↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
10/25

九話 炎上系配信者VSスマホクラフター!?

俺とスマホだけで、あの炎上系配信者『ドラゴンシン』を退治するだと?


レベルの差は勿論、色々な意味でも超危険人物だからこそ、今の今まで接触を避けていたと言うのに?


しかもクルセイドちゃん無しで、対人戦など中学の授業で行った柔道以来皆無なこの俺と、無機物がか?


本気か?いや、正気か?


いやいや、待て、落ち着け。

正気を疑われる時点で、大半の場合ソイツは既に狂気と化しているはず。


つまり、このスマホはイカれている。


そして、イカれた無機物の指示になど従っていては、命が幾つあっても足りはしない……


と、そのような結論を出した俺が、まず真っ先に行ったのは。


保存袋の中のスマホを襟首を掴むようにして持ち上げ、無機物に強く抗議するという行為であった。


ただし格好が付かないのでクルセイドちゃんからはなるべく見えぬよう、彼女に背を向けた上で。


ついでに声も潜めて。


「お、おい!!俺とお前でドラゴン進を退治するだって!?無茶言うなよ!?


だいたい、何が『あらゆる物事の答えを検索、計算によって導き出せるこの私が〜』だよ!!


自分が湿気に弱い事も忘れてたような奴が何言ってるんだ!!」


『ご主人、人の失敗を笑ってばかりいると、いざご自身がミスをした時に立つ瀬がなくなりますよ?』


「いや笑ってないけど……まあ、それは悪かった。


でもな?無理なものは無理だよ。


第一、俺はまだ魔物とまともに戦った事すら一度も無いんだし。頼みの綱のお前はお前で、そこから出られないだろう?


な?俺達は今、こんな有様なんだぞ?


それが何をどうしたら、格上の冒険者に勝てるって言うんだ?何か良い案でもあるのかよ?


まあ案があるにしても、お前は湿気がダメなんだから俺がメインで動くような感じに……あ。


ま、まさかお前。自分がそんな状態だからって、俺一人でどうにかしろとか言ったりしないだろうな……?


……いや、流石にそれはないか。


悪い悪い、お前だってそこまで馬鹿じゃ」


『おお、そのようにあたふたとしながらも私の考えをおおよそ的中させるとは。


ご主人、今日は冴えていますね』


「あ?」


『ご主人、今回はアナタ様に『ドラゴンシン』氏との戦闘を一任させて頂きたいのです。


とは言え、勿論ここから指示は出します。ですからご主人は安心して、それに従って行動して下さい』


「はぁ!?」


すると、抗議の最中。


また新たなる不安要素の出現に、俺は戦慄する事となった。


何せコイツ、どうやら俺に戦闘を丸投げしようとしているのだ。そうなるのも仕方がないだろう?


だが、それにしても……一人と言うか、『スマホクラフターにスマホ無しで戦え』というのは、少々酷が過ぎるように思う。


いや、それどころじゃない、無茶だ、無茶苦茶だ。


コイツを除いた俺の戦闘能力なんて、たかが知れ得ているのだから。


……だからこそ、そんな役目を引き受けるつもりなどこれっぽっちもありはしなかったのだが。


「いや、そんなの絶対無理」


『いいえ、ご主人なら絶対に出来ます。


私を信じて下さい……ですが、もしもそれが難しいというのならば。


ここは一つ、『クルセイドちゃん』氏のためだと思って行動してみては頂けませんか?


これは指示でも命令でもなく、私からのお願いです。


私はただ、何の見返りも求めようともせずに救いの手を差し伸べてくれた、心優しい恩人を助けたいだけなのです』


無機物にそこまで言われてしまうと、首を縦に振るより他は無かった。


俺にとっても彼女は恩人であるのだから。





「あの、大吾さん、スマホさん。


お二人に任せるのが不安、という訳ではないのですが。でも、本当に大丈夫ですか?


アナタ達とドラゴン進には結構なレベル差がありますし……と、言いますか。


それ以上にあの人は、色々な意味でも非常に手強い相手なんですよ?」


『問題ありませんよ、『クルセイドちゃん』氏。


先程の検索で『ドラゴン進』氏の大まかな戦闘能力も、アナタ様の言う〝それとはまた別の厄介な要素〟も、全て把握済みですから。


そして、アナタ様と『ドラゴン進』氏の関係性についても、です。


ですので『クルセイドちゃん』氏、再三言っていますが、アナタ様は安心してそのまま隠れていて下さい。


何しろ、彼はアナタ様に好意があるからと言って以前より散々付け回している相手なのですから……


そんな者の前に出たとなっては、アナタ様の精神衛生上よろしくありませんよ』


「……!!

本当に、スマホさんには全て分かっているんですね。


その上で、私をあの人に近付けまいと……お気遣い、ありがとうございます。


では、今回はお言葉に甘えさせて頂きます。


それでは大吾さん、スマホさん。

どうか、お気を付けて……」


数分後、そんなクルセイドちゃんを半ば強引に物陰へと押し込み、俺と無機物は先程までいた通路の中央に陣取った。


が、やはり心配なのだろう。


彼女は時折物陰から顔を覗かせては、こちらの様子を窺うようにしている。


『ご主人、『ドラゴン進』氏の配信を確認した所、あとニ、三分程でこちらへと到着するかと思われます。


準備はよろしいですか?』


「ああ、勿論!

むしろもっと早く来ても良いくらいだ!


クルセイドちゃんにあんな顔をさせる奴だ……一秒でも早く〝そのお礼〟をしてやりたいからな!」


そんなクルセイドちゃんを一瞥し、俺はスマホにそう答える。


また、そこからも分かると思うが。

今の俺にはもう、奴に対しての恐怖など微塵も無かった。


あるのはこの胸にふつふつと湧き上がる怒り、ただそれだけだ。


実は斯く言う俺も、スマホから聞かされ既に知っているのだ。


あの傍迷惑な男と、クルセイドちゃんとのこれまでを。


二人が知り合ったのは約ニ、三年程前の事。


とは言っても他人の紹介やら、合コンやらで出会ったのではなく、当然交際していた訳でもない。


ダンジョン探索の最中、魔物に襲われて命の危機に瀕していたドラゴン進を救ったのが、あのクルセイドちゃんであったというだけだ。


だがしかし、それからというもの。


ドラゴン進は『本当に好き』なのが半分。

当時から既に炎上系配信者であった事から『撮れ高が欲しい』のが半分。


恐らくはそのような理由で、彼女の跡ばかり付けるようになったのだろう……そして、そのまま現在に至る、という訳だ。


……ギリギリ、気持ちは分からなくもないが。


でも、ダメなものはダメだ。


と言うか、自分が本当に好きな者が困っているのならば、手を引こうとするのが真実の愛というもの。


だと言うのに、愛と自分の儲け。

それを天秤に掛けるような奴を許してはおけない。


いや、例え誰が許そうとこの俺が許さない。


だから断固として、引くつもりはなかった。

そうしたせいで今後炎上が収まらなくなったとしてもだ。


最早そんな事は、瑣末な問題に過ぎなかったのだから。


そうして無心のまま、仁王立ちのまま。

悪漢がやって来るのを俺は待ち続けた。


全ては、奴に正義の鉄槌を喰らわせてやるために。





……それからまた、暫くして。


俺達の正面に位置する通路の奥。

そこに突如としてゆらゆらと揺れ動く、巨大な生物の影が映し出されたかと思うと。


同時に、男のものであろう声が聞こえてきた。


「クルセイドちゃん!!クルセイドちゃ〜ん!!返事してよ!!どこ行っちゃったの!?


ほら、リスナーの皆も待ってるからさ!!早く出て来てくれないかな〜!?どうしても今すぐに伝えたい事があるんだ!!」


そしてその間にも、巨影はみるみるうちにこちらへと近付いて来ると。


漸く全貌を俺達の前に曝け出した。


それは……なるほど、芸名はそこからきているのか。


その正体は赤く、実に大きなドラゴンであった。

ただしスマホが言うには、アレでも竜の中では小柄なようだが。


しかし、決して侮るべきではない。


現れたドラゴンには角、顔、全身に至るまで。

その隅々に傷という名の歴戦の証が刻まれている。


それ即ち、強者の印だ。


それと竜の金色に輝く瞳。それは一目見ただけで奴の聡明さ、知能の高さが窺えるのだから、むしろ油断などする方が愚かだと言えよう。


だが一方で、その対極にいるとでも言うべきだろうか。


ただひたすらに、賢しさの欠片もなさそうな様子でいる。竜の背に乗った、顔だけは無駄に良い男は。


自身が何処にいるのかも失念したのか、派手なばかりで実用性の薄い装備。


もとい、ギラギラとした刺繍の入った赤のパーカーと、所謂コンバットパンツを身に付けた……


そう、あれこそ魔物使いの『ドラゴン進』。


この俺が今から単身で戦いを挑む相手だ。


なんて、仰々しく言ってはみたが。

先程した、スマホとのやり取りでも分かるようにもう俺は怯えてなどいない。


覚悟はとうの昔に決まっていた。


『……ご主人、遂に『ドラゴン進』氏が現れました。


ここからは先程お伝えした計画通りに行動をお願いします』


「ああ、分かった」


そうして、俺は淡々と準備を始める。


スマホの発言通り、アイツから聞かされた作戦は完璧に把握済みだからだ。


まあ、例えもしそれが間違っていたのだとしても、奴がすぐに指摘するはずなので心配は無用である。


「それじゃあまず始めに、さっき拾った鱗をこうして……」


そして最初に、俺がクラフトによって作り出したのは。


配信中に取得したゴミ、ではなく。

あの時に拾った魔物達の鱗を素材とする。


─────


クラフト成功

鱗屑(うろくず)の投げ矢]


─────


まあ簡単に言えば、ダーツのような形をした武器であった。


『そんなモンたった一つだけで奴と戦うのか?』


そう問い掛けられたのなら、即座に俺はYESと答えるだろう。


もしもスマホを今保存袋の中から解き放てば、今度こそ奴は壊れ、『物言わぬただの文鎮』と化してしまうだろうし。


それに何より。


これもまた、つい先程スマホから聞かされたのだが……


『ああ、それとご主人。


先に忠告しておきますが、『ドラゴン進氏本人にも、彼が操る魔物にも一切として攻撃を加えてはなりません』それだけは絶対に覚えておいて下さい。


例え一度でもそうしてしまうと、『ドラゴン進』氏は「俺の愛する魔物に攻撃された!動物虐待だ!」などと言い。


被害者面をして沢山の信者達や、彼の法螺話に騙された大量の動物好きの人々と共に、現実とSNSのどちらでも当該人物に対して執拗に詰め寄って来ます。


所謂、『粘着行為』というモノですね。


ちなみに、これは『ドラゴン進』氏が最もよく使う手段であると共に、常日頃から彼が炎上している主な理由でもあります。


もう一つちなみに言うと、彼は被害に遭ったのが本人でも、魔物でも関係無くそのように発言するようですね。


ですのでご主人、攻撃の際は細心の注意を払った上での行動をお願いします。


でないと、『ご主人が炎上系配信者としてしか活動が出来なくなる』という未来が現実となってしまいますので……ですから。


何度も言っていますが、ご主人は〝アレ〟だけを狙って下さい。


〝アレ〟さえ壊せば、『ドラゴン進』氏には勝ったも同然です。


ただし、私達の目論見が相手に知れれば計画は全て破綻してしまいます。


つまり、チャンスは一度きり。

一度のみの攻撃で全てを終わらせるのです』


等々、そのような理由によって攻撃は最短回数で。


いや正確に言えば、〝ただの一度のみ〟に留めなければならず。


まあ要するに、『この武器一つで事足りるのではなく、〝足らさないといけない〟』からこそ、俺はこの投げ矢のみをクラフトしたのだ。


ただそう思うと流石に緊張が蘇り、手が震えてしまう……


かと言われれば、案外そうでもない。


何せ俺は、炎上に対しての恐怖などとっくに放り捨てていたのだし、それに。


〝その方面〟に関しては、実は俺の最も得意とする分野で……おや。


少々、話が過ぎたらしい。


まあ俺自身、そろそろとは思っていたが。


どうやらドラゴン進がこちらの存在に気付いたようだ。


「あ、お前!!

例のスマホクラフターって奴だな!?


……じゃあ先にコイツぶっ飛ばして、その後でクルセイドちゃんを探した方が良いか……?


ああ、それが良いな……なら予定変更だ!!


覚悟しろよスマホクラフター!!

お前なんかにクルセイドちゃんは渡さねーぞ!!」


『ご主人、分かっていますね?

今はまだ動いてはいけませんよ?


『ドラゴン進』氏をギリギリまで引き付け、〝アレ〟を取り出したその瞬間を狙って下さい』


「大丈夫、分かってるさ」


もう間も無く、戦いは幕を開ける……





とは言ってみたものの、決着は一瞬だった。


そして、気になるその結果はと言うと……


「さあ喰らえ!!スマホクラフター!!


竜よ!!

契約の名の下に命じ……」


そう言ってドラゴン進が取り出したブローチ。


『とうとう、出しましたね。


魔物使いが契約を結んだ魔物へと命令する為に欠かせない、『契約の紋章』が刻まれた品。


逆に言えば、それさえ失えば魔物は彼の契約下を離れてしまうという諸刃の剣……


さあご主人、今です!!』


「ああ!!」


「おっ!?俺に攻撃する気か!?

そんな事をしたらお前、大変な目に……って。


うわっ!?け、『契約の紋章』が!?」


それを見、すぐさま放った鱗屑の投げ矢が見事、ブローチを撃ち砕いた事によって。


その瞬間に俺達の勝利は決まったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。