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十一話 戦いの終わり

この時までは、まだドラゴン進にも余裕は残されていた。奴の表情からもそれは明白だった。


「は?何言ってんだお前?


何で俺が自分の心配なんてしなきゃいけないんだよ?

俺は別に、何もしてない……」


『果たして本当にそうでしょうか?


『ドラゴン進』氏、アナタ様……いえ、アナタは。


『クルセイドちゃん』氏へのストーカー行為のみならず、途中で防がれたとは言え先に私達へ攻撃しようとドラゴンをけしかけたのですよ?


これらは明確な犯罪行為です』


「うわっ!?

ス、スマホが喋った!?」


『……続けましょう。


一方、私達の行った『契約の紋章を破壊する』という行為はあくまでもやむを得ない最低限の範囲内ですから、例え世間に広まったとしても『正当防衛』が認められ、問題は無いと言えるでしょう。


分かりますか?『ドラゴン進』氏。


つまりその動画を流出させる事で迷惑を被るのは、むしろアナタの方なのですよ?』


「ああ、コイツの言う通りだ。


と言うか、お前の方の配信は途中で止まってるみたいだけど、〝こっち〟じゃ普通に流してるからな。


多分、今頃はお前の配信アカウントもSNSも、もうかなり炎上してると思うぞ?」


「はっ、今更何言ってんだ!?


俺が炎上してるのなんていつもの事なんだぜ!?

そんなんじゃ脅しにもならないんだよ!!」


『ええ、そうでしょうね。


ただしそれは。その炎上が〝いつもと同程度ならば〟、の話でしょう?』


「え……?」


しかし、ここからだった。


段々と奴の顔からゆとりが消え始めたのは。


『検索した所、今起きている『ドラゴン進』氏の炎上は以前とは比較にならない程のものとなっています。


またそれだけでなく、今回は『通報した』等の声も多く見られるようですから、最悪の場合活動に支障が出る恐れが……


いえ、活動自体が続けられなくなるという可能性も少なくはないでしょうね』


「……だ、だから何だってんだよ。


それくらいで、お前らごときが俺をどう出来るってんだ!?あぁ!?


そんな虚仮脅しが俺に通用すると思ってんのか!?


お前らがいくら発信しようが、リスナーやフォロワーの数はこっちの方が圧倒的に多いんだよ!!


そんなもんすぐ、〝良い感じ〟に編集した動画と、数の暴力で押し切って……」


『……甘いですね』


「ああ、甘過ぎるな。


おいドラゴン進、よく聞け。


俺は確かに、お前と比べたら視聴者の数も少なければ知名度もフォロワーも全然だ。


だからお前の言う通り、『真実が人海戦術によって覆される』というのも普通にあり得るだろうさ、俺なんかがたった一人でお前を相手にするならな。


けどな、それは〝俺だったら〟の話だ。


お前は一つ、大きな間違いをしている……


俺が一体いつ、〝自分のアカウント〟で動画を投稿したと言ったんだ?」


「は?だってお前さっき。


『お前の方の配信は途中で止まってるみたいだけど、〝こっち〟じゃ普通に流してるからな』


って、言ってたじゃねえか……?」


『ええ、ですから……


アナタよりも更に知名度、リスナー、フォロワー。

その全てにおいて上回る。


『クルセイドちゃん』氏、つまり〝こちら側の人間が動画を投稿した〟と、ご主人は申し上げたのですよ』


「…………!?そ、そんな……!?


い、いや!!そんなワケない!!

クルセイドちゃんがそんな事をするワケ」


「いいえ!しました!


アナタのこれまでの行いも!大……スマホクラフターさんと、そのスマホさんが私を助けてくれたという事も!


一部始終全て配信していましたし、『スマホクラフターさんは何も悪くない』とSNSでも投稿済みです!


アナタの悪行もこれで終わりです!

さあ、分かったらすぐにここを立ち去って下さい!


何度も言っているように、これ以上付き纏われるのははっきり言って迷惑です!!」


そしてトドメとばかりに、姿を現したクルセイドちゃんを前にしたドラゴン進は。


「ク、クルセイドちゃん……!?

な、何でそんな酷い事言うんだよ!?


確かに、俺はキミにとって迷惑でしかなかったかもしれないけど!!でも、それくらいキミが好きだったんだよ!!


だからなんつーか、ちょっと、その。


だからこそ、やり方が強引になっちゃったかもしれないけどさ……で、でも!!


俺の気持ち、ちょっとくらいは分かるでしょ!?

俺、本当にキミの事が……」


「いいえ!!

全っ然分かりません!!


と言うか、こちらの話も聞かずに無理矢理事を進めようとする人の気持ちなんて分かりたくもないです!!


この際だから言わせてもらいますけど!!


私、アナタみたいな人と交際するくらいなら……


こちらの、〝スマホクラフターさんとお付き合いする方が断然良い〟と思ってますから!!」


「え……う、嘘だろ……!?


クルセイドちゃん……!!」


最後にそう呟いたかと思うと、萎れた花のようにしてとうとうその場にて崩れ落ちたのであった。


つまり、今度こそ本当に戦いは終幕したのだ。


という訳だし、流石に疲れてしまったからそろそろ家に帰るとしよう。


「……はっ!!

す、すみません大吾さん!!


私、すっかり興奮しちゃってたみたいで……

思わず顔を出してしまったどころか、あんな事まで……」


「い、いや、大丈夫ですから、一旦落ち着いて……


とりあえずこのダンジョンから脱出しましょう?ね?」


『私もご主人と同意見です。


と、言いますか。いい加減この袋に閉じ込められているだけというのは窮屈ですし……とにかく。


ですので『クルセイドちゃん』氏、よろしければアナタ様もご一緒しませんか?


出口までの案内は全てこの私がさせて頂きますので』


という訳で、漸く一安心する事の出来た俺は、『まあ失言っちゃ失言』をしたせいでわたわたとするクルセイドちゃんを連れ。


遂に、このダンジョンからの帰還を果たすべく歩き始めるのだった。


まさかここから脱出した直後、大量の人々から追い駆けられるとも知らずに……


@08n.8nm.xc8m

『おいおいマジかよ……え?皆も聞いたよな?

俺の聞き間違いじゃないよな?クルセイドちゃん、さっきスマホクラフターとお付き合いする方が断然良いとか言ってたよな?』


@308zxesn

『〉〉@08n.8nm.xc8m

私も聞いたよ。と言うか、もうあれって『交際OKです』って言ってるようなもんなんじゃないかな……?』


@x9scqqqmn

『マジかよ!?クルセイドちゃんスマホクラフターと付き合うの!?』


@r.0sc9c0n3q

『〉〉@x9scqqqmn

おい落ち着け、そこまで言ってた訳じゃないぞ。それっぽい発言自体はしてたと思うけど』


@z_x_z0

『クルセイドちゃん本当におめでとう!!いや俺も前々から思ってたけど、ドラゴン進なんかよりスマホクラフターの方が絶対良いでしょ!!』


@s_30qnxes

『え?今来たけどマジで?クルセイドちゃんスマホクラフターと付き合うの?まあ私はクルセイドちゃんが幸せになってくれればそれだけで良いけど』


@.n.neqec8

『なんか、話がどんどん変な方向に広がってきてるような気がするんだけど……そう思ってるのってワタシだけ?』





先にも言ったのだが。


やっとダンジョンから生還出来たというのに。

その後一息つく暇すら無く、またすぐに散々な目に遭った。


正直、精神面の辛さで言えば『VSドラゴン進』よりもこちらの方が上回ると思われる。


で、それは何故かと言うと……


[『驚報』クルセイドちゃん、例の『スマホクラフター』と交際宣言!?]


[クルセイドちゃん氏、まさかのスマホクラフターと熱愛か。本人を直撃してみた!!]


スマホに調べてもらった所、動画のサムネイルはこのようなものが雨後春筍の如くわらわらと。


「クルセイドちゃん、答えて下さい!!

先程の配信での発言は本当なんですか!?」


「クルセイドちゃん、どうかスマホクラフターとの交際に至った経緯を……!!」


「『ドラゴン進』よりもスマホクラフターを選んだ理由は、やはり彼が守ってくれたからですか!?」


「それとも、以前からお好きだったんですか!?


スマホクラフターの配信にもコメントしていたようですし……どうか詳細を教えて下さい!!」


そして、どうやらずっと待ち伏せしていたらしき配信者やファンと思われる人々からはこのように言われ。


まあ要するに、先程クルセイドちゃんがした『スマホクラフターさんとお付き合いする方が断然良い』という発言が、広まる間に尾鰭背鰭が付けられたようで。


あれを本当の『交際します宣言』と捉えた複数の者達から、ダンジョンの入り口で取り囲まれてしまったのだ。


そして、そんな彼等は逃げ惑う俺達を、街中や駅のみに留まらず。


何なら「話して頂けないのならば自宅まで付いて行きます!」と、言わんばかりの勢いで追いかけ回して来たので……


最終手段として、家には追跡を避けるために随分と遠回りしながらタクシーで帰って来たという訳だ。


ただし、クルセイドちゃんも一緒に。


……仕方ないだろう?


と言うか、そうするしかなかったのだ。


我が家はダンジョンから近く、緊急避難先に最も適していたのだし。


それに何より、クルセイドちゃんもドラゴン進から逃げ回っていたせいか酷く疲れていたのだから。


とにかく、そのように色々とあった困難を乗り越え、今はクルセイドちゃん、あとは勿論無機物と共に俺達は帰宅済みなのである。


だがしかし、彼女の必要とする物品は我が家にはほぼ皆無と言っても過言ではなく。


だからと言って、有名人のクルセイドちゃんをこれ以上出歩かせれば、またゴシップ好きの連中から狙われてしまう……と、いう事で。


俺がマスクとサングラスで雑に……ではなく簡単に変装し、それらの品の買い出しに出動しているのだ。


「ええと、歯ブラシに歯磨き粉、あと替えのタオルは大きめのが一枚、小さめのが一枚。


それと最後に、クルセイドちゃんの好きなブランドの、ジッパー付き保存袋……は、無かったから。


この『フリーザーなんとか』を一応買っておいたし。


よし、これで買い出し終了だな!」


とは言っても、頼まれていた物の調達は既に完了していたのだが。


「じゃあ、さっさと家に帰るか。

クルセイドちゃんも早く使いたいだろうし……」


という訳で、俺は二度目の外出を終えるため帰路に就いた。


喜びと羞恥。あまり交わる事はないはずの、そのような二つの感情を胸に抱えながら。


まあ簡単に言えば、今の俺は『複雑な気持ち』でいたのだ。


俺なんかの家にクルセイドちゃんが来てくれたのは胸が弾む程に嬉しいが。


ただそれと同じくらい、汚部屋を見られてしまうのは胸が張り裂けそうな程に恥ずかしくもあったのだから。


まあ、先も言ったがこれは特例措置みたいなものなのだから、諦めて受け入れるしかないと言えよう。


ならばもう、そんな事は忘れてさっさとクルセイドちゃんにこれらの品を届けに戻るとしようか。


とは言っても、利用したのは近所のコンビニ。


そのような事を考え終わる前に、俺は自宅へとすぐに辿り着いた。


のだが、今となってみれば、もう少しよく考えていれば良かったと反省……


いや、逆にあまり余計な事ばかり考えなければ、〝あのような悲劇〟は防げたのだろうか?


ああ、これが所謂『たられば』というものか……


とにかく、そんなこんなで答えは未だ見つけられずにいる。





つまり、俺は何が言いたいのかと言うとだな……


あれは家に戻り、ドアノブを開けて部屋に入った直後の事だ。


本来ならば当たり前のそんな行動だが、俺はそれを酷く後悔している。


「ただいま……って、アレ?」


そこで、俺は浴室から物音がする事に気付いたのだ。


またそれを聞いてすぐに、俺は熟考もせずに音の主をスマホだと決め付けてしまっていた。


当然、そのように推察した理由はある。


クルセイドちゃんの人柄や性格からして、彼女が断りも無しに他人の家で入浴を始めるとは到底思えなかったし。


と言うか、俺の身の回りで何かしらの物事を自分勝手に行う者がいるのだとしたら、それはスマホだと相場が決まっているからだ。


そして、そう早とちりした俺は浴室の扉を開け放ちこう言った……の、だが。


「おいコラ!またお前は勝手に何して……あ」


まあ、上記した早とちりの〝とちり〟という言葉は『失敗』、『間違い』等の意味を示す事からも分かるように。


「あ……」


そこにはこれでもかと肌を露出させた、クルセイドちゃんがいるのだった。


「あ、あの……これは……わざとじゃ……」


次の瞬間焦りに焦り、言葉に詰まる俺。


『ご主人、何やら勘違いしているようですが。

そこにいるのは私でなく、『クルセイドちゃん』氏です。


彼女が汗を流したいと呟いていたので、この私が許可したのですよ。と言うか、湿気すら嫌う私が入浴なんてする訳がないじゃないですか。


さあ、それが分かったらご主人。

今すぐそのように破廉恥な真似は止して下さい』


俺の寝床には、つい先程そこに放り投げたままの位置にいながらそう述べるスマホがあった。


つまり、浴室にいるのは間違いなくクルセイドちゃんで。そんな彼女にした俺の行為とは、まさしく変態のそれそのもの。


だからこそ、天罰は下される……


「だ、大吾さん……勝手にすみません!!


で、でも……今はとりあえず……は、恥ずかしいので早く戸を閉めて下さい!!」


クルセイドちゃんが謝りながらも、凄まじい速度で戸を閉めた事によって。


「ぎゃあああああ!!」


そこに指を挟まれた俺は最後に、周囲に響き渡る程の絶叫をするのだった。


……以上が事の顛末だ。


だからこそ、俺は早合点して動いた自分の行動を酷く後悔しており。


また、その時に覚えた痛みとクルセイドちゃんへの罪悪感によって、俺は未だ自責の念に苦しめられているのである。


まあ要するに、苦難の連続であった今日という日は、俺の断末魔で締め括られたという訳だ。


ただ、それで上手く締められたのかどうか、俺自身甚だ疑問ではある。

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