八話 配信するもほぼ炎上&スマホの不調……
そうして漸くまともに始まった我々のダンジョン探索と配信、ではあるが。
何故か魔物が一切として現れないため戦闘は勿論無く。
また、獲得したアイテムもご覧の通り……
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アイテム[水魔の鱗(小)]
[水魔の鱗(小)]
魚型魔物の落とした鱗。恐らく小魚のものと思われる。剥がれてから時間が経過しているので脆く、割れやすく、色も悪いために取引価値は低い。
アイテム[水魔の鱗(極小)]
[水魔の鱗(極小)]
魚型魔物の落とした鱗。先程のものよりも小さい。だから言うまでもないが取引価値は低い。
アイテム[水魔の鱗(???)]
[水魔の鱗(???)]
今までの鱗よりも大きく、厚みもある鱗。ゼラチン質でカルシウムが豊富なこちらは……おや?これは、鯉の鱗ですね。多摩川から迷い込んだのでしょうか?まあどちらにせよ、これは取引すらしてもらえないかもしれません。
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ゴミ……ではなく鱗、鱗、鱗ばかりで。
人様にお見せする映像としては、今回の配信は実に悲惨なものと化してしまっていた。
しかし、それでも焦燥感はやって来ない。
今、我が心境はまさに平穏そのものだった。
これも全て、視聴者達が〝変わらず〟にいてくれたお陰である。
何しろ、彼等はこうして……
@_csoczo8e09
『おいスマホクラフター!!んな事やってる場合じゃねえだろ!?本当どうかしてんじゃねえのか!?』
@l9rmnxzmz9ce
『そうだそうだ!!こんなクソつまんない配信なんて早く止めてお前はさっさとクルセイドちゃんの所に行け!!』
@rx.smq9rq
『なあ、頼むから行けよ!!お前強いんだろう!?だったらクルセイドちゃんを何とかしてやれよ!!あっち大変な事になってるぞ!?なあ、本当頼むからさ!!』
いや、正確に言えば。
視聴者達は変わらないのではなく〝既に怒っている〟からこそ、俺はこのように退屈な配信を続けられていたのだ。
そしてもう一つ、訂正しなくてはならない部分がある。
実の所、俺の心境が平穏だと言うのは真っ赤な嘘であり。内心それはそれはもう酷く焦っているという事だ。
何故なら、いや。
もう言わずとも分かるだろうが。
……必死にリスクを避けて配信したというのに、これでは炎上系配信者そのものではないか。
例え行いがそうでなくとも、視聴者の反応がまさにそれだ。
これはマズい、非常にマズい。
もう正直、収益なんて気にしている場合じゃない。
この調子では、いつ怒りを買った人々から襲撃を受けるかも分からず。
最悪の場合、〝そっち方面の配信者〟でもないというのに、普通の生活を送る事すら困難になってしまうかもしれない。
などと考えていると、心は限界に達し。
とうとう我慢の出来なくなった俺はスマホに声を掛けた……の、だが。
「……な、なあ。
そろそろ配信は止めて、クルセイドちゃんに連絡してみないか?
炎上系とかいうあの配信者と俺が出会わないか心配だって言うなら、今すぐにダンジョンから出るし。
俺が余計な事を言わないか気にしてるんだったら、その後でお前が返信したって良いからさ……って。
な、なあ、おい。聞いてるのか?」
『き、き、聞いてます、よ……ご主人……
そうです、ね……
映像としては、味気ない事この上ない……です、が。
怪我の功名と……言いましょう、か。
炎上のため……か、視聴者数は前回よりも遥かに多い……ので、良しとしましょう。
ですが、ご……主人。
もしも騒動が収まらない事を……気にしているので……したら、それは杞憂、です。
恐らく、『ドラゴン進』氏の……配信が、こちら以上に……炎上、していますから。
私の計算……だと、もう暫く我慢していれば……批判はあちらへと集中、し……こちらのものは収まる。
か、と……』
スマホはまるで、高熱を出した人間が物を言うかのように、たどたどしい返事を俺に寄越したのだ。
というか、コイツ先程からずっとこんな調子なのである。
一体、どうしたと言うのだろうか?
配信のやり過ぎでまた機体が熱くなっているのか?
とは言ったものの、配信は可能な限り急いで行っているのだし、そんな事はまず無いと思うのだが。
まあ何にせよ、何かあったと言うのならば対処しなければならない。コイツがダウンした場合、困るのは俺自身でもあるんだからな。
……と、そのようにして焦燥感は何処へやら。
スマホを気に掛けるうち、いつの間にかすっかりと落ち着きを取り戻していた俺は。
とにかく原因を探ろうと、続けてこう語り掛けた。
「お、おい……何かお前、さっきから様子がおかしくないか?大丈夫か?」
『…………ご、ご主人、申し訳……ありません。
は、恥ずかしながら……私、は……肝心な事を一つ……計算、出来ていなかったよう、です……』
「え?か、肝心な事?
そ、それって何なんだよ?教えてくれよ?
もし俺に何か出来そうなら、何でもするからさ……な?」
『そ、そうですか……それ、では。
今すぐに、このダンジョン……の。
で、出口に、向かっていただけ……ます、か……?
以前の……体なら、ともかく……
今の、私にとって……ど、どうやら、この場所は……
し、し……し……』
「し?お、おい!〝し〟がどうしたんだよ!?」
『し……湿気が……多過ぎ、ます。
も、もう……限界……で、です……』
「おま、早く言えよ!!」
その直後、俺は弾かれたように駆け出した。
クルセイドちゃんへの連絡。
彼女を追っているという炎上系配信者。
そして、俺も同様の道を辿るかもしれぬ恐怖、それら全ての考えを頭から放り出して。
もう何もかも、それどころではなくなったからだ。
「ハァ……!!ハァ……!!」
何だか、ここに来てから走ってばかりな気がする。
正直、俺だって限界だった。
別に何も、極限状態なのはコイツだけではないって事だ。
まあでも、この無機物に文句を垂れるのは、無事に出口へと辿り着いたその後にしようと思う。
▽
「ハァ……!ハァ……!
だ、大吾さん……!
一体、何処にいるの……?」
▽
「つ、疲れた……
でも結構走ったし、流石にそろそろ着くだろ……」
そう呟いてはみたが、残念ながら決してそんな事はなかった。
スマホの指示無くして走り続けていた俺は、いつしか出口とは全くの別方向へと進んでしまっていたのだ。
『ご、ご主人……全然、違います……
逆方向です……と、言いますか……
こちらはアナタ様が『最も行ってはならない方向』です……
す、すぐに引き返して、下さい……』
「わ、分かった!!けど、引き返すって言っても、どっちだったかなぁ……?」
だが、時既に遅し。
入り組んだダンジョンという名の罠に嵌められてしまった俺にはもう、為す術が無かったのである。
「参ったな、急がないといけないって言うのに。
……ん?ちょっと待てよ。
何か、聞こえるような……?」
『こ、これは……ご主人……
す、すぐに移動して下さい……
彼女が……いると言う事は……つまり……
彼もまた、こちら、に……』
すると、そのようにして困り果てていた俺の耳に、何やら物音が聞こえてきた。
それは、恐らくは人間であろう何者かの荒い息遣いと、そしてその者が大地を蹴る音であった。
……いや、まだ人と断定する訳にはいかない。
魔物という可能性だって捨て切れないのだ。
しかもそれが荒い息をしているのならば、獲物を。
もとい、俺を見つけて接近しつつあるという事、なのかもしれないのだから。
『ご、ご主人、早く、移動を……』
スマホはそう言い続けるが、身体は言う事を聞かなかった。
よくよく考えてみれば、まともに戦闘もした事のないこの俺が。スマホの手助けも無しに魔物を相手取るなんて想像も出来なかったからだ。
確かに、そうでない場合もあるだろうが、それでもだ。
最悪の予想を頭に浮かべる今の俺には、その正体が何であろうと恐怖の対象でしかなかったのだ。
だがしかし、それでも音の主は待ってくれず。
相手は着実にこちらへと近付きつつあり……そして。
「……!!」
それは遂に、俺の前に姿を現した。
「あ!!大吾さん!!
良かった……やっと会えましたね!!」
そう、魔物ではなく。
クルセイドちゃんがだ。
▽
「大吾さん!突然ですみませんが今すぐにここを離れましょう!
さあ、私について来て下さい!
ドラゴン進という人が私を追って来ているんです!
何とか振り切りましたが、ここにやって来るのは時間の問題です!さあ早く!」
だが再会を喜ぶ間も無く、クルセイドちゃんはダンジョンのより暗く、より光の届かぬ道へと。
つまりは更に奥地へと誘導しようと、俺の手を取ってそう言う。
今出口の方に向かえば、その炎上系配信者と鉢合わせしてしまう恐れがあるからこそ、彼女はそのような選択をしたのだろう。
だが、それには応えられなかった。
正直、会えて嬉しかった。
この騒動が終わったらきちんと謝りたかった。
だから本音を言えば、彼女について行きたかった。
……それでもだ。
『ご、ご主人……い、いけません……
彼女の言う通りにすれば……私、は……
しかし、『ドラゴン進』氏が接近している……と言うのも、また事実……で、ですので。
い、今から……彼を避けつつ……出口へと移動可能な……安全なル、ルートを、検索……して、みます。
た、ただ……現状です、と……正確なルートを、導き出す前に……こ、故障して……しまうかもしれま、せんが……
い、一か……八か……』
そう、理由は明白。
ご覧の通り、スマホがそろそろ本当に限界らしき様子だったからだ。
だからこそ俺はクルセイドちゃんの手を痛まぬよう、なるだけ力を込めずに振り払った。
「ご、ごめんなさい、クルセイドちゃん」
「え?だ、大吾さん……?」
「悪いけど、それは出来ません。
僕は今すぐに、このダンジョンから脱出しないといけないんです。
そうじゃないと、コイツが湿気でそろそろ限界らしくて……」
そして心も傷付けまいと、行動の理由としてスマホを彼女の目前へと差し出して見せた。
すると、その直後。
俺は彼女こと、クルセイドちゃんが我々の前に現れた天使であったのだと、そこで漸く気付かされる事となった。
何故ならば、スマホを見た彼女は……
「なるほど、確かにそれはいけませんね。
配信器具は私達にとって最も大切な商売道具も同然ですし、特に『スマホクラフター』の大吾さんともなると、そのスマホは生命線と言っても良い程の品でしょうから。
……でしたら、〝コレ〟を使って下さい」
そうして、〝あるモノ〟を俺へと手渡したのだ。
「こ、これは……!」
「ええ!ダンジョン探索の必需品、『ジッパー付きの保存バッグ』です!
こう言った場所でも有用ですし、特に私は職業柄、よく魔物との戦闘で汗をかくのでスマホやお財布の中身がダメにならないように、いつもこうして持ち歩いているんです!
大吾さんにもお一つ差し上げます!
さあ、タオルもありますから!早くスマホを拭いてこの中に入れて下さい!」
「ク、クルセイドちゃん!ありがとうございます!
それじゃあ、早速……!」
ジッパー付きの保存バッグ。それとタオルを受け取った俺はすぐさまスマホに付いた水滴を全て拭い去り。
そして素早く、無機物をその中へと放り込むのだった。
「お、おい、どうだ?
これで少しは調子が良くなったか?」
▽
それで結局の所、スマホはどうなったのかと言うと……
『…………ふぅ。
ありがとうございます、お二人のお陰で何とか命拾いしました。
特に『クルセイドちゃん』氏、この度は本当にありがとうございました』
見事、完全復活を果たしたようだ。
これも全てクルセイドちゃんのくれた、保存バッグという名の力添えがあったからに他ならない。
……本当に、本当に助かった。
正直、一時はどうなる事かと思っていたからな。
「ス、スマホに話し掛けられるなんて初めて……
じゃなくて、ど、どういたしまして!」
「おい、〝特に〟って何だよ。
俺だってさっきからずっと、お前を助けるために走り続けてたんだぞ?」
俺は小言を口にしつつも、内心ではすっかりと安堵し切っていた。
はず、だったのだが。
これから放たれる、スマホの驚くべき発言に。
俺はまた、不安に胸を締め付けられる事となる……
「では大吾さん!スマホも無事なようですし、一刻も早くここから離れ……」
『いいえ『クルセイドちゃん』氏、その必要はありませんよ』
「え、え?ス、スマホ……さん?
それは、一体どういうこと……ですか?」
『アナタ様には助けられました、ですので。
その恩義に報いるとしましょう。
この場は私とご主人に全てお任せ下さい。
何、心配は要りませんよ。
戦闘経験こそ〝ほぼ皆無〟と言って良いものの、アナタ様と同じ上級職であるご主人と。
あらゆる物事の答えを検索、計算によって導き出せるこの私が味方に付くと言っているのですから、アナタ様は安心してそこでゆっくりと休んでいて下さい。
炎上系配信者など、私達があっという間に退治して見せますから……そうですよね、ご主人?』
「…………え」




