五話 判明?『スマホの正体』
スマホに脅された為、仕方なくクルセイドちゃんの制止を振り切ってから約一時間後。
俺とスマホは無事に帰宅し終えていた……が。
俺だけは再び外出し、近くのコンビニで買い物をして二度目の帰路に就くという、まさにその最中であった。
ちなみに言うと、購入したのは幾つかの肴と缶ビールが数本、以上である。
恥ずかしながら、良く言えば『愛酒家』である俺は、仕事終わりになると身体が自然と動き。
こうして光に誘われた虫達のようにして、コンビニに吸い寄せられてしまうという困った性質があるのだ。
……まあでも、今日くらいは良いだろう。
『また今日も飲酒をするというのですか?
全く、ご主人も懲りない人ですね。
昨日飲み過ぎたせいでダンジョン探索に支障が出たと言うのに。
まあ、別に飲酒自体は構いませんよ。
それで収益がマイナスになると言う訳ではありませんから。
ただし飲み過ぎない事。
それと飲む前に私の話をちゃんと聞く事。
それだけは約束して下さい』
そのようにして、スマホからも許可は得ているのだし。あの無機物も疲れたと言うので先に家へと連れ帰ったのだし。
だがそれにしても、スマホの話とは一体何なのだろう?
クルセイドちゃんの話。スマホの事情。
その辺りの事なんて一から十まで分からない俺だ、簡単な予想すら出来ない。
とにかく、大人しく聞いてみるしかないか。
ただ早く酒が飲みたいから、あまり長談義にならなければ良いのだが……
▽
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クラフト可能アイテム
[スマートフォン『モデル:人型]
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玄関扉に鍵を差し込んだ直後、何やらそのような表示が目の前に現れたのだが。
それを見て手を止めなかった数秒前の自分に、説教を喰らわしてやりたかった。
何故ならば、扉を開けた直後。
「ん?アンドロイド?……まあ良いや。
ごめんごめんお待たせ、今帰って来、た……うわっ!?」
俺の目に飛び込んで来たのは、妙に艶々とした肌と白い長髪。
そして、端正ながらも無表情な顔をそこに貼り付けた、この世のものとは思えないような美女。
『お帰りなさいご主人、漸く帰って来ましたね。
では、早速ですが話を始めましょう。
買って来た食料品を冷蔵庫に入れたら、すぐにこちらへ来て下さい』
そんなものを目の当たりにし、とんでもないミスを犯したと勘違いした俺は。
「す、すみませんすみませんすみません!!
部屋を間違えちゃったみたいです!!
本当に、本当に失礼しました!!
今すぐ出て行きますから警察だけは……痛っ!!」
すぐさま逃走を図ろうとしたせいで、玄関扉に強かに頭をぶつけてしまったのだから。
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[ステータス](簡略)
佐藤大吾:職業『上級職:スマホクラフター』
〝HP 38/500〟
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『〝今の〟で体力が大幅に減少しました。
ご主人、アナタ様は急に何をなさるおつもりなのですか?もしや、あまりの収益の多さに舞い上がっているのですか?
まあ、そうなる気持ちは分からなくもありませんが、しかし無茶が過ぎると命に関わりますよ?』
「違う!!これが舞い上がってるように見えるか!?と言うか何でそんな紛らわしい格好してるんだよ!?」
『元の姿ではご主人、またすぐに私を〝弄ろうと〟するじゃありませんか。これはその防止のためです』
「ちょ、ちょっと待て!!その言い方は止めろ!!
誰かに聞かれたらどうするんだ!!
俺が変態だと思われるかもしれないだろ!?」
▽
「お、おい……もう良いって、もう痛みは引いたから止めてくれよ。酒がぬるくなるだろ」
『ご主人が氷嚢を自宅に用意しておかないのがいけないんです。
それが無いから仕方なく、こうして酒の缶を保冷剤代わりにしているのではありませんか。
まあ、ご主人が大丈夫だと言うなら患部の冷却はここまでとしましょう。
ではご主人、そろそろ話を始めても宜しいでしょうか?』
「あ、ああ、そう言えばそうだったな。
あんまりよく分からないけど、クルセイドちゃんが言ってた〝あの人〟とお前との関係性……みたいな話で合ってる、よな?」
『ええ、仰る通りです』
〝缶ビールで冷やす〟
そんな手当てとも呼べぬような応急処置を終え、スマホは俺を自身の正面に座らせると。
今度こそ、例の話を始めた。
『……これは『クルセイドちゃん』氏の話を聞き、私が検索、そして計算を行った後に判明した紛れもない事実です。
ご主人、〝先駆の冒険者〟というのはご存知ですか?』
「先駆の、冒険者……」
その名前には心当たりがあった。
〝先駆の冒険者〟
それは我々冒険者にとって、最早偉人と呼んでも過言ではない程の人物だ。
何せ名の通り、この世界に現れたダンジョンを人類で初めて踏破した者こそが先駆の冒険者、その人であるのだから。
そして、どうやらその者は女性の剣士だったらしく。
嫌に白い肌と、背中の『林檎のような模様』が特徴の彼女はそれ以降も数々のダンジョンを踏破してゆき。
最後には必ず、探索を終えたダンジョンの入り口付近に自身の背中にあるものと同様のマークを刻み入れたのだと言う。
とまあ、こんな具合だろうか。
という事で簡単ではあるが、以上が先駆の冒険者という存在の概要である。
……とは、言ってはみたものの。
これは全て、人伝に広まった噂の寄せ集めみたいなものだ。
確かに、目撃者もある程度はいるようだが、『ダンジョン内部での配信行為』というのが一般的ではなかった当時では碌な証拠が存在せず。
当然、配信者でもなかった彼女に関しては全て、未だ謎に包まれているのだ。
まあそれでも、もしも本当に実在しているのならば、とんでもない人物であるという事には変わりないが。
「そりゃ勿論知ってるよ、超有名人なんだからな。
まあ、本当にいればの話だけど。
……もしかして、それがクルセイドちゃんの話に出て来た〝あの人〟なのか?」
『ええ、恐らくは』
「そう、なのか……だとすると。
彼女は俺達が、〝先駆の冒険者〟の関係者か何かじゃないかと疑ってるって訳か。
う〜ん……クルセイドちゃんには悪いけど、それはちょっと考え過ぎだと思うけどなぁ。
だって、そんなの有り得ないじゃん?
確かによくよく思い出してみると、〝先駆の冒険者〟とお前とは少し似ている所があるかもしれないけどさ、別にただそれだけの話だろう?
まさか……いや、流石にそんな事は無いと思うけど、『私が本人です』とか言い出すのは止めてくれよ?
お前、冗談あんまり上手くないから、正直反応に困るって言うか……」
『ふむ、まさか言い当てるとは思ってもいませんでした。
ご名答、流石はご主人です。
私の言いたい事がよく分かりましたね。
仰る通り、実はその〝先駆の冒険者〟というのは私自身の事なのです』
そんな、まさか。
そもそも先駆の冒険者は数年前から消息不明となっているはずで、何故それがいきなり現れたと言うんだ。
しかも俺の前にだぞ?信じられると思うか?
……ははん、分かったぞ。
コイツ、何を話すかと思えばやっぱりまた冗談か。
今日はエイプリルフールでもないというのに、これでは狼少年と同じではないか。
とまあ、散々文句を言ってしまったが。
与太話を始めたのはスマホの方なんだから、愚痴るのはむしろ仕方がないように思える。
それだけの事を、この無機物は話していたのだから。
……そう、思っていたのだが。
▽
スマホの話した内容。
そうして点と線が繋がり、暴かれた謎。
それらの全てを目の当たりにする事となった数分後の俺にはもう、認めるより他は無かったのだ。
コイツが正真正銘、本物の〝先駆の冒険者〟であるという、紛う事なきその事実を。
▽
「え……え?
いやいや、お前何言ってるんだよ?
先駆の冒険者は数年前、都内のダンジョンに〝例のマーク〟を残したのを最後に行方を晦ませているんだぞ?
そんな人が突然、俺なんかの前に現れるワケ」
『いいえ、その逆です。
現れたのではなくご主人が私を手にしたその時、その瞬間からずっと、側にいたのです。
それを私自身でさえも、思い出せずにいたというだけで。
……以前の、私は。
戦闘用AIとして国の研究施設で作られ、突如として国内に出現したダンジョン内部の探索を行っていました。
先駆の冒険者と呼ばれたのはそのためです。
人々よりも先にダンジョンへと潜入し事前調査、安全確認を行う事こそがこの私の産まれた意味、生きる理由全てだったのですから。
しかし、私はその事を今の今まで失念していました。
戦いに戦いを重ね、遂に動く事が出来なくなった時。
役目を終えた私のデータは、国家機密を含むものだとしてすぐに削除されたからです。
そうして、私の次なる居場所は民間市場となりました。脳であるチップをスマホに移され。
これは私の推測でしかありませんが、恐らく金に目が眩んだ何者かが、本来破棄されるはずだった私をそちらへと横流ししたのでしょう。
とは言え、人間で言えば記憶喪失のような状態とも言える当時の私では、犯人の目星すら付けられませんでした。
いえ、それどころか。
自分が何なのか。
自身が今、どのようになっているのか。
どのような立場に置かれているのか。
……これから、どうなるのかも。
何一つとして分かりませんでした。
ですがご主人、アナタ様に出会えたからこそ、私は何もかもを取り戻す事が出来ました。
アナタ様の職業である『スマホクラフター』がこの私をも覚醒させ。そして可能となった、遥かに精度を高めた検索と計算によって全てを思い出せたのです。
ですからご主人。
確かに、アナタ様の前に〝先駆の冒険者〟が現れたという事自体は、単なる偶然かもしれませんが。
ご主人と私……〝先駆の冒険者〟が出会えた事。
それ自体は、むしろ必然とも言えるのですよ。
いえ……運命、でしょうか。
他でもない、アナタ様が。
私の失われていた記憶を、虚無の底から掬い上げてくれたのですから』
▽
「…………一つ、聞いても良いか?
それじゃあ、自分が先駆の冒険者だって言うお前に聞きたいんだけどさ。
あの人がダンジョンに残したマーク、あれは一体何のためのものだったんだよ?」
『ああ、先駆の冒険者がダンジョンに残したという印の事ですね。
あれは単純に、調査の有無を示す目印に過ぎません。
印が有ればこのダンジョンは既に機械が探索済みであり、比較的危険度は少ない。無ければそうではない、と言った風にです』
「そ、そうか……
じゃあ、お前は本当に……」
『ええ、先程も言いましたが、この私こそが先駆の冒険者なのです。
私の言いたい事、分かって頂けましたか?』
「あ、ああ……」
『それと最後に一つ、私が『クルセイドちゃん』氏に対して拒絶するような態度を取った件についても話しておきましょう。
とは言っても、答えは簡単です。
それは『私が記憶を取り戻したと知れれば、必ずや私を奪おうとする者、再びデータを削除しようとする者が現れるから』です。
ですのでご主人、今後一切として私の事は口外しないで下さい。
絶対に、絶対にですよ?
分かりましたね?」
「わ、分かってるよ!!
だってその場合は当然、俺にも……」
『ええ、間違いなく持ち主であるご主人にも被害が及ぶでしょうね。
ですから、これは私達二人の秘密にしておかなければならないのですよ。
さて、私の話はこれで以上です。
ご主人、お疲れ様でした。
もう飲酒しても構いませんよ』
「あ、ああ、勿論そうさせてもらうさ。
ただ何と言うか、その。
そうしたいのは山々なんだけどさ」
疲れのせい、だろうか。
それとも、今の話を聞いたせいだろうか。
真相を突き付けられてしまったせいだろうか。
今の震える手では、とても酒など飲めそうにはなかった。
『ご主人、丁度このような姿なのですし、もし宜しければ私が飲ませて差し上げましょうか?』
「え、それは流石に遠慮して……いや、やっぱり頼むよ」




