われるまでもありませんが……」

「おじさま」

「悪いが今日は俺がやらせてもらおう」


 言うと同時にアレクニールは敵陣めがけて飛び出した。


「ちいっ! アレクニールを囲え! その後に小娘たちを———!」


 セベクの言葉が言い終わる直前。

 アレクと接触した先頭の隊が爆発にあって上空に舞う。


「なあっ!?」


 一度に数十人が宙に投げ出され、地面に落ちて首が折れた。

 

「殴られただけで爆発……? どうなっている!?」


 アレクニールはただ殴っているだけだ。ただ、あまりにも衝撃が強すぎて爆発しているように見えている。

 しらふの状態でこれなら、酒を飲んだらどうなるんだろう。と、後ろで戦う娘たちは思う。


「おほー、コックさんバリつよ」

「つーかあれニンゲンじゃないだろ」


 横目で見つつ、八人兄弟も入れ替わり立ち代わり攻撃を繰り返し、横から着実に白備えの部隊を切り崩している。

 間を抜けて娘たちに迫る強者もいたが———


「遅いですわ」


 雷を思わせる速さと衝撃をまとい、ルクレツィアが躍動する。

 魔力を乗せた拳が男たちに突き刺さり、血を吐いて倒れる。その様は落雷に遭ったかの如きものであった。

 恐れを知らないはずの白備えの男たちが、足がすくませている。

 それを見たルクレツィアは、拳をバキバキ鳴らして地面を蹴った。


 彼女の横では、別方向からの者をクラウディアが対応する。


「……この人たち、もう許さない」


 二本の剣が美しすぎる軌道を描いて敵兵の肉体に吸い込まれる。

 静と動。予備動作のない剣撃は魔術、いや魔法ではないかと疑うほどだ。

 斬撃が白備えを細切れにする。血しぶきも飛ばない。


「お姉ちゃん!?」


 ミィフィーユが叫ぶ。

 隙をついた敵兵が、背後からクラウディアを襲ったのだ。

 黒塗りの短剣が彼女の背に刺さった、かに見えた。


「え?」


 短剣がすり抜けて、クラウディアが消える。

 次の瞬間に男はなにが起こったかもわからないまま真っ二つになった。

 

「……それは残像」


 答えを教えたところで、聞いているものはいない。

 

 そしてルリーシェラは魔術をぶっ放している。

 彼女を支配しているのは怒りだ。

 可愛がっていた妹たちが泣いていた。心を燃やすには十分理由だった。


「≪土よ、盛り上がれインシャ・エル・スエロ≫」


 土術によって作られた杭が真下から伸びて、男たちを串刺しにする。発動までのスピードはさらに速く、威力はもっと増している。


「≪切り裂け(ラグリマ・)風の刃オファ・デ・ヴィエント≫」


 右手から発射された風術は真空の刃だ。篝火があるとはいえ、無音無色でなにも見えない。風を感じ取った時点で男たちは上半身と下半身が分かれて死ぬ。


「≪一握りの(ピニヤード・)灯よ、(ルス・)焼き起これ(オルネア)≫」


 彼女の手から生み出された爪先ほどの小さな火。

 なんのことはない火の粉にしか見えない魔術を、敵兵が無視して突っ込んでくる。

 灯が彼らの肉体に吸い込まれ、刹那、白備えの者たちが一瞬で灰になった。


 やられた者も、見ている者も、いったいなにが起きたのか理解できない。

 ルリーシェラの魔術が体の内側で弾け、中から燃やし尽くしたなどとは信じられないだろう。


 どこまでも冴え渡る娘たちの強さは、アレクニールの背を追いかけたからこそ。

 強さに限界を見せないおじさんは、娘たちを引っ張り上げたのだ。


 そして———


「おおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオ!」


 ニンゲンのものとは思えない咆哮が響き渡り、白備えたちが乱れ吹き飛ぶ。

 アレクニールは彼らを全く寄せ付けず、近づいた者は触れるだけで肉が裂けて骨を砕かれた。


 防御は通じない。守った箇所が砕ける。つまり、防御してもしなくても、しぬ。

 白備えたちの隊列が乱れ、怯えや恐れが広まりつつあった。

 

「ば、ばかな! 『止烈の陣』だ! 『止烈の陣』を使ええええ!」


 セベクが叫ぶ。

 白備えお得意の陣は、前衛に特攻をかけさせて動きを止めている間、残る二人が上空から急襲するというもの。

 幾度か見た陣形の弱点を、アレクニールは知っている。

 後衛が跳ぶのを待ってから、前衛を突破。前へと出る。

 そうなれば上空に跳んだ者は標的を見失い、ただ着地するしかない。

 

「練りが甘いな」


 着際を狙われた男たちはなす術もないまま、蹴られて吹き飛び、地面をバウンドして全身の骨が砕けた。


「こんなものか? まだやれるよな?」


 男を一人持ち上げて、力任せに引き裂く。

 血と内臓がばら撒かれて、血臭をより濃く臭わせる。

 彼らの白いローブは真っ赤に染まって、いまや『赤備え』と呼んでもいいくらいだった。


 隊長のセベクは困惑し、焦った。

 エサキ直属の暗殺部隊『白備え』の実戦部隊は、実のところ彼らが最後。

 なんとしてもアレクニールは殺害し、実験体を捕獲するという不退転の覚悟で来たというのに、彼は恐れおののいている。


 力を奪われ、ニンゲンとなったドラゴン。ただそう聞かされていた。

 任務をしくじったことがないという自信、自負、実績。

 彼らは決して傲慢だったわけではない。確かな実力があるのだ。


「……まだだ! まだやれる!」


 わずかな時間に隊の半数が死んでも、セベクは諦めていなかった。

 再び懐から笛を取り出して、三回吹く。

 何かのメロディーにも聞こえる音が奏でられた。


「切り札を使わせてもらうぞ!」


 アレクニールはただならぬ気配を感じ取り、警戒した。

 夜の闇を切り裂いて戦場に飛び込んでくる影が三つ。


「なんだこいつらは」

 

 異様な姿をした者達がそこにいた。


「獣人……? いや、違う」


 頭はニンゲンのものだ。

 しかし、アレクニールと同サイズの大きな肉体は毛皮で覆われ、獣人に見える。


「腕には魔術紋か。実験体だな」


 様々な種族の特徴を持った生物はルリーシェラと同じ実験体の証だ。

 ただし、目は虚ろで、意思を感じられない。


「これで終わりだ! アレクニール!」


 やれ、と号令がなされ、実験体が飛び出した———


 

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