4. ブックマークその1なのじゃ
☆データ情報☆
※使用したデータは2026年09月29日時点のものなのじゃ。そのため今の値から多少ずれがあるのじゃ
※これらのデータは公式から提供されるものではなく、個人が集めたデータからの推測なのじゃ。
「目が覚めたら現代日本そっくりなのに男女比が1:10とかにバグっとる世界におって、男は国の保護対象で護衛官付きだし、男性専用車両まであるのに、元の価値観のまま女子に普通に挨拶して荷物を持ってやって半袖短パンでコンビニへ、それだけで周囲は騒然『男の人から話しかけてきた!?』と理性と本能の大戦争! この世界の女性は肉食で積極的で、男は警戒心MAXが常識なのに無防備すぎて『襲っちゃダメ』と震えるヒロインを量産し、甘えたがりの義妹や独占欲こじらせた幼馴染に家柄で囲い込む生徒会長に意外と純情なギャルと気楽に遊んでいたら、何気ない写真がSNSでバズって全国区へ、『普通にしとるだけなんじゃが……』と首をかしげつつも、気づけば押し倒してくる彼女たちと毎日【自主規制】するような日常を送りたいのじゃ~、のじゃ~……おっ、小僧。来たか」
「えっと、こんにちは……今のは……」
「うむ、ちゃんとエナドリを持ってきたようじゃな。では本題に入るぞ」
「えっ、あ、はい……」
◇
「小僧、お前さんは連休中に投稿した作品のブックマークが0件で落ち込んでおったな。……0件はそんなに恥ずかしいことか?」
「は、恥ずかしいですよ……! あ、あの……誰にも読まれてない、価値がないって突きつけられたみたいで……」
「やれやれ、視野が狭いわ。まずは全体の分布を見るがよい」
「合計約16万作品のうち、0件の割合は5.9%――約17作品に1つじゃ。そこから合算していくと、10件未満が24.8%、50件未満が48.2%と約半数を占めておる。一方で1,000件以上は全体の10.6%と、上位1割の狭き門なのじゃ」
「全体の半分近くが50件未満なんですね……。あの、気になったんですが、グラフの50〜99件のところが凹んでいるのは、なんでですか?」
「良いところに気づいたの! じゃがこれは区切りの幅の違いじゃ。本来、ブックマークは件数が多くなるほど作品数が減っていくものじゃ。じゃが、50〜99件が50件分の幅なのに対し、右隣の100〜499件は400件分と一気に8倍も区切りの幅が広がっておる。幅が極端に広いぶん多くの作品がまとめられて100〜499件の棒が跳ね上がるから、結果として間の50〜99件が凹んで見えるだけなのじゃ。
今回は大まかな傾向を見たいから、あえてこの区切りにしておる。それほど気にせんでええぞ。とりあえず全体の半数は50件未満に集まっておる、というのが現実じゃ」
「では次に、サイトごとの平均値じゃ。ノクターン約394件、ムーン女性向け約648件、ムーンBL約416件、ミッドナイト約72件となっておる」
「ひえっ……!? へ、平均で数百件……!? やっぱり僕の0件とは住む世界が違いすぎます……!」
「慌てるでない! ブックマークのように偏りが極端なデータでは、平均値は『普通の作品』の姿を表さんのじゃ。そこで使うのが『中央値』じゃ。同じデータを中央値で見たグラフがこれじゃ」
「ノクターンは47件、ムーン女性向けは110件、ムーンBLは66件……そしてミッドナイトは、なんとたったの1件じゃ!」
「えっ、平均とぜんぜん違う……。あ、あの……すみません、そもそも平均値と中央値ってどう違うんですか?」
「よかろう。この先ずっと使う道具じゃから、ここでしっかり覚えておくのじゃ。
平均値は、全部の値を足して、作品の数で割ったものじゃ。学校のテストの平均点と同じじゃな。
中央値は、作品をブックマーク数の少ない順に一列に並べたとき、ちょうど真ん中に立っておる作品の値じゃ。並べて真ん中を見る。それだけじゃ」
「並べて真ん中……それなら僕でもわかります」
「では例題じゃ。5つの作品のブックマークが、0件、1件、2件、3件、994件だったとする。平均値はいくつになる?」
「えっと、全部足すと1,000件で、5作品だから……200件、ですか?」
「正解じゃ。では中央値は?」
「小さい順に並んでいるから、真ん中の3番目で……2件です」
「その通り。5作品のうち4作品は3件以下なのに、平均値は200件じゃ。たった1つの大ヒット作が、平均を一気に押し上げてしまったわけじゃな。一方で中央値は2件のまま。大ヒット作が994件でも1万件でも、真ん中に立つ作品は変わらんからの」
「あっ……平均の200件って、5作品のどれにも近くないですね……」
「そういうことじゃ。この図も見るがよい」
「これは100作品の例じゃ。90作品は10〜40件に集まっておって、10作品だけが180件台におる。中央値は25件、平均値は41.5件じゃ。右端のわずか10作品に引っ張られて、平均値の線が山から外れたところに来ておるじゃろ?」
「ほんとだ……平均値のところには、作品がほとんどないです」
「ほれ、ニュースで『平均貯蓄額』なんて数字を聞くと、『みんなそんなに持っとるのか』と驚くじゃろ? あれも一部の大金持ちが平均を押し上げておるから、実際には平均より少ない人のほうがずっと多い。『真ん中の人がどのくらいか』を知りたいときは中央値を使うのじゃ」
「なるほど……!」
「ブックマークも同じで、一部の大ヒット作が数万件を稼ぎ出しておる。その少数の大きな値が平均値を右へ引っ張り上げてしまうのじゃ。ミッドナイトなど、平均値が中央値の約72倍もある。じゃから、この講座では『普通の作品』を見るときは中央値を基準にするぞ」
「平均値はもう使わないんですか?」
「使い道はある。前回の『1作品あたり』のように、総量を作品数でならしたいときは平均値で良い。じゃが『普通の作品はどのくらいか』を知りたいなら中央値じゃ」
「確かに、ミッドナイトは平均が72件なのに、中央値は1件ですもんね」
「そうじゃ。中央値が1件ということは、ミッドナイトでは半分以上の作品が0件か1件ということじゃ。じゃから小僧も落ち込む必要はないのじゃ」
「続いて、各サイトで『上位10%』に入るための境界の値じゃ。作品をブックマークの多い順に並べて、上から10%目にいる作品の件数じゃな。この件数以上あれば上位1割に入れる、という目安じゃ」
「上位1割……憧れますけど、やっぱりすごい数字なんですか……?」
「ムーン女性向けは1,619件、ムーンBLは1,055件、ノクターンは808件じゃな。中央値と比べると、この3サイトは15〜17倍もの開きがある。そしてミッドナイトの上位10%の境界は……55件じゃ」
「ご、55件!? ミッドナイトだと、55件取れたらもう上位10%のエリートなんですか!?」
「そうじゃ。上位10%に必要な件数は、ムーン女性向けとミッドナイトで約30倍も違う。土俵が違えば、目指すべき基準も桁違いになるということじゃな」
「ここで、データの散らばりを一目で掴むための強力な武器、『箱ひげ図』を伝授しよう。さっきの中央値を、もう一歩進めたものじゃ」
「箱ひげ……ですか?」
「作り方から説明するぞ。まず作品を少ない順に一列に並べ、その列を作品数が同じになるように4つに区切るのじゃ。下から4分の1のところが『25%位置』、真ん中が中央値、下から4分の3のところが『75%位置』じゃ」
「4つに区切って……そ、それで箱になるんですか?」
「うむ。25%位置から75%位置までを箱で囲む。つまり箱の中には、真ん中あたりの作品がちょうど半分入っておる。箱の中の横線が中央値じゃ。そして箱の上下に伸びる『ひげ』は、一番少ない作品(最小値)から一番多い作品(最大値)まで届いておる。ひげの描き方にはいくつか流儀があるが、この講座のひげは最小値から最大値じゃ」
「えっと……箱が『普通の作品が集まっている範囲』で、ひげが『端から端まで』……ってことですか?」
「飲み込みが早いの! 箱ひげ図を読むときのコツは3つじゃ。
1つ目は箱の位置。箱が高い場所にあるほど、普通の作品でもたくさん集めておる。
2つ目は箱の長さ。箱が長いほど、真ん中の半分の作品でも件数がばらけておる。短ければ似たような件数に固まっておる。
3つ目はひげの長さ。ひげが箱よりずっと長ければ、ごく一部に飛び抜けた作品があるということじゃ。
まずは箱の位置と中央値の線を比べておけば十分じゃ」
「ということで、各サイトのブックマークの箱ひげ図を作ってみたのじゃ。ちなみに縦軸は、100件までは普通の目盛りじゃが、100件を超えたところから対数目盛りにしておるぞ」
「対数……ってなんですか?」
「100、1,000、1万と、10倍ごとに同じ間隔で目盛りを刻むやり方じゃ。普通の目盛りで7万件まで描くと、ほとんどの作品が底のほうに潰れて見えんようになる。じゃから桁の違う数字を1枚に収めるために、上のほうを縮めておるのじゃ。そのぶん、上のほうは見た目よりずっと離れておると思って見るのじゃぞ」
「あと、n=ってなんですか?」
「nは集計に使った作品の数じゃ。グラフでは、元にしたデータの数をnで書くのが習わしなのじゃ」
「なるほど……。あれ、ミッドナイトの箱、一番下の底にぺったり張り付いてませんか……?」
「よく見えておるの。ミッドナイトの真ん中50%は0〜9件の狭い範囲に固まっておるのじゃ。ちなみにノクターンの箱は約10〜210件、ムーン女性向けは約15〜560件じゃ。じゃが、ひげの先端――最大値を見よ。どのサイトも3万〜7万件付近まで突き抜けておるじゃろ?」
「ほ、本当だ……! 大半が数十から数百件なのに、数万件の作品もあるなんて……」
「どのサイトであれ、普通の作品とトップ層の怪物の間には100倍以上の差があるということじゃな。
この箱ひげ図から読み解けるのは、まずムーン女性向けは箱の位置も中央値も高く、比較的ブックマークをもらいやすいということじゃ。そしてミッドナイトは、ほとんどの作品が10件にも届いておらんということじゃ」
「厳しい現実です……」
「では、サイトごとの詳細な分布をまとめて載せておくぞ。ムーン女性向けは100件以上が51.4%と半数を超え、1,000件以上も16.0%ある恵まれた場じゃ。一方、小僧のいるミッドナイトを見るがよい」
「あっ……! 0件が36.7%、1〜9件が38.7%……!」
「然り! 合わせて75.4%――実に4作品中3作品が10件未満なのじゃ! 0件だけで3割以上、つまり3作品に1つ以上が0件じゃ。さあ小僧、まだ自分の0件を恥じるか?」
「さ、3作品に1つが0件……! 僕だけが特別な落ちこぼれってわけじゃなかったんですね……少し救われた気がします……」
「うむ。ミッドナイトでは10件あれば上位約25%、100件あれば上位約7%じゃ。土俵の分布を知れば、無意味な劣等感など吹き飛ぶじゃろ?」
「次は作品形式(短編/完結連載/連載中)による差じゃ。中央値は短編が35件、連載中が37件なのに対し、完結連載は127件と約3.5倍に跳ね上がっておる」
「完結連載、めちゃくちゃ強いですね……! やっぱり、完結させると読者さんが集まってブクマが増えるんでしょうか?」
「そうとも言い切れん。因果関係が逆で、『読者がたくさん付いてくれたからこそ完結まで書けた』という可能性もあるからの。短編が低いのも、1話完結ゆえに『更新を追うためのブクマ』が構造的に付かん側面が大きいのじゃ」
「あ、そっか……! 短編は気に入っても評価点だけ入れてブクマはしない、って読者さんも多そうですね」
「その通りじゃ。連載中は中央値こそ37件じゃが、最大値は約7万件と一番高い。特大のメガヒットは長期連載から生まれるのじゃ」
「最後に、その件数以上のブックマークを持つ作品がどれだけあるかを示した『到達率』じゃ。線が上にあるほど、その件数まで届いた作品が多いということじゃな。ノクターンやムーンでは、ブックマークを10件以上持っておる作品が約8割あるが、ミッドナイトは最初の1件の時点で約6割まで急落するのじゃ」
「ミッドナイトは、最初の1件の壁が一番高くて険しいんですね……」
「そうじゃ。そして形式別で見ると、完結連載はどの件数でも一番高い位置をキープしておるが、1,000件以上の大台に限れば連載中(約10%)が短編(約5%)の2倍に達しておる。結論として、作品の数値を比べるなら『同じサイト・同じ形式』で測らねば全く意味がないのじゃよ」
「僕の0件も、ノクターンやムーンの人気作と比べるんじゃなくて、ミッドナイトの基準で捉えないといけなかったんですね……!」
「理解できたようじゃな! では小僧――このブックマークの相場や分布は、昔からずっと同じだったと思うか?」
「えっ……? む、昔と今で、何か違いがあるんですか……?」
「ふふん、それを暴くのが次じゃ! 初回掲載年ごとの推移を追って、ブックマークの歴史的変遷をデータで丸裸にしてやるぞ!」
グラフが多くなりすぎたので分割するのじゃ。




