12. 文字数その1なのじゃ
☆データ情報☆
※使用したデータは2026年09月29日時点のものなのじゃ。そのため今の値から多少ずれがあるのじゃ
※これらのデータは公式から提供されるものではなく、個人が集めたデータからの推測なのじゃ。
「入社3年目のOL、仕事はそこそこ恋愛はご無沙汰、ある日の朝礼で上司が変わると告げられ、新しく上司になったのは社内一の切れ者で『鬼の課長』と恐れられる人、その日からミスをすれば容赦なく詰められるし定時で帰れた試しがない、なのに残業中にこっそりコーヒーを差し入れてくれたり、取引先で理不尽に責められれば真っ先に盾になってくれたり、厳しさの裏の優しさに気づいたら好きになってしまったけど、噂では同期と付き合ってるらしく、それで距離をとってしまったら、何故か追いかけてくる、詰められて好きになったけど略奪はしたくないと正直に打ち明けると同期との噂は誤解だったらしく『ずっと、君を見ていた』とまさかの告白、無事付き合うことになったけど、会社では今まで通り上司と部下、でも給湯室でのすれ違いざまや二人きりのエレベーターでは距離ゼロ、終業後の甘いやり取り、初めてのお泊りでの【自主規制】、オンとオフのギャップに振り回されながら過ごしていたら、同期から変な噂を流されて困っていたが、最後は上司が全社員の前で堂々と交際宣言、その後同期は異動になり、上司と無事結婚して【自主規制】な毎日……そんなOLになりたいのじゃ~、のじゃ~……おっ、小僧。来たか」
「こ、こんにちは……神様、会社勤めしたことあるんですか?」
「ないから憧れるのじゃ。さあ、今日の話を始めるぞ。今回は文字数じゃ」
「文字数ですか。僕は5千文字くらいの短編を書いたのですが……。大人向けの小説なんて書いたことがなかったから、これで長すぎるのか短すぎるのかも全然分からなくて……」
「うむ。その5千文字がノクムンミッドの中で長いのか短いのか、はたまた標準的なのか、見ていこうぞ!」
「まずは全体の本文の文字数の分布を見るがよい! このグラフはヒストグラムと言うて、どのくらいの文字数の作品が多いかがわかるようになっておる。棒が高いほど、その文字数の作品が多いことを示しておるのじゃ」
「うわあ……きれいな山のような形ですね。……あれ? 神様、横軸に書いてある数字なんですけど……『約3千』とか『約3万』とか、なんだか中途半端な数字が並んでいませんか……?」
「これはな、桁違いの数を1枚に収めるための『対数区切り』というものじゃ。普通のグラフなら、1目盛り進むごとに同じ数ずつ増えるじゃろ? じゃがこのグラフは、1目盛り進むごとに同じ『倍率』で増えていくのじゃ。
このグラフでは、10倍――つまり1桁上がるまでの間を、棒4本分に分けておる。1本右へ進むごとに、文字数はおよそ1.8倍になるぞ。たとえば1,000文字から1万文字までは、1,000、約1,800、約3,200、約5,600、そして1万文字、という区切りになっておるのじゃ」
「1.8倍ずつ……。じゃあ『約3千』っていうのは……」
「1千と1万のちょうど真ん中の目盛りじゃ。1千から約3.2倍すると約3千、そこからもう約3.2倍すると1万になるじゃろ。このグラフの上では、それが真ん中なのじゃよ。棒は等間隔に並んでおるが、右へ行くほど1本の棒が受け持つ文字数の幅は広くなっておる。そこだけ覚えておくのじゃ」
「な、なるほど……! 1本進むごとに約1.8倍、2本進むと約3倍、4本進むと10倍……」
「うむ。では分布の山を見るのじゃ。一番高いのは1万〜約1万7,800文字で全体の約15.6%、次が約5,620〜1万文字で約14%じゃ。1万文字未満が全体の約36%、1万7,800文字未満で約52%……つまり全作品の真ん中、中央値は『約1万6千文字』あたりにあるのじゃ」
「全体の真ん中の作品って、約1万6千文字なんですね……! もっと何十万文字もある長編ばかりなのかと思っていました……」
「文庫本1冊分に当たる10万文字以上の作品は、全体の約15%――7作品に1つしかないのじゃよ。そして100万文字を超える超大作は、全体のわずか0.4%(約600作品)じゃ。流石にそれくらいの長編になると数は少なくなるようじゃな」
「全体像を掴んだところで、サイトごとの比較に入るとしよう。中央値は、ノクターンが約1.4万文字、ムーン女性向けが約1.7万文字、ムーンBLが約1.8万文字、ミッドナイトが約1万文字じゃな。
ブックマークや評価ポイントでは、サイト間で2〜4倍、ミッドナイトに至っては100倍もの差があったが、『文字数』に限っては、ノクターンとムーンで約2割しか違わんのじゃ。どのサイトでも、真ん中の作品の長さは1万〜1万8千文字あたりに集まっておる」
「あれ? 『1作品あたりの平均文字数』を見たときは、ミッドナイトが全サイト最長だって言ってませんでしたっけ……?」
「くくく……! よく覚えておったの、小僧! それこそが平均値と中央値の違いじゃ。ミッドナイトは文字数が極端に多い超大作がいくつもあるから、それに平均値が引っ張られておるのじゃな」
「なるほど……」
「次に箱ひげ図じゃ。縦軸は前と同じく、100文字を超えたところから対数目盛りじゃぞ。
ミッドナイトは、真ん中50%の作品が入る箱の下端が約3,000文字と、4つのサイトで一番低い。短い作品がたくさんあるということじゃ。その一方で、ひげの先の最大値を見れば約850万文字と、とんでもない超大作もある。その超大作たちが、平均値を約8万5,000文字まで大きく引っ張り上げておるのじゃ!」
「平均値が中央値の8倍以上も離れている……!? 極端すぎませんか……!」
「そうじゃ。ミッドナイトは『数千文字の短い作品を置く者』と『数百万文字の超長編を書き続ける者』が同居しておる、両極端な土俵なのじゃよ。なお、全サイトで一番長いのはノクターンの約1,800万文字という、もはや神話の怪物じゃがな」
「どうやったらそんなに書けるんでしょうね……」
「では、それぞれのサイトの中で文字数がどう散らばっておるのか、分布グラフで見比べてみようかの。この4枚は縦軸がどれも20%までにそろえてあるから、棒の高さをそのまま見比べてよいぞ。
ノクターン、ムーン女性向け、ムーンBLの3つは、どれも1万〜約1万7,800文字あたりが一番高い、よく似た形をしておる」
「……あ! 神様、ムーン女性向けのグラフ、ちょっと変なところがありませんか?」
「ほう? どこじゃ?」
「10万〜約18万文字が、その手前の5.6万〜10万文字の棒よりも高くなっていて、山の右側に小さなこぶができています!」
「見事な慧眼じゃ、小僧! 10万〜18万文字といえば、文庫本1冊分の目安じゃな。このあたりの長さで書き上げられた作品がまとまっておるのじゃ。ムーン女性向けは完結した連載の割合が高い土俵じゃったから、『本1冊分で物語を完結させる』書き方が多いのかもしれん。公募や書籍化を意識しておる作家もおるのじゃろうな」
「本1冊分のところで、物語をきっちり畳んでいる人が多いんですね……! あ、ムーンBLは1,000文字未満が少なくて、極端に短い作品がほとんどありません」
「うむ、BLは最初からある程度の分量を書く者が多いようじゃな。そして……お前さんのいるミッドナイトを見るがよい。山が低くて横にべったり広がっており、1,000文字未満が約9%、100万文字以上が約1.4%と、両端がどちらも4つのサイトで一番多いのじゃ。じゃが小僧、一番高い棒はどこじゃ?」
「ええと……約3,200〜5,600文字が一番高いです……って、あれ!? 神様、僕の小説、約5,000文字なんですけど……!」
「そうじゃ! お前さんの作品は、ミッドナイトで一番作品が集まっておるところにあるのじゃよ! 短すぎも長すぎもせん、ミッドナイトの作品としてごく標準的な長さじゃ!」
「よ、よかったぁ……! 僕の文字数、変じゃなかったんですね……!」
「胸を撫で下ろすのはまだ早いわ! 今回の講義で一番大事なことを授けよう。文字数の多さを大きく左右しておるのは、サイトの違いではない……ずばり作品形式なのじゃよ! 形式別の中央値と分布を見るがよい!」
「形式別の中央値……短編が6,966文字、連載中が23,183文字、完結連載が46,458文字……! わあ、大きな差が出ましたね……!」
「そうじゃ! 完結連載の中央値(約4万6千文字)は、短編(約7千文字)の実に6.7倍じゃ。分布を見れば、その差はさらにはっきりするぞ。まず短編を見よ。一番高い棒は約5,620〜1万文字で全体の約25%、約3,160〜1万7,800文字の3本の棒だけで約67%――実に3分の2を占めておる。なお短編はシステムの仕様上、7万文字までしか書けんから、横軸は10万文字までしかないぞ」
「短編の標準は、3,000〜2万文字くらいなんですね! 僕の5,000文字、短編としても標準的な長さだったんだ……!」
「然り。一方、完結連載を見るのじゃ。約1万7,800文字から約17万8千文字までの4本の棒が、どれも約16〜17%で、横に平らな台地のようになっておるじゃろ? じゃが、その先……17万8千文字を超えたところで、割合が約7%へと崖のように落ちておる!」
「うわっ……! 本当だ、18万文字の手前まで平らだったのに、そこから急に減っています……! これって、どうしてですか……?」
「文庫本にして1冊分までなら完結まで書き切る作家も多いが、それを超える長編を最後まで完結させる作家は、ぐっと少なくなるのじゃ。完結した連載の多くは、この範囲までに収まっておる。それより長い連載を完結まで導くことの大変さが、データに表れておるのかもしれんの」
「完結できる長さの目安が、本1冊分くらいなんですね……。……あ、連載中は、山が低くて全体に散らばっていますね。中央値が完結連載より短いのはどうしてですか?」
「連載中には、これから伸びる作品だけでなく、『数千文字だけ書いて止まってしまった作品』もたくさん含まれておるからじゃよ。連載中の文字数は、データを取った9月29日までに投稿された分じゃから、書きかけの長さでもある。ただし、100万文字を超える超大作の割合は、完結連載(約0.5%)より連載中(約1%)のほうが2倍も高いがの。とびきり長い物語は、まだ終わっておらんほうに多いのじゃ」
「さあ、次は歴史じゃ! 初回掲載年ごとの本文文字数の中央値を見ていくぞ。
2005年から2008年ごろはどのサイトも短めじゃ。当時は短い作品が主流じゃったのかもしれんが、理由まではデータからは分からん。この頃は作品数が少ないから、年ごとの数字が上下しやすいことも頭に入れておくのじゃ。2010年ごろからは、どのサイトもほぼ横ばいか、ゆるやかに長くなっておる程度じゃな」
「サイトごとのばらつきがなくなっていってますね」
「そうじゃな、ここ10年くらいはノクターンが1万4千〜1万6千文字、ムーンBLは1万7千〜1万9千文字あたりで安定しておる。ムーン女性向けは、近年はじわじわ長くなって、2025年には2万文字を超えておる。ミッドナイトは開設された2015年に、他サイトからの転載や書き溜められた長編が一斉に投稿されたせいか中央値が跳ね上がっておるが、2016年からは作品数が少ないからか、年によって大きく上下しておるな」
「……あれ? でも、2026年に始まったばかりの作品も、昔の作品と同じくらいの長さですよ? 連載なら、まだ途中のはずなのに……」
「良いところに気づいたの。短編は投稿した時点で長さが決まるし、連載の多くは早い段階で止まってしまうからの。その両方が混ざって、始まったばかりの年でも中央値が昔とあまり変わらんのじゃろう」
「長期連載されるのは少数派なんですね……」
「では次に、サイトごとに形式別の中央値の移り変わりも見ていくぞ。3本の線が、短編・完結連載・連載中じゃ。どのサイトでも、短編と連載中の文字数は年々伸びておる。
短編については連載と一緒に載せると、変化がよくわからんゆえ別途グラフを用意したのじゃ。ノクターンの短編は、2010年ごろの約4千文字から2022〜2024年には約8千文字へと倍増しておる。ムーンBLも約4千文字から約9千文字へ倍増じゃ。そして最も伸びたのはムーン女性向けじゃ! 最初期では数千文字であったのが、2024年には約1万文字へと上がっておるのじゃよ!」
「短編なのに、1万文字を超えるのが普通になってきているんですか!? どうしてそんなことに……?」
「2020年の『評価フォーム改修』を思い出すのじゃ! あの改修のあと、短編が評価ポイントを集めやすくなったじゃろ?」
「はい! 読み終わってすぐ星を押しやすくなって、短編のポイントが大きく伸びたんですよね!」
「そうじゃ。短編が評価を集める場になったことで、短編でも起承転結をきっちり描き切って読者を満足させようとする作家が増え、文字数が伸びたのではないか……と推測できるのう。
実際、2020年辺りからの伸びが顕著じゃ。また評価が入りやすいゆえ、連載で出すはずじゃったものを短編としてまとめたことも考えられるのじゃ。ポイントの回で見たように、近年は女性向けを中心に、完結連載よりも短編のほうが『ポイントの中央値』が高くなっておって、わざわざ連載に分けるメリットが少なくなっておるのじゃ」
「ちょっとの変化で、いろんな影響があるんですね」
「なお、ミッドナイトは完結連載が2015〜2019年に8万〜9万文字と、他のサイトの倍近く長かった時代があるのじゃ。じゃが、そこからはどんどん下がっておる。一方の短編は、ずっと2千〜5千文字のマイペースを保っておるな」
◇
「どうじゃ小僧、文字数の傾向は見えたか?」
「はいっ……! 作品全体の真ん中は約1万6千文字で、サイトによる差はあまりないこと、文字数を大きく左右しているのはサイトじゃなくて『短編・完結連載・連載中』という形式だってこと……そして、僕の5,000文字は短編として普通だったって分かりました」
「うむ、短すぎたのではないかとウジウジ悩む時間は、これにて終了じゃな!」
「はいっ! ……あ、でも神様。文字数の普通が分かったからこそ、もう1つすごく気になっちゃうことがあって……」
「む? なんじゃ?」
「僕の5,000文字が標準なのは分かったんですけど……やっぱり、たくさん書いた超長編のほうが、読者さんもたくさん読んでくれて、ポイントもいっぱい入るんじゃないですか……? 文字数が多ければ多いほど、作品って有利になるんでしょうか……?」
「くっくっく……! それについては、次回、文字数と総合ポイントの関係を見ていくぞ!」
「は、はいっ! 次回もよろしくお願いします、神様……!」
グラフが多くなったので分割するのじゃ。




