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二十五話 待ち構えていた者達

「あ?レイターだと?

いや、アイツは正直どうでも良い。


と言うか、リンから聞いた以上の事はよく知らねえ。


俺がマジでぶっ飛ばしてやりたいと思ってんのは土部河だけだ。


今だからもうぶっちゃけて言うけどな、この企画に参加したのもそれが目的なんだよ」


「それはまあ、薄々分かってはいたけどさぁ……でもドラゴン進。何でお前、そこまで土部河を目の敵にしてるんだよ?


オヅカから聞いた〝今の話〟と何か関係があるのか?

それとも、もしかして過去に何かあったりとか?」


「いいや、そういう訳じゃねえ。それに、アイツをこの目で見たのは今日が初めてだしな」


「え……え?じゃ、じゃあ、本当に何で?

何か余計に分からなくなってきたんだけど……?」


「あ、大吾お前、『昔の土部河』を知らねえな?


アイツは今でこそあんなだがなあ、前はちゃんと魔物を使って戦うフツーの魔物使いだったんだよ。


ただ、契約してる魔物だけは普通じゃなかった。


それは何だかよく分からん、虫みたいな魔物だ。


だがな、その魔物の一番よく分からねえ所は、『ソイツが大して強くもない奴』だったって事さ。


一応言っておくが、当時から土部河自体はまあまあ強かった。それ以上の魔物を従えるには充分過ぎるくらいにな。


それに、配信を見る限り土部河は、魔物にそこまでの愛着がある感じでもなかった……だから尚更分からねえんだよ。


そんなんだったらよ、もっと強い魔物と契約すりゃあ良い話じゃねえか?俺なら絶対そうしてるぜ?


たったそれだけの事で、ダンジョン攻略がスゲー楽になるんだからよ。


まあ、もしかしたら魔物は辛く感じるくらいには懐いてたかもしれないが……俺だって、それでメシ食ってる奴の気持ちくらいは分かるさ。


そうだ、魔物使いっつっても仕事は仕事だ。


だからきちんと契約を解除した上で、元のダンジョンに逃すんだったら何も言わねえよ。


でも、土部河はそうしなかった……


それどころか、ソイツを使わなくなったかと思えば次は素手ときやがる……全く、腹が立って仕方がねえよ!!」


「う、うーん……まあ今の話で、昔の土部河がどうだったとかはよく分かったけどさ。


でも、まだお前がそこまで怒る理由が全然、分からないというか……」


「あ?これだけ言ってまだ分からないのかよ?


考えてもみろ?アイツは微妙な魔物を使ってて、その後は素手喧嘩ステゴロでダンジョン攻略をしてたんだぞ?


んな事されちまったらよお……それ以外の奴等が目立たなくなるだろ!?


魔物使いの俺達同業者なんかは特にだ!!


アイツが妙な真似ばっかするもんだから、注目すらされねえんだよ!!」


「…………あっ!?ま、まさか、お前!?」


「やっと気付いたか……ああ、そうだよ!!


だから俺は『炎上系配信者』やってんだよ!!」


「や、やっぱりそうだったのか……」


「ああん!?悪いかよ!?

だって仕方ねえだろ!?そうしないとアイツより目立てねえんだ!!好きでやってんじゃねえんだよ!!


ったく、どれもこれもアイツのせいだ!!


本当は俺だって、普通に実力でチヤホヤされたかったってのに、こんなんなっちまってよお……お陰でせっかく立てた将来の計画が滅茶苦茶だぜ!!


ああ、思い出しただけでもイライラしてくるなぁ……早くぶっ飛ばしてやりてえ!!」


「ま、まあまあ……落ち着いてくれよ。


それにお前の予想が当たってるんなら、もうすぐその夢も実現するはずだろ?だったら、あと少しの辛抱じゃないか。


まあ、『土部河をぶん殴る』って目標を夢っていうのは自分でもどうかとは思うけど……」


「…………言われてみりゃ、それもそうだな。


とにかく、俺は絶対にこの手で土部河を最低でも一発はぶん殴ってやる!!


今言った他にも、ムカつく事だってあるしな……お。


大吾、やっぱり俺の言った通りだったぜ。

ほらあそこ、見てみろよ。


アイツら、お利口に二人して突っ立っていやがる。


俺達が来るのをずっと待ってやがったんだ」





「……ん?リンちゃん、どうかしたの?


何だか震えてるみたい……あ、リンちゃんはスマホだから、『振動してる』と言った方がいいかな?」


『ふむ、どうやらご主人が私に入れているニュースアプリからの通知が来たようですね』


「ニュースアプリからの、通知?


どうしたんだろう?

何か速報でもあったのかな?」


『ご名答です、『クルセイドちゃん』氏。


ですが、そこまで心配する必要はなさそうですのでどうかご安心を。


ただ、『都内で魔物の出現があった』というだけのようですからね。


大方、ダンジョンから抜け出した魔物がパニックを起こし、街中にまで入り込んでしまったのでしょう。


とは言え、すぐに討伐されると思いますよ』





丁度、会話を終えた俺達の行手を。


獲物を待ち構えていたかのようにして、前方にて仁王立ちしていた土部河とレイターが塞いだ。


それはまさしく『人の壁』、一目のみで分かった。


進むべき道は完全に閉ざされてしまったのだと。


だが、それはむしろ必然。


別に何も、そこにいた者達は二人だけではなかったのだから。


……俺とドラゴン進の存在を、土部河達が認識したであろう直後からだ。


まるで、堰を切ったかのように。


ただ鈍重に、その動きは宛ら底にある泥土のように。


そのようにして、二人の背後からはぞろぞろと挑戦者達が呻き声を上げながら姿を現したのだ。


しかし、そこに立つ彼等の様、姿形には見覚えがあった。先も言ったように動きは遅く、また呻いてもいるのが何よりの証拠である。


そんな状態を見せられてしまっては、嫌でも思い出してしまうのだからな……そう。


オヅカの毒を喰らい、操られる身となったあの挑戦者達、もといゾンビ達を。


とは言え、俺達の中に動揺は無かった。


それどころか、ドラゴン進は笑ってすらいた。

この状況下にも関わらず、彼はそれ程の余裕があるのだ。


何故かと言われれば、それは。


全て、想定内の出来事であったのだから。


「へっ、やっぱこうなるか……ま、最初からおかしいとは思ってたんだけどな。


お前らもお前らで、後で視聴者に見られるってのに注目株(おれたち)との戦いを避けるなんてダサい真似は絶対しねえはずだし。


担架で運ばれた訳でもねえのに、お前らの周りにいた挑戦者は妙に減ってたからな。


なら、誰だって分かるだろ。


『お前らはオヅカとグルで、この企画で絶対に優勝するためアイツから幾らかゾンビ共を横流ししてもらってた』ってな。


むしろ魂胆見え見えで、そっちの方がダサいってもんだ。おまけにそれをやってんのはカメラのない所ってのも尚更ダセェ。


全く、『剛拳のドブ』がこれとは聞いて呆れるぜ……なあ大吾、お前もそう思うだろ?」


ただ一方で、俺の中には落胆があった。


大きく、重く。顔を曇らせる程のそれが。


「でも、だからって何もここまでしなくても……


そんな事しなくたって、普通に正攻法でも勝てたんじゃないか?


アイツのチームにはレイターだっているんだしさ……」


すると、どうやら俺の発言が癇に障ったらしく。


そこで初めて土部河が声を発した。


「さっきからごちゃごちゃ五月蝿えな。


言っとくけどな、レイターはあくまでも俺のボディガードみたいなもんだ。この企画は俺が主役なんだからな。


……いいからさっさと来いよ。


お前ら纏めて、俺が相手をしてやる」


そう言って土部河が身構えた直後、レイターが踵を返し壁際に向かうのが見えた。


なるほど、自らはあくまで『引き立て役』とし、結託して土部河に花を持たせようとしていたのは奴も同じだったという事か。


どうやらこの企画、何処までも出来レースだったと見える。


まあ、発案者の素性などとうに知れていたのだ。

そんな人物が、自身の企画を自分優位に進めようとするのはむしろ自然、か……


などと考えていた時、ドラゴン進が言った。


「へっ、ここまで逃げて、兵隊集めてよお。

それで自分が勝つと確信出来てやっと、『俺が相手をしてやる』だって?おいおい、笑わせんなよ。


言われなくても、すぐにそうしてやるからさ。


だが、その前に一つだけ教えてくれ。


お前がどんな汚いやり方をしてたかなんて今更どうでも良い、俺はずっとずっと前から〝これ〟だけが気になってたんだ……なあ、頼むから答えてくれよ。


これは『炎上系配信者のドラゴン進』としてじゃない、『お前と同じ魔物使いである俺個人』からの質問だ。


お前、昔は妙な魔物を連れてたよな?


それが今じゃ、戦闘スタイルは素手喧嘩だ……何かおかしいよな?


なあお前…………ソイツは一体、何処にやったんだ?


逃がすなり何なりしたんだったら、配信者でもあるお前がそれを動画にしない訳がねえよな?


だからそうじゃねえってのは分かってるんだ、下手な言い訳はするなよ?この俺相手にそんなもんは通用しねえぞ。


さあ、答えてみろよ。


お前、自分の魔物を何処にやったんだ?」


気が付けば、いつしか彼の顔にあったはずの笑みはすっかりと拭い去られており。


喜色と代わるようにして、今のドラゴン進の顔にあったのは『怒り』、ただその一色のみであった。


しかし、急にどうしたというのだ。


何故、彼の表情は憤怒という名の色へと、一瞬にして全て塗り替えられてしまったのだろうか。


まあ、コイツは口も悪ければ態度も悪く。

また沸点も低ければ気も短い。


だから、相手にすぐさま食って掛かるというのは何らおかしな話ではない。


というか、それは俺も充分過ぎる程によく理解しているつもりだ。


だがそうではない。

先程のやり取りで土部河は、何一つとしてドラゴン進を挑発などしなかったはずだ。


にも関わらず、彼は今激昂している……それが分からないのだ。


今の話に何かヒントがあっただろうか。


確かアイツは土部河と魔物の事を、そして次には何故魔物が姿を消したのかという事を話していたな……


と、その時だった。


「……ま、まさか!?」


瞬間、全ての点と線が繋がり。


そうして一つとなった証拠達が、俺をある場所へと導いた。


それは口に出すのも憚られるような、真相……とは言え、信じたくもないし、信じられなかった。


それに、まだそうだと決まった訳ではない。


土部河御堂、彼の口から真実を聞かされるまでは……そう、思っていたのだが。


悲しくも、俺はその時点で正解を叩き出していた事を知る。


それから数秒程の間を空けた後、土部河はこう言ったのだから。


「……………………死んだよ。


五時間トレーニングさせた後、餌をやりに行ったらアイツはすっかり冷たくなってた。


別に悪意があった訳じゃあない。

俺にはダンジョン攻略にも、視聴者の注目を集めるにもアイツが必要だった。だからもっともっと強くなって欲しかった。


でも、それが行き過ぎてしまったのさ。


ドラゴン進、お前も魔物使いなら分かるだろう?

あれは事故だったんだ。仕方なかったんだ。


でも確かに、今思えばもう少し強い魔物にしておくんだったと反省してるよ。


その後はただ、俺が面倒になっただけだったからな。


注目を集めるために、次は魔物無しで戦ったりしてよぉ……」

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