二十七話 長かった戦いの終わりに
そこで終わるかと思ったのも束の間、ドラゴン進は再びこう語り出した。
「だが、すまねえ紅丸。
俺の答えが気に入ったかどうかは分からねえし、色々言いたい事もあるだろうが、ひとまず今は力を貸してくれねえかな?
どうしても一人だけ、ぶっ飛ばしたい奴がいるんだ。
ほら、あそこの銀髪野郎。あれは土部河御堂つってな……いや、名前なんてどうでも良いか。
アイツはな、テメーの仲間を蔑ろにしやがったんだ。
俺は絶対に、そんな事をする奴を許してはおけない。
だが今までの俺も大概だった、それは分かってる。
だからもしかすると、それを聞いて『人それぞれある』だの、『お前が言える立ち場じゃない』だの言う奴もいるかもしれない。
けどな、んなもん関係ねえ。
理由があろうが何だろうが。
俺自身、前がどうだったろうが。
仲間が人だろうが、そうじゃなかろうがだ。
正直、最初の方は『あの野郎に関わったら流石の俺にも、どうにも出来ないくらい炎上するかも』なんて思って少しビビっちまってたが、それももうどうでも良い。
自分を側で支えてくれる味方をテキトーに扱う奴に仲間を持つ資格は無い。それが人気や金のためだってんなら尚更にな。
誰が許そうが見て見ぬフリをしようが、俺だけはソイツを顔が腫れ上がるまでぶん殴ってやる。
でもな、恥ずかしい話なんだが、俺一人だとちっと厳しい所があってよ。
そこで、お前にも一緒に戦って欲しいんだよ。
……頼む、紅丸。
これは前みたいにくだらない喧嘩なんかじゃない。
俺と対極にいる野郎との真っ向勝負だ。
そんな奴等のプライドを賭けた戦いだ。
顔も名前も、ソイツの本心も知りはしねえが。
『アイツを仲間と信じて疑わず、死んでいった魔物に捧げる弔い合戦』なんだよ、これは。
だから頼むよ紅丸。
最悪今だけでも良い!!どうか俺に力を貸してくれ!!」
そこで漸く、彼は紅丸の瞳を真っ直ぐに見つめ返した。
まあ実の所、大方の予想はついていた。
細部まではともかくとしても、ドラゴン進が竜に助けを求めるという事は。
だがしかし、問題は紅丸だ。
さあ、竜はそんな彼の頼みを聞き、どう出るのか……なんて、言ってみたものの。
答えは既に分かっているのだが。
何せ、紅丸はこれもまた俺の予想通り……
『この短期間で随分と成長したな、進よ。
………………引き受けた!!
今のお前になら、私は何処までもついて行こう!!
お前の弔い合戦、今よりこの紅丸も参加させてもらおうではないか!!』
ドラゴン進の呼び掛けに応え、そう言って両翼を広げて見せたのだ。
すると、それによって再び巻き起こる一陣の風。
ただし、今度のそれは紛う事無き我々にとっての『追い風』であった。俺はそう確信したのだ。
「って訳だ、さあ行け大吾!!
ここは俺と紅丸がどうにかする!!」
『ふむ、君は大吾と言うのか……進が迷惑を掛けたようだな。
その詫びとして、私も今回ばかりは全力で戦うとしよう』
次に彼と竜は俺の方を見遣り、迷い無くそのように告げる。
彼等の様を目に、耳にしていた俺もその言葉に感化されてしまったのだろうか?
それは分からないが、とにかく。
今の俺にもまた、迷いなどなかった。
「……分かった、俺もお前を。
いや、ドラゴン進と紅丸を信じるよ。
じゃあ二人共!!ここは任せたぞ!!
その代わり、絶対に優勝トロフィーを持ち帰って来てやるからな!!」
そうして、覚悟を決めた俺は走り出した。
「へっ、おい大吾!!
そこまで言ったからにはしくんじゃねえぞ?」
『さあ進よ、我々も行こう!
彼の行く道を切り拓くのだ!!』
紆余曲折を乗り越え、再びパートナーとなった。
一匹の竜、そして一人の魔物使いと共に……
▽
「……ふぅ、良かった。
壊れている機材は無し、スタッフも全員、無事なようですね……では。
もしもし解説席、聞こえますか?
こちらは問題無しです!」
「承知しました!手伝って頂いてありがとうございます、クルセイドちゃん!では、再開するとしましょうか!
皆様、大変失礼致しました!!
つい先程、ドラゴン進のものと思われる魔物が一匹乱入して来た事により解説を一時中断していましたが、今から再開とさせて頂き……」
『…………おや。
どうやら、その必要は無さそうですよ。
ご覧下さい、どなたかダンジョンの奥から戻って来たようです』
「えっ!?……な、なんと!!
既に決着が付いてしまったようです!!
さて、優勝となったのはやはり土部…………あれ?」
▽
「ゆ、優勝は……優勝は、スマホクラフターとドラゴン進のチームです!?
……お、おいスタッフ!!
カメラとマイク切って全員集まれ!!
なんだこれは!?台本と違うじゃないか!?
今すぐ土部河さんに確認して来い!」
ダンジョンの入り口へと戻って来た俺達とすれ違いに、何やら慌てた様子のスタッフが数人、奥へと向かって行った。
だがしかし、我がチームの中で振り返る者は誰一人としていない。
皆、全力を出し過ぎたせいで疲れ果てているのだ。
それに、例えそうせずとも大体の予想は付いているのだからな。
大方、俺達の姿を見て『土部河が優勝するという、企画のシナリオが狂ってしまった』という、つまりは出来レースの逸脱を悟り。
それで、焦ったスタッフ達は発案者である土部河の元に駆け出して行ったとか、まあそんな所なのだろうと。
だが残念、既に土部河はドラゴン進が紅丸と共に〝伸して〟しまったので会話は不可能なのである。
出来たとしても一、二時間程は後だろうか。
かなり痛め付けられた様子だったので、恐らくはそれくらいなはずだ。
ちなみに言うと、その事に対して俺は、罪悪感などはこれっぽっちも持ち合わせてはいない。
彼は最低でも一度は仕置きを受けなければならない、そんな男であったのだ。むしろ命に別状が無かっただけ感謝すべきだと言えよう。
まあ、もし〝あの男〟も戦いに加わっていれば。
反対に、地に伏していたのは俺達の方であったのだろうが。
……とにかく。
何はともあれ、俺達は悲願であった優勝を見事成し遂げたのだ。
ドラゴン進と紅丸はボロボロになりながらも、何とか敵軍を壊滅させ。
俺は俺で、『宝箱を開ける』という自身の役目をしっかりと果たした上で。
そして、その肝心な宝箱の中身だが、それは。
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アイテム[優勝盾のようなアクリルスタンド×2]
[優勝盾のようなアクリルスタンド×2]
『The Battle Royale』の運営が優勝者のために用意した、二つのアクリル板で作られた盾のようなもの。
偽物とは言え侮るなかれ。これは存外精巧な作りをしているだけでなく、正面に吹き付けられた金色のスプレーのお陰か本物さながらの質感を有している。
予算はどちらもおおよそ、三〜五千円といった具合であろう。
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……と、言うような物であり。
その正体は意外や意外。
ドラゴン進の予想した通り優勝トロフィー……
ではなかったものの、遠からずと言った所か。
それと似た役割を持つ、優勝〝盾〟……とも、言い切る事の出来ない。
まあ要するに、そんな本物でもなければキャラ物でもない。鑑賞するにも愛するにも中途半端な、プラスチックのゴ……もとい、アクリルスタンドであった。
……正直な話、勿論納得など出来ていない。
「ったくよお、やってらんないぜ。
ここまで苦労して手に入れたのがコレかよ」
まあ、俺がそうであるのならば当然と言うべきか。
その盾を持つドラゴン進も不満たらたらであり、それが少し心配であった。
何故ならば、今にも彼が手にしたアクリル板を放り捨てそうな気がして……
「つーか、こんなん作ってる暇があるんだったら絶対本物用意出来ただろ。
最悪、それっぽいヤツでも良いんだからよ……ったく、本当ケチ臭えな。
なあ大吾、紅丸、お前らもそう思うだろ?」
するとドラゴン進は、身の内に溜まった不平不満を注ぎ分けようとでもするかのようにして、今度はこちらへと話を振ってきた。
だがしかし、彼の思惑通りにはいかず。
『いいや、むしろ私は『お前に手渡す品』としては最適だと思うぞ?
進よ、もしもそれが本物の純金で出来ていたとしたらどうする?お前の事だ、すぐに売り払ってしまうのではないか?
そういったものは本来、その者の栄誉を称えるため、刻んでおくために存在する。しかもそれが値打ちも無く、軽く、またそれほど場所も取らぬというなら。
ほれ、やはり最適という他は無いだろう?
それが分かれば進よ、そろそろ文句を言うのは止めて、代わりに置き場でも考えておくのだな』
「俺も、紅丸の言う通りだと思うな。
だって、この企画に参加するのはお前みたいな〝色んな意味で強欲な人〟が殆どだろうし。そんな奴に高価な物を渡したって、どうせ売り飛ばされるのがオチだ。
で、そうなると企画側は面白くない。
いや、それだけならまだ良いけど、妙な輩の手に渡って予想外の被害を受けたりするかもしれない。
だったら、優勝した人に渡す物を安上がりに済ませるって言うのは、なかなか理に適って……」
「んだよコラ!!
お前ら揃いも揃って俺を馬鹿にしやがって!!
特にテメーだ大吾!!
なんでその〝色んな意味で強欲な人〟に俺が入ってんだよ!!」
溢したその愚痴に共感してもらえない。
つまりは、不満を共有出来なかったばかりか。
意図せずとは言え俺と紅丸の二人がかりで揶揄われる事となってしまい、流石の彼も苛立ちを隠せない様子であった。
……とは、言ったものの。
この場にいる全員、なんだかんだと言いながらも常に口元が綻んでいれば。これもまた皆がそれを隠そうとすらもしていなかったのだが。
まあ詰まる所、俺達は冗談を言い合っているというだけで、別に本気で言い争っている訳ではないのである。
今は共に苦難を乗り越えた、その先にいる。
だからこそ込み上げる喜び、湧き上がる幸せ。
それらを抑え切れずにいたのだ。
例えば今の会話のように、一つや二つくらい分かち合えぬものこそあれど。
そんな気持ちだけは、互いに共有していたのだから。
「大吾さん!!大吾さ〜ん!!」
すると、そんな時だった。
俺を呼ぶ者の声が耳朶に響いたのは。
そして、それはクルセイドちゃんだ。
彼女がリンを胸に抱えたまま、こちらへと駆け出して来るのが見えた。
「クルセイドちゃん……」
そんな彼女を目にした途端、また一段と口元が緩むのを感じる……
だが、その直後。
「うっ!?」
思いの外軽く、優しく。
まるで、後押しのようにして不意に押された背中と。
その犯人がドラゴン進である事を俺は知った。
「さあ行けよ大吾、ヒロインのご登場だぜ?」
俺が振り返ると共にそう呟いた彼は何処か、寂しげな表情を顔に貼り付けている。
「え?……い、いや、良いのかよ?
お前もクルセイドちゃんに挨拶くらいしておきたいんじゃ」
だからこそ、その真意を問わずにはいられなかった……の、だが。
「いやいい、俺は忙しいからパスだ。
一時的な契約だったとは言え、ゴブリン達もよく頑張ってくれたからな。だから契約を解除する前に良い肉でも食わせてやりに行きたいんだよ。
そういうワケだから大吾、俺達はここで解散だ。
まあ、また面倒な依頼でもあれば連絡すっから、そん時は頼むぜ?
……ああそれと、最後に一つ言っとくけどな。
別に俺はクルセイドちゃんを諦めたワケじゃないからな!?間違ってもそこだけは勘違いするなよ!?
…………じゃ、またな」
『では、私もこれで失礼させてもらおう。
進が世話になったな、大吾。
君には感謝している、お陰で『一人のやさぐれ者』が、自身の殻を破る事が出来たのだからな。
その代わりと言う訳ではないが、助けが必要ならばいつでも呼んでくれ。その時はこの紅丸、主人と共に君の元へすぐさま駆け付けよう』
言葉はそうして、途中で遮られてしまい。
俺は何一つとして理由を知らないまま、戦友達の後ろ姿を見送るのだった。
「あ……ま、待ってくれよドラゴン進!!紅丸!!」




