四話 「アナタは一体、〝あの人〟の何なのですか!?」
あのスマホが、まさかサラマンダーを一撃で葬り去るとは……
呆気に取られるあまり、先程から口は開いたまま。
姿勢もずっと同じ。
そんな様子でいた俺の元に、早くも戦いを終えたスマホが戻って来た。
─────
佐藤大吾:レベルアップ
Lv 1 → 12
EXP 3448
HP 51/500
MP 0/125
[パラメータ](簡略)
ATK 10 → 32
DEF 10 → 39
INT 13 → 40
RES 8 → 26
AGI 13 → 20
LUK 10 → 22
─────
かと思えば、無機物は身体の一部を液晶と変え、俺にそのように表示された画面を見せつけてくる。
『おめでとうございますご主人、格上の魔物であるサラマンダーを倒した事によって大幅にレベルアップしました。これでダンジョン探索がぐっと楽になる事でしょう』
なるほど、どうやら俺がレベルアップしたからそうしているらしい。
とは言え、これっぽっちも実感が湧かないのだが。
『ご主人、朗報はそれだけではありませんよ。
今の配信で大量のリスナーからデジタルギフトや所謂投げ銭が届いたのですが、こちらの合計金額がたった今約八万を超えました。
これは想定していたものよりも遥かに多く、またご主人が一日で稼いだ金額としては上出来でしょう』
「え、マ、マジで!?」
そして何と、気が付けばそんなにも俺は収益を得ていたようだ……が。
そう言われても、こちらもやっぱりレベルアップと同様、全く実感など無かった。
『ええ、マジです。
ですからご主人、そろそろ配信は終了として今日はもう帰宅する事をオススメします。
というか、そうして下さい。
実は先の戦闘や、配信アプリを起動し続けている事、配信へのアクセス過多、等々の理由により機体内部がやや熱を帯びていましてですね……
要するに、少々疲れてしまったのです』
そこで漸く、スマホは話すのを止めて身体を折り畳むようにし、今度こそただの無機物……
いや、〝本来のスマホ〟状態へと戻った。
少し意外だったというか、何と言うか。
コイツも疲れを感じるんだな。
まあでも、そう言う事なら今回くらいは素直にその願いを聞いてやるとしよう。
認めたくはないが、コイツのお陰で収入やら戦闘やらと、助けられた部分は多いんだからな。
「……そっか、じゃあ帰るとしようか」
そうして、俺は歩き出した。
とは言っても、ダンジョンの入り口を目指しているのではない。
「ただし、クルセイドちゃんを無事にダンジョンの入り口まで送り届けた後でな」
そう、俺は彼女の元へと向かっているのだ。
▽
「あの……治した僕が言うのもアレなんですけど、本当に大丈夫ですか?良ければ肩とかお貸ししますけど……?」
「いいえ。お陰様でこの通り、一人で問題無く歩けるくらいまで回復しましたから。
一時はどうなる事かと思いましたが……
本当に、ありがとうございました。
大吾さんがいてくれなければ、私はこのダンジョンから生きて帰れなかったかもしれません。改めてお礼を言わせて下さい」
やはり深手を負ったらしく、最初は声を掛けてもなかなか立ち上がる事の出来なかったクルセイドちゃんだが。
俺がスマホと相談しながら様々な物を掻き集め、クラフトした『回復薬』によって無事に復活を果たした。
今ではもうすっかりと傷は治り、体力も戻り。
本人も言っているように、彼女は一人で歩けるまでとなっている。
俺自身の『収入を得る』という目的も達成し、しかもそれだけでなく、有名配信者であるクルセイドちゃんも助けられた……
だがしかし、どちらも俺がスマホクラフターでなければ成し遂げられなかった事柄であると言えよう。
正直、今この時になって初めて、俺はクラフターという職業に感謝していた。
……なんて悦に浸っていた所、ダンジョンの入り口が見えて来た。
良かった。
漸くここまで来た、戻って来れたのだ。
最初にしては過酷過ぎたようにも思えた、長いようで短いこのダンジョン探索だが、終わるとなると何故だろう、少し寂しいような気もする。
まあそれでも、色々とあり過ぎて疲れたという気持ちの方が強いので、引き返すなんて事は絶対にしないのだが。
という事で探索はこれで終わり。
それと、『クルセイドちゃん』と一緒にいるのもここまでだ。
俺は電車に乗って帰るため駅へ向かうその前に、クルセイドちゃんへ一言こう告げた。
「では、僕はここで。
余計なお世話かもしれませんが、一応病院とか行っておいた方がいいかもしれませんよ」
「…………」
が、彼女からの返事がやって来ない。
クルセイドちゃんは、何やら逡巡するかのような様子で佇んでいるばかりだった。
どうしたのだろう?具合が悪いのだろうか?
それとも、さっきの発言が気に障ったとか?
……やっぱり、余計なお世話だっただろうか?
だがしかし、考えた所で尚、返答は無い。
ならとにかく、さっさと立ち去るとしようか、最後の挨拶は済ませたんだし。
それに、もしも俺の予想が当たっているのだとすれば、これ以上ここにいるメリットなんて皆無なんだからな。
「そ、それじゃあ、お元気で……」
考えも纏まったという訳で、俺は歩き出した。
の、だが。
「あ……ま、待って下さい!!」
「え?ど、どうしたんですか?
まだ何か、僕に用事でも……?」
その途端、クルセイドちゃんが俺の腕を掴んだかと思うと。これまた急な事にも、彼女は驚くべき事を言い始めた。
「ええと、ですね。
話そうかどうか、ずっと悩んでいたんですが。
その、どうしてもお聞きたい事が一つありまして……実はあの時、意識は朦朧としていましたが、でもしっかりと私もこの目で見ていたんです。
サラマンダーと、アナタのスマホが戦う姿を。
そこで思い出したんです。
あれは何処か、私がずっとずっと憧れていた。
私が冒険者を志すきっかけにもなった、〝あの人〟にとても良く似ているって。
大吾さん、これはどういう事なんですか?
アナタは何か知っているんですか?
もし知っているのならば、どうか私に教えて下さい。
アナタは一体、〝あの人〟の何なのですか!?」
「…………え?」
▽
うーん、まあ今のクルセイドちゃんの話を要約すると、こうなるだろうか。
・スマホの戦闘時の姿である、[スマートフォン『モデル:剣闘士』]はクルセイドちゃんの知る〝あの人〟と似た姿形をしている。
・そんなスマホの所持者であるこの俺を、クルセイドちゃんは〝あの人〟と何か関係があると睨んでいる。
・だからこそ、俺が何か知っているのならばそれを教えて欲しいと彼女は話している。
まあ、彼女の要求は分かった。
俺としては別に隠し事をするつもりはないし、クルセイドちゃんの事はどちらかと言えば好きだ。
勿論、その〝好き〟というのは配信者として。
だからこそ、何なら把握している情報全て伝えても良いと思っている。
けど、残念ながらそれについては無知、何一つ知らない。
例の姿をしたスマホを見たのだって今日が初めてだし。関係と言われたとて『モノとその所有者』以上でも以下でもない。
なので教えられる事なんて一つも無いのだ。
と、言いたい所だが。
真面目に質問しているクルセイドちゃんを前にして、「 いや、ちょっと分からないですね 」だけで終わらせるというのは流石に可哀想というか、失礼に思う。
ならせめて、このスマホが普段はどんな様子だとか、こうなった経緯とか。その辺りの事だけでも話してあげるとしようか。
「ええと、そうですね……」
そう考えた上で、俺が口を開きかけたその時。
まるでそれを阻むようにして、ダンジョンを出てからずっと沈黙を貫いていたはずのスマホがまた喋り出した。
『…………検索完了。
ご主人、その話を彼女にしてはいけません。
訳は後で説明しますから、今は速やかにこの場を離れて駅に向かって下さい』
いや、スマホが俺の話を遮ろうとしていたのは事実であったようだ。
自身の存在全てを秘密にしておきたいのだろうか。
無機物は俺にだけ聞こえるよう、声を潜めてそう言う。
だが、それはあんまりではないだろうか?
先も言ったが、それではこんなにも必死に頼み込んでいるクルセイドちゃんが不憫でならない。
「いやお前さあ、それだとクルセイドちゃんが気の毒だと思わ」
そう思い、反論しようとしたのだが。
『ご主人、もしも聞き入れて頂けないというのでしたら、今すぐに配信アカウントの削除を開始します。
そうなると先程得た収益が水の泡ですよ?
本当にそれでも宜しいのですか?』
何とスマホは卑怯にも、俺を黙らせるべくそのように脅迫し始めたのだ。
「うっ!?お、お前汚いぞ!!
というか、急に何でそこまでして」
『ですから、説明は後で。
それでご主人、どうするのですか?
アカウントを削除しても宜しいのですか?
それとも、言う通りにするのですか?』
そうして、クルセイドちゃんとスマホ。
『どちらの願いを聞くのか』
選ばざるを得なくなった俺は……
「…………ク、クルセイドちゃん!!
ごめんなさい!!急用を思い出しちゃったからそろそろ行かないと!!それじゃあ!!」
流石に、収益を人質ならぬ〝モノ質〟にされたとなっては悪に屈する他無く。
スマホの要求を呑むと決めた俺は、クルセイドちゃんに背を向けてそのまま走り出すのだった。
「そ、そんな……!!お願いです!!
待って下さい大吾さん!!大吾さん!!
用事というのならいくらでも待ちます!!
日を改めるのでも構いません!!
だから待って下さい!!
大吾さん!!
ならせめて、連絡先の交換だけでも……!!」
またその際。
背中越しに聞こえた彼女の声に、罪悪感で押し潰されそうになった事は言うまでもない。
「あ〜あ、クルセイドちゃんまだ叫んでるよ……何か、物凄く気が重いというか、申し訳ないというか……」
『ご主人、でしたら私に念じてイヤホンをクラフトする事をオススメします。
そうすれば『クルセイドちゃん』氏の声を完全に遮断出来ますよ』
「マジか!買わなくてもイヤホンが手に入るなんて、それは便利……じゃない!!
おい五月蝿いぞコラ!!
そーゆう事を言ってるんじゃないんだよ!!」
▽
「そ、そんな、大吾さん。
どうして……どうして、何ですか……
私はただ、〝あの人〟について聞きたかっただけなのに……
…………でも私、私。
絶対に、諦めませんから……!!」




