十話 炎上系配信者VSスマホクラフター!? (2)
そうして俺は見事、『契約の紋章』入りのブローチを破壊した事によってドラゴン進から勝利を捥ぎ取った訳だが。
一応言っておくと、俺は元プロ野球選手でもダーツのプロでもない。
むしろどちらかと言えば、ベースボールもダーツも両方苦手だ。
にも関わらず、俺が奴のブローチを正確に破壊出来たのは、『俺がスマホクラフターだから』というのが一番の理由である。
……実は斯く言う俺も、「いや、スマホクラフターだから何なんだよ!?そんな事出来る訳ないだろ!?」とスマホに詰め寄ったのだが。
そしたらアイツ、こんな話を始めやがったのだ。
『おや、ご主人はもしかしてご存知ないのですか?
戦闘に不向きな生産職は当然、主にHP、STR、ATK、VIT、DEF、RES 、AGI等々の数値が戦闘向きの職業よりも必然的に低くなる訳ですが。
こちらもまた当然、その代わりに戦闘職よりも上昇するパラメータ、ステータスが存在します。
そしてクラフター及びスマホクラフターにおいてはDEXことDexterity。
簡単に言えば『器用さ』と『命中率』に影響を与える、こちらの数値が上昇するのです。モノづくりのプロですからね。
また、この数値は飛び道具の威力にも作用します。
しかもご主人は上位職ですから、要するにアナタ様の投擲した物は『ほぼ確実に狙った箇所に命中しますし、被弾した物体をほぼ確実に破壊可能』という訳です。
ちなみに、現在ご主人のDEXは。
[DEX 399]
と、このように他のステータスよりもずば抜けて高い数値となっています。
まさか、本当に知らなかったのですか……え?
「DEXなんてお前の口から聞いた事ない」ですって?
当たり前です。
私の表示しているパラメータ、ステータスの数値は全て(簡略)なのですから。
ちゃんと普段から右上に表記してありますよ?
ご主人、これからは難癖をつける前にもっとよく確認して下さいね』
……まあ、そう言う訳だ。
とにかく、そのような理由により俺の一投は堅実かつ的確に、我が陣営を勝利へと導いたのである。
とは言え、俺自身まだ完全に納得し切れてはいない。
結果的に言えば、事実を隠匿していたに等しいスマホに対しても。
また、そんな無機物が俺をクレーマー扱いした事に対してもだ。
▽
とにかく、戦いは終わったのだ。
さあ、後はクルセイドちゃんとおてて繋いで帰るだけ……なんて訳にはいかない。
問題はむしろここからなのだ、何故ならば。
「け、『契約の紋章』が……お、おいお前!!
こんな事してタダで済むと思うなよ!!
今に俺のリスナー達がお前を……」
いや、コイツじゃない。
ドラゴン進が何やら叫んでいるが、コイツの相手をしている暇はないので放置しておくとする。
─────
『ドラゴン』
討伐推奨レベル[35〜]
脅威度[中〜高]
一括りにドラゴンと言っても亜種、変種も含めたその種類は膨大であるため『戦闘、対処法』等における定石が無い。以上の事から初〜中級冒険者の戦闘は非推奨。
ただし、ドラゴンは大半の個体が一般的な魔物と比較して知能、戦闘能力共に高水準であり、また『炎を吐くといった遠距離攻撃も可能』、『殆どの個体が人の倍以上の体躯を有するため間合い、攻撃範囲共に圧倒的不利』等の理由から、上級者だからと言って戦闘が推奨されるものでもない。
─────
『さあご主人、ここからが真の戦いです。
『ドラゴン進』氏の管理下を外れたドラゴンは最早野生の魔物と同じ、何をするかも分かりません。
この辺り一面を焼け野原にするかもしれませんし。
今まで人間に操られていたという鬱憤を晴らす為、この場の全員を血祭りに上げるべく大暴れする可能性も充分に考えられます。
ですから、一刻も早く『クルセイドちゃん』氏を連れて逃げる事をオススメ……したいのは山々ですが。
あれ程の巨体ですので、そうした所ですぐに追い付かれてしまうでしょう。
ですので、ご主人。
ここは一か八か、先程入手した鯉の鱗、もとい[水魔の鱗(???)]をクラフトして〝魔物用のおやつ〟と変え、それでドラゴンの気を引いてみましょう。
大丈夫ですよ……多分。
なるべく食欲をそそるような物にすれば……きっと。
検索してみた所、とある県では郷土料理にする事もあるようですし……』
そう、本当に問題なのは、奴の管理下を離れたドラゴンの方だ。
スマホの言うように、今の竜が何をするかなど想像も出来なければ。
まずそもそもとして、こちらはまだ碌な『ドラゴンへの対処法』すら見つけられていないのだから。
いやまあ、全く無いという事も無い……のだが。
流石に『DEXだけは異常に高い』この俺も、あのドラゴンを今から鱗を拾い集めて倒すというのは極めて非現実的だろうし。
仮にもし、クルセイドちゃんに頼んでドラゴンを無事倒せたとしても、今度は彼女が炎上してしまうだろう。
と言うか俺と彼女、どちらが討伐したとしても騒動に巻き込まれるのはまず間違いない。
……で、あるからして。
本当は口に出したくないのだが、こう訂正せねばなるまい。
正直に言えば、俺達はドラゴンへの対応策は全く持ち合わせておらず。
もっと言えば今現在、八方塞がりであると。
「……まあ良い、分かったよ。
じゃ、じゃあとりあえず何か作ってみるか!」
だがしかし、何もせず立ち尽くしていれば辿り着くのは丸焼きか胃袋の中という末路。
そこで仕方なくも、俺は鯉の鱗でクラフトを始めようとしていた……まさに、その時だった。
そのように杜撰な策を、実行に移す必要がないと気付かされたのは。
▽
きっかけはドラゴン進とその〝元〟相棒こと、ドラゴンのやり取りであった。
「ん、あれ?おかしいな?
いつもならすぐリスナー達が暴れ出すのに……あ!?
な、何だこれ!?配信が止まってるぞ!?
と言うかスマホが動かねぇ!?マジで何だってんだよこれは!?」
『おや、見て下さいご主人。
あの、『ドラゴン進』氏のスマホの無惨な姿を。
おお、何と恐ろしい事でしょう。
あともう少し『クルセイドちゃん』氏と会うのが遅ければ、私もああなっていたのでしょうね……』
「え?……ああ、なるほど。
まあ確かに、お前にとっちゃアレは。
『同族が……まあ色々とされてる、グロテスクな映像』
みたいなもんなんだし、そりゃ怖いだろうな」
と、そのようにして。
湿気にスマホをやられたらしき、ドラゴン進が慌て始めたかと思うと。
他に道は無いと悟ったのか、奴は窮余の策としてこのような手段に出たのだ。
「お、おい!!
頼む『紅丸』!!
もうこうなったら、お前だけでアイツをぶちのめしてくれよ!!
なあ、マジで頼むよ紅丸!!
俺はもうお前に頼るしかないんだよ!!
俺達ずっと一緒だったじゃんか!!
俺達に『契約の紋章』なんて本当は要らないだろ!?そうだよな!?なぁ!?」
そしてそれは、『紅丸ことあのドラゴンに助けを乞う』、というものだ。
奴の口から紅丸との名が出るのは初出であったが、その視線は竜へと一心に注がれていたのだからすぐに分かった。
……まあ、確かに。
これは俺の予想に過ぎないが。
ドラゴン進の言う通り、奴と竜との付き合いはそう短いものではないはずだ。
だとすると、契約の紋章無しで竜が動くのを有り得ない事象だと言い切れはせず。またそれが現実となれば、俺の敗北は確実。
そう思うと途端に恐怖が蘇り、足が竦んだ。
何もかも放り出して逃げたくもあった。
ドラゴンと戦うなど、とても考えられなかった。
だが、そうはならなかったのだ。
理由など無論、知る由もないのだが。
何せ、その紅丸と言われたドラゴンは……
『…………フン』
「お、おい紅丸!?
何やってんだよお前!?」
ドラゴン進の問い掛けに対し、答える代わりに一度鼻を鳴らしただけ。
かつそのまま壁際に歩き出して行ったかと思うと、何とその場で横になってしまったのだ。
それ即ち、危機は去ったという事と同義……のはず。
そんな事実を知り、いつしか俺はクラフトする手を止めてしまっていた。
動かぬ対象の気を惹きつけ、そこに留めておくための餌など不必要であるのだから。
「……ど、どうやら俺達」
『え、ええ、助かったみたいですね……あの様子を見るにドラゴンはもう、動くつもりは更々無いようです』
▽
という事で、今度こそ本当に完全勝利となった訳だが。
どうやらただ一人、ドラゴン進だけはまだその事実を認められないようだ。
「クソッ!!何だってんだよ!!
……もう良い!!
もうこうなったら、今度は話術でいくぞ!!
おい!!よく聞けスマホクラフター!!
スマホはおかしくなっちまったけど、途中までは間違いなく配信されてたし、中に動画だって残ってるだろうからどの道お前は終わりだ!!
帰ったらすぐにそれを編集して、お前の悪い噂を動画でもSNSでも広めまくってやるから覚悟するんだな!!
おっと、止めようたってそうはいかねえぞ!?
俺に手を出したら最後、今度こそお前は『暴力&動物虐待&クルセイドちゃんの変態ストーカー野郎』として、アカウントを消すまで永遠に炎上し続けるだろうからな!!
いや!!もしかしたらもう俺のリスナー達が動き始めてるかもしれないし、だとしたら結局お前は終わりって事だな!!
ハーハッハッハッハ!!」
そんな奴が次にした行動とは、そのようにして俺を脅迫するという。
つまりは、『最後の悪足掻き』だった。
「はぁ……今更、何を言うかと思えば。
やっぱり〝そういう系の脅し〟か。
と言うか、いくら何でも盛り過ぎだろ」
『ええ、そう来るのは予想済みでしたが、まさかここまで『小悪党のお手本』のようなセリフが飛び出すとは……そこだけは流石に想定外でした』
それを聞き、俺は思わず呆れ顔となってしまう。
そこからも分かるように、イタチでもドラゴンでもない、『炎上系配信者の最後っ屁』など何も怖くはなかった。
まず第一として、奴がそうするのは分かり切っていたのだし。
それに何より、そちらの方面においては完璧な対応策を既に俺とスマホは有していたのだから。
「……あれ?普通の奴なら速攻土下座して来てもおかしくないんだけどな。
お、おいスマホクラフター!!
今すぐに、土下座して謝るんだったら……
まだ『クルセイドちゃんへの接近絶対禁止令』と、『これからもう良いと言うまで俺の配信に無報酬でゲスト参加』くらいで勘弁してやっても良いんだぞ!?
そしたら、動画もある程度は〝気を利かせて〟編集してやるし!!フォロワー達には俺から直々に話して騒ぎを収めてやる!!
この意味が分かるか!?
謝るなら今のうちって事なんだぞ!?」
すると、俺の微動だにしない表情とその態度を訝しんだのか、ドラゴン進は慌てたようにそう言う。
そこで、俺は奴に包み隠さず。
俺とスマホの手の内、全てを話してやる事とした……
「いや別に、好きにしたら良いんじゃないか?
ただその前に、んな事よりも自分の心配をする方が先だと俺は思うけどな」




