二十八話 閉幕 『The Battle Royale』
理由は分からないが、とにかく。
ドラゴン進と紅丸のコンビと別れ一人となった俺の元に、リンを手にしたクルセイドちゃんがやって来た。
「大吾さん!!お二人共、本当にお疲れ様でした!!
でも、ドラゴン進さんは何処に行ったんですか?」
そんな彼女は、あの時に見せた涙などではなく。
またいつものような微笑みで俺を迎えてくれた……やはり、クルセイドちゃんにはそちらの方が良く似合っている。
良かった、取り戻せたんだ。
ならば奮起し、優勝した甲斐があったと言うもの。
俺が本当に欲しかったのは優勝商品でも何でもなく、クルセイドちゃんのこの笑顔であったのだから。
……なんてクサい台詞は胸中のみに押し留めておき。
俺は彼女の問い掛けに対し、こう答えた。
「ありがとうございます、クルセイドちゃん。
アイツは……ドラゴン進は。ゴブリン達にもお礼がしたいみたいで、もういなくなっちゃいましたよ」
「そう、ですか……あの方も、随分と真面目に大吾さんに協力していたみたいだったので、今回くらいは労いの言葉を掛けてあげたいと思っていたんですけど……それなら、仕方ありませんね」
すると、それを聞いたクルセイドちゃんの顔が一瞬、曇るのを俺は見逃さなかった。
そうか、クルセイドちゃんは今や我が戦友とも呼べる、アイツの活躍もしっかりと見てくれていたのか……今の言葉をアイツにも聞かせてやりたかった。
が、いなくなってしまったものはどうしようもない。
それに、俺からよりもまた次回にでも、本人から直接受け取った方が本人も喜ぶであろう。
という事で、ひとまず今の俺はただ頷き、それを彼女への返答とした。
『まあ何にせよ、本当によく頑張りましたねご主人。
私からも労いの言葉を差し上げます。
……が。それはそれとして、ご主人。
アナタ様は『クルセイドちゃん』氏にまず、何か謝らなくてはならない事があるのではないでしょうか?』
そして、次にリンが口を開いた……その瞬間。
「え?…………あ」
〝ある事〟を思い出した俺は、まるで弾かれるように素早くクルセイドちゃんに頭を下げた。
この無機物の言う通り、俺は彼女へ謝罪しなければならないからだ。何故なら……
「ク、クルセイドちゃん!!
本当にすみませんでした!!
そ、その、クルセイドちゃんから預かった盾を。
こ、こんな風に作り変えてしまって……本当に、本当にごめんなさい!!」
そうだ。クラフトしてしまったからだ。
彼女の愛用していた盾を、『聖盾・クルセイド』という一品へと……
まあでも、それはただの一品ではなく至高の一品だ。
性能に関して言えば、以前よりも遥かに優れている……とは言え、そういう話ではない。
まずそもそもとして、勝手に人様のモノを弄くり回して良いはずがないのだ。
「許してくれなんて言いません!!
言い訳もしません!!
代わりに何でもします!!
勿論、お望みなら弁償します!!
クルセイドちゃん、本当にすみませんでした!!」
なので当然、俺は全力で謝り続けた。
まるで秋の稲穂のように頭を垂らした。
垂らし続けた。
……それから、一、二分程後の事であった。
クルセイドちゃんからの返事が寄越されたのは。
「……確かに、よく分からない紋章みたいなものが浮き上がっちゃってますね。
だとすると、もうこれは〝私の盾〟とは呼べません。
完全に別物ですね…………では。
大吾さんの言う通り、弁償してもらいましょうか」
恐る恐る彼女の声に耳を傾けてみると、やはりと言うべきか帰って来たのはそのような内容……覚悟はしていたつもりであったが。
申し訳なさと、『いくらになるんだろう……?』という費用への不安。
影を伸ばし始めたそんなようなものを目前に、今の俺は身のすくむ思いだった。
「……フ、フフ、プ。アハハ!!
冗談ですよ大吾さん!頭を上げて下さい!
ちょっと揶揄ってみただけですから!
むしろ私の方こそごめんなさい!凄く必死に謝ってる大吾さんを見ていたら、つい悪戯したくなってしまって……
本当に、弁償なんてしなくて良いですから!」
だが幸い、賠償請求は免れたようだ。
と言うか、今のはクルセイドちゃんなりのジョークだったらしい……とはいえ、彼女の冗談などあまり聞いた事が無かったせいか、俺はまんまと引っ掛かってしまった訳だが。
「えっ!?ホントに!?あ、じゃなくて本当ですか!?よ、良かったぁ〜……」
まあとにかく、これで一安心と言えよう。
そうだと分かった途端に身体は硬直を止め、俺は漸くほっと胸を撫で下ろす事が出来たのだった……
はず、なのだが。
次に発せられたクルセイドちゃんの発言を受け。
俺は再び、胸に異物を抱え込む事となる。
「でも、大吾さん。
さっき『何でもする』って言いましたよね?」
「え?あ、ま、まあ。
言いました、ね……?」
「ですよね。それじゃあ、弁償の代わりに。
私のお願いを一つ、聞いてもらえませんか?」
「……!?も、勿論です!!
ただそのお願いって言うのは、一体どういう……?」
「……この後、大吾さんやリンちゃん、それともういなくなってしまいましたが、ドラゴン進さんも誘ってお二人の『お疲れ様会』を開くつもりだったんですけど。
来て、もらえますよね?」
……ただし。
今度のそれは、何処か身体の内側から暖かくなるような……いや。
本音を言うと、ほんのり顔を赤らめてそう言うクルセイドちゃんを見ていると、そう感じてしまうというか。
とにかく、そのような異物だった。
▽
「……さん!!レイターさん!!」
「どうしたお前達、そんなに慌てて。
優勝者にインタビューはしなくて良いのか?」
「それどころじゃないんです!!
台本と違うチームが優勝するわ、本来優勝者となるはずだった土部河さんはあっちで倒れてるわで、もうスタッフ一同訳が分からなくて……
レイターさん!!
これは一体どう言う事なんでしょうか!?」
「どうも何も無いさ。ただ、そうなるはずだった男が戦いに敗れたというだけ、見れば分かるだろう?
自ら呼び込んだ割には、その力を恐れるあまり。
他者と共謀して、〝彼〟からスマホという名の武器を奪ったにも関わらず、な。
まあ良い、既に報酬は貰っているからな。
俺はそろそろ帰らせてもらう」
「レ、レイターさん!?
ちょっと待って下さいよ!!」
「だが、それにしても。
例の『スマホクラフター』と、あの『評判の悪い魔物使い』の二人組。
フフフ、なかなか悪く無いじゃないか……」




